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――夢を見ていた。
人里が燃えていた。
炎の中心は人里と杜の境界線で、
杜も、
人里も、
等しく煉獄の中に落ちていった。
もう、燃やす必要はない。
これ以上の破壊は必要ない。
しかし劫火は止まることなく燃え続ける。
風が集まる。
炎を煽る。
大量の酸素を取り込み、一層、炎は熱くなり、
気体の流れは渦となり、
破壊の塔のように力を振るう。
そんな光景を鈴蘭は空から見ていた。
大気の中に漂い、
投げ出され、
閉じ込められたような状態。
世界から切り離された状態だと鈴蘭は思う。
大地からも遠く、
しかし空はまだ遠い。
それでも、こうやって空から地面を
見下ろしているのは、なにか神様のような
視界だと、鈴蘭は思う。
神様――あるいは精霊だろうか?
精霊。
存在の是非の不明な存在。
いたとしても、何のために存在するの?
もしこの視点が精霊のものだとしても、
どうして見ているの?
――助けてくれないの?
天地を見渡して耳を澄ませても、
精霊が悲劇の舞台にデウス・エクス・マキナよろしく
手を差し伸べる気配は感じられない。
炎が燃え盛る音、
人の絶叫、悲嘆、慟哭、
それしかばかりが舞台を埋め尽くしている。
――少女の叫びが聞こえる。
叫ぶ、と言っても声はそれほど大きくなく、
でもその声に込められた想いは叫びよりも鮮烈。
声は刻む。
怒りを、
呪いを、
滅びを、世界に。
声を張り上げるでもなく、厳かに、囁くように、
苛烈なる憎悪は謳い上げられる。
血を吐くように、
己が心臓を抉り出すように。
その強い想いは夢の中の鈴蘭の胸を強く痛ませる。
破滅への呪いに恐怖などしない。
なぜなら、その裏にあるのは溶岩よりも熱い
悲しみだから。
――どうか、彼女の叫びを誰か聞いて!
夢の中と知っていても、鈴蘭は祈った。
哀憐なる憤怒が報われるように願った。
誰へ?
神か。
世界か。
精霊か。
――俺の持つ果実に用か?
なにか、声を聞いた気がする。
所詮は夢にすぎないはずなのに、
何かが答える。
そのことに鈴蘭の意識はついていけず、
同時に、声が持つ得体のしれない巨大な
気配に押し流されるように、鈴蘭の意識は
断ち切られた。
「鈴蘭?」
朝が訪れていた。
瞼を開けると目に飛び込んでくるのは、
朝日のなかで金剛石のようにキラキラと
朝露が輝く杜の木洩れ日。
そして親友の心配そうな顔。
「……おはよう」
人の世界を脅かす杜の朝の空気はとても澄んでいる。
ただ、目覚める前に見ていた悪夢のような夢が、
鈴蘭の気分を最悪なものとしていた。
「……ん」
彼女の目には自分の表情はどういう風に
見えているのだろうか?
しかし無口な彼女は、人の顔色をいちいち
言葉で表現することはない。
わざわざ起こしてくれたようであるし、
何も感じていないわけではないのだろうが。
「……」
いやー、変な夢見ちゃったよ、と軽く話すことも
できただろうが、それに沙華もいたような気がして
それを思うとますます夢の意味が理解できなくて
何も言えなかった。
そう、夢に見たあの少女は――。




