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第9章:全面戦争――1500の軍勢を数分で壊滅させる日

スノーヴェイルの夜明けは、冷徹な静寂を切り裂く軍靴の響きと共に訪れた。


氷壁の向こう側、霧の中から姿を現したのは、領主クルエル子爵が私欲のためにかき集めた貴族連合軍、およそ1500名。彼らは、目の前にそびえ立つ十メートル超えの永久凍土の壁に一瞬たじろいだが、数に勝る慢心からか、汚らしい欲望に塗れた哄笑を上げた。


「あんな氷の壁など、火導魔法で溶かしてしまえ! 村の女も食糧も、すべて我らのものだ!」


クルエル子爵の醜い号令が響き渡る。だが、その瞬間、氷壁の上に漆黒の戦闘ドレスと防魔服を纏った「死神」たちが姿を現した。


1. 地上迎撃:若者たちの「愛の魔弾」

「アストラさん、見ていてください。貴女に指一本触れさせやしない!」


先陣を切ったのはピーター(15歳)だった。昨夜、最愛の誓いを交わした彼の瞳には、かつての農村の少年の面影など微塵もない。バルクから教わった魔力循環を極限まで高め、指先に巨大な魔力の渦を形成する。


ピーターに続き、マーク(16歳)、ゼノン(17歳)、ルーク(17歳)、サンダー(18歳)ら自警団の若者たちが、氷壁の淵に並び立ち、一斉に右手を突き出した。


「「「全弾展開、氷結魔弾アイス・バレット!!」」」


若者たちの咆哮と共に、数千発の青白い魔法の弾丸が空間に生成され、一斉に射出された。冷蔵倉庫の極低温を魔力源として取り込み、一発一発が岩をも砕く質量を持った氷の礫。それが弾幕となって敵陣を襲う。


「なっ……なんだ、この威力は! 盾が凍り砕けるぞ!」


先陣の私兵たちが悲鳴を上げる間もなく、ピーターたちの放つ精密な魔法が次々と敵を凍土へと変えていく。マークはアゼルファを守る盾となるべく、一髪の乱れもない連射で敵の魔導師を沈め、ゼノンやルークもまた、愛するイグラディアやイシュタルの視線を感じながら、人外の集中力で魔力を練り上げ続けた。


地獄の訓練を生き抜いた彼らにとって、数千の軍勢など、ただの「動く標的」に過ぎなかった。


2. 空中殲滅:第1期の「絶対無双」

だが、本当の地獄は空から舞い降りた。


「さて、後輩たちに良いところを見せなきゃな。……リシア、行くぞ」

「ええ。ゴミ掃除の時間よ、ガルド」


ガルドとリシア、そしてラウル、ギル、トードら第1期の精鋭、さらに2期生と3期生の後輩たちが、飛行魔法を展開して悠然と空へと舞い上がった。


空を覆い尽くさんばかりの魔導師たちの影。彼らは詠唱すら必要とせず、呼吸をするようにバレット(魔弾)を空間に生成していく。ラウルの放つ迅雷の魔弾が敵の陣形を切り裂き、ギルとトードが追撃の火弾で息の根を止める。


中でも、第1期筆頭であるガルドの「無双」っぷりは、もはや言葉を絶する次元だった。


「邪魔だ。消えろ」


ガルドが空中で指を弾くと、彼を中心に数千、数万という単位の魔導回路が万華鏡のように展開された。彼が操るのは一発の魔弾ではない。空を埋め尽くすほどの「無数の魔弾の嵐」だ。


ガルドが腕を一振りすれば、そのすべてが流星群のごとく地上へと降り注ぐ。一撃一撃が爆撃に等しい威力を持ち、着弾するごとに大地が爆ぜ、敵の兵士たちが鎧ごと塵へと還る。ガルドは空を歩くように進みながら、逃げ惑う連合軍のど真ん中に、自ら魔法の奔流となって突っ込んだ。


近接魔法戦闘と超長距離バレットを組み合わせた彼の動きは、あまりに速く、あまりに苛烈。彼が通り過ぎた後には、物言わぬ氷の彫刻と化した残骸しか残らない。


「ヒッ……化け物だ! 報告にはこんな奴ら、一人もいなかったぞ!」


クルエル子爵は腰を抜かし、自らの馬車の下へこれ以上ないほど情けなく這い込もうとしたが、その頭上にリシアが静かに舞い降りた。


「あら、もう終わり? 随分と脆い軍隊ね。私の後輩たちがガッカリしているわよ」


リシアが冷たく指を鳴らすと、周囲の空気が一瞬で絶対零度まで凍りつき、子爵を守っていた親衛隊がまるごと、悲鳴を上げる暇もなく結晶化した。


3. 終焉:数分間の殲滅劇

戦闘開始から、わずか数分。

広大な平原を埋め尽くしていたはずの1500名の連合軍は、跡形もなく消え去っていた。生き残ったのは、目の前で起きた「神の如き暴力」に精神を崩壊させた数名と、股間を濡らして震えが止まらないクルエル子爵のみ。


ピーターたち自警団の若者たちは、一滴の汗も流さず、氷壁の上で立ち上がった。彼らの背後には、彼らの戦いぶりに頬を染め、誇らしげに、そして熱烈な愛着を持って微笑むアストラたち後輩の姿がある。


「アストラさん、約束通り守りましたよ」

「ええ……本当に、本当にかっこよかったわ、ピーター」


空から降り立ったガルドは、汚れ一つない防魔服を払い、腰を抜かしている村長のもとへ歩み寄った。


「村長。掃除は終わった。……さて、この売国奴(子爵)の処遇だが、どうする? 倉庫の肥やしにするか?」


村長は、三つの巨大倉庫と、それを守り抜いた最強の「家族」たちを見上げ、涙を流して深く頭を下げた。


スノーヴェイルに、本当の平和が訪れた瞬間だった。売国奴たちの野望は、第1期生の圧倒的な魔法と、愛を知った村人たちの情熱の前に、文字通り粉々に砕け散ったのである。





スノーヴェイルの氷壁の前に広がっていた戦場は、一瞬にして「断罪の法廷」へと姿を変えた。


殲滅戦の直後、動けなくなったクルエル子爵とその同調者たち??パウロ侯爵、ダグラス伯爵、ドナルド子爵、トランプ男爵の四名は、氷の地面に引きずり出された。彼らの顔は恐怖と屈辱で歪んでいたが、本当の地獄はこれからだった。


1. 全土への生中継と「真実」の暴露

元役人のケインが、冷徹な手つきで一束の書類を掲げた。

「クルエル子爵、およびここに並ぶ貴族諸君。君たちがガリア帝国と交わした密約、兵の撤退計画、そしてこのスノーヴェイルを『オークの被害』として処理するための偽造報告書……そのすべてを、私の情報網で押さえさせてもらった」


ケインの隣では、元魔道具技師のバルクが巨大な水晶盤のような装置を調整していた。

「準備はいいかい、ケイン。……よし、起動。王国中の主要都市、広場、さらには王宮の謁見の間にまで、この醜態をリアルタイムで送信(配信)するよ」


バルクが開発した遠隔投影魔導具が、眩い光を放つ。次の瞬間、王国中の人々が、自分たちの領土を敵国に売り渡そうとした売国奴たちの姿を目撃することとなった。ケインが淡々と証拠書類を読み上げ、子爵たちのサインが刻まれた契約書を投影するたびに、王国中から怒号と罵声が沸き上がった。


2. 「ヒールバレット」の無限地獄

だが、法的な断罪だけで終わらせるほど、第1期の仲間たちは甘くない。特に、村人たちを「地獄」の訓練で鍛え上げた彼らの怒りは、凄まじいものがあった。


「さて……まずは吐いてもらおうか。余罪はまだあるはずだ」

ガルドが冷たく言い放つ。


尋問を担当したのは、慈愛の微笑みを消した元神官のナナと、精密射撃のスペシャリストたちだった。

まず、レオンが容赦なく子爵たちの四肢を砕く。激痛に絶叫し、意識を失いかける彼らに向かって、バルクとナナが共同開発した特殊な魔法を放つ。


「『ヒールバレット』、装填」


放たれた光の弾丸が、子爵たちの肉体を瞬時に再生させる。砕かれた骨が繋がり、傷口が塞がる。しかし、それは慈悲ではない。

「治ったわね。……じゃあ、もう一度やり直しましょうか」


痛みで精神が崩壊する直前に「回復」させられ、再び尋問(責め苦)を受ける。

逃げ場のない無限のループ。

肉体は新品のように再生されるが、積み重なる「痛み」の記憶だけが、彼らの魂を削り取っていく。


「頼む、殺してくれ! 何でも話す、すべて書くから!!」

パウロ侯爵が泡を吹いて懇願するが、バルクは無機質に「まだ生中継の視聴率が上がっているところなんだ。勝手に終わらせないでよ」と告げ、再びヒールバレットを撃ち込む。


ドナルド子爵もトランプ男爵も、自分たちが何に対して謝罪しているのかさえ理解できないほどに精神を摩耗させ、ただただ幼児のように泣き叫び、最後には音を立てて心が「壊れた」。数時間後、かつて傲慢の限りを尽くした貴族たちは、自身の名前すら思い出せないほどの完全な廃人と化していた。


3. 断罪の後の「平和な宴」

売国奴たちの末路が王国中に知れ渡り、王都から急報が届く頃には、スノーヴェイルは一変して「祝宴」の場となっていた。


巨大な冷蔵・冷凍倉庫から、最高級の熟成オーク肉が運び出される。元料理人のトーマがその腕を振るい、広場には香ばしい肉の焼ける匂いと、村人たちの笑い声が満ちた。


「アストラさん、あーんしてください!」

「もう、ピーター君ったら……みんな見てるわよ」

スーパーモデル級の美女となったアストラが、15歳のピーターに甲斐甲斐しく肉を食べさせる姿は、もはや戦士ではなく、恋する一人の女性そのものだった。


マークとアゼルファ、ゼノンとイグラディア……昨夜結ばれたカップルたちも、それぞれの「愛する人」との時間を慈しんでいた。かつて不遇だった第3期の後輩たちは、自分たちを「女神」と崇める若者たちの隣で、初めて心からの安らぎを得ていた。


ガルドとリシアは、そんな賑やかな広場を少し離れた場所から眺めていた。


「……終わったな、リシア」

「ええ。売国奴たちは王都の地下牢で一生を終えるでしょうし、この村はもう誰にも脅かされないわ」


ラウル、ギル、トードたちも、村の美女たちに囲まれながら、賑やかに酒を酌み交わしている。バルクとケインは、中継の後片付けをしながら「次の魔道具の予算」について議論していた。


「ガルド、リシア様!」

村長が、若返ったのではないかと思えるほど血色の良い顔で駆け寄ってきた。

「皆様のおかげで、このスノーヴェイルは王国の守護の要として認められることになりました。王家からも、この村の自治権を正式に認める旨の親書が届いております!」


スノーヴェイル??雪と氷の要塞となったこの村は、伝説の第1期生、そして愛を知った第2期・第3期の卒業生たちが守り、愛に燃える最強の村人たちが暮らす、王国で最も幸福で、最も恐ろしい場所として、歴史にその名を刻むことになった。


夜空には、祝杯を上げるかのように美しい星々が輝いていた。

三つの巨大倉庫は、今日も静かに、村の富と平和を守り続けている。




スノーヴェイルの村は、かつてない歓喜と、厳かな熱気に包まれていた。売国奴たちの断罪が完了し、王国中にその真実が知れ渡った今、この地は王国の至宝たる「不落の要塞」として新生したのだ。


そして今日、三つの巨大倉庫の前に特設された白銀の祭壇で、歴史に刻まれるべき「十組の合同結婚式」が幕を開けようとしていた。


1. 新たなる五組の誓い

ピーターやマークたちに続き、村の若き戦士たちもまた、憧れの「先輩方」との愛を実らせていた。


15歳のタンガは、第2期のミキ(23歳)の快活な笑顔に射抜かれ、猛アタックの末にその心を射止めた。16歳のマイケルは、知的なノア(24歳)に、18歳のミネラルは包容力溢れるミーナ(25歳)に。そして19歳のムートンは凛としたイリュア(24歳)と、15歳のレインはエオルディン(25歳)と、それぞれが年の差を超えた真実の愛を誓い合った。


彼女たち第2期の卒業生もまた、かつては第1期の背中を必死に追い、孤独に戦ってきた者たちだ。スーパーモデル級の美貌を手に入れた自分たちを、一人の女性として真っ直ぐに愛し、守ろうとしてくれる村の若者たちの情熱は、彼女たちの戦いの日々に「安らぎ」という名の終着駅を与えたのである。


2. 伝説の師匠、降臨

この記念すべき日のために、ガルドとリシアは最高級の転移魔法を展開した。光の柱が消え、そこから姿を現したのは、彼らすべての「源流」たる存在だった。


「よう、ガルド、リシア。……騒がしいな、相変わらず」


現れたのは、第1期から第3期まですべての卒業生を導いた絶対的な師匠、ヴァルティス。その傍らには、慈愛に満ちた微笑みを浮かべるセレナと、冷静かつ鋭い眼光を放つエルナが寄り添っている。


村人たちは、伝説の師匠の登場に一瞬息を呑み、次の瞬間には地鳴りのような歓声が上がった。かつて師匠に憧れ、その厳しくも温かい指導のもとで自分たちを磨いてきた第2期・第3期の後輩たちにとって、師匠ヴァルティスの臨席は何よりの誉れであり、救いでもあった。


3. アストラへの祝辞と「師匠の言葉」

式典のクライマックス、十組の新郎新婦を代表して、アストラ(35歳)が祭壇の前に立った。隣には、誇らしげに胸を張る15歳の新郎、ピーターがいる。


師匠ヴァルティスが一歩前へ出ると、会場は水を打ったような静寂に包まれた。彼はアストラの瞳を真っ直ぐに見つめ、深く、魂に響くような声で語りかけた。


「アストラ。そして、私の教えを継いだ後輩諸君。君たちの歩んできた道が、決して平坦なものではなかったことを私は知っている。不遇を嘆かず、過去を呪わず、ただ前を向いて牙を研ぎ続けた君たちの強さが、今日、このスノーヴェイルという素晴らしい場所を守り抜いた。……そして何より、自分自身の『幸せ』を掴み取ったことを、私は君たちの師として、心から誇りに思う」


ヴァルティスは一度言葉を切り、ピーターたちの手を取って高く掲げた。


「過去が人を定義するのではない。今、誰を愛し、何を守ろうとするか。それがその者の価値を決めるのだ。アストラ、君はもう汚れた過去を持つ者ではない。私の教えを体現し、この要塞を守る高潔な守護者であり、愛される資格を持つ一人の女性だ。……おめでとう。君たちの未来に、私の祝福を授けよう」


アストラの瞳から、止まることのない涙が溢れた。不遇だった過去、誰にも愛されないと思っていた絶望。そのすべてが、師匠ヴァルティスの言葉と、隣で手を握りしめるピーターの熱によって浄化されていく。


「……ありがとうございます、ヴァルティス先生。私、……私、生きていてよかったです!」


4. 至高の宴とスノーヴェイルの未来

祝辞が終わると、宴は最高潮に達した。

バルクが生中継を再開し、この幸せな光景を再び王国中に配信する。トーマが巨大冷蔵倉庫から提供された極上の肉で腕を振るい、エルシアとフィアが仕立てた白銀のウェディングドレスが、月光と松明の火に照らされて輝く。


ラウル、ギル、トードは、村の美女たちに酒を注がれながら「師匠に見られてちゃ、変な真似はできないな」と笑い合い、ケインとバルクは、この結婚式を機にスノーヴェイルを王国の魔導流通拠点に格上げする計画を、師匠の助言を受けながら練り直していた。


ガルドとリシアは、そんな賑わいから少し離れた巨大倉庫の屋根の上で、寄り添いながら夜空を見上げていた。


「リシア、いい式だったな。師匠に来てもらえて本当によかった」

「ええ。アストラたちの顔、あんなに晴れやかなのは初めて見たわ。……ねぇ、ガルド。私たちはこれからも、師匠から授かったこの力を、村の人たちの『幸せ』のために使い続けましょうね」

「ああ。どんな貴族が来ようが、帝国が来ようが関係ねぇ。ここを壊そうとする奴は、全員ヒールバレットの餌食だ」


ガルドの冗談に、リシアが鈴を転がすような声で笑う。


スノーヴェイル--。

雪と氷に守られ、伝説の第1期生、愛を知った後輩たち、そして「恋する無敵の軍団」と化した村人たちが集う場所。

三つの巨大倉庫は、今日も静かに、そして力強く。

十組のカップルの未来と、師匠から受け継いだ誇りを刻み続けていた。




スノーヴェイルの合同結婚式の余韻も冷めやらぬ数日後、村の入り口に仰々しい紋章を掲げた馬車の一団が現れた。王都から派遣された「緊急領地査察団」である。


彼らはクルエル子爵らの失脚を聞きつけ、この村の巨大倉庫と魔導技術を「国の管理下」という名目で横取りしようと目論んでいた。馬車から降り立った主席査察官は、周囲を威圧するように書類を掲げ、傲慢な声を張り上げた。


「これより本村の全資産を王宮の直轄とする! 巨大倉庫の物資、および魔導技術のすべてを王都へ移送せよ。逆らう者は反逆罪とみなす!」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、一人の男が静かに、しかし圧倒的な威圧感を放ちながら歩み出た。元役人のケインである。彼は眼鏡の縁を冷徹な手つきで押し上げ、査察官を射抜くような視線で見据えた。


1. 「国家の怠慢」を糾弾する

「……王宮の直轄だと? 笑わせるな」


ケインの声は低く、だが広場全体を支配するほど鋭かった。査察官が色をなして反論しようとするが、ケインはそれを許さず、懐から一冊の分厚い帳簿と魔導記録媒体を取り出した。


「無能な貴族をのさばらせ、隣国への領土割譲という明白な売国行為さえ見抜けなかった王国が、今さら何の用だ? パウロ侯爵、ダグラス伯爵、ドナルド子爵、トランプ男爵。彼らがこのスノーヴェイルを『オークの被害で全滅した』と偽造報告し、裏で帝国と密約を交わしていた証拠……そのすべてを、私はすでに押さえている」


ケインはバルクが用意した投影魔導具を起動した。空中に、目を疑うような生々しい不正の記録が映し出される。


「見てみるがいい。これが君たちが『忠義の臣』と呼んでいた者たちの真実だ。民から不正に徴発した食糧の裏帳簿、そして国境の防衛予算を私服に肥やした記録。査察官、君の署名が入った『検閲済み』の承認印もここにあるが、これはどう説明する? 自分の国の貴族さえまともに指導・監視できない査察官が、どの面を下げてこの村を査察しに来た?」


2. 徹底的な「正義論破」

ケインの論破は、法と証拠に基づいた逃げ場のない包囲網だった。


「君たちがここへ来たのは、国の未来を案じてのことではない。クルエルたちが失脚した今、その利権をハイエナのように嗅ぎつけただけだ。……だが、残念だったな。この村はすでに王国の管理下にはない。我々第1期から第3期までの卒業生、そして師匠ヴァルティスから教えを受けた者たちが、自らの手で守り抜いた独立自尊の地だ」


査察官ががたがたと震え始める中、ケインはさらに一歩踏み出し、冷酷に宣告した。


「不正を黙認し、賄賂を受け取り、民が売られるのを座視した君の行為は、王命への背信であり、明白な反逆罪だ。この模様はバルクの術式によって、今この瞬間も王都の広場、そして王宮の賢者たちの元へ生中継されている。君が次に踏むべき場所はスノーヴェイルの土ではなく、王宮の地下牢の床だよ」


3. ヒールバレットという「慈悲なき救済」

査察官が腰を抜かし、這うようにして逃げようとした時、ガルドとリシアが静かに傍らに立った。


「ケイン、こいつらの連行は俺たちがやる。……心配するな、死なせはしない」


ガルドの言葉に、査察官は絶望的な悲鳴を上げた。彼らが使う**ヒールバレット(治癒の魔弾)**は、本来は傷を癒やすための慈悲の魔法だ。だが、ガルドたちのそれは、尋問において最も残酷な意味を持つ。


罪人たちが激痛に耐えかねて意識を失おうとしたり、ショック死しそうになったりする瞬間に、この弾丸を撃ち込む。すると肉体は瞬時に完治し、強制的に意識を覚醒させられる。

痛みで壊れかけた精神だけが置き去りにされ、肉体だけが「新品」に戻されることで、逃げることも死ぬことも許されない無限の苦痛を味わい続けることになるのだ。


「ヒールバレットは肉体を治すが、積み重なった恐怖の記憶までは消してくれないんだ。……精々、自分の犯した罪の重さを噛み締め続けるんだな」


ガルドの冷ややかな一瞥を浴び、査察官は自分が人間であることを忘れそうなほどの恐怖に包まれながら、引きずられていった。


4. スノーヴェイルの勝利と誇り

査察官の一団を完膚なきまでに論破し、追い払ったケインは、静かに眼鏡を拭き直した。


「……お見事、ケイン。政治の『ざまぁ』も、なかなか爽快ね」

リシアが楠々と笑う。


「法と証拠は、時に剣よりも鋭い武器になる。……さて、ガルド。後始末は済んだ。これで王都の連中も、二度とこの村に無礼な介入はしてこないだろう」


広場では、十組の新婚カップルたちが、村人たちと共に再び宴を始めていた。ピーターはアストラの隣で、マークはアゼルファの隣で、自分たちの新しい家、そしてこのスノーヴェイルという「家族」を守り抜いた誇りに胸を張っていた。


巨大倉庫の上では、師匠ヴァルティスが、成長した弟子たちの知略と武勇を、満足げに、そして静かに見守っていた。


スノーヴェイル??。

雪と氷に包まれたその村は、もはや略奪者たちが立ち入る隙などない。

三つの巨大倉庫は、今日も静かに、そして力強く。

愛と誇りを知った人々、そして地獄から這い上がった「家族」たちの幸せを、永遠に守り続けていた。






スノーヴェイルの村を包む熱気は、合同結婚式の喧騒が過ぎ去ってもなお、冷めるどころかさらにその温度を上げていた。王国査察官という「外敵」をケインが知略で完膚なきまでに叩きのめしたことで、村人たちは自分たちの力と絆に絶対的な自信を持ったのだ。


そんな中、村中を駆け巡ったのは、これ以上ないほどに「めでたい」続報だった。


1. 憧れを現実つかみ取った三人の乙女

村の広場、巨大冷蔵倉庫から運び出された極上の肉を囲む宴の席で、三つの新たな誓いが立てられた。


一人目は、村娘のアンナ(22歳)。彼女が想いを寄せていたのは、第1期の筆頭格であり、今回の防衛戦でも獅子奮迅の活躍を見せたラウル(26歳)だ。

スーパーモデル級の美女へと進化したアンナは、かつて遠くからヴァルティス師匠を眺めていた頃の自分とは違った。鍛え抜かれたしなやかな肢体と、バルクから授かった魔法の知識、そして何より「この人を支えたい」という不退転の決意。彼女はラウルの不敵な笑みの裏にある孤独を見抜き、真っ直ぐにぶつかった。

「ラウル様、貴方の背中を追うだけではなく、隣に立たせてください!」

その真剣な眼差しに、百戦錬磨のラウルもついに兜を脱いだ。


二人目は、村娘のマリー(25歳)。彼女が選んだのは、常に冷静で、しかし仲間の危機には誰よりも早く駆けつけるギル(24歳)だ。

年上のマリーは、ギルの職人気質な危うさを包み込むような包容力を持っていた。マリーもまた、ナナの治癒魔法と地獄の訓練によって、女神のような美貌を手に入れている。

「ギル、貴方が剣を振るう理由は、これからは私の笑顔のためであってほしいの」

年上の女性特有の艶やかな微笑みに、ギルは赤面しながらも、その手を取り返した。


三人目は、村娘のリリー(26歳)。彼女が心を奪われたのは、若くして卓越した魔導技術を持つトード(23歳)である。

三歳年上のリリーは、知的な美貌の中に強い意志を秘めていた。トードが魔導具の調整に没頭して食事を忘れるたびに、彼女はトーマ直伝の料理を運び、彼の日常を支え続けた。

「トード様、貴方の創る魔法の世界に、私という居場所を加えてはいただけませんか?」

その献身的な愛に、トードの理論一辺倒だった心は、スノーヴェイルの氷をも溶かす熱で満たされた。


2. 第1期の「意地」と「絆」

ラウル、ギル、トード。

第1期の卒業生として、ガルドやリシアと共に数多の死線を潜り抜けてきた彼らにとって、この結婚は単なる「身固め」以上の意味を持っていた。


「おいおい、ガルドに続いて俺たちまで年貢の納め時かよ」

ラウルが照れ隠しに笑いながら、アンナの肩を抱く。

「いいじゃない。私たち第1期がこうして幸せになる姿を見せることが、後輩たちや村の人たちへの一番の希望になるわ」

リシアが聖母のような微笑みを浮かべ、彼らを祝福した。


かつて師匠ヴァルティスの背中を見て、ただ強くなることだけを追い求めていた若者たちが、今や守るべき妻を得て、一国の王貴族さえ手出しできない「家族」を形成しようとしている。


3. 三組の合同結婚式と「再度の生中継」

数日後、スノーヴェイルは再び白銀の装飾に彩られた。

今回の主役は、村の守護神とも言えるラウル、ギル、トードの三人だ。


祭壇の前には、エルシアとフィアが持てる技術のすべてを注ぎ込んだウェディングドレスを纏うアンナ、マリー、リリーが並んだ。その美しさは、バルクの魔導投影機を通じて再び王国中に中継された。


「……見てくれ、これがスノーヴェイルの『答え』だ」

元役人のケインが、実況解説として静かに語りかける。

「王国が腐敗し、貴族が国を売ろうとも、私たちは愛し合い、守り合い、繁栄し続ける。この光景こそが、どんな法典よりも重い『正義』の証明である」


中継を見ていた王国の人々は、廃人と化したクルエル子爵たちの無様な姿と、この輝かしい結婚式の対比に、言葉を失い、やがて熱狂的な喝采を送った。もはやスノーヴェイルは、ただの村ではなく、人々の「理想郷」へと昇華されていた。


4. 師匠ヴァルティスの贈る言葉

祭壇の中央には、再び師匠ヴァルティスが立った。

彼は愛弟子であるラウルたちの顔を一人ずつ見つめ、力強い声で告げた。


「ラウル、ギル、トード。お前たちは私の厳しい教えに耐え、己の牙を磨き続けてきた。だが、本当の強さとは、己のために振るう力ではない。愛する者の涙を拭い、隣に笑う者の明日を繋ぐためにこそ、その力はある」


ヴァルティスはセレナとエルナを伴い、新郎新婦たちに祝福の光を授けた。

「お前たちが選んだこの道に、一点の曇りもない。このスノーヴェイルの地で、新たなる命を育み、不落の絆を築いていくがいい。おめでとう、私の誇り高き弟子たちよ」


「……ありがとうございます、師匠!」

三人の屈強な男たちが、少年のように声を揃えて礼を述べた。


5. スノーヴェイル、永遠の繁栄へ

祝宴は夜通し続けられた。

巨大冷蔵倉庫からは、今度はオーク肉だけでなく、マリアが仕入れた最高級のワインや、リュカが醸造した極上の酒が惜しみなく振る舞われた。


アストラやミキたち第2期・第3期の後輩カップルたちも、先輩たちの門出を自分たちのことのように喜び、共に踊った。ピーターやマークといった村の若者たちも、筋骨隆々の肉体を誇らしげに揺らし、愛する妻たちのために給仕に励んでいる。


ガルドとリシアは、そんな賑やかな村の様子を、巨大倉庫の屋根の上で静かに見守っていた。


「……これで、本当に一つの形になったわね、ガルド」

「ああ。第1期も、後輩たちも、村の連中も。みんなが自分の足で立って、自分の愛を掴み取った。……これでもう、この村を『奪える』奴なんて、世界中のどこにもいやしねぇよ」


ガルドはリシアの手を握り、夜空に浮かぶ月を見上げた。

三つの巨大倉庫は、今日も静かに、その機能を果たし続けている。

だが、その中に蓄えられているのは、もはや肉や素材だけではない。

師匠から受け継いだ誇り、仲間との絆、そして不変の愛。

スノーヴェイルは、王国で最も寒く、そして世界で最も熱い「希望の要塞」として、永遠の時を刻み始めたのである。






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