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篤子は心配そうにソファに横になっている吾郎のおでこに
自分のおでこを当てながら
「今日は無理をせずに会社を休んだら?……」
吾郎に会社を休むように勧めた。
「そうはいかないよ!……」
吾郎が無理をして、ソファから起き上がったが
さっきの余韻なのか、吾郎の頭は
キィーン!……
と再び、締め付けられるような痛みに襲われた。
苦悶の表情を浮かべる吾郎を篤子は心配そうに見詰める。
「大丈夫だから……」
吾郎は懸命に明るい表情をし、目の前の見知らぬ篤子を
心配させないようにした。
『おれは一体、何をやっているんだ?……』
吾郎はそう思いながらも、篤子の用意してくれた朝食を食べ、
念のために鎮痛剤を飲み、会社に向かった。
違和感は自分の家だけだと思っていた吾郎は家のある
マンションを一歩、外に出た途端、家の中と同じ違和感を感じた。
『なんだ?……』
目に見える風景などはいつもとなんら、変わらないのだが……
『何か、変だ?……』
だが、吾郎にはその違和感が何なのか、わからなかった。
吾郎はそんな違和感を抱えたまま、いつもの電車に乗り、
会社へと向かった。
「よぉ! 吾郎!……」
同僚の者達は気軽に吾郎に話しかけてくるが……
『誰だ?…… コイツら?……』
吾郎には気軽に声を掛けてくる者らのことがまるでわからない。
やはり、ここ【会社】もおかしい!
一日、違和感を感じたまま、会社内で過ごした吾郎は
帰社の時間になったが篤子が待つ、自宅があるマンションの
自分の部屋へと戻る気にはなれなかった。
『一体、俺はどうなってしまったんだ?……
この世界が変なのか?…… それとも俺が変なのか?』
交差点を忙しなく、行き交う人々を吾郎がただ、呆然と
見詰めていると
「おじさんも気付いたの?……」
突然、吾郎の後ろから少女の声が聴こえてきた。
『はぁ?……』
吾郎が驚いた顔で後ろを振り返ると紺色のブレザーの制服を着た
女子高生風の少女・彩佳が吾郎のことを見つけ、立っていた。
彩佳は吾郎のことを見詰めながら、
「おじさんもこの世界の違和感を感じたのでしょ?……」
と吾郎に話しかけてきた。
吾郎は突然、自分の前に現れた少女・彩佳に自分の考えていることを
ズバリと言われ、驚いたものの、
「ああぁ…… キミもかい?……」
彩佳の言ったことに合わせるように頷き、彩佳にいうと
彩佳も小さく頷いた。
「一体、この世界はどうなっているんだ?……」
吾郎が自分に抱えている違和感のことを彩佳に訊くと
「わからない!…… でも、昨日とは世界がまるで違うの……」
彩佳は吾郎の横に立つと物悲しそうに目の前を
行き交う人々を見詰めた。
しばらく、彩佳と共に目の前を行き交う人々を見た吾郎は
「そろそろ、帰るわ…… じゃあ……」
観念したかのようにその場から立ち去ろうとしたが
吾郎が数歩、歩くと手を何かに引っ張られた。
『なに?……』
吾郎が引っ張られた方に目をやると彩佳が吾郎の背広の袖を
後ろからちょこんと掴んでいた。
彩佳は哀しげな顔で
「お願い! 行かないでぇ!……」
か細い声でぽつりと吾郎に呟いた。
『え?……』
突然の彩佳の行動に吾郎は困った顔をした。




