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吾郎は夏海のことを見ながら、大きくため息を付くと
「しょうがないなぁ…… 離れるなよ!」
というと夏海の手をギュッと掴んだ。
吾郎は夏海と共に会社内を歩きながら
『さて、どこに行こうか?…… やっぱり、情報を得るなら、
地下の資料室か?』
と思うと夏海と共に地下の資料室へと向かった。
地下の資料室の中に吾郎が夏海と共に脚を踏み入ると
そこは埃に埋もれたダンボールが山積みになっていた。
『さて。 俺の情報はどれだ?……』
吾郎は早速、誇りに埋もれたがんボールの山の中から
自分の履歴書などが入っているダンボールを
夏海とともに捜し始めた。
だが、吾郎はなかなか、自分の履歴書などが入っている
ダンボールを見つけ出すことができなかった。
『どうしてだ?…… ここじゃないのか?……』
吾郎が諦めかけたその時……
「あ、ありました!……」
夏海が一つの段ボールを見つけ出した。
確かにその段ボールの中には吾郎の履歴書や吾郎が手掛けた
仕事などの資料などが入っていた。
だが、その段ボールには廃棄処分と赤い大文字で
書かれていた。
『は、廃棄処分?』
吾郎は意味がわからなかったがとりあえずは段ボールの中に
入っていた自分の履歴書などに目を通した。
吾郎は自分の履歴書などを見て、
『な、なんだ! これは?……』
と驚いた。
そこに書かれていた住所は吾郎がまるで知らない所だった。
『京都府?……』
吾郎が驚いた顔で自分の履歴書などを見詰めていると
「どうしたのですか?」
夏海が少し心配そうに吾郎に話しかけてきた。
夏海の声にハッと我に返った吾郎は
「な、なんでもない…… 変わったことはなかったから帰ろう!」
慌てて、自分の履歴書などを元の段ボールに仕舞い、
会社を後にした。
吾郎は夏海を家まで送った後、自宅へと帰る途中、
会社の資料室で見た自分の履歴書などが頭から離れなかった。
『京都かぁ…… あそこに俺のことを知る手掛かりがあるのか?』
気が付くと吾郎は自宅へと戻らず、京都行きの新幹線へと
飛び乗っていた。
篤子には
『ちょっと、旅行に行って来る!……』
と嘘を付いた。
京都までの間、吾郎が少し仮眠を取ろうとすると
「す、すみません…… 隣に座っても良いですか?……」
若い女の子の声で話しかけられた。
「は、はい…… どうぞ!」
吾郎が顔を上げ、声を掛けてきた女の子に返事を返すと
そこに立っていたのは夏海だった。
『え?…… どうして?……』
吾郎が驚いた顔をして、夏海を見詰めていると
小脇に抱えた荷物を吾郎の上の棚に入れ、
夏海は吾郎の横の席に座った。
吾郎が驚いた顔のまま、
「ど、どうして?……」
夏海に話しかけると
「奥さんに電話したら、あなたが旅に出たと言ったから……」
「それでも……」
「それに…… さっき、会社の資料室であなたが見ていた
履歴書に”京都”っていう文字が見えたし……」
あっさりと答える夏海を吾郎は驚いた顔で
見詰めていると
「ひょっとしたら、この新幹線かな?と思って……」
夏海は吾郎と顔を合わせないまま、ごく普通に
雑誌を取り出し、読み始めた。
『やられた!…… しょうがない。次の駅で帰そう!』
吾郎はそう思ったが夏海の顔を見ていたら、
『まあ。良いか!』
思い直し、座席を倒し、雑誌を読んでいる夏海の横で
仮眠を取り始めた。




