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第四章『末には全てを集めては』(3)

《PM,7:45》


「けっこー遅くなっちゃったな〜」

 ずらずらと動物をつれた塊……ではなく少年が暗くなった道を歩く。初めての外の世界に動物達は興奮して楽しそうだった。

「あ、あれは……」

 道の先に、自動販売機の缶を補充している青年を見つける。見たことのある顔だ。

「お〜い、リンリ〜ン!」

「え?」

 純也が『リンリン』と呼んだ青年……林李淵リン リエンは以前仕事中に知り合った(一応)泥棒である。何故一応かというと、あまりに小心者な為、窃盗行為ができないからだ。

 呼ばれて赤毛の青年は顔を上げる。まさか、こんな所でアルバイトしていたとは。

「う、うわあ〜っっ」

 李淵は後ずさる。彼の目の前には犬と猫の塊が存在していたからだ。

「僕だよリンリン! 純也だよ!」

「えぇ!?」

 なんとか顔の前にぶらさがっていた子猫を頭上に上げ、自分の顔が見えるようにする。動物の塊から覗いた少年の顔……それはそれである意味怖かった。

「じゅ、純ちゃん……? なんでこんなコトに??」

「ウゥ〜っ、ワンワンッ!!」

「わあぁぁ〜!」

 犬に吠えられて自動販売機の陰に隠れる李淵。足下で犬に匂いを嗅がれ、いますぐ止めて欲しいと言わんばかりに純也を潤んだ瞳で見る。

「リンリン……もしかして犬嫌い、とか?」

「ち、違うんだけど……だ、だってこんなにいっぱいいるしぃ〜」

「あ、ゴメンね」

 李淵の近くにいた犬を抱き上げる純也。それでまた動物の塊に戻ってしまった。動物達が鳴いたりじゃれ合ったりしているのを李淵は見ながら。

「純ちゃん、それも警備員のお仕事?」

「う、うんまぁ……たぶん。リンリンこそいつものアルバイト?」

「そうだよ、今日は自販機の補充のアルバイトなんだ。でもこれから深夜のコンビニのアルバイトもあってさ」

「……毎日大変だね……。最近は……その〜、あっちの仕事のほうは?」

「あぁ、近頃は泥棒稼業はお休みだよ。アルバイトのほうが忙しくてね〜」

「……僕が言うのもなんだけど、本末転倒だよね……」

「ホンマツ??」

「あははは、なんでもないよ」

 首を傾げる李淵に、純也は苦笑しつつ首を振って答える。泥棒のほうが簡単に稼げる……というのは彼には当てはまらない常識らしい。

「ところで純ちゃん、もう遅いけど大丈夫?」

「あ、うーん、結構遠い所まで来ちゃったからなぁ……」

「だったらさ、途中まで送っていこうか? 俺、軽トラックだから後ろなら乗せられるよ」

「いいの? 自販機のアルバイトは?」

「次の場所までなら送ってけるよ。なんだか大変そうだし、ね」

 首輪につけられた紐で、様々な方向に引っ張られている純也を見て李淵は軽トラックの後部を指差す。飲料水の缶のダンボールがもうほとんど空になっていて、純也達でも本当に乗れそうだ。

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな」

 なんとか動物達を乗り上げさせ、純也も最後に飛び乗る。新たな経験で動物達はさらに興奮していた。リリアンもまた然りで、純也が紐を持っていないと外に飛び出てしまいそうだ。

「出発するよー」

 バタンと運転席のドアが閉まり、軽トラックがエンジン音と共に振動し始める。それに揺られること五分ほど、電光灯が一つしかない暗い道で軽トラックは止まった。

「この辺でいいかなー?」

「うん、ありがとう。助かったよ。じゃあアルバイト頑張ってね!」

 走り去っていく軽トラックを見送り、純也は辺りを見渡した。行きで通った道だ、確か大きな洋館が目印だったはず。

「あ、あったあった。えっと、じゃあここを右に曲がってー……」

 古い洋館を見上げ、純也は方角を確認する。ところが、その時目印としていた屋敷から大きな物音がし、動物達が一斉に動揺する。

「うわわわっ」

 手首に巻きつけた紐を両側から引かれ、純也は体勢を崩す。その拍子で頭に乗っていた子猫のロッキーが飛び降りてしまった。

「ニャア〜っ」

「あ、ロッキー!」

 純也の追う声も空しく、ロッキーは屋敷のほうへ駆けていってしまう。好奇心が抑えられなかったようだ。

「どうしよう……早く追いかけなくちゃ。みんな! みんなはココで待っててね!」

「クウゥ〜ン!」

「リリアン? もしかして、僕と一緒に来てくれるの?」

「ワンッ」

 まるで純也の言っている事が理解できるかのように吠えるリリアン。どうやらゴールデンレトリバーのリリアンは動物達のリーダー的存在らしい。

「ありがとう。じゃあ他のみんなはココで大人しくしててね」

 洋館の敷地の中に立っていた巨木に紐を結びつけ、純也とリリアンは古ぼけた大きな洋館の中に入っていった。


     ◆ ◆ ◆


《PM,8:00》


「遅くなっちまったな……」

 もう少しで厄介な一日が終わることに喜びつつ、遼平は携帯通信端末で時間を確認する。ただの買い物だったのに遠くまで来たせいで夜も更けてしまった。

「そ、そうだな……。うぅ〜、何か出てきそうだぁ〜」

「だからくっつくなっての! ったく、こんな天気じゃヤクザだって出てこねぇよ」

 腕を組もうとする剛山を蹴り飛ばし、遼平は空を見上げる。朝の快晴はどこかにいき、今はどんより曇り空が広がっていた。空気が湿っぽい……これは、雨が降るのも時間の問題かもしれない。



「あ、そういえばさ、俺あんたの名前訊いてなかったよな? あんた、名前は?」

「…………リョウヘイ」

「リョウヘイ、か。裏社会だと、その名前は大変じゃないか?」

「なんでだよ?」

「いや、俺も裏にはあんまり詳しくないんだけどさ、あんたも聞いたことあるんじゃないか? ほら、《邪鬼》と呼ばれた男のコト」

「……あぁ、知ってるぜ」

「ホントに化けモンみたいに強くて、残酷で、心の無い男。東京では有名な話だよな、裏切り者の『ソウハ リョウヘイ』ってヤツの名前くらいは。ある意味じゃあ幽霊なんかよりよっぽど怖いのかもなぁ」

「はっ、ならてめぇはもう怖いモン無しだな」

「え、なんで?」

「…………さぁな」

 煙草を取り出して、目を細めた遼平はライターで火を点ける。その表情は紺髪で隠されていたが、頬に引き上がる口元に剛山は首を捻っていた。



「とりあえず早く帰って夕食作ろうぜ」

「……俺もやるのかよ?」

「だって料理してる時に呪いがきたらどうするんだよ!?」

「お前ンち一部屋しかねーだろうが! 何かあったら一発でわかるだろ」

「でもー! 包丁がいきなり宙に浮くとかっ、鍋が火を噴くとかっ!」

「ンなこと起こるかーっ! そんなん起きたらてめぇがある意味すげぇよ」

 剛山が手にしていたスーパーの袋を見る。マヨネーズが好きだという人間は聞いた事があったが、ケチャップが大好きだという人間は初めてだった。赤いケチャップのパッケージが袋を透けて見える。(マヨラーならぬケチャラーか?)とケチャップを大量に買い込む剛山を見て思ったものだ。

「え? 俺スゴイの?」

「……ここまでくるとすげぇよ、いろんな意味でな」

 「そうか〜」と自分で感心している剛山の横で、一人頭を抱える遼平。こういうノリ、なんだか純也に似ているような……要は天然ってやつか?


「あ……」


 鼻の頭を雨粒が叩く。だんだん雨はその勢いを増しながら雫を多く落とした。

「ちっ、やべぇな。走るぞ!」

「え、あ、おうっ」

 とりあえず何処か雨宿りできる場所はないかと走りながら探す遼平。ふと、屋根の大きな玄関の屋敷を見つけ、「こっちだ!」と剛山を促す。

「はぁ〜、いきなりだから驚いたなー」

「こりゃ簡単には止みそうにねぇな……。当分ここで雨宿りか」

 降り続く雨。おかげで煙草の火が消えてしまった。よく辺りを確認してみれば、屋敷の脇の大きな木の下で何故か動物達が雨宿りしており、玄関の前にはどこかで見たことがあるようなスポーツカーが停まっている。



 そこで突然、「キャー!!」というつんざくような悲鳴が。剛山がビビりあがる。


「な、な、な、何だよ今の!?」

「さぁな……この屋敷の中からみてぇだったけど」

「お、女の悲鳴だったよなっ? なぁ!? うわあぁぁ〜、ついに俺の呪いがぁ〜!」

「ンなわけねーだろ、落ち着けよ。……なんなら確かめに行くか?」

「そそ、そんな怖いことしたくねーよー! どうしてわざわざこっちから呪い殺されなきゃならないんだよ!?」

「うっせぇなー、呪いとやらをあばくチャンスじゃねぇか。ま、どーせ何かの間違いだろうから気にするこたぁねーよ」

 鍵がかかっていない事を確認し、遼平は古そうな洋館の扉を押す。ガタガタ、と上の階で何かが動く気配がした。ねずみか何かだろうか?

「本当に行くのか!? お、俺はやだよぉ〜」

「じゃあココで一人で待ってっか?」

「それのほうがやだ!」

「ならついて来るんだな。ここで立ちっぱなしよか中で休んでたほうがマシだぜ」

「うう、うん……」

 もはや泣き出しそうな顔で剛山はぴったりと遼平にくっついて中に足を踏み出した。それをいたって邪魔そうに、遼平はズンズンと屋敷へ入り込んでいく。





 こうして、全ての駒が蜘蛛の因果の糸へと囚われる……。



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