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第五章『悪戯の如く残酷に微笑んで喰らう』(1)

第五章『悪戯の如く残酷に微笑んで喰らう』



《PM,8:05》


「キャー!!」


「どうした!?」

 急に悲鳴を上げた百合恵に、澪斗は銃に手をかける。百合恵は一人先頭を歩いていたのだが、澪斗にしがみ付いている友人と共に抱きついてきた。

「蜘蛛の巣ー!」

「は?」

「蜘蛛の巣が頭に引っかかったのよ〜!!」

「……それだけか?」

「それだけ、じゃないでしょ! あ〜、びっくりした〜」

「もう〜、びっくりしたのはこっちよ〜」

「そうよ、いきなり叫ぶんだからぁ」

「ごめんごめん。もう嫌だから澪斗、先歩いてくれる?」

「構わんが……。それならもう引き返したらどうだ? 充分楽しんだだろう?」

「ダメ! もう少し冒険するのっ!」

 まだがっちりくっついている百合恵を見下ろし、澪斗は心底疲れた表情をする。一日少女の遊びに付き合ったあげく幽霊屋敷騒動とは。自分のクジ運を呪うしかなかった。

「…………では行くぞ」

 仕事だと己に言い聞かせ、澪斗は歩きだす。


     ◆ ◆ ◆


「待てってゆーとるやろがーっ!」

「だれが待つかー!」

 ガシャガシャ金属の擦れ合う音を響かせながら騎士鎧(真)は怪盗三人を追っていた。

「もうっ、一体何なんだいっ? あの変な鎧コスプレ男は!?」

「そんなあねさん、オレっちに訊かれても……」

「だぁれが変やってぇーっ! あんさんら悪夢見せたろかァ――!!」

「「「ひいぃぃ〜!」」」

 通路が十字路になっている所で、三人はそれぞれバラバラの方向へ逃げていった。真は舌打ちし、とりあえず右側の通路へ走っていく。

 自分がまず狙われている事を知った細身の男レートは、たまたま開いていたドアから中の部屋に入り、静かにだが瞬時にドアを閉める!

「どこ行きおった〜! 許さへんでー!!」

(こ、殺される〜っ)

 部屋の隅に隠れて足音が通り過ぎるまで冷や汗を掻きながら待つレート。やがて金属音は遠ざかっていった。



「ったく、どこに行きおったんや……」

「う、うわあぁぁ――――っ!!!」

「へ!?」

 突然の叫びに驚き、真は見ていなかった前方に首を戻す。そこには、スーパーのビニール袋を落として驚愕の顔をする中年眼鏡の男が。

「誰や、あんさん……?」

「うわっ、うわあぁっ、こっち来るな〜!」

「ちょ、ちょっと待ちぃや。あんさんは一体……」

 その言葉を最後まで続けないうちに、中年男は袋の中身を散乱させたまま走り去ってしまった。あの男の買い物なのだろう、床一面にケチャップパッケージが広がる。

「あ……おーい……」

 その体格に似合わない俊敏さで消えてしまった男の後姿を見送る真。なんだかわからないが、この屋敷に自分達以外の人間がいることを確認した。


     ◆ ◆ ◆


「ったく、バカに広い屋敷だなココは」

 ポケットに手を突っ込んだままズンズンと歩いていく遼平。

「どこか休めそうな場所がねぇか探すぞ。……おい、聞いてっか?」

 くるっと振り返って後ろを見る……が、あの無駄に巨体の男の姿はそこには無かった。いつの間にか気配が消えていたことにさえ気づけなかったのに。

「ちっ、まいったなー。こんな広い屋敷、探すのも一苦労――――」



「う、うわあぁぁ――――っ!!!」



「――――でもねぇか。いちいちわかりやすいヤツだよな……」

 突如上の階から響いてきた悲鳴に、遼平は深くため息つく。一体どうやってはぐれたら二階まで上がってしまうのか?

「階段は……あそこか。仕方ねぇなっ!」

 一応は依頼人の安全確保の為、遼平は階段を一段とばしで駆けていった。


     ◆ ◆ ◆


「ロッキー! どこ行っちゃたの〜!?」

「ワンワンッ」

 広すぎる回廊を純也とリリアンは行く。もう三階は調べきったので、二階に降りることにした。

「……? 人の気配がする……まいったなぁ、ココの住人さんかな?」

 リリアンに首を捻る純也。明らかに人が住めるような屋敷ではないが、それでも《もしも》という事も有り得る。


「う、うわあぁぁ――――っ!!!」


 突如の遠い悲鳴。純也とリリアンはぎょっとして振り返ったが、ここからでは何も見えない。呼吸の合ったタイミングで、一人と一匹は顔を合わせる。

「……今の、何だろう?」

「クウゥ〜ン?」

「とにかくロッキーが心配だね、どっちに行けばいいのかな?」

 降りてきた階段を背にし、三つの廊下をぐるっと見渡す。複数の人間の気配がする。

「ワンッ」

 リリアンが左の回廊の前で振り向いて吠える。純也は動物の勘に素直に頼ることにした。なるべく気配を消し、駆けていく。だが、途中で純也は水溜りに足を滑らせ見事に前倒れになってしまった。

「いたた……。ん? あぁー!」

 何かを潰した感覚に、起き上がって自分の上半身を見下ろす。そこには赤い大きなシミが。原因は、何故かこんな所に落ちていたケチャップのパッケージを踏み潰したからだった。

「なんでケチャップが? もー、ケチャップは洗っても落ちにくいのに〜!」

 よく見れば、周囲にまだ同じパッケージが散乱している。どうやら本当に住人がいるのだろうか?

「あ、雨漏りしてるー。だから転んじゃったのか……」

 振り返って躓いた場所を見る。リリアンは天井を見上げ、垂れてくる滴を眺めていた。雨が降り出したらしい。

 純也の頭上にも、雨粒が落ちてくる。髪は濡れて垂れるし、服は真っ赤に染まるしで、踏んだり蹴ったりだ。

「クゥン?」

「あぁ、大丈夫だよ。でも、ここからは走らないで行こうかな」

 そう言って静かに両手を前に広げる。風が純也を中心に渦巻き、軽い身体の足が浮かんだ。足の下に、小さな風の渦が出来ている。

「よっし、これでオッケーだね。さ、行こう!」

 床の数センチ上を滑るように、純也は進んでいった。


     ◆ ◆ ◆


「ちょっと、押さないでよー」

「なんかマジで出そう〜」

「おい、動けないのだが……」

 百合恵らに囲まれ、進むどころではない澪斗が呟く。嫌なら帰ればいいのに、怖いもの見たさで二階まで来させられてしまった。

 目の前が十時路になった。百合恵が、先を確認するように澪斗に指示する。澪斗はしぶしぶ左右の通路を首を伸ばし確認する。

「百合恵〜、まだやるの?」

「まだまだこれからよ!」

「……ねぇ、なんか音しない?」

 澪斗が確認している間、少女達は引っ込んで話し合っていた。ふと一人が、背後からの小さな物音に気づく。四人は後方の先程曲がってきたT字路に振り返った。

「「「「……」」」」


 タッ、タッ、タッ、タッ……。


 静かにその音は近づいてくる。……そして、一瞬だったが確かに白髪で服が血まみれの子供と犬が通路をスーっと通過していった。

 ……一呼吸置いて。



「「「「キャ―――!!」」」」



「どうした!?」

 澪斗がぎょっとして振り返った時、もうそこに百合恵達の姿は無かった。裏の人間さえ驚く速度で、十字路の向こうへと駆け去っていく。警備員はただ呆然と立ち尽くす……一体何が何なのか?


     ◆ ◆ ◆


「百合恵ー! ……まったく、何処に行ったんだ」

 彼にしては珍しく、声を張り上げていた。古臭い洋館に澪斗の呼び声が響く。

「百合恵――! 百合恵――!!」


 ガシャン、ガシャンッと何か金属音が近づいてくる。振り向くと、なんと騎士鎧がこちらに駆けて来る!


「なんだ貴様は!?」

「どこや!? ドコにユリリンがおるって!?」

「は?」

「あんたは澪斗!? あんさん、まさかワイのユリリンに手ェ出しおったんかっ!」

「……もしかして、真、なのか……?」

「澪斗ー! 上司の嫁に手を出すとはエエ度胸や! ここで成敗したるっ!!」

「待て、その友里依じゃない! 百合恵は俺の依頼人で……」

「問答無用やー!!」

 鎧の抜かれた剣を、澪斗はスレスレでマグナムの銃身で受け止める。しかし力の差でその刃は首筋に迫ってくる。

「馬鹿者、抜刀するやつがあるかっ! 人の話を聞け!!」

 身を反らして一閃を避け、距離をとって威嚇発砲する。だがコレによって余計真のテンションを上げてしまった。剣を振り上げて襲い掛かってくる騎士鎧。

「仕方の無いやつだ……。フッ、丁度良い、貴様には言いたい事が山ほどあったからな!!」

 澪斗の瞳に冷たい殺気が宿る。本気で殺る気だ!

 実弾を剣の身で跳ね返す真。澪斗は刃の範囲に入らぬよう後ずさりしながら急所に向って撃ちまくっていた。数年共闘してきた二人だ、互いの戦闘の癖はわかりきっている。


「きゃっ!?」


 そんな所へいきなり現れたのは、他の誰でもない、希紗だった。何処から入ってきたのか、ホコリだらけでこちらを見ている。

「希紗!?」

 しまった、希紗の前で拳銃を使うわけには……!

「隙ありっ!」



 澪斗の銃を握る手が緩む。一瞬の隙が出来た澪斗の首に、剣が振り下ろされたっ!


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