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第13章:神話の終わりと始まり――黄金時代の完成

ガリア帝国の支配層が消滅し、神聖国の腐敗した教会が崩壊した後、大陸には巨大な「空白」と、それ以上の「絶望」が取り残されていました。


導き手を失い、飢えに喘ぐ元ガリア帝国の民200万人、そして拠り所を失った元神聖国の民150万人。計350万という途方もない数の人々が、唯一の希望の光であるスノーヴェイルを目指し、地平線を埋め尽くす巡礼の列を成して押し寄せたのです。


1. 苦渋の決断と、五万人の「志」

スノーヴェイルの白銀の城門前。代表として現れたガルドとリシアは、眼前に広がる数百万の民の姿に息を呑みました。


「……ガルド、どうする? 私たちの備蓄があれば、彼らを一時的に養うことはできる。でも、350万人を一度にこの街で受け入れるのは、物理的に不可能よ」


リシアの懸念は正論でした。スノーヴェイルが築き上げた至高の生活水準を維持したまま、これほどの大群を受け入れれば、共栄圏そのものが崩壊しかねません。ガルドは苦渋の表情で、拒絶を伝えようと口を開きかけました。


その時でした。


「ガルドさん! 断るなんて言わないでくれ!」


声を上げたのは、第一期から第三期までの卒業生を中心とした、スノーヴェイルの精鋭戦士たちでした。一万人の騎士団、一万人の新弟子、さらに熟練の開拓者たち……合わせて五万人の戦士が、開拓の道具を掲げて立ち上がったのです。


「俺たちがそっちへ行くよ! スノーヴェイルで教わった魔導農業も、建築も、衛生観念も、全部あいつらに叩き込んでやる。師匠の教えは『自立』だろ? だったら、あいつらが自分の足で立てるように、俺たちが現地で『スノーヴェイル』を再現してくる!」


2. 「ヴァルティス系」の爆発的拡大:二千万人の同胞

戦士たちの熱き志に、リシアも瞳を輝かせました。

「そうね。街に招き入れるだけが救済じゃないわ。……ガルド、行きましょう。私たちが培った『豊かさの種』を、大陸全土に蒔き直すのよ!」


五万人の「文明の伝道師」たちが、350万人の民を引き連れて逆進軍を開始しました。ガリア平原へ、神聖国の山麓へ。スノーヴェイルから巨大倉庫の物資が運び込まれ、戦士たちは魔導農業で大地を興し、ドワーフやエルフの技術で清潔な都市を築き上げました。


その噂は大陸を駆け巡り、飢えていた元ガリア帝国民1500万人、元神聖国民1000万人が次々と帰順。気が付けば、大陸の人口の過半数を超える二千五百万人が、ヴァルティス系協和共栄圏の一員となっていたのです。


3. 衝撃の告白:二千五百万人の前での真実

メルカド・レアルに建てられた、巨大な「共栄記念碑」の除幕式。バルクの魔導投影機により、その姿は二千五百万人の全領土へと中継されていました。民衆は、自分たちを救った「救世主」ガルドと「女神」リシアを、熱狂的な歓声で迎えました。


しかし、ガルドは静かに右手を挙げ、地鳴りのような歓声を制しました。


「皆、聞いてくれ。俺を英雄だなんて呼ばないでほしい。……俺はかつて、名もなき村で泥にまみれ、未来も見えずに腐っていた、ただの**『しがない農夫』**だったんだ」


会場が静まり返る中、隣に立つリシアもまた、凛とした表情でマイク代わりの魔導具を手に取りました。


「私も同じよ。私はかつて、希望を奪われ、身体を売ってその日を繋ぐしかなかった**『娼婦』**だったわ。そんな私たちが、今こうして皆の前に立っている。それは私たちが特別だったからじゃない」


二千五百万人の民が息を呑む中、ガルドは空を指差しました。


「俺たちのようなゴミ同然だった人間を拾い上げ、飯の食い方から、自分を愛する方法、そして世界を変える力を授けてくれたのは、たった一人の男だ。本当の英雄の名を、忘れないでほしい。……俺たちの魂の師であり、この共栄圏の全ての源。その名は、ヴァルティス先生だ!」


4. 英雄の座を固辞し、伝説へ

ガルドとリシアは英雄の座を完全に固辞し、すべての栄光を、スノーヴェイルで静かに酒を酌み交わす師匠へと捧げました。自分たちの「不遇な過去」を隠すことなく晒し、それでもここまで来られたという事実は、二千万人の民にとってどんな教科書よりも強い「自立」への勇気となりました。


「農夫でも、娼婦でも、あそこまで行ける。俺たちだって、ヴァルティス先生の教えがあれば……!」


大陸全土に「師匠ヴァルティス」の名が神格化された伝説として刻まれ、民衆の敬意は、ガルドとリシアの誠実さによって、さらに深いものとなったのです。


5. 伝説の守護者:スノーヴェイルの静寂

スノーヴェイルの邸宅では、師匠ヴァルティスが、正室セレナと側室エルナと共に、中継の魔法映像を眺めていました。


「……やれやれ。あいつら、余計なことまで喋りおって」

ヴァルティスは困ったように笑い、セレナが注いだ最高級のシードルを口にしました。


「あら、良いではありませんか。あなたが動かなければ、私も含めて彼らは今でも泥の中にいたのですもの」

セレナがヴァルティスの肩を優しく抱き寄せ、かつての自分をも救い出した師の手を愛おしそうに握りました。


「それに師匠、二千万人の民が、今あなたの物語を心に刻んでいますわよ。……次はどんな『掃除』が必要になるか、楽しみですわね」

エルナも、かつての神官らしい悪戯っぽい微笑みを浮かべました。


三つの巨大倉庫は、今日も静かに。

二千五百万人の「自立」した民が、それぞれの才能を爆発させる黄金の時代を、永遠の冷気で守り続けているのでした。



大陸を覆っていた凍てつく絶望は、今や一人の男と、彼を慕う愛すべき弟子たちの手によって、芳醇なシードルの香りと柔らかな綿の温もりに満ちた「黄金の時代」へと塗り替えられた。


結び:三つの巨大倉庫が見守る未来

スノーヴェイルの白銀の丘。

かつては凍死者を待つだけの荒地だったその場所には、今、二千五百万人の「自立」を祝う灯火が、星海のように広がっている。


ガルドは、泥にまみれた「しがない農夫」であった過去を誇りに変え、肥沃な大地を耕し続ける。

リシアは、絶望の底にいた「娼婦」であった日々を慈愛に変え、民の笑顔を守る女神として立ち続ける。

エルナやナナ、セリナ、そして一万人の騎士たちもまた、師匠から授かった「自律」という名の最強の魔法を胸に、それぞれの才能を爆発させていた。


不遇をかこっていた者たちが、自らの足で立ち、自らの手で幸せを掴み取る。

その当たり前で、何よりも困難な奇跡が、この共栄圏では日常となった。


邸宅のテラスでは、師匠ヴァルティスが、正室セレナと側室エルナに囲まれ、静かに最後の一杯を飲み干していた。


「……師匠、何を考えていらっしゃいますの?」

エルナが覗き込むように尋ねる。


「……いや。この酒が、いつまでも美味いままであればいい。それだけだ」


ヴァルティスが僅かに目を細めると、セレナがその手に自らの手を重ねた。

「ええ。私たちが、そしてあの子たちがいる限り、この味は変わりませんわ。……世界はもう、独りで泣くことを忘れたのですもの」


背後では、三つの巨大倉庫が重厚な唸りを上げている。

それは、過ぎ去った旧時代の「負の遺産」を凍らせ、新しく芽吹いた「二千五百万の希望」を永遠に守り続ける、不滅の鼓動であった。


【ヴァルティス系協和共栄圏・正史 完】

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