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『え?……』
吾郎が浅葱が突然、現れたのに驚いていると
「さあ。こんな所から早く帰りましょう!」
浅葱は取調室にいる刑事らを勝ち誇ったように見ながら、
吾郎を取調室から連れ出そうとした。
吾郎も浅葱に言われるまま、浅葱の後を付いて、
取調室を後にしようとした。
だが、吾郎は急に浅葱の探偵事務所から帰る途中に
悠子を小脇に抱えているピエロのことを思い出した。
「そ、そういえば…… 昨日、帰り道であの写真の女の子を
小脇に抱えているピエロを見ました……」
吾郎は宮間らに昨日、あったことを話した。
宮間らは顔を曇らせ、
「ピエロ?」
吾郎の言ったことをまるで信じようとしなかった。
一応、宮間らは吾郎から詳しい話を聴いたが
やはり、吾郎の話を信じようとしなかった。
警察署から浅葱と帰る途中、
「何で信じてくれないんだよ!……」
吾郎が不満を漏らしていると浅葱は署内で買った
缶コーヒーを飲みながら、
「彼らはあんな者ですよ! それにあなたが言ったことは
何の証拠もないですからね……」
吾郎に冷たく、言った。
「でも、本当にみたのです!」
吾郎は声を荒げた。
「でしょうね…… じゃないと説明がつきませんから……」
吾郎を宥めるように浅葱はそう言うと
「そうそう…… あなたのことを少し調べましたよ!」
話を続けた。
「……何か、わかりましたか?」
吾郎が浅葱にそう尋ねると浅葱は服の内ポケットから
黒い手帳を取り出し、数枚、捲ると
「別段、変わったことはありませんでしたよ……
ごく普通の会社員です! ただ……」
吾郎にそう言い、話をやめた。
「な、何ですか?」
吾郎が不安そうに浅葱に聞き返すと浅葱は少し言いづらそうに
吾郎の顔を見ながら、
「……確かに相良吾郎さんは今、会社員として、
存在していますが…… 今の相良吾郎さんと
昔の相良吾郎さんが一致しないのですよ!……」
と吾郎に告げた。
『はぁ? 昔の俺と今の俺が一致しない?』
あまりにも突拍子もない浅葱の話に吾郎は
訳がわからなかった。
「それは一体、どういうことですか?」
吾郎が浅葱に聞き返すと浅葱は吾郎の顔を見詰めたまま、
「それはこっちが聞きたいですよ! 一体、あなたは
誰なんですか?……」
と吾郎に言った。
『こんなの嘘だ! 夢に決まっている!』
パニックになった吾郎は浅葱をおいて、その場から
逃げるように走り去った。
浅葱は吾郎が立ち去ったのを確認すると携帯電話を取り出し、
どこかへと電話を掛けた。
どこをどう走ったのか……
吾郎は街を彷徨った。
『一体、俺は誰なのだ?……』
吾郎が走るのをやめ、街の中をまるで幽霊のように
彷徨っていると
「あれ? 相良さん?……」
吾郎のことを呼び止める若い女の子の声が
聴こえてきた。
『だれだ? 俺のことを呼ぶのは?……』
覇気がなく、まるで死人のように吾郎が声が
聴こえてきた方に振り返るとそこには夏海が立っていた。
夏海の姿を見た瞬間、ホッとした吾郎は思わず、
夏海に抱き付いた。
「さ……相良さん!」
突然の吾郎の行動にびっくりし、戸惑う夏海に
「ご、ごめん……」
と謝り、夏海から吾郎は離れた。
まだ驚き、戸惑っている夏海は
「ど、どうしたのですか?…… 何か、あったのですか?」
吾郎に優しく話し掛けてきた。
「うん! ちょっとね…… 突然、本当にごめん!」
吾郎は夏海に再び、謝ると気まずそうにその場から
立ち去ろうとした。




