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ピエロ  作者: 劉・小狼
10/41

 10

 しばらく、眠った吾郎は夏海のことを思い出し、


 『いけない!……』


 慌てて、ソファから飛び起き、辺りを見廻し、

夏海のことを捜した。

 夏海は吾郎が寝ていたソファの横に座り、

本を読んでいた。

 吾郎が起きたのに気付いた夏海は

 「起きた?……」

 吾郎に優しく微笑み、声を掛けた。

 まだ寝ぼけている吾郎は

 「ああぁ……」

 夏海のことを見ながら、頷いた。

 夏海は読んでいた本を閉じると

 「じゃあ。 私、帰るね?……」

 帰り支度を始めた。

 その時、ちょうど、

 「ただいま!……」

 篤子が帰ってきた。

 夏海は帰ってきたばかりの篤子に一礼をすると

 「じゃあ。 私、帰ります!……」

 といい、帰っていった。

 まだ寝ぼけていた吾郎だったが


 『彼女【夏海】を送らないと!……』


 と思い、

 「ちょっと、彼女【夏海】を送ってくる!……」

 篤子にそう言うと家を飛び出した。

 走った吾郎はすぐに夏海に追いつき、

 「お、送るよ!……」

 と夏海に声を掛け、呼び止めた。

 「いいですよ!……」

 夏海ははじめは吾郎の申し出を断っていたが

吾郎は半ば、強引に夏海と一緒に歩き始めた。

 黙り込み、ぎこちなかった二人だったがすぐに吾郎が

居たたまれなくなり

 「今日はありがとう!……」

 夏海にお礼を言った。

 「いいえ……」

 夏海は慌てて、そう言うと再び、黙り込んだ。

 また二人の間に重い空気が流れた。

 その空気に居たたまれなくなった吾郎は

 「じ、実は……」

 病院に運ばれる前の真夜中の公園であった

ピエロのことを夏海に話した。


 『え!?……』


 驚いた夏海はその場に立ち止まった。

 「そのピエロが言うには…… 僕の秘密を

知っているって……」

 吾郎が冷静に夏海にそう言うと


 『え?…… 秘密?……』


 夏海は立ち止まったまま、さらに驚き、吾郎のことを

見詰めた。

 吾郎は今まで自分に起こったことやあの日の

真夜中の出来事のことを夏海に詳しく、話した。

 はじめは吾郎の話を信じられない顔で聞いていた

 夏海だったが吾郎の話をすべて聞き終わった夏海は

 「一度、ちゃんと自分のことを調べてもらったら?……」

 吾郎にそう言った。

 「そうだなぁ……」

 吾郎は夏海の意見を聞き入れ、一度、自分のことを

調べてもらうことにした。



 数日後。 


 仕事を早めに切り上げた吾郎は帰り道に

街外れの私立探偵の浅葱達哉【あさねきたつや】の

事務所に向かった。

 私立の探偵事務所といってもほぼ自宅と兼用している

小さな事務所だった。

 探偵事務所のドアを開け、吾郎が事務所の中に入ると

 「いらっしゃい!……」

 奥から慌てて、浅葱が現れた。

 「どうぞ! 中に……」

 浅葱は入り口のところで立ち尽くしている吾郎は

奥へと案内した。

 ソファに向かい合って、座った浅葱は

 「さて? どんな依頼でしょうか? 人捜し?

モノ探し?……」

 吾郎に聞いてきた。

 「じ、実は……」

 はじめは言いづらそうに俯いていた吾郎だったが

 「実は…… 私のことを調べてほしいのですが……」

 浅葱に思い切って、言った。

 「はぁ? また、ご冗談を……」

 浅葱は驚いた顔で吾郎のことを見た。

 吾郎は真剣な顔で

 「冗談ではありません! 私のことを調べて

ほしいのです!」

 浅葱に強く、そう言った。

 はじめは悪戯だと思っていた浅葱だったが

あまりにも吾郎の真剣な顔つきに吾郎のことを信じ、

 「詳しい話を聞かせてください……」

 浅葱は吾郎にそう言った。

 「は、はい……」

 吾郎は頷くと今まで自分に起こったことなどを

浅葱に詳しく、説明した。


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