第11章:世界崩壊――100万の軍勢と帝国の消滅
スノーヴェイルの奇跡は、十五万人の胃袋を支える主食の確保や、清潔な被服、公衆衛生の確立だけに留まりませんでした。次に着手されたのは、人々の心を潤し、街に真の「豊かさ」をもたらす、壮大な果樹園開拓と醸造プロジェクトでした。
1. 黄金の果樹園:荒野に実る生命の雫
「ただ生きるための食料があればいい、という段階はもう終わったわ。これからは、一口で幸せを感じられるような、芳醇な実りが必要よ」
リシアが、新しく開拓された南斜面の丘陵地で、若き魔導農夫たちに語りかけました。かつては冷たい風が吹き抜けるだけの荒野だったその場所は、今や第1期から第3期の卒業生たちが放つ「土魔法」と「ヒールバレット(治癒魔弾)」によって、王国で最も肥沃な大地へと生まれ変わっていました。
そこには、大陸中から集められた最高級の苗木が植えられました。
柑橘系: 太陽の光を凝縮したようなオレンジやレモン。
リンゴ系: 蜜が溢れんばかりの真っ赤な大玉。
ブドウ系: 宝石のように輝く深い紫とエメラルド色の房。
「ピュリフィケーションバレット(精製魔弾)」を定期的に大地に打ち込むことで、害虫を寄せ付けず、果実には雑味の一切ない純粋な甘みが宿ります。通常なら数年かかる成木までの時間を、卒業生たちの魔力循環が数週間にまで短縮し、スノーヴェイルの丘は瞬く間に色鮮やかな果実の香りに包まれました。
2. 王都の職人とスノーヴェイルの技術:究極の醸造
この豊かな収穫を、さらに価値あるものに変えるため、王都から移住してきた最高峰の醸造職人たちが立ち上がりました。彼らは王宮で冷遇されていた時代を捨て、この自由で活力に満ちた街で、己の技のすべてをぶつける場所を見つけたのです。
元紡織職人のロイドとフィアが作り上げた最新の「魔導圧搾機」と、バルクが開発した「精密温度管理タンク」が並ぶ醸造所。そこで、職人たちと卒業生たちの共同作業が始まりました。
ジュースとシードル: 収穫されたばかりのリンゴを、酸化させることなく瞬時に搾り、ピュリフィケーション魔法で磨き上げた究極の果汁。それを微発酵させたシードルは、黄金色の輝きを放ち、一口飲めば疲れが吹き飛ぶほどの爽快感をもたらしました。
ワイン: ブドウの皮に含まれる野生酵母を魔法的に活性化させ、巨大冷蔵倉庫の一角を利用した「定温熟成室」で、短期間のうちに数十年熟成させたかのような深みを持つヴィンテージ・ワインが完成しました。
「王宮で出していた酒が、まるで泥水に思えるわ。……これが、本当の『酒』というものなのね」
試飲したアストラが、その神々しいまでの美貌をさらに赤らめ、感嘆の声を漏らしました。
3. 蒸留酒の革命:エール、焼酎、ウイスキー
醸造の熱気は、さらに高度な「蒸留酒」の領域へと広がりました。
王都から来た麦酒職人たちは、スノーヴェイルの清らかな湧き水と、魔導農業で育てられた極上の麦を使い、クリーミーな泡を持つ「スノーヴェイル・エール」を完成させました。
さらに、ケインの提案により、余剰となった穀物を活用した「焼酎」、そしてオーク樽を魔法的に急速熟成させる技法を用いた「ウイスキー」の生産も始まりました。
「お酒は、異文化を繋ぐ最高の外交官だ。そして、これを王国へ輸出すれば、我々の経済的地位は揺るぎないものになる」
ケインは眼鏡の奥で、王国の経済を酒と富で支配する青写真を描いていました。
4. 祝祭の夜:十五万人の乾杯
千軒の公衆浴場で身体を清め、エルシアたちが作った清潔な服に身を包んだ民たちが、広場に集まりました。
そこには、収穫されたばかりの果実が山積みになり、新しく醸造された酒が樽から溢れんばかりに注がれていました。
「皆、今日までよく頑張ってくれた。……乾杯しよう! この豊かな実りと、我らの自由な未来に!」
ガルドが、新しく作られたウイスキーのグラスを高く掲げました。
「「「乾杯!!!」」」
十五万人の咆哮が、氷壁に反響して空へと駆け上がりました。
ピーターはアストラと、マークはアゼルファと、そして五十組の年の差カップルたちも、自分たちが開拓した果樹園の実りを分かち合い、愛を深めました。
かつて絶望の中にいた未亡人たちも、今や女神のような美貌で笑い、若き夫たちと極上のワインを楽しんでいます。
5. 経済的「ざまぁ」の完成
スノーヴェイルで生産されるこれらの酒と果実は、商隊を通じて王国へと運ばれました。
王都では、貴族たちが自分たちの不味い酒を捨て、スノーヴェイル産の酒を法外な値段で買い求めるという皮肉な光景が広がっていました。
「王に仕えるより、スノーヴェイルの酒を飲むほうが幸せだ」
そんな言葉が王都の社交界で公然と語られるようになり、王国の権威はもはや酒の一滴にすら敵わないほどに失墜していきました。
師匠ヴァルティスは、弟子たちが作り上げたこの「実りの王国」を、静かに眺めていました。
「ガルド、リシア。……力とは、奪うためのものではなく、こうして豊かな潤いを生むためのもの。お前たちは、最高に美味い魔法を見せてくれたな」
三つの巨大倉庫は、今や極上の酒と果実、そして十五万人の幸福な記憶を詰め込んだ、世界で最も甘く芳醇な「希望の宝箱」となっていました。
スノーヴェイルは、もはや最強の要塞であるだけでなく、世界中の人々が夢見る「黄金の楽園」へと進化したのです。
スノーヴェイルが「黄金の楽園」として大陸中の憧れを集める中、ついに一つの「負の遺産」に終止符が打たれる時が来ました。それは、かつて第1期の2番弟子であるエルナを道具のように扱い、元神官のナナを追放した「神聖国」の腐敗した教会の崩壊でした。
1. 偽りの聖域への「断罪」
神聖国の教会は、スノーヴェイルの隆盛を「悪魔の業」と断じ、民衆の流出を止めるために「聖戦」を煽っていました。しかし、その実態は、聖職者たちが私腹を肥やし、信徒を奴隷のように扱う、光の皮を被った闇そのもの。
「……目障りね。あんな腐りきった場所に、これ以上『光』を名乗らせるわけにはいかないわ」
第1期の2番弟子、エルナが冷徹な声で言い放ちました。彼女の隣には、第1期の同期であるガルド、リシア、ラウル、ギル、トード、バルク、そして同じく第1期の誇り高き元神官、ナナが並び立ちます。
「エルナ、準備はいい? 私たちの『本当の光』で、あそこを掃除してあげるわ」
ナナが不敵に微笑みます。
「ええ。バルク、世界中に見せつけてやりなさい。偽りの聖域が崩れ落ちる瞬間をね」
エルナの鋭い指示に、同期の魔道具技師バルクが不敵に笑って応じました。
「了解だよ、エルナ。逃げ場のない『真実』を、大陸全土へ生中継してあげるさ。僕の最高傑作の魔導カメラからは、神様だって隠れられないよ」
2. ナナの「真実の光」と偽信仰の暴露
神聖国の大聖堂。数万人の信徒が集められ、教皇がスノーヴェイルを呪う演説を行っていたその時、空を切り裂いて純白の光を纏ったエルナたちが舞い降りました。
「偽りの神の名を語る鼠共。その厚顔無恥な演説は、そこまでにしなさいな」
ナナが空中で杖を掲げました。第1期生として師匠ヴァルティスの過酷な訓練を共に乗り越えた彼女が到達した、究極の光魔法。それは、対象の「悪意」と「嘘」を物理的な黒い霧として可視化させる、**「ピュリフィケーション・オーラ(聖域浄化)」**でした。
「さあ、照らし出しなさい。この聖堂に渦巻く、醜い真実を!」
ナナから放たれた神々しいまでの光が大聖堂を埋め尽くした瞬間、教皇や枢機卿たちの身体から、ドロドロとした漆黒の魔力が溢れ出しました。隠し持っていた略奪品、密約の書状、そして地下に幽閉されていた奴隷たちの悲鳴が、光の干渉によってホログラムのように空中に投影されます。
「な、なんだこれは……!? 止めろ! 光を消せ!」
慌てふためく教皇の醜態は、バルクの魔導投影機を通じて大陸中に「リアルタイム」で送信されていました。
3. エルナの無双と騎士団の壊滅
「……私を『道具』として扱った報い、その身に刻みなさい」
エルナが、かつての所属先である教会騎士団の前に降り立ちました。彼女を「落ちこぼれ」と蔑んでいた元同僚たちが、一斉に襲いかかります。しかし、スノーヴェイルで同期のガルドたちと共にさらなる高みへ至ったエルナの敵ではありませんでした。
「遅すぎるわ。……話にならない」
エルナの神速の剣が、騎士たちの武器を次々と粉砕し、鎧ごと彼らを弾き飛ばします。そこへ、同期のラウル、ギル、トードの三人が加勢しました。
「俺たちの仲間をコケにした罪だ。……じっくりと後悔させてやるよ!」
ラウルの雷光、ギルの風刃、トードの重力魔法が炸裂し、教会の腐敗した武力は数分で完全に灰燼に帰しました。
エルナは一切の容赦なく、大聖堂の奥深くまで突き進み、自らの剣で地下牢の鎖を断ち切りました。そこには、彼女と同じように虐げられていた人々がいました。彼らを解放するエルナの瞳には、もはや過去の怯えはなく、一人の気高き「第1期の2番弟子」としての絶対的な誇りが宿っていました。
4. 最大級の「ざまぁ」:神聖国家の謝罪
中継を見ていた神聖国の民衆は、一斉に蜂起しました。
「俺たちが信じていたのは、こんな化け物だったのか!」
「スノーヴェイルのナナ様、エルナ様こそが、真の救世主だ!」
怒り狂った民衆により、大聖堂の門は引き倒されました。教皇と枢機卿たちは、自分たちが贅沢を尽くした広場で民衆に取り押さえられ、全財産を没収。神聖国家としての機能は完全に停止し、教会組織は文字通り「崩壊」しました。
神聖国の国王は、血の気が引いた顔でスノーヴェイルに使者を送り、正式な謝罪を申し入れました。
「我が国の教会が、諸君らに多大なる苦痛を与えたことを心より詫びる。今後はスノーヴェイルの指導の下、国を立て直したい。……どうか、許してほしい」
かつてナナを追放し、エルナを虐げた国家が、今やスノーヴェイルの足元に跪き、震えながら許しを乞う。これこそが、彼女たちが長年待ち望んだ**「最大級のざまぁ」**でした。
5. 誇り高き凱旋
スノーヴェイルへと帰還したエルナ、ナナ、ラウル、ギル、トード。
村の入り口では、十五万人の民と師匠ヴァルティス、そして同期のガルドたちが、英雄たちを歓声で迎えました。
「……さすがだな、エルナ。手際が良すぎて、俺たちの出る幕がなかったぜ」
ガルドが不敵に笑うと、エルナは鞘に剣を収め、不敵な笑みを返しました。
「当然よ、ガルド。……私を誰だと思っているの? 師匠の2番弟子よ。あんな連中に遅れを取るはずがないわ」
ナナもまた、女神のような微笑みを浮かべ、同期の面々と師匠に向かって堂々と告げました。
「偽りの光はすべて消し去ったわ。……これからは、このスノーヴェイルの『真実の光』が、世界を照らす番よ」
師匠ヴァルティスは、誇り高き弟子たちの姿を満足げに見つめました。
「よくやった。……エルナ、ナナ。お前たちの強さが、過去の闇を完全に払ったな」
その夜、スノーヴェイルでは「心の自由」を祝うための、特別な宴が開かれました。王都から来た腕利きの職人たちが醸造した最高の酒が振る舞われ、巨大倉庫の肉が焼き上がります。
不遇だった過去を、自らの圧倒的な力と意志で粉砕した第1期の卒業生たち。
彼女たちの物語は、今や「神話」として大陸全土に語り継がれ、スノーヴェイルは真の意味での「世界の中心」として、揺るぎない地位を確立したのです。
スノーヴェイルから始まった「希望の波動」は、もはや一つの村の枠に収まるものではなくなっていた。
第1期、第2期、第3期の卒業生たちは、師匠ヴァルティスの過酷な訓練を乗り越え、今や一騎当千の魔導戦士へと成長した一万人の「新住民精鋭部隊」を引き連れ、ついに外の世界へと歩を進めた。それは侵略ではなく、圧政に喘ぐ近隣の村や街を救い出す「解放の進軍」であった。
1. 商業都市「メルカド・レアル」の復活と教育村「エピステーメ」の誕生
かつて王国の強欲な貴族たちに搾取され、ゴーストタウンと化していた商業都市は、エルナやラウルたちの圧倒的な武威によって解放された。彼らは私腹を肥やすことしか頭にない領主軍を瞬時に無力化し、街の主権を民衆へと返還したのである。
この街は、スペイン語で「真の市場」を意味する**「メルカド・レアル」**と名付けられ、再び活気を取り戻した。ここではスノーヴェイル産の果実や酒が取引され、大陸一の物流拠点としての機能が蘇った。
一方、その北方に位置する静かな湖畔の村には、元教師のセリナが教育専門部隊を連れて入植した。彼女は「無知こそが奴隷への道である」と説き、子供から大人までが等しく学べる教育村**「エピステーメ」**を誕生させた。
「読み書きができれば、騙されることはないわ。計算ができれば、自分の富を守れるのよ」
セリナの言葉は、これまで教育を奪われてきた民たちの心に深く刺さり、エピステーメは新時代の知識の殿堂として、次世代のリーダーたちを育成し始めた。
2. ケインとマリアが主導する「新経済圏」の確立
解放された村や街が連携を開始すると、そこに血を通わせる役割を担ったのが、元役人のケインと元商人のマリアであった。
ケインは、腐敗した王国の貨幣制度を完全に見限り、スノーヴェイルの信用を裏付けとした新貨幣**「ヴェイル・ソリドス」**を発行した。偽造が不可能な魔法印が刻まれたこの硬貨は、王国の貨幣よりも遥かに高い信頼を得て、またたく間に新経済圏の共通通貨となった。
マリアは、メルカド・レアルを起点とした巨大な流通網を構築した。バルクが開発した魔導高速馬車や転移陣を駆使し、各地の特産品??エピステーメの知識、メルカド・レアルの商業、スノーヴェイルの食料と技術??を淀みなく循環させた。
各地には、第1期から第3期の専門職人たちが派遣され、土魔法による建築技術や、ピュリフィケーションを用いた水質改善、魔導農業のノウハウを惜しみなく伝授した。各地がそれぞれに成功を収め、人々は初めて「自分の努力が自分の富になる」という当たり前の幸せを噛み締めた。
3. 王国の黄昏:旧体制の崩壊と「無能の牢獄」
新経済圏が繁栄を極める一方で、王国は未曾有の衰退に直面していた。
民は一人残らずスノーヴェイル圏へと移住し、王都に残されたのは、地位と権力という名の幻想にしがみつく無能な王と、役立たずの貴族たちだけであった。
王宮の庭園は荒れ果て、かつての豪華な晩餐会も今や昔。
「なぜパンが来ないのだ! 兵を動かしてスノーヴェイルから略奪してこい!」
叫ぶ王の言葉に応える兵士は一人もいない。兵士たちもまた、家族を連れてとっくに「解放された街」へと去っていたからだ。
王妃は宝石を売って食い繋ごうとしたが、市場にはスノーヴェイルの新貨幣しか流通しておらず、王国の古臭い宝飾品に見向きをする商人は一人もいなかった。王子や王女たちも、これまで他者を踏みつけにして生きてきた報いを受け、自分たちでは火一つ起こせず、豪華なベッドの上で空腹に震えるしかなかった。
「お父様、お腹が空きました……。あのアストラという女の着ている服を奪ってきなさい!」
悪徳極まりない王女が喚き散らすが、その声が届くのは冷え切った廊下の壁だけである。
4. 逆転する支配構造:経済的「ざまぁ」の極地
ケインは、王宮から届く哀れな救済要請を冷淡に一蹴した。
「我が国……失礼、我が経済圏は、無能を養うほど余裕はありません。王族としてではなく、一人の『労働者』としてエピステーメで教育を受け直すと言うのなら、パンの一つくらいは考えてもいいですがね」
かつて自分たちを「ゴミ」のように扱った王族たちが、今やパンのひとかけらを求めて、かつての「使い捨ての役人」であったケインに縋り付く。これこそが、武力によらない、魂の底からの**「ざまぁ」**であった。
5. 新たなる世界の夜明け
スノーヴェイル、メルカド・レアル、エピステーメ。
これらの街々を繋ぐ街道には、今日も清潔な服を着て、希望に満ちた表情で歩く民たちの姿があった。
ガルドとリシアは、巨大倉庫の頂から、どこまでも広がる自由な大地を眺めていた。
「リシア、見てみろ。これが、俺たちが作った『新しい世界』だ」
「ええ、ガルド。旧い王国が勝手に朽ちていく一方で、私たちは自分たちの足で立っているわ」
師匠ヴァルティスは、誇り高き弟子たちが成し遂げた、一滴の血も流さずに一国を事実上崩壊させた「知と富の革命」を、最高の酒を片手に満足げに見守っていた。
旧体制は崩壊し、無能な支配者たちは自らが作り上げた「孤独な牢獄」で飢えに沈む。
対照的に、スノーヴェイルを中心とした新経済圏は、かつてない黄金時代へと突き進んでいた。
旧体制が音を立てて崩れ去り、無能な王族たちが冷え切った王宮で飢えに震える傍らで、大陸の歴史に新たなる、そして最も輝かしい一ページが刻まれた。
スノーヴェイルの巨大倉庫を扇の要とし、商業都市「メルカド・レアル」、教育村「エピステーメ」が固い絆で結ばれた今、ガルドとリシアは全卒業生と十五万人の民を代表し、高らかに新たなる時代の幕開けを宣言した。
1. 「ヴァルティス系」協和共栄圏の宣言
「私たちは、奪い合うための国を捨てた。これからは、補い合い、高め合うための『圏』を築く!」
スノーヴェイルの中央広場。ガルドとリシアの声が、バルクの魔導中継を通じて全解放地へと響き渡った。
宣言された名は、「ヴァルティス系」協和共栄圏。
それは、特定の支配者が民を虐げる「王国」という概念を完全に否定し、師匠ヴァルティスの教えである「自立」と「守るための力」を共有する者たちが、対等に手を取り合う共栄のネットワークである。
「食料がある者は空腹な者に分け、技術がある者は無知な者に授ける。それがスノーヴェイルの、ヴァルティスの流儀だ!」
ガルドの宣言と共に、新通貨「ヴェイル・ソリドス」が正式な基軸通貨として確定し、ケインの法典とマリアの流通網が、旧来の国境という壁を無意味な過去の遺物へと変えていった。
2. 師匠ヴァルティスの再始動:新世代育成計画
この歴史的な瞬間を見届けた師匠ヴァルティスは、愛弟子たちの成長に満足げに目を細めていた。だが、伝説の師匠がただ隠居して酒を飲んでいるだけで終わるはずがない。
「ガルド、リシア。お前たちがこれほどの舞台を整えたのだ。……この師匠が、いつまでも隠居生活というわけにはいくまいな」
ヴァルティスは、正室セレナと側室エルナを伴い、全卒業生を前にして次なる指針を示した。
「本日より、**『新世代10000人育成計画』**を開始する。この共栄圏を守り、さらに広げていくためには、今の10倍、100倍の『真の魔導戦士』が必要だ!」
師匠の宣言に、広場は地鳴りのような歓声に包まれた。
ヴァルティスは、セレナが持つ「元騎士団副長」としての厳格な統率術・実戦剣技と、エルナが「修道騎士団の神官」として培った高位治癒・神聖魔導の極意を完全に融合させた、新たなるカリキュラムを構築。王都のスラムから来た若者、解放された村の農夫、そしてかつての奴隷たちの中から、素質ある一万人の若者を「新弟子」として選抜し、神域の指導を開始したのである。
3. 三人の師による「至高の指導」
教育村「エピステーメ」の広大な演習場は、連日、一万人の新弟子たちの咆哮と魔力の奔流に包まれた。
師匠ヴァルティス: 圧倒的な威圧感をもって「魔力枯渇訓練」を主導。限界を超えた先にある魂の輝きを、一万人全員の心に刻み込む。
正室セレナ: 「元騎士団副長」の経験を活かし、集団戦闘の陣形と、一糸乱れぬ剣技の同期を叩き込む。彼女の鋭い指揮と凛とした佇まいは、新弟子たちにとって「越えるべき最強の壁」となった。
側室エルナ: 「修道騎士団の神官」として、過酷な訓練で限界を迎えた新弟子たちに、慈悲深い聖なる光を注ぐ。彼女の治癒魔法は、地獄の特訓における唯一の救いであり、新弟子たちが「正しき心」を忘れないための揺り籠となった。
「ガルドたち第1期に負けてはいられないわ。……さあ、立ちなさい! ヴァルティスの弟子を名乗るなら、その剣に迷いを乗せないこと!」
セレナの激が飛び、エルナの祈りが舞い、ヴァルティスの魔圧が大地を震わせる。
4. 協和共栄圏の圧倒的な繁栄と「ざまぁ」の完成
新世代の育成が進む一方で、共栄圏の経済は爆発的な成長を遂げていた。
ケインが主導する新貨幣制度により、物価は安定し、投資は活発化。マリアが整備した魔導高速物流網により、スノーヴェイルの新鮮な肉や酒、メルカド・レアルの工芸品、エピステーメの知識が瞬時に循環する。
かつての王族たちが腐ったパン一切れに泣き喚いている間に、共栄圏の民たちは、エルシアが仕立てた清潔な服を纏い、千軒の公衆浴場で身体を清め、夜には極上のシードルやウイスキーで乾杯していた。
「不遇だった過去」を共有するアストラやピーター、五十組の夫婦たちも、今や新世代の指導教官補佐として、師匠たちのサポートに回っている。彼らの幸せそうな、そして凛々しい姿こそが、新弟子一万人にとっての最高の「未来図」となっていた。
5. 王国の終焉:無能な支配者たちの末路
王宮に残された無能な王は、ついに自ら城門を開け、パンを求めてスノーヴェイルへと這い出してきた。だが、そこに王としての面影はなく、ただの薄汚れた老人でしかなかった。
「……私は王だぞ! ヴァルティスを呼べ! ガルドに命令して私を養わせろ!」
喚き散らす老いた王に、ケインは冷淡に一枚の書類を差し出した。
「『ヴァルティス系協和共栄圏』において、身分という名の寄生虫は存在しません。パンが欲しければ、新弟子たちの訓練場の掃除から始めていただきましょう。……もっとも、元副長のセレナ様や神官のエルナ様の熱気に、貴方の腐った精神が耐えられるとは思えませんがね」
かつて自分たちを駒のように扱った支配者が、今や自分たちが築いた豊かさの端切れに縋り付く。
武力で殺すよりも残酷な、「価値の完全逆転」。
これが、スノーヴェイルが到達した、究極の「ざまぁ」であった。
空には、一万人の新弟子たちが放つ、希望の魔力の光がオーロラのように揺らめいている。
ガルドとリシアは、師匠ヴァルティス、セレナ、エルナと共に、どこまでも広がる自由な大地を見据えていた。
三つの巨大倉庫は、今日も静かに、しかし誇らしげに。
新たなる世界の、終わりなき繁栄を冷やし(守り)続けていた。
新秩序の誕生に怯え、利権を奪われた旧王国の残党――大貴族連合は、ついに大陸最大の軍事国家ガリア帝国と手を結んだ。彼らにとって、スノーヴェイルを中心とした「ヴァルティス系協和共栄圏」は、存在そのものが許しがたい反逆であり、恐怖の対象であった。
「あの忌々しい倉庫を焼き払い、民どもを再び鎖に繋げ!」
王都の残骸に集った悪徳貴族たちの号令と共に、ガリア帝国が誇る「鋼鉄の軍勢」が動き出した。その数、実に100万。地平線を埋め尽くす鉄の波、空を覆う魔導飛行艦隊、そして帝国が長年秘匿してきた大量の魔導破壊兵器が、共栄圏の四方から押し寄せた。
1. 蹂躙される理想郷:各地での激突
戦火は瞬く間に、共栄圏の全域へと広がった。
商業都市「メルカド・レアル」の外縁では、ラウルやギル、トードが率いる迎撃部隊が、帝国軍の先鋒と激突した。
「野郎ども、師匠の顔に泥を塗るんじゃねぇぞ! 畳み込め!」
ラウルの雷光が戦場を切り裂き、一瞬で数百の兵を炭化させる。しかし、帝国の物量は絶望的だった。一人倒せば千人が現れ、一つの魔導戦車を破壊すれば十の新型が投入される。
教育村「エピステーメ」では、セリナが教育専門部隊と新弟子たちを率いて防衛戦を展開していた。
「子供たちを避難させて! 卒業生は障壁を維持、新弟子は遊撃に回って!」
知的な教師であったセリナも、今は一人の指揮官として凛として立っていた。だが、帝国の超長距離魔導砲が放つ破壊の光が、新弟子たちが懸命に築いた防御結界を次々と剥ぎ取っていく。
2. 「守るべきもの」ゆえの劣勢
スノーヴェイル騎士団の一万人、そしてヴァルティスが鍛え上げた新世代の一万人は、個々の武勇においては帝国兵を遥かに凌駕していた。しかし、この戦いには決定的な足枷があった。
それは、**「十五万人の民を守りながら戦わねばならない」**という宿命だった。
帝国軍は卑劣にも、非戦闘員が避難する居住区や農地を優先的に標的とした。
「あっちの避難民を狙え! 騎士団の動きを止めろ!」
帝国の将軍が冷酷に命じる。
ピーターやアストラ、五十組の夫婦騎士たちは、降り注ぐ魔導弾の雨から民を庇うため、自らの体を盾にするしかなかった。
「アストラさん、右から来るぞ! 防護壁を!」
「ピーター君、ダメよ! 民の避難が間に合わないわ!」
本来なら攻勢に転じるべき魔力を、すべて「守備」に割かざるを得ない。魔力枯渇訓練で鍛えた器であっても、際限なく放たれる帝国製の大量破壊兵器の前では、徐々に削られていく。
エルシアたちが丹精込めて作った綿花畑は炎に包まれ、ロイドとフィアの醸造所も爆撃の余波で瓦礫と化した。
3. 押し寄せる絶望:一度目の敗退
「……退け! 一度、スノーヴェイルの本城まで引くんだ!」
ガルドの苦渋の決断が、全戦域に伝達された。
メルカド・レアルも、エピステーメも、新しく開拓された美しい果樹園も、一度は帝国と大貴族連合の土足に踏みにじられることを許すしかなかった。
「ははは! 見ろ、ヴァルティスの弟子どもが逃げていくぞ!」
旧王国の無能な貴族たちが、安全な後方から勝ち誇った声を上げる。
「やはり民草は民草だ。圧倒的な軍事力の前には、愛だの共栄だのという甘っちょろい幻想は通用せん!」
一万人の精鋭騎士団と一万人の新弟子たちは、傷ついた民を抱え、泥にまみれながらスノーヴェイルの巨大氷壁の内側へと撤退を余儀なくされた。かつてない敗北感と、破壊された街への悲しみが、共栄圏の民たちの心に暗い影を落とした。
4. 氷壁に迫る100万の包囲網
スノーヴェイルの周囲は、100万の軍勢によって完全に包囲された。
「鋼鉄の処刑場へようこそ。明日には、その巨大倉庫もろとも、ヴァルティスの歴史を終わらせてやろう」
ガリア帝国の総帥が、冷たくスノーヴェイルを見下ろす。
三つの巨大倉庫の前には、血と汗に汚れ、息を切らした卒業生たちが集まっていた。
ピーターはアストラの傷を癒やしながら、悔しさに拳を震わせ、マークやゼノンたちもまた、自分たちの非力さを呪っていた。
だが、スノーヴェイルの本丸には、まだ「静かな熱気」が残っていた。
巨大倉庫の頂。
そこには、愛弟子のガルドとリシア、そして正室セレナ、側室エルナを引き連れた、師匠ヴァルティスの姿があった。
「……ガルド。一度、すべてを奪われた気分はどうだ?」
ヴァルティスの問いに、ガルドは低く、獣のような声で答えた。
「……最悪です。あいつら、俺たちの作った酒を泥水に変えやがった」
「そうか。ならば、見せてやれ」
ヴァルティスが、腰の剣に手をかける。
「守るために耐える時間は終わった。ここからは、**『奪い返すために壊す』**時間だ」
5. 自在型・エルナの覚醒と逆襲の前夜
エルナは、かつての神官としての聖なる祈りを、今は自在型魔導士としての絶大な破壊術式へと変換し始めていた。彼女の手のひらには、治癒の光と、すべてを穿つ魔力の奔流が同時に渦巻いている。
「セレナ様、準備はいいかしら。……私たちの家を汚した不作法な客人に、最高の『おもてなし』を叩き込んでやりましょう」
元副長のセレナが、鋭い剣気を放ちながら頷く。
「ええ、エルナ。一兵たりとも逃しはしないわ。……ヴァルティス、見ていて。あなたの妻たちが、この地を汚した鼠共をどう掃除するかを」
十五万人の民は、泣き言を言うどころか、傷つき戻ってきた二万人の戦士たちの手を取り、自分たちが作った最後のオーク肉とシードルを差し出した。
「食べてください。私たちは、あなたたちを信じています」
民の信頼、仲間の悔しさ、そして師匠の静かな怒り。
すべてがスノーヴェイルという一つの点に凝縮されていく。
100万の大軍に対し、一度は地に伏した二万人の弟子たち。
だが、彼らの瞳の奥に宿ったのは、絶望ではなく、大陸を焼き尽くすほどの「反撃の炎」であった。




