第09話 09 断ち切られる糸
「観念しろ・・・・」
ヴォルザードが低い声で言い放つ
「シルフィーネ!」
そして師匠の名を呼んだ
「・・・嫌よ!!」
地面に倒れながらシルフィーネが言葉を出した。声に力は無かったが、息は前よりは整ってきたようだ。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・まだ・・・観念し・・・ない・・・」
今度は左手で地面をつき、ゆっくりと起き上がる・・・
「まったく諦めが悪いですね。」
そう言うとシャイニングブレイドからバチバチと電撃が起こる。
シルフィーネは苦笑いした。もうすでに避けれる状態ではない。
「それにしても、相変わらず頑丈ですね。通常なら腕は切り落とされるほどの勢いで切りかかったんですけどねぇ。」
ヴォルザードの呆れた声が聞こえた。
「・・・はぁ・・・あら・・・あんまり・・・じゃない。・・・はぁ・・・はぁ・・・まるで・・鉄かなんかの・・・例えよね!・・・乙女の・・・柔・・肌なん・・だからね!」
シルフィーネはまだ息をつきながら反論した。
その反論にヴォルザードはさらに呆れたが、この状態でも冗談が言えるシルフィーネに感心した。
「ネクロマンサー!!」
シルフィーネが叫ぶようにかすれた声を上げると、先ほど弾き飛ばされた剣ネクロマンサーがシルフィーネの左手をめがけて飛んでくる
いくら疲弊が激しいといっても武器を持たせては厄介だとヴォルザードはシャイニングソードを振り雷撃を走らせた。
ネクロマンサーは・・・まにあわない。
眩い光がシルフィーネに襲いかかる。
バシィッ!!
と強い音が響く。と、同時に辺りに強い水しぶきが起こった。
また水蒸気が上がり、暫くして霧は晴れた。
水蒸気の霧が晴れると、地面にへばりつくように倒れているシルフィーネが現れた。
ゼイゼイと激しく息を切らせながらヴォルザードを凝視する。
”まただ・・・”
また、シルフィーネを先頭に地面に流星のようなえぐれた跡がついている
「・・・なにを・・・したのですか・・・」
ヴォルザードは純粋に知りたくて質問する。
シルフィーネは疲弊した体を左手を支えに少し起こし、口を動かすも息切れが激しく言葉は出ない・・・が、動いた唇から
”お・し・え・た・げ・な・い”
とはっきりと見て取れた。
ヴォルザードに剣に再びバチバチと雷撃の兆しが現れた。
「・・やば・・・い・・わ・・・ねぇ・・・」
今度は対応できないかもとシルフィーネは呟く。
その時・・・シルフィーネの左手薬指から光が起こった。
「・・・!!・・・」
シルフィーネにもこれは予想できなかった。
「な・・・なんだ!!」
思わずヴォルザードも声を上げた。
いきなり左手から放たれた光はシルフィーネを包み、上空に散るがごとしキラキラと輝いた。
「!!」
ヴォルザードは光が固定されたことに気付く、そしてその光はシルフィーネの体から細く何本の糸のような姿をし、雨降る天空へと繋がっている。これは・・・いや、この光の魔力は・・・
「レオンさんの魔力・・・」
この状況で発動し、攻撃するわけでなく、守るわけでもなく、ただこの糸のような光を見せる為だけの力・・・。
光の先・・・天空の雲が晴れた・・・いや・・・雨はまだ降っている・・・これは・・・
雲の先にいる何かが見える。
「あれは・・・」
透明になった雲の先に見えるのは、光り輝く大蛇にような体つきの生物だった。
「大蛇・・・いや・・・龍か。」
ヴォルザードのその声に
「違うわね・・・・麒麟よ・・・」
シルフィーネはか細い声で否定する。
「麒麟・・・だと!」
それは神獣だ、なぜこんなところに・・・
「どういうことだ・・・」
ヴォルザードがシルフィーネに詰め寄る。シルフィーネは薄笑みを浮かべ黙る。
その時・・・左の薬指の光がヴォルザードに目掛け走った。
「!!」
ヴォルザードの脳裏にメッセージのようなイメージが割り込んでくる。そのメッセージの主は、
「・・・レオンさん・・・」
ヴォルザードの呟きに、シルフィーネがしかめっ面になった。
「・・ちょ・・・ちょっと・・・」
息を切らせ、文句を始める
「・・・なんで・・わたしは・・呼び捨てなのに・・・レオン・・は、「さん」付け・・・なの!」
ヴォルザードは思わず素っ頓狂な表情をし、苦笑いをすると
「論点はそこなんですか・・・」
呆れた口調で返事をした。
そして・・・
「レオンさんからのメッセージを聞きました。」
その言葉を聞くとシルフィーネは目を横にそらし憎たらしそうに呟く
「レオンめ・・・」
同時にヴォルザードが剣を構える。
「その糸のような光が結界へ供給しているあなたの力なのですね。」
シルフィーネは静かに笑い、口を開く
「・・・そうね・・・そこ・・・は・・観念する・・・わ。」
悔しそうな口調で更に続ける
「・・・一撃で・・・仕留めなさい・・・あれも・・神獣と、呼ばれる者よ・・・二撃目の隙は・・・くれない・・・わよ・・・」
「ああ・・・そうするよ。」
短く返答し、シルフィーネから立ち上る光の糸を断ち切る。と同時に一瞬で雲がなくなり、降り続いていた雨が止んだ。
まるでガラス細工が砕けるような音が辺りに木霊すると、シルフィーネの体が軽くなり。一瞬ふわりと浮き上がり地面へと落ちる。
「・・・きゃん!」
地面に落ちた時にあげた声が合図のようにヴォルザードが地面を蹴った。
同時に麒麟がシルフィーネを見つける
「そこにいたのか!!忌まわしいセレンめ!!」
地鳴りのような声が辺りに響き、それを皮切りにシルフィーネに向け一直線に下降し始める。
速い!そして雷とも光ともとれるその光線が放たれる。
「我が頭上に七つ星」
シルフィーネが呟くように詠唱する。
麒麟とヴォルザードのちょうど中間ほどの距離に先ほど見たものと同じ七つの光が現れ、麒麟の放たれた光は二つの星に吸い込まれ、破裂するように消滅した。
それと同時にヴォルザードが詠唱を始める
「聖なる刃に在りしその姿、我が呼び声に応えよ。」
ヴォルザードが唱えるとシャイニングブレイドが光を纏い、光は実態を形作り姿を見せる
「聖なる大槌」
大槌となったシャイニングブレイドを下から大きく麒麟に向け振り上げる。
大きな音と共に、巨大な光の渦が立ち上がる
ドオオオォォォンと大きな音と共に、シルフィーネの傍らへ金色の長い胴体が地面へと落下する・・その首は無かった。シルフィーネはゆっくりとその金色の鱗に触れる。
「残念だったわね・・・来妙・・・。」
小さな声で、麒麟の名を呼んだ・・・すると、キラキラと細かい光となり麒麟は消え始める。
「あなたも・・・輪廻の輪に入りなさい・・・」
静かに優しく言葉を紡いだ。
強く踏みしめる音と共にヴォルザードが地面へと着地する。
シルフィーネはゆっくりと立ち上がりそちらを向き、ヴォルザードに向けネクロマンサーを持つ左手を差し伸べた
「さあ・・・」
低い声色でゆっくりと・・・
「決着をつけようかねぇ・・・。」
雨は既に上がり、雲間から光が差し込んでいた




