第09話 13 母という呼び名
闇に潜む温もり
闇に抱擁される安寧
闇より受けし
夜のやすらぎ
フェルムトリア戦記 母 より
ヴォルザードは右手でシルフィーネの背中を押さえ、落下する。
”そのまま地面のぶつけても彼女の頑丈さではダメージはないな・・・”
最後の魔力を右手に込めた。
「最後だ!!」
叫びながら魔力を込め地面へとシルフィーネを・・・
ドオオオォォォンという大きな地響きと共に着地をした。
ヴォルザードはうまく着地できずに地面に転げ、何とか地面に転がった状態で上体を起こすと、蜘蛛の巣のようにひびの生えた地面の中心にいるシルフィーネを見た。
自分も力を使い果たして動けないが、彼女はピクリとも動かない。
「・・・やっと・・・勝つことが・・・」
そう呟いた時、シルフィーネに動きがあった。
ピクリと右手が動くも、上腕の健が切れているので、そちらでは大きな動きができないのか、反対の左手に変更し体を支え上体を起こし始めた。
「・・・まったく・・・ホントに負けず嫌いですね・・・」
ヴォルザードは苦笑いする。
血まみれになった彼女はゆっくりと立ち上がり呼吸を整えると、そのままゆっくりとヴォルザードに歩を進める。
左手にも力が入らないのか、ネクロマンサーがその握る左手から離れ、乾いた音を響かせ地面に落ちた。
それでもフラフラと、ゆっくりとヴォルザードに近寄ってくる。
体力切れ、魔力切れのヴォルザードは力を入れ立ち上がろうとしたが、力なく崩れ尻もちをついた。
「・・・ぐうぅ・・・」
ヴォルザードは唸った。
‘もうあなたは血まみれではないか・・・もうフラフラではないか・・・何が貴方をここまで動かすのか・・・’
とうとうシルフィーネはヴォルザードの目前までたどり着く。そして立ち止まった。
シルフィーネは強い眼差しで、ヴォルザードを見下ろす。
短い時間二人はそのままの姿勢で動かなかった。
その緊迫をヴォルザードが破る
「シルフィーネ・・・あなたは・・・」
そう言葉を出そうとした刹那・・・シルフィーネが立ち崩れ、ヴォルザードに覆いかぶさるように倒れる、そのシルフィーネを抱き留める様に受け止める。
すると・・・囁くようにヴォルザードに耳打ちする。
「・・・麒麟・・・を・・・神獣を、・・・一撃で・・・屠るなんて・・・ね・・・・」
ゆっくりと囁き始めた。
「・・・あなた・・・は・・・強い・・・の・・ね・・・」
その言葉を聞き・・・ヴォルザードは子供の頃の記憶が蘇った。初めて彼女・・・シルフィーネと出会った日のことを・・・
ヴォルザードは上体を起こし、まるで・・・大切なものを扱う様に丁寧に・・・力なく寄りかかるシルフィーネを抱きかかえると、堪えるような表情をして返事をする
「あなたは・・・あなたは、弱いの・・・ですか?」
子供のころの記憶が蘇る・・・姉のように、家族のように・・・師匠として・・・そして・・・
そんな感慨に浸っているヴォルザードを見て、シルフィーネは小さく口角を上げる・・・
「・・・フフフ・・・そう・・・ね・・・強くは・・・ない・・わ・・・」
あの頃と同じ答えを静かに返す。
そう・・・あの日から・・・
・・・あの時から闇を感じていた・・・
安心して眠れる夜を・・・
「なら・・・なら・・、俺が・・・強くなる・・・よ・・・。」
ヴォルザードは目を潤ませながら、あの頃と違う返事を返し、強くシルフィーネを抱きしめた。動けないシルフィーネはただ体を預けヴォルザードの耳元で呟くように小さな声で言う
「・・・フフフッ・・・そうね・・・でも・・・今回も・・・ちょっ・・・と・・・油断・・・しちゃっ・・・・・」
その言葉を言い切る前に、シルフィーネの体が、まるで糸の切れた操り人形のようにガクっと崩れ、小さな寝息を立て始めた。その姿を確認すると、ヴォルザードは大きくため息をついた。
「・・・負けましたよ・・・あなたには・・・」
清々しい表情だった。
「まったく・・・破天荒な、母さんだよ・・・」
そう呟き感慨に浸ろうとしたその時、ヴォルザードは不意に自身が前に引っ張られるのに気付いた。
自分の襟首を力なく握り、ひ弱ではあるが、今出せるいっぱいの力で引き寄せているか弱い腕が見える。
「えっ!」
思わず声を上げると
「・・・言いなさいよ!・・・」
と、声が聞こえた。
見ると、先程気を失ったはずのシルフィーネが、恥ずかしそうに期待の込めた瞳でこちらを睨んでいる。
「・・・な、なにを・・・」
ヴォルザードは思わず聞き返す
「もう一度『お母さん』って、言いなさいよ!」
眠いのか、少々たどたどしい言葉を放った。
ヴォルザードは、しんみりした雰囲気を崩され、苦笑いすると、少々時間を置き
「言いません!」
と、はっきりした口調で返した。
「なに・・・よ・・ケチ!!」
ケチという言葉ははっきりとした発音だったが、それを言い放つと、往生際悪く何か呪文のように愚痴を言いながら眠りについた。
呆れた表情でその一部始終をを眺め、再び眠りについたのを確認すると
「・・・プッ・・・アハハ・・」
と笑いが込み上げてきた。
「・・・まったく・・・あなたはとんでもない人ですよ・・・」
笑いながらそう言うと
「シルフィーネ!」
自分にとって唯一無二の存在であるシルフィーネという名前をはっきりと呟いた。
再度挿絵差し替えました
ちょっと修正しました




