第08話 03 獣人の街
「おお、街が見えてきたぞ」
長身でブラウンの短髪のパドスが嬉々とした声を上げた。
「やっと着いたのか・・・何かうまいものあるかなぁ・・・」
小柄でパーマがかった腰までの黒い長髪のオルフィドがそう言った
「街に入るときは宙を飛ばないようにね。ちゃんと地面を歩くんだよ!」
パドスはオルフィドに言い聞かすように言った。
「ハイハイ」
面倒臭そうにオルフィドは返事する。パドスは少々不安に思ったが、とりあえず今回はその気持ちを吞み込むことにした。
「聞いた話によると獣人の街らしい。」
街の知識を確認し始める。知らないことが多いよりも知っていることが多ければ、何かと対処が速いというのがパドスの考え方なのだ。
「あと、戦争も始まって、みんな気が立ってるから、無駄な挑発めいたことはしないこと!!」
これはとても重要で、オルフィドの一番心配なところだ。
「わかってるよ!!」
またもや面倒臭そうに返事をする。
”こいつ、本当に分かってるんだろうか?”
パドスは一抹の不安を感じた。
混沌の契約
パドスとオルフィドに交わされた悪魔の契約。何をもって終了とするのかわからぬ契約。
その証として、オルフィドのお腹に謎のリング、これはパドスから離れようとすると締め付けるように小さくなり、オルフィドを苦しめる。距離が離れるだけには反応せず、オルフィドがパドスから別れようとするなどで離れるときには反応し距離に応じて締め付ける。
また、パドスは右手がどす黒く変色し、感覚がなくなってしまった。動かすには支障ないのだが、見た目はあまり良くないので、今は黒い手袋をしている。
街に入った二人は獣人ばかりの雰囲気に吞まれそうだった
「最近は、人間の国と同盟を結んだらしい。」
街に来る前にいろんな旅人から情報を仕入れていたパドスは、聞いた情報と相違ないかキョロキョロと確認しながらオルフィドに言った。
「しかし、お前の情報だと、魔族と人間どもが戦争し始めたというばかりだというのに、なぜ人間と同盟を結んだというのだ?」
腑に落ちないとばかりにオルフィドが呟いた。
確かに、獣人と言えば魔族寄りな気がするが・・・パドスもそれは気になっていた。
すると・・・町の中心部の方から活気のある声が聞こえてきた
「イル様~!」
「イル殿!」
誰かを称える声が聞こえてくるのだ。
「あれは・・・?」
近くにいた獣人にパドスが聞いた。
「ああ、なんだお前はイル様を知らないのか?」
怪訝な顔をして答えてきた
「あ・・・ああ、そうだな、俺たちは今日この街についた旅人なんでな。」
パドスが答えると、「しょうがねぇなぁー」と呟きながら頭を搔き
「あの中央広場の中心におられる方はイルグド・モルベス様つってな、戦争に巻き込まれたこの獣人の街を助けてくれた御方だ。」
と誇らしげに答えた。見ると中央広場とおぼしき人だかりの中央に紅い鎧を纏った好青年がいた。
「凄い人なんだな。」
パドスが感心して言うと獣人は
「そりゃそうよ!我らを押し付けていたリザードマンの軍を撤退させたんだからなぁ!」
更に誇らしげに答えた。これ以上話を広げると面倒臭そうだったので、「そうか、ありがとう」と礼を言ってその獣人から離れた。
「オルフ、どうも今はこの街は平和らし・・・」
オルフィドに現状を説明しようとして振り返ると、そこには顔を真っ青にしたオルフィドがいた。
「ど・・・どうしたオルフ、体調でも悪いのか?」
慌ててオルフィドの額に手を当て熱を測った。
冷たかった・・・なんというのか、完全に血の気が引いている
「・・・やばい・・・」
「・・・ん・・・?」
呟くオルフィドにパドスはその視線の先を見た。
広場の中央にいるイルグド皇子の隣に黒いドレスを着た女性が目に写った。
「あの女・・・やばい・・・・」
怯えるオルフィドと対比しながら女性を見る
「かなりの美人とは思うが、何がやばいんだ?・・・ん?」
パドスは何か違和感を感じた。なんというか・・・確信は持てないが、「目が合った!」と思った。
そして一瞬の瞬きの間に忽然と女性の姿が消えた。
「えっ!」
思わず声を出したその時
「あら・・・こんなところに生粋な魔族がいるなんて。」
声は後ろから聞こえた。




