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「ど、どういうことだ?……」
吾郎が包帯の女性に訊くと包帯の女性は
哀しげな顔のまま、
「まだわからないのか…… これなら、思い出すか!」
というと自分の顔にグルグル巻きに巻かれている
包帯をゆっくりと解き始めた。
包帯の女性が自分の顔に巻かれていた包帯を
全て解き終わり、自分の前に現れた女性の顔に吾郎は驚いた。
吾郎の前に現れたのは篤子だった。
吾郎が自分の前に突然、現れた篤子にびっくりし、
戸惑っていると
「これで思い出したか?……」
篤子は少し怒り交じりのいつものピエロのしゃがれた声で
吾郎にそう言ったが吾郎には篤子が言っていることが
さっぱり、わからなかった。
哀しげな表情から一変、篤子は鬼のように怖い形相で
吾郎のことを睨み付けながら
「お前が我ら、姉妹にしたことだよ!」
怒鳴るように吾郎に言った。
『姉妹にしたこと?……』
やはり、吾郎はさっぱりわからず、顔を顰めた。
篤子はまるでわかっていない吾郎に苛立ちながら、
近くに吾郎と同じように縛っている浅葱のことを
何度も蹴り付けた。
浅葱は篤子に激しく蹴られる度にゴホゴホと咳き込んだ。
その時だった……
吾郎にいつもの頭を締め付けられるような痛みが走った。
だが、いつもの痛みとは少し違っていた。
吾郎があまりの痛みに頭を抱えて、痛みを耐えていると
次の瞬間、吾郎の頭の中に一つのビジョンが浮かんだ。
それは見たこともない研究室らしき所……
そこのベットらしきモノに私【吾郎】は仰向けに
寝かされている。
そのすぐ横には篤子と篤子にそっくりな茉里。
そして、浅葱達哉が吾郎と同じように寝かされている。
「被験者が全て、揃いました!……」
吾郎の横から見知らぬ男の声が聴こえてきた。
吾郎が辺りを見廻すとごろ裏の周りには白衣を着た
見知らぬ男達が立って、吾郎らのことを見詰めていた。
「じゃあ。始めようか!」
聞き覚えのある声が聴こえてきた。
吾郎が辺りを見廻すと男達と同じように白衣を着て、
吾郎らのことを見ている弘三の姿があった。
『え? どういうことだ?……』
吾郎が混乱していると
キーン!……
という、いつもの頭の痛みと共に吾郎は現実世界に
引き戻された。
そこにはナイフを振りかざし、吾郎に今にも
襲い掛かろうとしている茉里の姿があった。
『うわぁ!……』
吾郎は咄嗟に身を翻し、間一髪のところで篤子の
ナイフを交わした。
恐怖で身を震わせながら
「お、お前は一体、誰なんだ?…… 篤子ではないなぁ……」
吾郎は目の前でナイフを持っている篤子にそう言うと
篤子は怪しげに微笑みながら
「私は私さ……」
と言ったと同時にさっきの世界に引き戻された。
さっきの研究室らしき部屋の中に広がる風景などは
何も変わっていない。
だが、吾郎らを見ている男達の様子がおかしい。
白衣を着た男の一人が不安げな顔をしながら
「実験は成功したのでしょうか?……
被験者らに何の変化はないようですが……」
と呟いた。
「どうかな?…… 被験者らが目覚めてみないと
わからんなぁ……」
弘三も吾郎らを見ながら、不安そうな表情を浮かべていた。
暫くして、吾郎の横の浅葱が目を覚ました。
白衣を着た男達は浅葱の簡単な身体検査を行い、
「キミは誰かね?……」
と浅葱に訊いた。
『バカだな! 浅葱達哉に決まっているじゃないか!』
吾郎はそう思いながら、浅葱の答えを訊いていたが
浅葱の答えに吾郎は驚いた。
「私は相良吾郎!……」
『はぁ? 相良吾郎は俺だ!』
吾郎は混乱した。




