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ゾンビのように街へと消えていこうとする吾郎に
「ちょ……ちょっと待ってぇ! 私で良かったら、
話を聞くわよ!……」
夏海は呼び止めた。
吾郎と共に近くの公園にやって来た夏海は
「何があったの?……」
と尋ねると吾郎はさっき、浅葱に聞いたことを夏海に話した。
「そ、そうなんですか……」
あまりの話に夏海は言葉を失った。
「一体、僕は誰なんだろう?……」
吾郎がぽつりと呟き、哀しげな顔をすると
「相良さんは相良さんですよ!」
夏海は吾郎にそう言ったがそう言った夏海の顔も
何処か、哀しげだった。
吾郎は大きなため息を吐くと
「きみに話して、少し楽になったよ!ありがとう!
帰るわ!……」
ベンチから立ち上がり、帰ろうとすると
「ねぇ! 相良さんが誰なのか、一緒に確かめに
行きませんか?・・・」
夏海は元気のない吾郎を呼び止めた。
『はぁ?……』
吾郎は驚いた顔で夏海のことを見詰めた。
夏海のそんな一言に吾郎はすごく嬉しかった。
「わ、悪いよ……」
だが、吾郎は夏海のそんな申し出を断った。
「そ、そうですか……」
吾郎の返事に夏海は哀しげに俯いた。
「じゃあ!……」
吾郎は夏海にそう言って、夏海と別れた。
夏海と別れ、家に戻る途中、吾郎は夏海が言ったことが
引っ掛かっていた。
『自分が本当に誰なのか、捜しに行ってみるか?』
思い立った吾郎は家とは逆の方へと歩き出した。
気が付くと吾郎は自分の会社の前に立っていた。
「まずはここからだな!」
大きく深呼吸をすると吾郎は会社内へと脚を踏み入れた。
吾郎がいつものように会社に入ろうとすると
「ちょっと待ってください!」
会社の入り口にある守衛室の中から呼び止められた。
『え?……』
吾郎がびっくりし、歩みを止めると守衛室の小窓が開き、
守衛の佐藤が顔を出した。
守衛の佐藤は吾郎の顔を見るといつもの優しい顔で
「あっ…… 相良さんでしたか…… しばらく、お休みだと
聞いていますが…… どうしましたか?」
吾郎に話し掛けてきた。
本当のことを言えない吾郎は
「えーっと…… ちょっと、忘れ物を……」
と誤魔化すと
「そうですか…… どうぞ、お通りください!」
守衛の佐藤は吾郎をそれほど疑うこともなく、
すんなりと会社内へと通した。
「は、はい……」
吾郎が会社内へと入ろうとすると
「ちょっと、待ってください!」
守衛の佐藤は再び、吾郎のことを呼び止めた。
守衛の佐藤に呼び止められたことにびくっとし、
吾郎が歩みを止めると
「相良さん。 その後ろの方はお知り合いですか?」
守衛の佐藤は吾郎の後ろを見ながら、吾郎に
そう聞いてきた。
『はぁ?……』
吾郎が後ろを振り返るとそこには可愛らしく、
笑みを浮かべ、立っている夏海がいた。
『え? なんで?……』
吾郎が驚いた顔で夏海のことを見ていると
「相良さんのお知り合いですか?」
守衛の佐藤は再び、吾郎に吾郎の後ろにいる
夏海のことを聞いてきた。
守衛の佐藤の声にハッと我に返った吾郎は慌てて、
「ええぇ……」
と頷いた。
「じゃあ。手続きを……」
守衛の佐藤は吾郎に夏海が会社内へと入れる
手続きをするように言った。
「わ、わかりました……」
吾郎は慌てて、夏海が会社内へと入れる手続きを行った。
夏海の手続きを終え、吾郎はすでに誰もいない会社内を
夏海と一緒に歩きながら
「なんで君がここにいるんだよ?……」
夏海に聞くと
「だって…… きっと、自分が誰なのか、
捜しに行くと思って……」
吾郎に言った。




