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吾郎が驚き、戸惑っていると
「もう…… ダメだわ…… 逃げてぇ!」
という声と共に篤子はまた茉里へと入れ替わった。
「これで終わりだ!」
篤子と入れ替わった茉里は吾郎に向かって、
ナイフを振り下ろそうとした。
その時だった……
吾郎と茉里の間に黒い塊が割り込んできた。
次の瞬間、
グサッ……
と鈍い音と共に割り込んできた黒い塊に茉里のナイフが
突き刺さった。
ぐったりし、黒い塊は吾郎の胸に倒れ込んだ。
吾郎は自分の胸の上に倒れ込んできた黒い塊に
「な、夏海…… どうして、キミがここに?……」
と言った。
吾郎と茉里の間に割り込んできて、茉里のナイフを受け、
吾郎の上に倒れ込んできたのは夏海だった。
「良かった! 間に合って……」
夏海は吾郎に微笑みながら、最後の力を振り絞り、
茉里のことを見ると
「もう良いでしょ? 父がした罪は私が
全部、受けるから…… 彼にはもう手を出さないで!」
と茉里に言うと両手を広げ、吾郎の前に立ち塞がった。
「う、うるさい!!……」
茉里は夏海の体からナイフを勢いよく、引き抜いた。
その途端、夏海の傷口からは血が溢れ出し、
夏海は気を失った。
「夏海! しっかりするんだ!……」
吾郎は夏海に声を掛けたが夏海からの返事はなかった。
「トドメだ!……」
茉里は吾郎に向かって、持っているナイフを振り下ろした。
吾郎は夏海に覆いかぶさり、夏海を守りながら
『もうダメだ!……』
と諦めかけたその時……
パーン……
吾郎がいる、倉庫らしき建物内に乾いた銃声が
響き渡った。
次の瞬間、篤子の姿の茉里はその場に仰向けに
倒れ込んだ。
「だ、大丈夫か?……」
その後に吾郎の後ろから宮間らの刑事らが現れてきた。
宮間は倒れて動かない篤子の姿の茉里のことを
警戒しながら、縛られている吾郎の縄を解くと
「良かった! 間に合って…… 怪我は?」
吾郎に訊いた。
「僕は大丈夫です! でも、彼女が……」
吾郎は心配そうに夏海のことを見詰めた。
宮間は部下の者にすぐに夏海を病院に運ばせた。
一段落して、宮間は残っている部下の者に
「そっちはどうだ?……」
篤子らのことを訊くと部下の一人が宮間の方に
振り返り、
「男の方は無事ですが…… 女性の方は……」
暗い顔をした。
「後は頼んだぞ!」
宮間は引き連れてきた部下の刑事らにその場に任せると
「じゃあ。行こうか!……」
吾郎と共に【警察】署へと戻っていった。
吾郎は宮間と共に警察署へと戻る途中に
「どうして、僕がいる場所がわかったんですか?」
宮間に自分がいた場所がなぜ、わかったのかを訊いた。
宮間は自分らが乗ってきた車に吾郎と共に乗り込みながら
「実はなぁ…… キミを捜している途中に
さっきの彼女【夏海】が現れ、君のいる場所を
俺達に教えてくれたんだ!……」
吾郎にそう教えてくれた。
『な、夏海が?……』
宮間の言ったことに吾郎は驚いた。
宮間は車を走らせながら
「おまけにここに来る間に彼女【夏海】は
今回の一連の事件のことを色々と俺達に
教えてくれた上にこの事件の発端となった
自分の父親の日記まで俺達に提供してくれたんだ!……」
といい、吾郎に一冊のノートを手渡した。




