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2話

さき先輩……私……他に好きな人が出来たの……」


 電話越しにが震わせた声でそう言われた瞬間、茫然自失して晴開はるあきのメンタルが一撃で砕けていった。


 昨夜、自分が思いを寄せている彼女から電話があった。しかし、そこで自分に告げられたのは”別れの言葉”だった。


 そのショックで一睡も出来ないまま今日を迎え、彼はけだるそうに登校している。

 その動きというのが幽鬼のようだとか言われそうなほどやつれ、目の下にくっきりと隈が浮かび、口も半開きで、酔っぱらったように何とか学校へと進む。


 この高校二年生の輪崎晴開わさきはるあきは、彼と同じ文芸部の一年後輩のみつしまと付き合っていた。


 身長が180cmもあり、スポーツ万能な彼が文化系の部活に入っていることに美優は意外性を感じたのか興味を持ったのだった。


 それに晴開は本の虫で、文学に関する知識が豊富だったことが、彼と同じく読書好きな美優にとって憧れの先輩なのだった。


 彼は後輩の美優との距離をぐっと縮めていった。こうして、二人は部員の中ではお似合いのカップルとして目立つ存在となっていた。


 この時晴開は、一ヶ月前にも別の同じクラスの女子生徒に告白して、フラれていたのだった。


 そして彼は美優と付き合うようになった。しかし、一回目に続いて美優からもフラれてしまった。


(俺はモテ要素ゼロだったんだ……もうこれ以上、女子には関わりたくない……)


 たび重なる災難に見舞われた晴開は、もはやもぬけの殻と化して登校している。


 彼の眼に入るものは何もかもが、焦点が合っておらず物の形が分からなくなった。


 やがてあまりにもショックで目の前が真っ暗になってしまい、狼狽しきって汗まみれの状態になって倒れてしまった。


 そして意識を失う寸前に、何かがこちらへ迫って来るのが目に入った。


――――それは白く細長い蛇、いや龍のようなものだった。



               * * *



「やっと気が付いたか?」

「え……誰だ?お前……?ちょっ、やめろ!!」


 目が覚めたと思いきや、自分が何者かに襟首を掴まれていることに晴開は気づいた。

 掴んだ青年は濡れになっているゆったりとした着物を着ていて、頭部のもふもふとボリューム感のある長髪から角が生えていた。


 それは、鹿というより龍のようだった。


 自分の姿はというと、着ている制服は青年の服と同じくびっしょりと濡れていた。そして目の前にきざはしがあり、その上に目立つ格好をした壮年の男がいた。


 その男は晴開をひっ捕らえている青年より、絢爛豪華な金色ずくめの着物――――まさに、世界史の教科書で見た古代中国の皇帝が着ているそれを纏っていた。頭部には角帽に簾がついたような冠を戴いている。


未だに青年に拘束されている晴開は、ただでさえ思考回路が混乱し、驚きを隠せなかった。


「だっ……誰なんだよ、オッサン!?俺をこんなところに連れてきやがって!!」

「黙らっしゃいッ!!この小童が!!このぎょくていに向かってこのような口を聞くとは!!」

「ハァ……全くですね……こちとらやっと見つけることができたのに。陛下、早くご確認を」


 前日に二度目の失恋をしたうえ、何の予告もなく連れてこられた晴開に対して、彼らのもの言いはぞんざいなものだったため、苛立ちを覚えた。


 青年は晴開を放すと、改めて晴開は辺りを見回した。


 この空間が三国志や西遊記といった古い中国の説話に出てくるような宮殿の内部のようになっていることに気づく。


 柱も壁も天井も全て眩しいほど輝く金色に統一されていた。そして彼の前面にのきざはしには、鷹のような翼を付けた龍の彫刻が刻まれている。


 そして玉帝の立つ背後の玉座にも龍の装飾が施され、更にその背後には黄金の翼龍を中心に上から時計回りに紫黒、蒼、紅、そして白の四つの龍が描かれた壁画があった。


「うぬは早う、こちらにツラを向けぬか!!」

「えっ?こっち見ろって?」

「早くしてくれないか……」


 玉帝に加えて、自分を降ろして横に居直った青年に煩わしく促され晴開は言いだした張本人の方を見た。


 すると、彼は晴開の顔を見るや否や、虚に突かれたように驚愕の表情を向けた。


「これは!!これはまぎれもなく、本物の白龍はくりゅう龍召士りゅうしょうしで間違いない!!でかしたぞ、玉龍ぎょくりゅう!!」

「はァ!?なんだよ!!俺の顔が可笑しいってのか!?」

「おお!!まさに……印が表れております!!」


 この時本人は見えないが、玉帝と彼に”玉龍”と呼ばれた青年には晴開の額に何か龍のような陰影が出現したのを確認して、自分たちが捜していたものを見つけた時のような顔をする。


 それに嫌気が差して晴開の苛立ちがつのり、それを通り越して怒りと化していく。


「俺が”龍召士”だと!?ふざけんな!!こんなところに連れてきやがって!!ってか、ここは何処だよ!?」

「ここは、せんくうかい霊霄宝殿れいしょうほうでんだ。うぬには白龍の龍召士として、龍鳳りゅうほうかい秋兌国しゅうたいこくに転移してもらう!!」

「俺また違うとこに行かないとダメなのかよ……ん、待てよ?」


 晴開は元いた世界から今いる”仙空界”から召喚され、さらに別の世界へと自分を移すのだと告げられ、身に置かれている状況を理解した晴開はハッとした。


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