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エピローグ





時代の大きなうねりが、支配者を選び変えていく。

かつて列強蠢く乱世の英雄たちの中で、一人の知恵者が勝者となった。


豊臣秀吉――天下を掌にした男は、大坂に百花繚乱の極楽浄土を築き、

咲き乱れる宝石のような栄華を誇った。


だがその輝きも、やがて訪れる炎の中で消えていく。

極楽は地獄と化し、すべては等しく、灰に還る。


細川忠興は、馬上で燃え落ちる大坂城を見つめていた。

朱に染まる空の下、その瞳には、もはや一片の揺らぎもなかった。


炎が夜空を裂き、風に乗って灰が舞った。



「……終わったな」


老将・徳川家康がつぶやいた。


深く刻み込まれた皺とくぼんだ瞳が、男のここまでの長い道のりを語っている。


馬上の忠興は精悍な顔のまま、無言で頷いた。


焼け落ちる城を見つめた。


燃え盛るその炎の中に、自らの半生と、愛した女の影を見ていた。


すでに、玉がその身を捧げ、炎によって灰となってから15年の月日が経っていた。


かつては美丈夫と呼ばれた忠興の顔や身体は、今は少し老いにより錆びが滲み出る。


しかし、変わらず人を惹きつける冷たさと品に溢れた眼光であった。


「忠興、勝ったぞ」


家康の声がした。

忠興はゆっくりと顔を上げた。



「これからは、太平の世よ。貴様にも、一役買って出てもらわぬことが山程ある」



老獪な男の目にはまだ光が宿り、振り返ることなど微塵も必要としていない。


鋭く笑った主君の顔を見つめ、忠興は短く返答する。


「…お供仕ります」


忠興の笑みに水面のような静けさが漂い、家康を満足させた。



時代の流れを巧みに読取り、細川忠興は生涯で何度も主君を変え、生き残ってきた。



かつては炎のように燃え、その烈情に身を焦がしながら、滅びゆく事も良しとした男は既にいない。


彼は、亡き妻から受け取った深い水のような静

寂を今は纏う。



水のような静けさのなかに、炎を抱く…ーーー


灰となった玉を懐に忍ばせながら。

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