第04話 01 逃亡する音叉
「・・・いろんなものが平等に、周りに影響を与えている。光、影、時間・・・・」
白く長いひげを蓄えた老人が教壇で10人くらいの生徒の前で語りかける。
「・・・その中の一つに『音』がある・・・」
延々と続くその講義は『音魔法』と呼ばれる授業だった。
「先生、例えば人の発生した音で岩を砕くことができるのでしょうか?」
一人の生徒が老人へ質問する。老人は蓄えた髭をさすりながら
「・・そうじゃのう・・・」
と、返答を始めた・・・・。
講義は続いていた・・・・・・・・。
身軽な格好をした青年は、小高い丘から眼下に広がる森を眺めていた。
黒くトサカの立った髪型で長身のその青年は、何かを探している様子だった。
「ねぇオルト、見つかった?」
一人の女性がトサカの男、オルトに声をかけた。白髪に赤毛が混じったボブカットの小柄な女性だ、光の加減でその髪はピンク色にも見えなくもない。
「見つかんねーよ。」とぶっきらぼうにオルトは答えた。
「大体、自分の音叉を落としたんだから自分で探せばいいじゃねーか!」
ぶつぶつと独り言のように愚痴を言った。
「もう!何度も言ってるでしょ!落としたんじゃなくて、逃げちゃったの!」
頬を膨らませながら彼女は言った。
「まぁ、黄色いウサギなんて、もうとっくに猛獣に喰われてんじゃないかねぇ・・・」
オルトはあきれた声でそう言った。
「!!え!・・・そんなこと言わないでよぉ・・・。」
と、わざとらしく泣いたふりをし始めた・・・すると・・・
――――グルルルッ ――――
野太いうなり声が上がった。
「・・・あ・・・いや・・・・メノム!・・・・・悪気は無かった・・・無かったから・・・・」
ピンクの髪の女性・・・メノムの背後から緑色の熊がうなりを上げてオルトを睨んでいた
「わかった!わかった!もうちょっと探してやるよ!!」
そう言ってオルトは丘から滑り落ちる様に森へと行ってしまった。
涙をふくように両手で目を押さえ、うつむいたメノムが舌をペロッと出した。
「チョロい!」
含み笑いをしながらつぶやき、「ん~!!ありがと、ドーちゃん!」と緑色の熊に声をかけた。
一拍置いて
「ん~、でもミーちゃんったら、どこへ行ったのでしょう・・・?」
渋い表情で黄色いウサギ「ミーちゃん」を心配した。その時、足元に何かがすり寄る気配を感じた。
・・・黄色いウサギだった・・・・
「あ゛・・・」
一瞬凍り付いたかのような時間が流れた・・・
「・・・オルト・・・怒るかなぁ・・・」
夏の暑い日差しが差し込んでいた・・・。
「ド!」
オルトは緑色の熊を指さし強めの口調で言った。
「レ!」
今度は紫色の蛇を指さして同じ口調で言った。
「ミ!!!!」
さらに強い口調で黄色いウサギを勢いよく指差しそう言った。
「ちゃんとみんな揃ったかなぁ!!あぁ!!」
ひきつった笑みを浮かべながらオルトがぎこちない言葉を放つ、その時・・・
―――バサバサ!――――
青いカラスがオルトの頭にとまった。
「ファーちゃんもいるってさ・・・・」
しれっとメノムが言った。
「・・・・ああ、それは良かったな・・・・」
何とか怒りをこらえる口調でオルトは呟いた。
夕日が辺りを照らし始めていた。
夜になって辺りがざわつき始めた。月は雲に隠れている。
「来るわね・・・」
メノムが呟いた。
「・・ああ、今回の依頼の対象・・・人食い狼・・・」
緊張がオルトを襲う
「だがもう少し北のほうニャ・・・」
少々甲高い声がそう言った。
「ラーちゃん。どんな奴だった?」
メノムが質問する先には、赤色二つの小さな光が見える。赤い目だ。
「にゃぁに、お前らにゃ問題にゃい奴らさ・・・数は多いがニャ・・・」
二人の頭上にある木の枝におとなしく座する、深紅の長い毛並みの猫、ラーが言った。
「じゃあ決まりだ!行くぜ!」
そう言うと同時にオルトが北に向かって走り出した。その先には狼の群れが見えた。
それを確認したオルトが右手を上げた。彼の手首にある二つの銀の腕輪が揺れた。
―――キィィィン!――――
甲高い音が響いた。その音はそのまま音叉が共鳴しているかのように鳴り続く。
「サウンドエレメント!」
オルトの右手から、金属音のような音を含んだ空気の歪みのようなものが見えたかと思うと、目の前にいた狼が何かに切り裂かれた。狼たちは断末魔を上げながら倒れる。
「まだいやがる!」
オルトは残った狼に向け指をパチンと大きく鳴らした。目の前にいた一頭の狼が断末魔を上げる。確認できるのはあと三匹。―――パチン―――再度指を鳴らす。断末魔と共に一匹の狼が倒れた。
あと二匹となったその時メノムが声を出す
「やっちゃいな!ソーちゃん!」
その時、一匹の狼に向かって飛ぶ影が・・・その影は狼の頭を二本の足で掴むと、それを砕き始めた。
そして、もう一匹の狼に向かって
――――ホー!!――――
と、鳴き声を浴びせると、狼は断末魔を上げる間もなく、その音に砕かれるように血まみれになって倒れた
そこには闇に紛れた大きめ体格で、藍色の羽をもつフクロウ、ソがいた。
「おい!今の危なかったろ!」
ソの鳴き声で血まみれになった狼の近くでオルトが抗議した。
「あ~ら、そんなんで死ぬほどヤワじゃないでしょ!」
メノムが上から押さえつけるような言葉を出した。
「・・・あのなぁ・・・・」
オルトはあきらめ気味に呟き、ため息をつくと
「まぁ、これで依頼は達成したから良しとするか・・・」
雲の隙間から出た月を見上げてそう言った
「・・・音は空気の流れじゃ、ただ発した音では岩は砕けぬ。・・・が、魔力を乗せた音は鉄をも断つことができよう。」
老人が講義の中で説明をする。
「・・・そして・・・音は空気のせせらぎなんじゃよ、感情を落ち着かせること、また、感情を昂らせることも可能じゃ。」
続けてそう説明した。
「音とは、万能のものなんですね。」
講義を受けていた生徒がそう言ったのを聞いて老人は笑いながら答える。
「・・・フォッフォッフォ・・・そうじゃな、音は、万能であり、万能でない・・・全てに平等に与えられる力の源なのじゃよ・・・」
老人はそう言うと高らかに笑った。