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混乱している吾郎は
「ちょ、ちょっと待ってくれ!…… キミの話が作り話でなく、
私が企業スパイだった証拠はあるのか?」
と聡子に言うと聡子は俯き加減に視線を落とし、
近くの置いてあるバックから一冊のノートらしきモノを取り出し、
吾郎の前に差し出した。
「な、何だ? そのノーとは?……」
吾郎は不思議そうな顔をし、聡子が差し出したノートの事を
聡子に聞いた。
聡子もノートを見詰めながら
「これは茉里の日記よ…… この中に全て、書かれているわ……」
ノートが茉里の日記であることを吾郎に告げた。
吾郎が聡子からそのノートを受け取り、何枚から捲ると
そこには女の子が書くような丸文字で書かれた
日記らしきモノがあった。
『ほんとうだ……』
吾郎はノートに書かれている内容に驚いた。
吾郎は聡子の話をまだ少し疑っていたが
「でも…… 雇い主に殺された私が何でここにいるんだ?
茉里は?……」
聡子にそう尋ねると聡子は顔を曇らせ、俯き、
「さあ…… それは私もわからないわ……
でも、助かった貴方を茉里のお姉さんの篤子さんが
面倒を看ていたみたいよ!」
吾郎にそう言った。
吾郎はやっと、自分の部屋にいた篤子の謎が解けた。
だが、次の瞬間、
『茉里は?…… 茉里はどうなったんだ?……』
吾郎は茉里のことがきになったかと思うと頭の中に
あの滑稽なピエロのことが浮かび、背筋がゾッとした。
「あ、あの…… 茉里が住んでいた所を知りませんか?」
吾郎はダメかもしれないが聡子に茉里が住んでいた
場所を聞いた。
聡子は驚いた顔で吾郎のことを見ながらも
「ちょ、ちょっと待ってくださいね……」
近くに置いていた自分のバックから手帳を取り出し、
ページを数枚捲り、吾郎に茉里が住んでいた場所を教えた。
「あ、ありがとう!……」
吾郎は聡子にお礼をいうと会社を後にした。
吾郎が聡子の前から立ち去った後、聡子の前に
まるで幽霊が現れるかのようにあの滑稽なピエロが現れた。
聡子は驚きながらも
「もうやめよう!…… 茉里……」
ピエロに言った。
滑稽なピエロは怪しく微笑んだ。
「ねぇ、茉里…… もうあの人は昔のあの人じゃないのよ……
やめよう!」
聡子はピエロにそう言った。
「邪魔をするな!……」
ピエロは聡子に怪しく微笑むと取り出したナイフで
何の躊躇【ためら】いもなく、聡子のことを刺した。
『ど、どうして?……』
腹部から血を流しながら、聡子はその場に
崩れるように倒れ込んだ。
そんな聡子にピエロは何も声を掛けず、滑稽な顔で笑うと
その場から幽霊のように立ち去った。
茉里が住んでいたマンションの前にやって来た
吾郎は驚いた。
『ここは?……』
そこは吾郎が住んでいるマンションの
すぐ目と鼻の先の場所だった。
吾郎はしばらく、驚いていたが
『まだ何か、手掛かりが残っていると良いのだが……』
管理人の所に行き、
「茉里という女の人の部屋を見せてほしいのですが……」
茉里の部屋を見せてもらえるように頼み込んだが
「家族の人以外はダメです!」
管理人は吾郎に茉里の部屋を見せなかった。




