終
吾郎が嬉しそうに
「よし! じゃあ、由布院にしよう!
後で一緒に旅の支度をしないと……」
というと
「バカぁ! 女の子には女の子の用意があるの……」
夏海は吾郎の肩を強く叩いた。
『あ、危ない!……』
あまりの痛さに吾郎は運転を謝りそうになった。
「そ、そうか…… じゃあ、旅行の手続きなどがあるから
一週間後で良いか?……」
吾郎がそう言うとなつ海は嬉しそうに頷いた。
一週間後。
「準備、OK!」
夏海との旅行の準備を終えた吾郎は夏海との
待ち合わせ場所の東京駅へと向かった。
急ぎでもない旅なので吾郎は夏海と相談し、
夜行列車を使い、九州の福岡まで行き、
そこから大分県の由布院へと向かうことにした。
「急がないと……」
吾郎は夕方で少し多くなってきた人ごみを掻き分け、
旅行荷物を抱え、駅へと急いでいた。
何処からともなく、
チンドン、チンドン……
鉦と太鼓の音が聞こえてきた。
滑稽なメイクをしたピエロが鉦と太鼓を打ち鳴らし、
人ごみの中を近くの店の安売りの広告のチラシを
ばら撒きながら、歩いてくる。
ピエロは段々と吾郎の方へと鉦と太鼓を打ち鳴らし、
近付いてくるが吾郎は腕時計をチラチラと見ながら
「間に合うかなぁ?……」
まるでピエロのことなんて、気にも留めえていなかった。
全く、自分のことを気にも留めていない吾郎を見て、
鉦と太鼓を打ち鳴らしているピエロはニヤリと微笑んだ。
さすがに自分の正面まで来たチンドン屋の格好の
ピエロに気付き、
「あっ! ごめんなさい!……」
吾郎はピエロに道を譲った。
それが茉里が変装したピエロとも知らずに……
ピエロはニヤリと吾郎に向かって、微笑むと
軽く会釈をし、吾郎とすれ違おうとした。
次の瞬間、
「バイバイ!……」
ピエロは吾郎の耳元で囁く声と共に
グサッ……
と鈍い音が聴こえた。
『え? なに?……』
吾郎は一瞬、何が起こったのかわからなかったが
数歩、歩くと突然、崩れるようにその場に倒れた。
突然、その場に倒れ込んだ吾郎のもとに
「どうした?……」
「なに? なに?……」
たちまち、人ごみが輪になり、取り囲んだ。
『何が起こった?……』
吾郎が訳がわからず、とりあえず、立ち上がろうとするが
力が入らず、立ち上がられなく、
きゃあぁ……
という、女性の悲鳴が聴こえてきた。
『なに? どうした?……』
吾郎が段々と薄れていく意識の中でそう思っていると
吾郎のわき腹から赤ワインをひっくり返したかのような
真っ赤な血がドボドボと止め処もなく、溢れ出ていた。
「おい! 早く救急車を……」
怒号と悲鳴が入り混じった自分を取り囲む人達の声を
吾郎はまるで他人事のように薄れいく意識の中で
微かに聴きながら
『俺はこのまま、死ぬのか?……』
と死を覚悟をしたその時、吾郎は自分を取り囲む
人ごみの中にさっき、自分を刺したチンドン屋の
ピエロを発見した。
吾郎はそのピエロに何か、言いたげにするがすでに
声を上げる力さえ、吾郎には残っていなかった。
ピエロはもう死ぬ寸前の吾郎を見ながら、あざけ笑うように
微笑んだ。
吾郎は人ごみの中で自分のことをあざけ笑うように微笑んだ
ピエロを見て、
『お、お前は……』
初めて、そのピエロが茉里だということに気付いた。
だが、すでに手遅れだった。
「ご、ごめん……」
吾郎は微かな声で呟くとそのまま、気を失った。
それを見届けるとチンドン屋のピエロの格好をした茉里は
悪魔のように微笑むとさらに吾郎のもとに集まってくる
やじ馬を掻き分け、夜へと変わろうとする街へと鉦と太鼓を
打ち鳴らし、消え去った。
駅の前では何も知らない夏海は腕時計をチラチラと見ながら
「もう! 遅い!……」
吾郎が中々、待ち合わせ場所に来ないことに苛立っていた。
「もう! 来たら、絶対、お仕置きなんだから!」
夏海の怒りはMAXだった。
ピーポー、ピーポー……
そんな夏海の前を瀕死の状態の吾郎を乗せた救急車が
通り過ぎたが夏海はまるで気付いていなかった。
そんな夏海をあざけら笑うかのように夏海がいる、
前の通りを
チンドン、チンドン……
チンドン屋のピエロの格好をした茉里が
「バカな子……」
呟きながら、遠ざかっていく。
「まだかな?……」
夏海が腕時計をチラチラと見ながら、吾郎が来るのを
待っていると突然、夏海の携帯電話が鳴った。
「はい。 もしもし……」
慌てて、電話に出た夏海は一瞬にして、顔色が変わった。
「う、嘘でしょ!」
夏海は話が終わる前に電話を切るとさっき、救急車が
走っていった方へと走り出した。
その頃……
ピエロの姿から元の姿へと戻った茉里の前に
「終わったか?」
浅葱が現れた。
「ええぇ…… 全て終わったわ!……」
茉里は頷くと
「じゃあ。行こうか!」
浅葱は茉里と共に街へと消えて行った。
~終わり~




