Prologue
※数年前に投稿していたSTEPをいじくった物です。
星野耀子
それは、今から10数年前に一世を風靡した、大人気女優。
多くの連続ドラマと映画に出演し、主演を務めた作品ではその演技から、稀代の名女優とも揶揄されていた。また、その美貌からドラマ以外にもCM出演のオファーが殺到し、年間のCM女王にも選ばれていた。
端正なルックスに一糸纏わぬプロポーションは多くの視聴者を釘付けにする。人生初めてのグラビアの写真集も、瞬く間に重版決定となり出版社に嬉しい悲鳴を出させたこともある。
この頃、夜に放送されるドラマには大体出演していた。さすがに同クールで複数のドラマに出ていることはなかったが、年間を通して主演からキーパーソンとなる役柄を演じ、お茶の間の虜と化していた。
俺も当時はその1人に過ぎなかった。
テレビのゴールデンタイムと言われる時間がやってくると、真っ先にテレビのリモコンを手に取り、星野耀子が出演しているドラマに視線を注がせていた。
欠かさず、彼女が出演していたドラマや映画は見ていたと自負しても良いくらい。
俺は彼女に夢中だった。
迫真の演技を見るのが楽しみだった。演技なのかと思うくらい、思い詰めた表情で演じるのがとても印象に残った。
自宅では見ることができない、画面越しでしか見えないその表情がとても好きだった。
・・・しかし、それはあくまでドラマや映画で役を演じる彼女であって、芸能界という世界で躍動する彼女に嫌悪感を抱いていた。
今から10年前、いつものように撮影スケジュールを消化しようとしていた頃だった。
持病が発覚し余命宣告を受けていたことを家族や関係者に隠したまま、撮影現場の移動中に彼女は突然倒れた。搬送先の病院で死亡が確認された。
『急性心不全』
享年38歳
このニュースが報道されると、各テレビ局のニュース番組は一斉にこの話題を速報として取り上げた。
現在の芸能界を席巻していた女優の突然の死を、司会者は話題の種としてどんどん花を咲かせていった。
突然の訃報と同時に、彼女には二人の子どもがいたことが明かされた。
生前は結婚はおろか、熱愛報道やスキャンダルなど一切リークされることなく、結婚適齢期を過ぎても尚、独身女優最後の砦と日本中のファンから言われていた。
当然、この報道がでるとインターネットやSNSでは様々な憶測が飛び交う。
父親は誰なのか、子どもの年齢や名前、通っているであろう学校の所在地など。
情報化社会が発達し、『特定班』と呼ばれるネット狂が隅から隅まで調べ尽くすのが、至極当然の事だった。
結局は、自宅に子どもや父親の特定まではならなかったが、何よりも話題となったのは持病を隠し、無理を通して撮影に臨んでいた彼女の生き様と、それを察知できなかった所属事務所の弾劾がしばらく世間を賑わせていた。
俺、生野耀平は彼女の死について何も知らないまま、真相を受け入れるしかなかった。
知りたいとも思わないし、知ったところで彼女はもう戻って来ない。
ただ、自分の身体を犠牲にしてまでやらなければいけなかったのか。
限界がきて倒れるまで、演技という物に熱を入れなければならなかったのか。
母さんは一体何を考えて、女優という肩書きに執着していたのだろうか。
星野耀子の死後、俺はドラマや映画などを見ることはなかった。
自己満足で投稿しています。読みにくいとか情景描写がいまいちとか言われても、どうしようもないので悪しからず。