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King of Sords  作者: カピパラ48世
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第03話 オリオスの厄災

オリオスという街がある。

廃墟と化したその街は、かつて巨人の街として名を馳せていた。


「いい天気ね…」

小高い丘の上にある一軒の小屋の前でシーツを干しているメイド服の女性が言った。

白く長い髪を大きなリボンで後ろに束ねた白い肌の女性。黒い瞳が白の中に映える顔立ちの良い美人だ。

丘から見える街の全貌からは人影は見えない。

「ドルミアー!おなかすいたー!」

小屋の入り口からひょこりと顔を出す少年がいた年端は10歳くらいだろうか金色の短い髪と何よりも深い緑の瞳が印象的だった。

「まぁ、カイトおぼっちゃま、お昼にはまだ早いですわよ。」

ドルミアと呼ばれるメイドは、たしなめるようにそう言った。

「――もう!仕方ないですわね!」

お昼ご飯の支度をしましょう!そう思ったドルミアはシーツを干し終わると踵を返し小屋へと向かう。

まるで草原の中の一軒家なのだが、庭に相当する場所のあちこちに、人型のマネキンのような人形が何体か埋もれていた。その中には服装を身にまとった物もあったが、コケなどが覆っている。

彼女は日常の一部となっているその風景を気にせず小屋へと向かっていった。

小屋の背景に見えるのは、イルエ山脈。その不自然な形も日常の風景だ。

イルエ山脈・・・まるで地形をえぐり取った後にできた形をした山脈・・・。

「・・・お昼は何にします?・・・」

小屋の中から献立の相談の声が聞こえる

「ドルミアの作ったアップルパイが食べたい!!」

ここではゆっくりと日常は過ぎていた。


オリオスは魔人によって壊滅した。

・・・・・100年前・・・・・・・・・

銀の鎧の魔人によって・・・


あの時・・・・

オリオスの街の傍らにある湖から強い光が立ち上がった。

街の人々は神々しいその光に目を奪われた。

だんだんと光が失われいくと、そこには銀の鎧をまとった人影が現れた。

今までとは一転した、しんとした音もない世界を人々は固唾をのんで見守った。

鎧の戦士は街を一瞥した。

「――――!!!!―――――」

音にならない声を上げた。

そして辺りは再度光に包まれた。


「魔は滅ぼさなければならない!」

銀の甲冑を身に纏った男がそう言い切った。

「お前の言う『魔』とはどのようなものだい?」

頭の中に響く声・・・聞き覚えがある声だ。

自分にとっては嫌味な奴、金と銀の入り混じった長髪の男の声だ。

「どういうことだ!」

男は聞き返す。

「お前の言う魔物は、種別が人と違うだけだ。犬のような種もいれば、人やエルフと何ら変わらぬ種もいる・・・」

言い終わるや否や

「決まっている!人に仇なすものだ!」

きっぱりとそう言った。

「我は人々を守りし者!ウェイン!」

強く迷いのない言葉でそう答えた。

その時・・・一つの大きな水晶がひび割れた・・・・


湖から強い光が立ち上がった。

だんだんと光が失われいくと、そこには銀の鎧をまとった人影、ウェインが現れた。

“ここは・・・湖だったのか…”

ウェインは街を見下ろし一瞥した。そして目を疑った。

強い光に集まるように町中の人々が湖の近くに集まってきていた

角のある人間、羽のある人間、おおよそ通常の人間でない人々の群れだった。

ここは亜人が殆どを占める街なのだ。ウェインは愕然とした

“人は・・・人間は・・・生きているのか・・・?”

頭の中をそんな言葉がよぎった。そして体中を嫌悪感がよぎった。

“魔族が人間にしてきたことを許すことはできない・・・”

「――――!!!!―――――」

無意識に音にならない声を上げた。

そして辺りは再度光に包まれた。



小高い丘にある小屋からも光は見えた。

シドは湖から発せられる光に禍々しい雰囲気を感じた。破滅をなす光と・・・強く危険な予感を感じたのだ。

「ドルミア!カイトは!!」

「こちらで寝ています!」

三人のメイド姿の女性の一人が素早く返答をした

「そうか。」

シドは子供部屋に入る。眠そうに目をこすりながらこちらを見る子供・・・カイトがいた。

「・・・パパ・・・どうしたの・・・?」

金髪の少年はシドを見るなりそう言った。シドはそんなカイトをそっと抱き

「・・何でもないさ・・・今日はもうお休み・・・」

静かな声でそう言った。

「・・・ふうん・・・」

カイトはシドの姿に安堵したのか再び眠りについた。

「・・・さよなら・・・オルディアの忘れ形見・・・」

眠りについたカイトを確認し、さらに静かに呟いた。

・・・カイトは亡き妻の連れ子だった・・・・。

シドの目に涙が浮かんだ。ベッドにカイトを置き、両の手を不自然に動かした

「・・・・結界方程式・・・・玉繭・・・・・」

カイトの周りに白く薄い光を放つ壁ができた。赤ん坊ほどの大きさの、まるで繭のような形となったその形を確認するとシドはほっとした。シドの両目からとめどなく涙が出た。

黒く短いパーマがかった髪に、赤い角のようなものが二本生えている・・・彼は亜人だった。

「・・・君はオリオス最後の人間に・・・」

刹那、二回目の光があたりを包んだ・・・・・


強い衝撃と共に建物が半壊し崩れた

「シド様!!」

瓦礫の中からなんとか半身を乗り出したドルミアが叫ぶようにシドの名前を呼んだ

・・・返事はなかった・・・・

ドルミアは瓦礫の隙間から土気色になったシドの手を確認した。

「―――!!―――」

悲しそうに顔をしかめたが涙は出なかった。

“カイトは!”

繭を探した。すると近くの瓦礫からガラガラと動く影が見えた。もう一人のメイド姿の女性が右手で繭を抱えながらがれきの下から出てきた。

「アルテミス・・・・無事だったのね・・・・よかっ・・・・」

その時、とてつもなく大きな感覚がドルミアを襲う。

「・・・まだ・・・生きている魔物がいるのか・・・」

ドルミアの背後に禍々しい覇気を出す銀の鎧姿の戦士ウェインがいた。

「・・・ちぃ!・・・」

ドルミアは振り向きざまに左手で正拳を繰り出した。

―――ガコン!―――

拳はウェインに届く間合いであったにも関わらず、彼の手前で見えない壁のようなものに阻まれた。

そして・・・拳が砕け散った。まるで陶器のように・・・・。

「・・あああっ!!・・・」

ドルミアは叫び声を出しながら後方へとはじけ飛んだ。その体をアルテミスが支える。

「アルテミス・・・ありがとう・・・」

痛みをこらえるかのような口調で彼女に礼を言う・・・と同時に、アルテミスは持っていた繭を半ば強引にドルミアの残った右手に預ける

「――――えっ!――――」

アルテミスは、その勢いのままドルミアを押しのけると両の腕を突き出した。

――――シャリン!――――

・・・陶器が割れる音が聞こえた・・・・

ウェインが拳を放っていた、それを無駄と知りながらもアルテミスは両手で制止しようとしたのだ。

アルテミスの両腕が砕けた・・・が、出血は見られない・・・。

「ゴーレムか!」

ウェインは呟いた。そして拳に力を入れ、さらに腕を砕いていく。それをアルテミスは無表情で堪えようとする。

刹那、メイド姿のもう一人の女性が、ウェインの右側面から飛び蹴りを見舞わせた。

それには流石にウェインも動きを止めたが、鎧を覆う障壁に遮られ蹴りを繰り出していたメイドの足が砕けた。

「・・・ノルン!・・・」

ドルミアがそのメイド姿のゴーレムの名前を呼んだ。

その時、アルテミスとノルンがドルミアに向けて微笑んだ・・・死を悟った聖人の微笑みだった・・・・

・・ドルミアの耳に、“もう私たちの役目は終わったわ・・・・”・・・・と、聞こえるはずのない彼女たちの声が聞こえた。

その微笑みを受けると同時に、ドルミアの右手に抱かれた繭から光が起こった。

“――――なっ!――――”

そして彼女の頭の中に声が響く・・・シドの声だ・・・

“・・・ドルミア・・・・もう一つ式を残しておくよ・・・君の手が式に代入されたときに、このメッセージと、君もカイトと同じく結界に入ってもらう方程式を記録しておいた・・・・。”

“君には僕の忘れ形見を二つお願いするよ・・・カイトと、オルディアの魂を・・・君に・・・・”

そこから先はうまく聞き取れなかった。自分の意識が遠のいていくからか?またはシドの力が尽きてきたのか?それは判らなかった。

アルテミスとノルンの破片の一部がドルミアの体に降りかかる。・・・目に映った最後の記憶は、彼女達・・・アルテミスとノルンが粉々に崩れ去る姿・・・。


・・・・一瞬だった・・・・・彼女にとっては・・・・


ドルミアの眼前には、荒れた荒野が広がっていた。

彼女は目を見開いた。丘から眼下に広がる廃墟となり尚も風化した街、オリオスが見えた。

まるでタイムスリップしたかのような感覚に戸惑いながら、つい先ほどまでの記憶を振り返る

―――確かにあった――――

あの幸せな風景、あの優しい人々の記憶、そして―――あの残酷な情景――――。

泣き出しそうな表情を浮かべるも涙は出ない。悲しみに心が砕けそうになる―――泣けないことがこんなに辛いこととは・・・・ドルミアはゴーレムとしての自分を呪った・・・。

ふと視線を下に向け、自分の右手に視線を移す。

あの時預けられた・・・小さな命を託した繭を複雑な表情を浮かべ見つめた。

「・・・カイト・・・」

確認できるわけではないが、カイトの命がここにあることを確信した。

“・・・君には僕の忘れ形見を二つお願いするよ・・・”

繭をしっかりと抱きしめ、シドの声を思い出し、反芻する。

「・・・そうね・・・シド・・・立ち止まっては・・・駄目・・・ですよね・・・」

寂しそうな声で発した言葉には迷いはなかった・・・。



「ねぇドルミア!どうしてドルミアのアップルパイはこんなに美味しいの?」

カイトの無邪気な笑顔が彼女に質問してきた。

ドルミアは考え込むようなしぐさをしながら一拍置き

「・・・気合・・・・ですかねぇ・・・」

よくわからない返事を返した。

カイトは目をぱちくりさせ彼女を見た。


かつて巨人の街と言われた廃墟オリオスは穏やかな時を過ごしている。

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