第10話 02 イオの村にて
崖に囲われた小さな村、イオ。
50人ほどの小さな集落に数人の男たちが狩りで捕ったであろう獲物をもって帰ってきた。
「あ、お父さん!」
年端は10程だろうか、黒髪の男の子がその男達に気付き声をかける。
「おお!アルよ!元気にしていたかい?」
ひときわ大きな体と全身くまなくある名誉の傷の男は、その少年・・・アルに向かって大きな声をかける
「うん、ちゃんとお父さんの作ってくれた晩ごはんも朝ごはんも、しっかり食べたよ。」
にっこりと返事を返す。
「おお!えらいぞ!」と獲物を放り出し、アルを両手で高く持ち上げる
「・・・まったく・・・親バカだねぇ・・・ザグは・・・」一緒に返ってきた若い男がぼやく
「がはは・・・ヤンよ、お前も自分の子を持てばわかるだろうよ!」
ザグと呼ばれる大男は楽しそうそう言うと
「おお、よくぞこれだけの獲物を取ってきてくれた。感謝するぞ。」
柔和な顔をした老人が言葉をかけてきた。
「村長。わざわざ出迎えに来てくれたのか。」
ザグは年相応に足腰の弱った体を心配し、声をかける
「皆が村の為に狩りをしてくれたのだ、じっとしているわけにもいかんだろうて。」
「早速、皆で分配と加工をお願いしなくてはな・・・」
続けてそう言った。この村イオでは、働けるもので仕事を分担して共同で生活している。その中でザグ達は力仕事や狩りなどの仕事を任されている。
「久しぶりの新鮮な肉だねぇ。腕が鳴るよ。」
若い女性がそう言いながらこちらへ歩いてくる。
「ねぇ、あんた達、その獲物をあっちへ運んで頂戴。」
共同炊事場を指さし、男達に指示をする。「へいへい」と頷きながら男達は彼女の指さした方向へと歩き始めた。
「ラナもすっかり堂に入ってきたなぁ・・・」
少々口角をあげ、ザグが呟いた。
「ねぇ・・・お父さん、『堂』ってなに?」
抱きかかえているアルから疑問の声が来た。
「・・・うーん・・・えっとだなぁ・・・」ザグが言葉を詰まらせる。
「はっはっは!そうじゃな、『堂』というのは、しっかり者になってきたという意味よの。」
高笑いを交えた村長の助け舟にザグが「あ~、そうそう!」と相槌を打つ。
「じゃぁ、ラナおねぇちゃんは、しっかり者だってことなんだね・・・」
嬉々とした声でアルが答えた。
「がはは、そりゃそうだ。」
ザグはそんなアルと村長とにつられて高笑する。
「アルよ、そんなしっかり者のラナお姉ちゃんを手伝ってきてくれるかな?」
村長が優しく促した。
「うん、そうする!」と、元気に答えてザグの手を離れて炊事場の方へと向かっていく
その姿を見送ってから村長が呟くようにザグに問う
「外の様子はどうじゃったかな・・・」
「・・・ああ・・・獲物の数が減ってきた・・・さらに言うと、死骸が多かった・・・」
ザグの返事は小声だった。
「魔物が食料を求めて縄張りを広げ始めているやもしれんな・・・」
村長が呟いた。そして・・・
「・・・リルが生きていれば・・・」と続ける。
「おいおい、ミド・・・」
小さく口早に注意した。リルとは、かつてザグと村長であるミドが共に旅した女性である。彼女は聖なる結界を使用できるほどの高名な神官だったが、数年前に魔物との戦いの末、他界した。確かに彼女なら魔物に対する何かしらの結界をこのイオにも施せるのではないかとも思うが・・・
「そういう弱音は、寿命を縮めるだけだぜ!」とミドを窘めた。
「まぁ、そんな時は、お前さんは村長として村人を頼むぞ。俺は戦士として逃げ道は確保してやるから
な。」
ニカッとした笑みをミドに向けザグはそう言うと、かつて魔法使いとして一緒に戦った仲間である村長の肩に手を乗せ、
「さあ、飯だ、飯!」
はっきりとした声でそう言った。
寒い時期を過ぎたばかりのイオに、まだ冷たい風が吹いていた。
——— 第10話 03 噂話 ——————
街の外では大きな声が木霊している
「その柱はこっちだ!」
「次の資材が届いたぞ!」
街の防壁を増やすための工事をしていた。
「お~い、オルト!それ、そっちに運んでくれ!」
オルト達が拠点にしている地域で一番大きい街ジャッカでの防壁も完成に近づいてきた。
当面の資金も手に入ったことだし、もうそろそろこういう体力勝負の下働きをしなくてもいいかなぁ・・・と思い始めていた。
「まぁ、日雇いだしねぇ。」
そんなことを呟いていると、傍らでヒソヒソと世間話の声が聞こえてきた
「・・・それが・・・始まりの厄災って呼ばれててなぁ・・・」
まただ・・・最近はその名前をよく聞く・・・「始まりの厄災」・・・
「おい!サボってんじゃねーぞ!」
オルトは世間話している二人を注意する。
「おお、オルトか!お前はいつも真面目だなぁ・・・」
調子よい言葉ではぐらかすと
「お前、始まりの厄災って知ってっか?」
と言ってきた。
「ん~、最近耳にするけど、よく知らねぇな」
ぶっきらぼうに答えるも、まぁ興味が無いわけでもない
「ああ、そうか・・・1000年ほど昔、フロールっていう魔女がいてな・・・・」
オルトは暫くこの話を聞くこととなった。
「結局、ゾンビやら魔物やら・・・・そういう奴等が、はびこったって話だろ!」
オルトがぼやきながら仕事を始める。
くだらない話を聞いた・・・そう思いながら、
「まぁ、ここでの仕事も今日で終わりだからなぁ・・・」
そう呟いた。
日暮れ時、オルトがメノムの所へ向かおうとしていると、軽装備の冒険者のような3人の男とすれ違った。
”この時期に冒険者の移動は珍しいな・・・”
戦争が激化してきて冒険者としての仕事が激減してきたので、最近は日雇いを行う冒険者が増えているので、このように冒険者単独で移動する人は少なくなったのだ。
”この街ジャッカは、薬草も毒消し草も栽培しているから、採集の依頼も少ないしねぇ・・・”
そんなことを思いながら、街を後にした。
町はずれの泉の近くに止めてある移動と宿泊を兼ねている馬車に帰ってきた。
幌の上に留まる青い烏がオルトを見下ろすように一瞥した。
「全く愛想の悪い烏だな・・・お前は・・・」
オルトが面倒臭そうに青い烏、ファーに向けて毒づいた。
「ファーちゃんにそんなこと言っちゃダメよ!」
メノムの声が聞こえる。
「そうだなぁ、とりあえず飯にするか。仕事もとりあえずケリつけてきたからなぁ。」
明日からは無職だが、当座の資金は貯めたので、暫くは放浪の旅が出来そうだ。
「じゃあ、今度は海に行きましょ!」
緑色の熊の右手を握りながら、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながらはしゃぐメノム。
それにつられ黄色いうさぎが隣で嬉しそうに飛び跳ねている。
「海か・・・」
オルトは遠くを見上げそう呟いた。




