くうふくの毎日
毎日の奉仕活動。今日は畑を耕す作業だ。
そうは言っても子供の力。うまく深くまで耕せないので、できる野菜も小さく不格好になる。
あのスープをこぼされた日から1週間経った。別にその日だけじゃなく、毎日ご飯は足りてない。孤児院は戦争の後から子供は増えたが、寄付金も食料もまったく足りていない。
戦争で大人たちはたくさん死んでしまい、畑を耕そうにも、家畜を飼おうにも、漁に出ようにもどこも人手が足りない。
結果戦後の復興がまったくといって進んでいないのがこの国の、いやこの世界の現状だ。
餓死しないだけマシ、そう思いながら毎日ぎりぎりでみんな生きてる。
私はおまけに味を占めたクストンのおかげで、毎日何かしらご飯がないのと、シスターカレンの嫌がらせによりご飯を抜かれることがあるが…。
「たまにはお腹いっぱい食べたいなぁ…」
飽食の時代と言われた日本でお腹いっぱい食べた事のある記憶が常に空腹の今の自分を苛む。
「子供のころだってお父さんがお腹いっぱい食べさせてくれたもんなぁ」
周りに人がいなければ、自然と独り言も増えた。
何故ならリリはほぼ1人で奉仕活動をするからだ。リリと同じ場所の当番になるとたとえサボったとしても怒られるのはリリだ。何故かそうなるのだ。
ならば空腹を推して肉体労働をするなどバカバカしいと子供だって知ってるのだ。時に子供は大人より残酷で薄情なのだから。
重いクワを持ち上げ何度も地面を掘り返し、息切れをしながら作業を続ける。今にも雪が降りそうな極寒の曇り空の下、額に浮かんだ汗を袖で拭う。
もう腕も上がらないほどふらふらになる頃、ようやく作業終了の鐘が鳴った。
尻餅を着くように座り込んだ所で人影がこちらに歩いてくるのが見えた。
どうせいつものシスターカレンだろう。まったく終わっていない作業を叱責するために来たに違いない。
今から憂鬱な気分になり、ヨロヨロと立ち上がる。
「まぁいつもより短かったけどさぁ…」
シスターカレンのお説教という名のストレス発散は思ったより短かった。
どうやら院長が私を呼んでいるらしく、しっかり食事の時間がなくなるように怒鳴りつけてくれた。色々通り越してもうお腹すら鳴らない。
「本気で餓死させる気じゃないよね?」
人気のない廊下を歩きながら、そろそろ心配になってきたことを口にした。枯れ枝のような手足を動かし院長室へ向かう。
ふらふらする体、魔物のような赤い目、終戦直後のろくでもない世界。
これは罰なのだろうか?
優しいお父さんに八つ当たりして悲しませて、先に死んだ私への神様からの罰。
もしそうなら、私はこの世界で一体何をすれば許されるのだろうか?
いつの間にか到着した院長室の扉を見上げながら漠然と考えていた。
ーーーーコンコン
ノックの音だけが静かな廊下に木霊した。
クワってめちゃくちゃ重いですよね。
あんなに先っぽに鉄の塊ついてたら、子供なんて持ち上げたらそのまま後ろにコロンですよ。
稗田八方斎かよ(アニメネタすみません)