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未来

作者: 夢想花

木村には超能力があった、未来のことがわかるのだ、まるで当り前のようにこれから起こることがわかった。しかし、未来を人に教えることはしなかった。人に教えようと思った瞬間その人の未来は見えなくなってしまうのだ。これはある意味当り前だった、何か悪いことが起きるとしよう、もしそのことが事前に分かれば、当然それが起きないようにするだろう、そうすればその人の未来は変わってしまう。つまり、未来を見てその未来を変えようと思うと、その人の未来は見えなくなってしまうのだ。だから木村自身の未来もみえなかった。

木村には自分と関係のない未来だけがわかった、木村にとって未来は過去と同じで変更のできないものだった。


大地震が近づいていた、木村には大勢の人が死ぬことがわかっていた、木村は無駄とは知りつつ地震の起きる日時をどうしても人々に伝えたかった。木村はテレビ局に手紙を書いた、何百通も手紙を書きそれを段ボール箱に入れてテレビ局に郵送した。


「なんでしょう?」

庶務の女性は不審そうに段ボール箱を見つめた。

「爆弾じゃないでしょいうね」

「大丈夫だろう、僕が開けてみよう」

開いて見ると中に大量の封書があった。

「なんだ、懸賞にでも応募するつもりか?」

「こんなにまとめて? 無効だってわかるでしょう」

「開いてみよう」

彼は一番上にあった一通を取り出して封を切った、中に手紙が入っていた。

『愛田さん、こんにちは。

私は未来のことがわかります、もうすぐ地震が起こります、どうしてもその事をテレビで放送して欲しいのです。

どうしても、どうしても、放送して欲しいのです。

お願いします。』

「なんだ、こりゃ」

彼は顔をしかめた。

「これ、僕宛の手紙だ?」

彼は愛田という名前だった。

「なんて書いてあります」

庶務の女性が横からのぞく

「ほら」

愛田は手紙を渡した

「ほんとだ、愛田さん宛ですね」

「同じ手紙をこんなに書いたのか、ひまなやつだ。」

「へーこれ全部同じ手紙」

庶務の女性は一番上の一通を手に取った、そして封を開いてみた

「柴田さん、こんにちは。

私は未来のことがわかります、もうすぐ地震が起こります、

どうしてもその事をテレビで放送して欲しいのです。

どうしても、どうしても、放送して欲しいのです。

お願いします。』

「えー、これ私宛だー」

彼女は大声を出した、彼女は柴田という名前だった。

「どうゆう事、これは私宛よ」

「どれ見せてごらん」

愛田は手紙を受け取った。

「ほんとだ、これは君宛だ」

そんなばかな、と愛田は思った、こんなに沢山ある封書から、たまたま自分宛のものを取り出すなんてそんなことはありえない。

「こっちは誰宛だ」

愛田はもう一通封を切った。

『私は未来が分かるんです、それこそ手に取るようにわかります。

だから、この手紙を誰がどの順番で取り出すか、全てわかるのです。

私はいま、この封書を読む人毎に手紙を書いています、愛田さんがとる手紙は

全て愛田さん宛のものです。』

「信じられん」

愛田はすぐには信じられなかった、そんな事ってありえるのか。

どこかにトリックがあるように思えた。

愛田は興奮で汗ばんだ手を手紙の山の中へ入れて底の方からもう一通手紙を取った。

『まだ、信じられませんか、私は今、愛田さん宛ての手紙を書いています。

愛田さん宛ての手紙は愛田さんが手紙を取り出す順番で箱の中に入れてあります。

私には愛田さんが手紙を取り出す順番が完全にわかるのです。』

「ふう」

愛田はうなった。

柴田も同じように手紙を取り出して読んでみた。

愛田の手紙とまったく同じで宛先だけが違っていた。

「ひっかき回してみよう」

二人は箱を机の上にひっくりかえし、手紙をぐしゃぐしゃにかき回した。

「これで順番なんて分かりっこない」

愛田はおもむろに一通の手紙を手に取った、ちょっと考えて、その手紙を下に置き別の手紙を手に取った。

『だめですよ、手紙をかき回すことぐらい分かっています、手紙をかき回した後に手にとる順番にしてあるのです。

そろそろ、私が言っていることを信じて下さい。』

「これは本物だ」

愛田は手紙を彼女に見せながらつぶやいた。


庶務課は大騒ぎになった、いろんな人がやって来て手紙を読んだが全部その人宛ての手紙だった。

箱の中の手紙は半分くらいの量になった。

箱は部長のところへもっていかれた。

部長は額に汗をふきだしながら手紙を読んでいた。

「おどろいたな」

しばらく考えていたが

「どこかにトリックがあるんじゃないのか、未来がわかると言いながら、単に手紙の内容がつながっているだけだ、うまく文章を書けばつながっているように見えるのかもしれん」

部長は立ち上がると棚からさいころを取り出した。

「ここに、サイコロがある、今からサイコロをふるからサイコロ目を当ててもらいたい」

部長はそう言うと手紙を一通取り出し、それを開いた。

『サイコロの目は4です』

と書いてあった。

部長はサイコロをしっかりと握りしめ、そして机の上に転がした。

サイコロは4を上にして止まった。

「うーん」

部長はうなった。

あと、何回かサイコロを振ったが全部当っていた。

箱の中の手紙はだいぶ少なくなった。


箱は役員室へ運ばれた、テレビで大地震の警告を出すのだ、簡単には決断できない。

役員たちは代わるがわる手紙を読んだが驚きで声もでない。

いま社長が震える手で手紙を読んでいた。いろいろなことを予言させるがすべて当っているのだ。

「よし、これはわかるまい」

社長はひときは大きな声をあげた。

「わしはこれから字を書くが、なんという字を書くか当ててみろ」

社長が手を出すと部下が箱から手紙を一通取り出して封を切り社長に渡した。

『まず文字を書いて下さい、その後に次の手紙を見て下さい』

社長は頑固だった。

「書く前に当ててみろ」

社長はさっと部下に手を差し出した。

「あの、あまり残りがありませんが」

部下が心配そうに言った。

「まだ地震の起きる場所と日時を聞いておりません」

「早く手紙を渡せ」

部下は一通の手紙を取り出し社長に渡した。

『まず、先に文字を書いて下さい』

「だめだ」

社長はどなった

「次」

社長は手を部下に差し出す。

「あのう、残りが」

「いいから、早くよこせ」

『字を書くのが先です』

「くそ」

社長はどなった

「次をだせ」

『字を書くのが先です』

「社長、やはりそれは無理でしょう」

専務が仲裁に入った

「それより、その手紙がまるで社長と会話しているように書かれていることそのものがその手紙の主の能力の証明になっているではありませんか。

それより、ここは、地震の場所と日時を確認しておくべきです、いかがでしょう。」

「うーん」

社長は悔しそうだった。

「よしわかった、地震の起きる場所と日時を教えてくれ」

社長は部下へ手を差し出した。

「あのう」

部下は弱々しい声を出した。

「もうありません」

「なに」

「もう手紙は残っていません、先ほどのが最後の一通です」

「なにぃー」

皆はばたばたと立ち上がると段ボールの箱へかじりついた。

段ボールの箱は空だった。


最後の一通は木村の手元にあった。この一通を箱に入れると、誰がどんな順番で手紙を取るのかわからなくなってしまうのだ。どんなに工夫しても最後の一通を箱に入れることができなかった。

未来は変えられないのだ。


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