第10話 01 魔法陣にかける声
青く澄んだ空には眩しいばかりの太陽が輝いている。
「もう!イル様ったら!」
頬を膨らませてタニアは空を見上げた。
羊蹄族の街を攻略するという作戦なのだが、今回はイルとタニアは別行動だ。
「もう、面倒だから、全滅させちゃおうかな!」
速く片をつけてイルに会いたいという気持ちがとても前向きなのだが、物騒な口ぶりを見せるタニアを見て、従者である男がはギョッとする。
「タニア様!イル様の命は、相手戦力の確保ですぞ!」
思わず、現在の使命を口にする。
「んもー!ズィードったら真面目ねぇ!こんなのは不可抗力ってこともありうるのよ!」
更に頬を膨らませてタニアが言う。
「いや・・・どんな不可抗力なんですか・・・・!」
満面に困った表情を浮かべ従者の男ズィードは情けない声を上げる。
今回の敵はオークの群れだ。先日まではそれほど目立った行動はなかったが、あの時・・・魔物たちの理性が無くなった時から、暴れて手が付けれない状態となってしまったのだ。
ちなみにイルの向かった先はそのオークに襲われ続けている羊蹄族の街だ。
オークをどうにかするから、従えという交渉をする作戦だ。
「八華炎舞」
タニアがそう唱えると大きな八角形の魔方陣、そして魔方陣の角となる八か所に子供ほどの背丈の八角形の魔方陣が現れ、幾つもの火の弾がそこから放たれた。夜の闇に赤々と炎の軌跡が見える。そしてそれは前回の獣人の時よりも大きく強い炎だった。
「ちょ!!タニア殿!!これでは本当に相手方が全滅してしまいます!!!」
爆風による少々強い風に耐えながらズィードが声を上げる。
「だって全滅させようとしてるからねぇ」
さらりと答えるタニアにズィードはさらに声を出す。
「イル様に・・・・イル様に言いつけますよ!!」
その言葉を聞きタニアが口元に手を当て気まずい表情になった。
「いや!それはやめて!!」
叱られた大型犬の様にシュンとしてタニアは言った。
「仕方ないわねぇ・・・じゃあ、この魔法はやめるわ!」
ん-と・・・という感じにタニアが炎をやめ、魔方陣を消す。
どの魔法にしようか・・・そう考えていると、ふと自分の師匠だった彼女の得意な属性を思い出した。
「そうね・・・あれにするわ。」
そう言うと同時に両手を空にかざす。
炎が止まったことでオークがかなりの勢いでこちらに向け進軍してくる。
兵士たちは思わず後ずさる。
そんなとき・・・
「みゅ~!」
気の抜けたタニアの声に驚きズィードがタニアを見た。
すると、空にうっすらとした光が差した
「えっ!」
空を見上げたズィードが見たものは、大きな八角形の雪の結晶をかたどった魔方陣だった。
その美しさに目を引かれ、言葉を失ったその時・・・
「氷の雨!」
・・・とタニアの声が聞こえ、魔方陣から無数の鏃のような細かい氷の結晶がオークの群れに降り注がれる。
断末魔にも似たオークの声が辺りに響く。
一瞬の出来事だった・・・今までこちらに攻め立てようとしたオークの群れが血まみれになって地面に転げていた。オーク共の呻き声が辺りに聞こえた。
「タ・・・タニア殿・・・」
ひきつった声でズィードはタニアを呼んだ
「何よ!一匹も殺しちゃいないわよ!!」
そう言うと、大きく息を吸い、
「伏せ!!!」
と倒れ唸っているオークに向けてまるでペットの犬にでも言う様に大きく凛とした声で命令をし、
「殺されたくなかったら、私に従え!!」
凛とした声と同時にオークに向け同じ言葉の思念を送る。
オークの群れはその声に、思念におののき、逆らうことをやめた。
タニアはオークの群れを殺すことなく従わせ、イルの元へ向かうことにした。
「流石ですタニア殿!イル様もお喜びになると思いますぞ!」
ズィードは興奮気味にタニアを称賛する。
「えへへへ・・・」
子供のように屈託のない笑顔を浮かべ、タニアは喜ぶ。
「イル様~!今行きますわ!」
意気揚々とした声が響いた。




