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PL『始まりは灼熱』

依頼2《運命の蜘蛛の糸》ウンメイノクモノイト



PL『始まりは灼熱』



 昼間だというのに、窓のシャッターが閉められている為にその部屋は薄暗かった。真夏にも関わらず空調機械一つ無いために、異様な暑さがたちこめる。

 その薄暗い部屋のホワイトボードを背にし、唯一立っている男が細い金属棒でバシッとホワイトボードに書かれた文字を指した。

「……問題は、誰がどれに行くかや……」

 真剣な男の声に、椅子に座って聞いていた眼鏡の男が挙手をして発言する。

「もう何度も聞いた。所詮全員やるのだ、早く決めろ」

「それはそうなんやが……」

 眼鏡の男のもっともな意見に、ホワイトボードの前に立つ男はやや押されながら答えた。早く決める事が出来ないから、こうして長々と議論しているというのに。

「かったりーなー、俺に面倒なの寄こすなよ?」

 自分の前のデスクに脚を乗せた体勢で、やや長い紺髪の男は言い放った。非常に勝手な言い分だが、彼の性格上いつもの事だ。まとめ役の前に立っている男はその発言は無視する。

「僕はどれでもいいよ。だから自由に振り分けて」

 紺髪のいい加減そうな男の横のデスクの少年が、穏和な声と笑顔で言う。この中で一番年齢が低そうなのに、彼が一番上司を気づかっていた。

「そーそー、私も何でもいいから早くしようよ〜。暑くてたまんないわ。もうここは部長の一存で決めちゃえば?」

 団扇でパタパタと扇いでいる茶髪の若い女がデスクにうつ伏せになる状態で提言する。全員暑さで汗を掻いていて、一刻も早い結論を望んでいた。

「そういかんから話し合っているんに……あー、もうどないすっかなァ……」

 部下達の様々な意見に、ホワイトボードの前に立つ部長は頭を抱える。別に彼が優柔不断なわけでは無く、本当に判断を誤れない状況なのだ。


「だあぁー! ったくとっとと決めやがれっ、もうどーでもいいだろうが!」


 暑さに一番早く耐えられなくなった紺髪の男がデスクを両手で叩いて立ち上がる。朝から全く梳かしていないのであろうボサボサの髪も、汗でしなっていた。

「うるさいぞ、貴様は黙って結論を待っていろ」

 その男の丁度目の前に座っていた眼鏡の男が冷たく見上げる。淡緑の前髪が揺れ、鋭い眼光が窺えた。

「てめぇのほうがうっせーんだよっ! バーカ!!」

「なんだと……」

 子供のような男の物言いに、ピクッと眼鏡の男の眉が引き上がる。普段は冷静な彼も暑さにかなりやられているらしく、いつもより早く怒りの導火線に火が点いた。

 皆、それぞれイライラしているのだ。室温三十八度では無理も無い……というより既にサウナ状態。もはや我慢比べ大会のような熱気。

「ま、まぁまぁ二人とも抑えて……」

「そうよ、これ以上体温上げたら倒れちゃうわよ〜?」

 暑さで疲労しきった少年と、もう投げやりな若い女が仲裁に入る。全員、限界が近かった。手を打って四人の部下を大人しくさせる部長。

「仕事中やで、真面目に考えんかいっ」

「だいたいお前が早く決めねーのが悪いんじゃねぇか!」

「ワイだって必死に考えとるがな! あんたらが勝手なコトぬかすのが悪いんやでっ!」

「俺まで数に入れるな! この愚か者が騒ぐのが悪いのだろうがっ!」

「ンだとこのキザ野郎! 誰が愚か者だぁ!?」

「フン、貴様以外に誰がいる?」

「ぶっ殺す!!」

「その前に貴様が死ね」

「二人とも落ち着いてよっ、こんな事でケンカは止めてってば!」

「あーもー、嫌。私寝ちゃおうかしら〜……」

「えぇ!? ダメだよこんな所で寝たら熱中症で死んじゃうよ!」

「……もう我慢ならねえ! 今日こそてめぇをぶっ飛ばすっ!!」

「やれるものならやってみろ愚か者。貴様の拳が触れる前に蜂の巣にしてやる……!!」

 なんだか大変な事になってきたが、部長は何も言わない。……いや、正確には言えなかったのだ、彼もまた暑さにやられていたのだから。しかし、部長としての役割は果たさねばならない。彼は妙案を考えついた……というか、自棄になってこんなコトを叫んだ。


「えぇぇーいっ、やかましいわアホー! こうなったら最後の手段やァ――っ!!」


 ホワイトボードに痛くなる程バァンッと手を打ちつけ、部長はやっと全員を黙らせた。『最後の手段』という言葉に部下達は全員息を呑む。

「貴様まさか、アレをやる気なのか……!?」

「そうや。もうアレしか残っておらへん」

「で、でもアレは……」

「どうせ仕事は五つ、社員は五人なんや、結局は一人一つの仕事をやるしかあらへん。話し合いで決まらん以上はアレで決めるっ!」

「いいのかよ!? お前散々人事で悩んでたじゃねーかっ」

「あー、考えんの面倒やさかいエエわ。ってゆーか、もーどうにでもなれって感じィ?」

「あぁ……遂に壊れちゃったわよ、部長さん。」

「しっかりしてよ真君! なんか顔色悪いよっ!?」

 真と呼ばれた部長が、全然耳を貸さずホワイトボードに黒いペンで五本の縦棒を書き込む。そして幾つもの横棒をそれに書き足した。そして最後に、縦棒の下に番号を一から五まで書き、部下達に向き直る。



「さァっ! 選べや!!」



 赤いペンを差し出し、全員に名前の記入を強制する。これが彼らの『最終手段』……古来より伝わる《あみだクジ》だった。

「……もはや運命なのか……」

 もう諦めた表情で眼鏡の男が最初にペンを受け取り、一番右端の縦棒の上に名前を記す。『紫牙澪斗』と。

「私ってばクジ運悪いのよね〜……」

 澪斗からペンをうんざり受け取り、茶髪を高いところで結わえた若い女が真ん中の棒に『安藤希紗』と名前を素早く書いた。

「じゃ、次は僕だね」

 白銀の短髪を持つ穏やかな少年が、背伸びをしてなんとか『純也』と右から二番目の棒の上にギリギリで書いた。身長の低い彼は腕を精一杯伸ばして短い名前を書かなければいけない。

「ちっ、面倒臭ぇなー……」

 必死に背伸びして書き終えた純也のペンを易々と奪い取り、紺髪の短気な男はやっと読み取れるような雑な字で『蒼波遼平』と左端に書き殴った。

「よし、これで最後や」

 遼平から投げ渡されたペンを受け取り、最後に部長が余ったところに書く。短いツンツンとした金髪で、まだ部下達と大差無く若い……『霧辺真』は満足したように自分の氏名を書き、端からあみだクジを始めた。

 四人の部下が見守る中、部長が全員の線を辿っていき、出た結果は……。


「じゃじゃ〜ん、結果発表〜!」


「真……貴様暑さに負けておかしくなっていないか……? ノリが希紗のようになっているぞ?」

「何よそれ!? 私がいつもおかしいみたいじゃないっ」

「……違うのか?」

「まぁ、少なくともマトモじゃねーよな」

 珍しく澪斗と遼平の意見が一致した。希紗が子供っぽく頬を膨らませる。

「エエから結果聞けって。えーと……、一番・純也。二番・希紗。三番・ワイ。四番・澪斗で、五番が遼平や」

「……それで、何番がどんな仕事なんだよ?」

「それはァ……」

 真が俯き、答えを詰らせる。何か嫌〜な予感が四人に流れた。

「それは……それぞれ依頼人のもとへ行けばわかる。そこで詳しい依頼内容を聞いたってや」

「は? なんだそれ?」

「答えになっていないぞ、何か問題でも有るのか」

「真、何か隠してない?」

「なんだか微妙に嫌な感じがするんだけど……?」

「きっ、気のせいやがな! 何も問題なんてあらへんっ! とにかく全員仕事を成功させるんやで!!」


「「「「…………」」」」


 なんだか焦り気味の真に、部下達から訝しげな視線が注がれる。真は結構嘘がつけない性格だ。


「とにかくっ! 仕事は明日一日や、それぞれこのメモに書いてある場所に時間通り、条件を守って行ったってや! それじゃ、裏警備会社『Lose Keper』中野区支部、今日は解散っ!!」


「「「「あっ!?」」」」


 駆け出して、部長は事務所のドアから逃げるように出て行ってしまった。部下達が問い質す間を与えずに。


「くそっ、何だってんだ真のヤツ……」

「怪しいわ……何か大きな仕事かも」

「ん〜、それはないと思うなぁ……」

「……何であろうと俺達は護るまでだ」

 サウナ状態の事務所に残された四人は、それぞれ渡されたメモを見ながら呟く。



 ……この時、まさかあんな惨事になろうとは、誰一人予想だにしていなかった……。



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