第四章『末には全てを集めては』(2)
《PM,7:31》
「わかったわ! そういうコトだったのね!」
突然立ち上がって叫んだ希紗に、奥さんは驚く。この警備員には驚かされてばっかりだ。
「あのー、何がですか?」
「ゴキブリ達の巣ですよ! ここじゃなかったんです、だから薬が効かなかったんだわ……」
「え? ウチじゃなかったんですか?」
「はい、実は先程出現したゴキブリに発信機をつけたんですけどね……どうやら近くの家から来ているみたいなんですよ!」
「まぁ……一体どこから……?」
『ゴキブリに発信機をつけた』というツッコミどころ満載な希紗の発言を気にもせず、奥さんは純粋に驚いた様子で首を捻る。……この人、本当に天然だ。
「これを見てください、ココの、大きな家ですよ」
希紗がノートパソコンのディスプレイを指差す。そこにはこの住宅街の地図が簡潔に描かれ、赤い点が、現在位置と思われる伊東さん宅から数百メートル先の大きな敷地の中で点滅していた。
「ここは……確かもう誰も住んでいないはずのお宅だったと思いますけど……」
「そうなんですか? まぁとにかく、ココに行って私が直接ゴキブリを殲滅させてきますから! もうご安心を!」
完成したノアを手に、希紗は勢いよく出陣していった。
残ったノートパソコンを見、奥さんはある事を今更ながら思い出す。
「あら…………そういえばココってあの『蜘蛛屋敷』……」
◆ ◆ ◆
《PM,7:40》
(耐えろ! 耐えるんだ紫牙澪斗っ!!)
もはや必死に冷や汗をかきながら澪斗はブツブツと呟いていた。
「……で、ここは何なんだ?」
「見ての通り、お化け屋敷ってやつよ!」
百合恵は胸を張り、自分達の目の前にそびえ立つ古臭い洋館を指差した。
「遊園地のアトラクションではないのだぞ? 勝手に決め付けるな」
「ホントにホントなのよ! ここはねー、通称『蜘蛛屋敷』って呼ばれてるトコなの! 東京に来たら一度は見てみたいと思っていたのよ」
「だったらもう確認しただろう、そろそろ帰……」
「何言ってるの澪斗! ここまで来たら中に入るに決まってるでしょー」
ポンポンと百合恵が澪斗の背を叩いてくる。「それは不法侵入だと思うのだが……」という言葉の前に、百合恵の友人達が声を上げる。
「えぇー、本当に行くの!?」
「怖いわよぅ」
「呪われちゃうかもよっ?」
「だーいじょうぶ! その為に澪斗がいるんだから!」
「……俺は幽霊対策の為に雇われたのか?」
だったら専門外だと言わんばかりの澪斗の次の言葉を、百合恵は強引に制止した。
「さぁ、いざ行きましょうっ」
「本当に行くのか……」
肩を落とし、最後まで付き添うという依頼内容を呪いながら少女達にくっつかれ、動きにくそうに澪斗は百合恵の後を追う。
扉には鍵がかかってはいないが、人間の気配がする……気がする。なにやら不吉な予感がし、本能的な警告音が澪斗の中で鳴り響いていた。