プロローグ1 化け物から獣へ
初めての作品です。獣化と二重人格大好きな作者の趣味丸出しですが、どうかよろしくお願いします。
――――私は、闇。
あなたはナニ?
そう言った少女の声が、今でも頭中に響く。
それより以前の記憶はほとんど消去されたためよく覚えていないが、これだけは言える。この声が無ければ俺は未だに《光》に自由を奪われ、ただ暴れ、叫び、ありとあらゆる破壊を尽くしていた。
今も厳密に言えば――というか一目見れば分かるのだが――自由には程遠いのだが、少なくとも精神的には圧倒的に解放されている。
だが、染み込んだ血の匂いは未だこの手から、いや体中から消えない。当たり前だ。血を浴びて生きているのは今も同じ。いや、もしかしたら前より増えたかもしれない。だがそんなことは関係なかった。
その時までの俺は自分が何者なのかさえ分からない、ただの……化け物だった。だが今は違う。まず、名がある。彼女が付けた名が。
「月影」
鉄格子の向こう側にしゃがみ込む彼女が俺を呼んだ。手にはリードが握られ、その先端は俺の首にかけられた、センスのかけらもない灰色の首輪に通じている。
別に気に入っていない訳じゃない。いや、むしろ今の俺には必須の物だ。元がホームセンターで買った700円消費税込みの安物だろうと、そんな些細な事は問題でなかった。大事なのはそれにかけられた《呪》だ。
これさえあれば、俺は心置きなく彼女に忠誠を誓っていられる。心の肝心な部分を制御されるからもう暴走する心配はないし、余計な事、例えば人間だった時の事などを思い出さずに済む。戻りたいと思うことは前からあまりなかったが、今では完全に消え失せた。これで、いいんだ。
地面にふせっていた俺は頭だけを起こし、要求通り彼女が差し出した手を舐めた。
「いい子ね、月影」
彼女のもう片方の手が俺を撫でるたび、頭がぼうっとなってややこしい事が考えられなくなるのが分かる。だが俺は特に抵抗する事なく、そのまま目を閉じた。そして、全てが闇に包まれる。
名前。そういや昔も持っていた気がする。何だったか。まあ、いいや。
感想、意見、文字の間違い指摘等お待ちしております。ああ、無事続けられるだろうか……頑張ります。