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だいすきなお父さん


 もったいない…。

 空腹のリリは床の染みになったスープを見つめる。

 リリが受け取る前にわざと手を離した男の子の名前はクストン。基本的に意地悪な性格で、今もイタズラの成功にご満悦。ニヤニヤと笑っている。


「あらあら、大丈夫?クストン、気をつけなきゃだめですよ」


 院長だけが声をかけにくる。他の子供たちやシスターたちは関わりたくないとばかりに知らんぷりだ。


「しょうがないわね。リリ、ごめんなさいね。もうスープはないの。パンだけになってしまうけど、我慢できるかしら?」

「……はい」


 スープはない、か。

 リリの院長に対する違和感は間違ってなかったのかもしれない。

 スープはない。作っていたお鍋には。

 ここは教会だ。ご飯を食べる前には必ず祈りの時間が入る。つまりスープはまだそれぞれのお皿にはしっかり入っているのだ。

 やさしい人なら、本当にやさしい人なら少しずつとって分けるなり、明らかにわざとこぼしているクストンから取るなり、それこそ自分の分を分けるなりするのではないだろうか?

 許してあげて?我慢できる?すべてリリへ我慢を要求する。言葉では味方のように振る舞いその実、特に対策もフォローもしない。

 

(こういう人って『八方美人』って言うんだっけ?違うっけ?)


 リリはかつて生きていた世界での言葉を思い出していた。


 日本。

 この世界より断然平和だけど、日常に細かな不満を抱きながら生活していた。

 お金がない。

 仕事がきつい。

 税金取られすぎ!

 それでも幸せだった。たった1人の家族、お父さんがいたから…。

 いつも優しくて、笑顔で。それでも私が悪さをしたら厳しく叱ってくれた。反発して喧嘩しても、必ず私の大好きなドーナツを作ってくれて、その日のうちに仲直りさせてくれた。

 小さい頃に死んでしまったお母さんの分まで、私を一生懸命育ててくれた大好きなお父さん…。

 貧しかったけれど仕事も家のことも、たった1人で頑張ってくれた。お金がなくてご飯がない時は、お父さんはお腹いっぱいだからって、私にご飯をくれたんだ。

 だから大人になったらいっぱい働いてお父さんをいっぱい助けてあげるって、子供のころからお父さんにたくさん言ってたんだ。

 その度にお父さん、楽しみにしてるなって笑ってくれた。


 あの日もいつも通りの日だったんだ。

 仕事で疲れて帰ってきて、頭が疲労でぐらぐらしてて、すぐ寝たかったの。

 お父さんが先に帰ってきてて、夕飯作ってくれてたんだ。大好きなからあげだった。

 でも疲れてたんだ。寝かせてってぶっきらぼうに言っちゃって、そしたら今の仕事辞めてもいいんじゃないか?ってさ。

 その通りだったんだ。だけど、お父さんの助けになるためにやってるのに、なんで私の気持ち分かってくれないのって勝手に頭に血がのぼってさ。言っちゃったんだ。

 誰のために頑張ってると思ってるの?って。

 そんなのお父さんには関係ないよ、私が勝手に言ってたの。それを私はお父さんに責任を押し付けたんだ。傷ついたような顔をしたお父さんを放って部屋の扉を強く閉めちゃったんだ。

 倒れ込むようにベッドに横になって、すぐにでも意識が飛びそうな時に、お父さんがキッチンに行っていつも通りドーナツを作る準備をしてる音がしたんだ。

 ひどいこと言っちゃったなって。目が覚めたら絶対に謝ろうって思ってたんだ。

 でも目が覚めたら体は赤ちゃんになってて、小さな籠の中から大きな教会と大きな青空を見てたんだ。


 お父さんに2度と謝れないって悟った時は、涙が止まらなかった。


 ごめんなさい、お父さん…。


人はいつ別れが来るかなんか分かりません。

だからなるべく喧嘩をしたらその日のうちに仲直りを目指します。そうありたいです。

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