第02話追記 炎の山ザリウ
かつてジルオニア山脈にあるザリウという山は『炎の山』と言われた。
山の中腹より山頂に向かい炎が立ち生物の侵入を妨げていた。
その炎の中心で人影ほどある水晶の柱の傍らに、女性がいた。
黒くまっすぐな髪、黒い服装、山羊のような白い角、黒い瞳の中にある明るいオレンジの瞳孔。
彼女は同じ言葉を繰り返しながら赤い目で・・・悲しみの眼差しで水晶を見つめる。
目からは炎の涙が溢れていた・・・・・。流れる炎はザリウを囲い、ザリウは炎の山となっていた。
彼女の名は、ヴォルケーナ。かつて炎の魔女と言われた女性・・・。
「・・・ヨルド様・・・・ヨルド様・・・・」
同じ言葉を繰り返す、彼が封印された日より二百有余年を超えていた。
「・・・ヨルド様・・・」
・・・あの頃のように・・・。
ただ言葉をかけてほしかった。ただ褒めてほしかった。ただ微笑みかけてもらいたかった・・・。
寂しさと不安のこもった言葉はただひたすらと続いた・・・。
幾年かの月日が流れるも、ヴォルケーナはヨルドが封印されている水晶の傍らにて炎の涙を流し続けた。
刹那・・・一筋の光を放ち水晶にひびが入り、それを皮切りに光の筋が水晶を砕き始めた。
「・・・あ・・・・あああ・・・・」
彼女は焦りを露わにし、言葉にならない唸りのような声を出した。
“水晶と同じくヨルドが粉々に砕けてしまうのでは!”という不安が体中を襲った
「・・・あああ!!・・・・」
必死で砕け始めた水晶のその破壊を止めるべく彼女は水晶を押さえた。
「・・・ヨルド様!!・・・・あああ!・・・・ヨルド様!!!・・・」
“私を置いて行かないで!!”
ずっと忘れていた。ヨルドの名前以外の言葉を心の中で叫んだ。
その甲斐も虚しく、ガラガラと音をたて水晶は粉々に砕けてしまった。彼女の心と共に・・・。
ヴォルケーナは両の手をつき呆然と地面を見た。彼女の心の支えが消えてしまった瞬間だった。
「・・・私を・・・・私を一人にしないで・・・」
泣きながら、絞り出すかのように言葉を出した
「・・・そう・・・だな・・・・」
遠い昔に聞いた声がヴォルケーナに聞こえた・・・。
自分の頭に、掌が添えられた。ヴォルケーナは固唾をのんだ・・・・・。
―――そして、理解した―――――
「・・・・あ・・・・あああ・・・・・」
言葉にならないそのうなり声は、心なしかうわずっていた。そしてとめどなく炎の涙が溢れ出た。今までとは全く違った感情で・・・彼女はゆっくりと顔をあげ、自分が呼び続けてきた男の姿を見た
「・・・ただいま・・・・だ・・・。」
少々うわずった声でヨルドはそう言った。
「・・・は・・・はい・・・」
ヴォルケーナは泣きながら、小さく、恭しくそう言った。・・・そして・・・
親の帰りを待って泣き出したかのようなくしゃくしゃの表情となったヴォルケーナが、炎の涙を出しながらヨルドにしがみつき、
「・・・ヨルド様・・・」
包まれるような安堵の声でそう呟いた・・・。
ヨルドは城の外に目をやった。透き通った青空が目の前に広がっていた。
「どうなされました?ヨルド様・・・。」
隣でお茶と焼き菓子を用意しているヴァーナが尋ねた。
「いや、何でもない・・・昔を懐かしんだだけさ・・・。」
そう言って振り返った。
かつて炎の山と称されたザリウは静かな時を刻んでいる・・・・。




