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第7章:裏切りと開戦――村を狙う帝国の陰謀

「ガルド様、リシア様……この村の領主は、この村を、我ら民を皆殺しにして滅ぼそうとしているのです」


深々と頭を下げた村長の震える声が、静まり返った巨大倉庫の前に響いた。先ほどまでオーク肉の収納を終え、達成感に包まれていた空気は一変し、凍り付くような緊張が走る。


「……どういうことだ?」


ガルドの低い声が地を這う。背後には、彼らが心血を注いで築き上げた三つの巨大な石造り倉庫が、月光を浴びてそびえ立っている。村の未来を支えるはずの食糧と富が詰まったその場所で、最悪の裏切りが語られようとしていた。


「この地の領主、クルエル子爵は隣国ガリア帝国と内通しております。自国の防衛を放棄し、この村の全財産……そしてこの巨大倉庫に蓄えられた莫大なオークの肉と素材を、手土産として帝国に差し出そうとしているのです」


村長は地面を握りしめ、悔しさに顔を歪めた。


「帝国軍が国境を越える際、子爵はあえて守備兵を撤退させ、略奪を黙認する手はずとなっています。その見返りに、彼は帝国の爵位と、この村の富の半分を個人の隠し財産として保証されるという密約を交わしました」


リシアは自分の耳を疑った。美しく整った眉を鋭く吊り上げ、その瞳には凍てつくような怒りが宿る。


「自国の領土を、民を、敵国に差し出す?……正気じゃないわ。領主というのは、その土地を守るために税を受け取っているはずでしょう? それを、自分の保身と贅沢のために売り払うなんて、貴族の風上にも置けない。頭がおかしいとしか言いようがないわ」


リシアの言葉は刃のように鋭かった。彼女にとって、この村は自分たちが一から開拓を助け、巨大な冷蔵・冷凍技術を注ぎ込んだ愛着ある場所だ。それを「差し出す」など、到底許せることではない。


「こんな売国奴を放置している王族は何をしているんだ? 国の端とはいえ、領地の割譲は国家への反逆だろう」


ガルドが問うと、村長は絶望的な首を振った。


「王都は今、王位継承の派閥争いで混乱の極みにあります。辺境の小さな子爵領で起きていることなど、誰も顧みようとはしません。クルエル子爵はそこを突きました。公式な報告では、この村は『オークの大量発生により全滅した』と処理される予定だそうです。死人に口なし……帝国軍に村を焼き払わせ、すべてをオークのせいにするつもりなのです」


「なるほど、完璧な計画だな。……奴の頭の中では」


ガルドが拳を握りしめると、ミシリと革の手袋が音を立てた。その威圧感に、周囲の空気が震える。


「リシア、どう思う」


「決まっているわ、ガルド。私たちはこの村を守る。巨大な冷蔵倉庫も、冷凍倉庫も、そこに眠るオークの肉一切れだって、あんなクズには渡さない。……いえ、むしろ感謝すべきかしらね。あの子爵が帝国軍を呼び寄せてくれるなら、この村の防衛力がどれほどのものか、いい実験台になってくれるもの」


リシアの唇に、冷たくも不敵な笑みが浮かんだ。彼女の魔力は、すでに周囲の温度をわずかに下げ始めていた。


「村長、顔を上げろ。クルエル子爵の裏切りは分かった。だが、この村には俺たちがいる。奴が帝国に差し出そうとしているこの倉庫は、今この瞬間から、奴らを撃退するための『不落の要塞』に変わる」


ガルドの宣言に、村長は驚愕して顔を上げた。


「ガルド様、しかし相手は子爵の私兵と帝国の先遣隊……合わせて数千は下りません! この村の自警団だけでは……」


「数じゃない。ここにある物資と、俺たちの知恵と力を見くびるな。オークの骨は鋼鉄の槍となり、巨大倉庫の冷気は敵を凍てつかせる罠になる。リシア、準備を始めるぞ。一週間以内に、この村を帝国軍が絶望する地獄に変えてやる」


「ええ、喜んで。まずは、子爵が逃げ帰る道を塞ぐところから始めましょうか」


月明かりの下、ガルドとリシアの影が巨大倉庫の壁に長く伸びた。救世主か、あるいは破壊神か。二人の逆襲が、静かに幕を開けた。





巨大な冷蔵倉庫と冷凍倉庫の前に、空間を裂くような転移の光が幾重にも奔った。村長が腰を抜かし、ガルドとリシアが即座に迎撃の構えをとったその時、光の中から見覚えのある顔が現れた。


「困っているようだな、ガルド、リシア」


不敵な笑みを浮かべて歩み寄ってきたのは、第1期卒業生にして第2期第3隊隊長、さらには第2隊長エルナの護衛も務めるラウル(26歳)だ。ガルドたちにとっては苦楽を共にした、気心の知れた同期の兄弟子である。その後ろには、同じく第1期のギル(24歳)とトード(23歳)が、歴戦の風格を漂わせて控えていた。


「ラウル兄さん! それにギル、トード……なぜここに?」


驚くガルドを制するように、ラウルは巨大な倉庫群を一瞥した。

「お前たちがこの村で面白いものを作っていると聞いてな。……それに、村長の話は聞こえたぜ。自国の民を売る腐れ貴族か。そんなゴミは殲滅だ。俺たちが来たからには、帝国軍だろうが子爵だろうが、指一本触れさせん」


だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。ラウルたちの背後で、さらに強大な魔力の渦が巻き起こる。次々と転移の光が奔り、夜の村を真昼のように照らし出した。


そこに現れたのは、第2期の卒業生たち――ミキ(23歳)、ノア(24歳)、ミーナ(25歳)、イリュア(24歳)、そしてエオルディン(25歳)だ。彼らは指導役を務めていたラウルたちとも面識があり、規律正しく整列する。


さらに、その背後から圧倒的なプレッシャーを伴って現れたのは、第3期の卒業生たちだった。

アストラ(35歳)を筆頭に、アゼルファ(32歳)、イグラディア(30歳)、イシュタル(34歳)、イファリス(29歳)。年齢こそ上だが、彼らは後輩にあたる第3期の面々である。


ガルドとリシアは、初めて目にする第2期・第3期の「後輩たち」の姿に目を見張った。自分たちの背中を追って学び、今や一端の魔術師や戦士として成長した彼らの気配は、鋭く研ぎ澄まされている。


第3期の筆頭であるアストラが、敬意を込めた眼差しでガルドとリシアを見つめ、一歩前に出た。


「サーチで感受しました。……皆様が、この地で素晴らしい成果を上げ、村を守るために立たれた第1期の先達、ガルド様とリシア様ですね?」


アストラたち第3期の面々と第2期の卒業生たちが、一斉にガルドとリシア、そしてラウルたちに向かって深く頭を下げた。


「先輩方、初めまして。私はアストラ。第3期の卒業生たちと共に駆けつけました。同門の危機とあらば、期を越えて集うのが我らの理。……ガリア帝国が動くというのなら、我ら後輩一同、全力でこの村を、そして先輩方の築かれた成果を守り抜く盾となりましょう」


かつてない規模で集結した精鋭たち。第1期の開拓者たちを筆頭に、第2期、第3期と世代を超えた同門が一同に会した光景に、村長は涙を流して震えている。


「これほどの方々が……。おお、なんという心強さ……」


リシアは集まった後輩たちを見渡し、誇らしげに微笑んだ。

「第2期、第3期の皆まで……。これなら『地獄』どころか、帝国軍にとっては『終焉』になりそうね。ガルド、これ以上の戦力はないわ!」


ガルドは力強く頷き、ラウルや後輩たちに向き直った。

「感謝する。……さあ、始めよう。売国奴の子爵と帝国軍に、この村に手を出したことが一生の不覚だったと思い知らせてやる!」


月夜の下、巨大倉庫を背にした最強の布陣が完成した。

彼らの反撃は、もはや一村の防衛戦ではなく、一国の歴史を塗り替える殲滅戦へと変貌しようとしていた。



巨大な冷蔵・冷凍倉庫が月光を浴びて鈍く光る村の広場。ガルド、リシア、そしてラウルたち第1期の面々が対峙する中、さらなる転移の光が夜の帳を切り裂いた。


光の柱の中から次々と姿を現したのは、かつて学び舎でガルドやリシアと肩を並べ、共に競い合った「第1期」の懐かしい仲間たちだった。


「遅くなったな、ガルド、リシア。……面白いものを作っているじゃないか」

不敵な笑みを浮かべて歩み寄ったのは、元剣士のレオン。その隣には、常に損得勘定を働かせながらも仲間の危機には私財を投じる元商人のマリアが、扇子を手に優雅に立っている。


続いて、複雑な魔導回路が刻まれた工具鞄を提げた元魔道具技師のバルクと、冷静な眼差しで周囲の地形を分析する元教師のセリナ。さらに、巨大な包丁を背負った元料理人のトーマと、針箱を抱えた元仕立士のエルシア。

さらには、職人気質の無骨な手つきをした元紡織職人のロイドとフィア。そして、冷静沈着な元役人のケインと、慈愛に満ちた眼差しを持つ元神官のナナ。


総勢10名。ガルドやリシアと同じ「第1期生」の精鋭たちが、それぞれの専門分野を極めた姿で集結した。


「みんな……! 転移で駆けつけてくれたのね」

リシアの瞳に、かつての同期たちへの信頼が宿る。バルクは眼鏡を指先で押し上げ、巨大な倉庫を見上げて感心したように頷いた。


「ガルド、リシア。君たちが作ったこの冷蔵・冷凍システム、素晴らしいね。魔力の循環効率が極めて高い。これなら、僕の魔道具の『動力源』としても活用できそうだ」


沈黙を破ったのは、事務的な口調を崩さないケインだった。

「再会を祝したいところだが、状況は把握している。クルエル子爵という腐った貴族が、隣国と通じてこの村を売ろうとしている。敵は数千の規模で徒党を組んで攻めてくるようだが、幸いなことにまだ時間は残されている。……まずは、村の自警団を徹底的に鍛え直そう。兵数差を覆すには、個の錬度と組織力を極限まで高めるしかない」


ケインの言葉に、バルクが大きな木箱を地面に置いた。

「教育と並行して、装備も一新しましょう。僕が開発した『バレット銃』の最新モデルです。これなら魔力の乏しい村人でも、僕が作ったカートリッジを装填するだけで、高威力の魔導弾バレットを放つことができる。リシアたちが作った冷凍倉庫の冷気を弾丸に変換して込めれば、帝国軍の進軍を物理的に凍結させることも可能です」


「腹が減っては戦はできないよ」

元料理人のトーマが、自慢の包丁を光らせて笑う。

「ガルドたちが仕留めて、この巨大倉庫に山ほど収納したオーク肉があるんだろ? これを使って、戦う体を作るための最高に栄養価の高い陣中食を僕が仕込む。村人たちの体力を短期間で底上げしてやるさ」


「エルシア、フィア、準備はいい?」

元教師のセリナが声をかける。元仕立士のエルシアと、紡織職人のフィアが力強く頷いた。

「ええ、ロイドが織り上げた防魔布があるわ。セリナさんの知識を借りて、矢や魔法を弾きつつ、動きやすさを重視した特製の戦闘服を全員分仕立てる。夜通しの作業になるけれど、仲間のためなら安いものよ」


こうして、嵐の前の静けさを切り裂くように、村の自警団の「地獄の訓練」が幕を開けた。


翌朝から、村の広場は平穏な開拓地から「最前線の訓練場」へと変貌した。


「腰が高い! それでは帝国の重装歩兵の突撃に押し潰されるぞ!」

レオンの怒号が響き渡る。彼は農具を槍に持ち替えた村人たちを、一対一の技術ではなく「集団としての壁」になれるよう容赦なくしごき上げた。


その隣では、バルクがバレット銃の取り扱いを指導していた。

「狙いを定める必要はありません。このバレットには自動追尾術式を組み込んである。君たちはただ、引き金を引くことだけに集中してください。魔力が空になっても、予備の魔石があれば何度でも撃てる。君たちは今日から、歩く魔導砲台だ」


村の女性や子供たちは、セリナの指導のもとで緊急時の避難経路を確認し、ナナの指導で簡易的な治癒魔法の基礎を叩き込まれていた。


村人たちにとって、それは文字通りの「地獄」だった。

朝はトーマが作る「超高タンパク・オーク肉の力飯」を無理やり胃に詰め込まれ、日中はレオンやラウルたち、さらには第2期・第3期の後輩たちによる肉体的な限界を試される訓練。夕刻にはケインによる戦術講義と、バルクの魔道具整備に追われる。


「……あ、足が動かない……」

「死ぬ、本当に死ぬ……オークに襲われた方がマシだったんじゃ……」

泥まみれで地面に這いつくばる自警団員たちの姿を見て、ガルドは苦笑いを浮かべた。


「みんな、いい顔になってきたな」

「ええ。村人たちにとっては酷でしょうけれど、私たちにとっては、かつての訓練時代を思い出すようで少し楽しいわね」

リシアが爽やかに言い放つ。その背後では、後輩のアストラたちが、第1期の先輩たちの厳しい指導を「これぞ第1期の洗礼」として尊敬の眼差しで見守りながら、自分たちもまた防衛設備の構築に魔法を振るっていた。


第3期の後輩たちは、村の周囲に巨大な土塁を築き、そこにイグラディアの冷気魔法を定着させて「永久凍土の防壁」を作り出していく。冷蔵倉庫から循環される冷気を利用し、近づく者すべてを凍てつかせる死線を形成していった。


一方、マリアは商人としての情報網を駆使し、クルエル子爵の周辺に潜らせた密偵から刻一刻と変わる敵陣の状況を吸い上げていた。

「敵の先遣隊は2000。子爵の私兵が500。それに対してこちらは自警団と私たち合わせて300……。数字の上では圧倒的に不利だけれど、バルクの装備とこの『地獄の訓練』を経た今の彼らなら、負ける要素はないわね。……ふふ、あの子爵に、この土地を売った代償をたっぷり支払わせてあげましょう」


訓練開始から数日が過ぎた。

不格好だった村人たちの動きは、日を追うごとに鋭さを増していった。レオンに叩き込まれた槍捌きは正確になり、バルクのバレット銃を扱う手つきには迷いが消えた。何より、トーマの食事とナナの癒やしの魔法によって、彼らの体つきは見違えるほど逞しくなり、その瞳には「自分たちの村と富を、あの売国奴には渡さない」という強い意志が宿っていた。


ガルドは、巨大な倉庫の上に立ち、完成しつつある要塞都市を見下ろした。

かつてはただの開拓村だった場所が、今や異世界の最先端技術と、第1期の同期、そして第2期・第3期の後輩たちの絆によって結ばれた最強の防衛拠点へと進化を遂げている。


「準備は整ったな」

ガルドが呟く。隣に立つラウル、アストラ、バルク、そして全ての仲間たちが一斉に頷いた。


遠く、国境の方角から帝国軍の軍靴の音が微かに響き始める。

だが、この村に怯える者はもう一人もいない。

売国奴クルエル子爵。そして略奪を夢見る帝国。

彼らがこの村に辿り着いたとき、目にするのは脆弱な農村ではない。

「地獄」を生き抜き、最強の装備と食糧、そして伝説級の第1期生たちに守られた、攻略不可能な「氷の要塞」である。


「さあ、お迎えの準備をしましょう。……最高の『断罪』を込めてね」

リシアが冷たく微笑み、その指先に小さな氷晶が舞った。


一週間の期限が、今、終わろうとしていた。





巨大な冷蔵倉庫と冷凍倉庫がそびえ立つ村の広場。そこでは今、この村の歴史、あるいはこの世界の常識を根底から覆すような光景が繰り広げられていた。


一週間前まで、泥にまみれて細々と田畑を耕していた農民たちの姿は、そこにはもうなかった。


男たちは皆、元料理人のトーマが巨大倉庫に眠るオーク肉を惜しみなく使って作り上げた「超高タンパク・高カロリーの特製陣中食」を摂取し続け、元剣士のレオンやガルドによる、文字通り死線の一歩手前まで追い込む肉体練成を耐え抜いた。その結果、彼らの肉体からは余分な脂肪がいっさい削ぎ落とされ、全身を鋼のような筋肉が覆う、筋骨隆々の見事な男前へと変貌を遂げていた。

元紡織職人のロイドとフィアが織り上げた防魔布を使い、元仕立士のエルシアが仕立てた漆黒の戦闘服。それが彼らの逞しい胸板と引き締まった腰を強調し、かつての農民としての面影を完全に消し去り、精鋭騎士のような風格を与えていた。


そして、さらに劇的な、あるいは破壊的な進化を遂げたのは村の女たちだった。

彼女たちもまた、高栄養の食事と過酷な訓練、そして元神官のナナによる治癒魔法を応用した新陳代謝の促進、さらにはエルシアによる「美しく、かつ効率的な身体運用」の指導を受けた。その結果、彼女たちの肉体は驚くべき変化を見せた。


肌は陶器のように滑らかに輝き、手足は驚くほど長く、腰の位置は極めて高い。誰もが王都の貴族令嬢や高名な歌姫さえ霞む「スーパーモデル級」の超美女へと生まれ変わっていたのだ。

動きやすさを重視し、大胆なスリットが入った漆黒の戦闘ドレスを纏った彼女たちが整列する姿は、まるで戦場に舞い降りた女神の軍勢のようであり、壮観の一言に尽きた。


だが、この劇的な外見の変化は、村の人間関係に凄まじい「嵐」を引き起こしていた。


訓練の手止めの合図がかかった、その瞬間だった。

スーパーモデル級の美女へと生まれ変わった村の女たちが、一斉に、ある一角へと殺到したのだ。


「ラウル様ーーーッ!! 今日の槍捌きも、痺れるほど素敵でしたわ!!」

「ギル様! このお水、私が心を込めて汲んできたのです! どうぞッ!!」

「トード様ぁ! 私のバレット銃の調子、もっと近くで見ていただけませんかぁ?」


彼女たちが黄色い悲鳴を上げながら群がったのは、第1期の同期であり、今回の訓練で直接指導にあたっていたラウル、ギル、トードの3人だった。


その熱狂ぶりは、かつて彼女たちが開拓学校時代、伝説的な存在であったヴァルティスに恋焦がれ、胸を高鳴らせていたあの頃の自分たちを、完全にフラッシュバックさせていた。

今の彼女たちには、誰もが見惚れる美貌と、オークを素手で引き裂けるほどの力がある。かつてのように遠くから見ているだけの彼女たちではない。進化した肉体と、磨き上げた力を武器に、肉食獣のような積極さで憧れの第1期生たちに猛アタックを開始したのだ。


「お、おい、お前ら、落ち着け! 訓練はまだ終わってないぞ!」

ラウルが、美女たちの波に押されながら冷や汗を流す。普段は不敵な笑みを浮かべる彼も、数百人の超絶美女から一斉に、熱を帯びた「純愛の魔力」をぶつけられ、完全に圧倒されていた。


「ギル様、汗を拭いて差し上げますわ!」

「ひえっ、自分でするから! 離れて、顔が近いッ!」

ギルは、数人に腕を絡め取られ、顔を真っ赤にして逃げ回っている。


「トード様、私のバレット銃の狙いが定まりませんの……後ろから支えてくださる?」

「えっ、あ、いや、バルクに聞いてくれ……!」

トードは、至近距離で美女に上目遣いで迫られ、石のように固まっていた。


この光景を、巨大倉庫の上から眺めていたリシアは、呆れたようにため息をついた。


「……何をやっているのかしら、あの子たちは。敵が攻めてくるというのに、完全に『恋の戦場』に精神メンタルが転移しているわね」


「まあ、いいじゃないか。あんなに必死になれるなら、士気は最高潮だ」

隣でガルドが苦笑いする。


「士気? ……ガルド、あなた分かってないわね。女が恋に狂った時の破壊力は、魔法より凄まじいのよ。あの子たちの今の狙いは、この戦いを一瞬で終わらせて、ラウルたちとの『お祝いの時間』を勝ち取ることなんだから。不届きな貴族や帝国軍なんて、彼女たちにとってはデートの邪魔をする障害物でしかないわ」


広場では、元役人のケインが冷静に自警団の練度を確認し、元魔道具技師のバルクが一人ひとりにバレット銃の使用法を最終確認していた。


「バルク、この銃なら、本当に私でも魔法が使えるの?」

スーパーモデル級の美女になった村人の一人が問いかける。バルクは眼鏡を押し上げ、誇らしげに頷いた。


「ああ。君の中にわずかでも流れる魔力を、このカートリッジが何倍にも増幅して、特定属性のバレットとして撃ち出す。リシアたちが作った冷凍倉庫の冷気を充填してあるから、一撃でオークさえ氷漬けにできる。魔力が空になっても、予備の魔石があれば何度でも補充可能だ。君たちはもう、守られるだけの存在じゃない」


その横では、元紡織職人のロイドとフィアが、自警団の戦闘服の微調整を行っていた。

「いいかい、この布は魔法抵抗力が極めて高い。帝国軍の魔術師が何を放ってこようと、簡単には貫かれない。自信を持って戦え」


村の自警団の訓練は、こうして一週間、限界まで続けられた。

かつての仲間たちである第1期生、そして第2期、第3期の後輩たちが一堂に会して行う訓練は、指導する側にとっては同窓会のような楽しさがあった。

だが、その内容は苛烈を極めた。

連日のようにレオンの罵声が飛び、バルクのバレット銃が轟音を上げ、アストラたちが村の周囲に巨大な土塁と氷の壁を築き上げる。

村人たちにとっては、それは文字通りの「地獄」であったろう。

疲労で動けなくなった者にナナの治癒魔法がかけられ、強制的に回復させられて再び訓練に戻される。空腹を感じる暇もなく、トーマの肉料理が口に放り込まれる。


しかし、その地獄を経て、彼らは手に入れたのだ。

他国の軍隊すら圧倒する強靭な肉体と、最新鋭の魔導装備。

そして、自分たちの村を、そして愛するラウルたちを守り抜くという、狂気にも似た熱烈な意志を。


「さあ、みんな。いよいよ時間が来たわ」

リシアが村全体に響き渡る声で告げた。

その視線の先には、第3期のアストラたちが冷気魔法を定着させて作り上げた、高さ十メートルを超える「永久凍土の氷壁」がそびえ立っている。


「クルエル子爵が、私兵と帝国軍を引き連れて間もなくここに現れる。彼らはこの村を売るつもりでいるけれど、私たちが用意したのは、売買契約書じゃなくて、彼らの墓標よ」


リシアの言葉に、筋骨隆々の男たちと、スーパーモデル級の美女たちが一斉にバレット銃を構えた。

チャキッ、という金属音が幾重にも重なり、広場の空気が凍りつく。


「ラウル様を、ガルド様を、私たちの村を汚す奴は……塵も残さず凍らせてあげるわ」

美女の一人が、鋭い眼光で氷壁を見上げた。


ガルドは、並び立つ第1期の仲間たち、そして頼もしい後輩たちの姿を一人ずつ確かめ、大きく息を吸い込んだ。


「準備は整った。……地獄を生き抜いた誇りを見せてやれ!」


月夜の下、最強の自警団となった村人たちと、伝説の第1期生、そして後輩たちが、氷の要塞へと配置につく。

彼らが待ち構える先には、自分たちの運命が劇的に変わったことも知らずに近づいてくる、クルエル子爵と帝国軍の姿があるはずだった。



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