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『あ、危ない!』
急ブレーキをかけ、立ち止まった吾郎が自分の目の前を
横切った人影に目をやるとそれは吾郎が昨日の夜に
知り合った彩佳だった。
『あれ? 昨日の子?……』
吾郎は昨日の夜、彩佳と過ごしたことを急に思い出し、
「ねぇ、キミ……」
思わず、自分の前を急いでいる少女に声を掛けた。
「え? なに?…… おじさん……」
吾郎の声に立ち止まり、吾郎の方に振り返った少女は
どこからどう見ても吾郎が昨日の夜に出逢った彩佳だった。
だが、何か、様子がおかしい?……
「わたしのことを覚えている?」
吾郎が恐る恐る、彩佳に話しかけると
「はぁ? どこかで会いました?……」
彩佳そっくりな少女は不思議そうに吾郎を見ながら、
首を傾げた。
吾郎も様子がおかしいのに気付き、
「昨日…… 会っただろう?……」
目の前の彩佳そっくりの少女に再度、尋ねた。
彩佳そっくりの少女は首を傾げたまま、
「さあ…… 昨日の夜は友達とずっと、カラオケを
していたのだけど……」
と答えた。
『はぁ? カラオケ?……』
吾郎は余計に話がわからなくなった。
彩佳そっくりの女の子【悠子】は腕時計をチラチラと見て、
少し苛立ちながら、
「ねぇ、おじさん。もう良い?……」
吾郎に言ってきた。
「ああぁ…… ごめん。僕の勘違いだった……」
吾郎が悠子に謝ると苛立ち顔の悠子は吾郎にブツブツと
文句を言い、その場から立ち去っていった。
『一体、どうなっているんだ?……』
吾郎が訳がわからず、頭の中がこんがらがっていると
キィーン……
頭を締め付けるような痛みに吾郎は襲われ、
その場に蹲【うずくま】った。
吾郎が頭の痛みで動けず、蹲っていると
「だ、大丈夫ですか?……」
さっきの悠子とはまるで違って、紺色のメガネをかけた
大人しそうな大学生風の女の子【夏海】が心配そうに
吾郎のことを覗き込み、立っていた。
吾郎は頭を抑えながら、
「だ、大丈夫…… いつもの頭痛だから……」
夏海にそう言ったが再び、酷い頭の痛みに襲われ、
その場に蹲った。
夏海は吾郎のことを心配しながら、吾郎が休める場所がないかと
辺りをキョロキョロと見廻した。
そんな夏海を心配させまいと吾郎は
「本当に大丈夫だから……」
頭の痛みを必死で堪えながら、夏海に言ったが
「あっちで少し休みましょう!……」
夏海は吾郎が休める場所を見つけたのか、
吾郎に肩を貸し、歩き出した。
夏海に肩を借り、吾郎は夏海と共に近くの公園にやって来た。
「ここに座ってぇ!……」
夏海は吾郎を公園のベンチに座らせた。
まだ頭の痛みが残る吾郎は頭を抑えながら、
「あ、ありがとう!……」
夏海にお礼を言った。
夏海は心配そうに吾郎のことを見詰めながら、
「やっぱり、病院に行きましょう?……」
吾郎に言うと吾郎は必死に頭が痛いのを堪えながら、
「だ、大丈夫だから…… キミはもう行って良いよ!」
夏海に優しく、微笑んだ。
しばらく、心配そうに吾郎のことを見詰めていた夏海は
「わ、わかりました……」
吾郎の前から立ち去った。
やっと、一人になれたと思い、吾郎が俯き、
頭の痛みを堪えながら、ホッとしていると
突然、首筋に冷たさを感じた。
『冷たぁ!……』
吾郎が頭を上げると濡れたハンカチを吾郎の首筋に
当てている夏海の姿があった。
『え? な、何で?……』
吾郎が驚いた顔で目の前の夏海を見ていると
夏海は吾郎に優しく微笑みながら、
「気持ち良いですか?……」
吾郎に聞いてきた。




