1.しあわせの孤児院
また異世界転生ものかよと思われるかもしれませんが、そうです異世界転生ものです。
もう飽きたと切って捨てずに、どうか大事なお時間を少しだけ私の作品に割いてくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。
「……さむい」
真っ白な息が口から漏れた。
その息を真っ赤になった指先へと吹きかける。
気休めにもならない生温く湿っぽい息を中途半端にかけた両手は、なんだか息をかける前よりも冷たくなった気がした。
粗末な麻の服1枚着ただけの体も震えが止まらない。
雪の散らつく真冬の朝、少女は箒を両手で持ちながらふわふわの雪を道の端へと掃いていた。
雪のように真っ白の肩口まで伸びた真っ直ぐな髪。
血のように赤い瞳。
孤児院の中には白い髪を持つ者も、赤い目を持つ者もいない。かなり珍しい色のようだ。
少女がいるのは教会孤児院。
様々な理由で親のいない16歳までの子供たちが暮らしている。
例えば、8年前の戦争で親を失った子。
例えば、貧しさから親に捨てられた子。
例えば、人さらいにさらわれ助けられたはいいものの親元に帰れない子。
教会のシスター達は全ての子を分け隔てなく受け入れ、新しい親元へ送り出してくれたりしている。
少女も同じだ。
戦争が終わった年の終わりに教会の入り口に捨てられていた、らしい。恐らく戦争孤児だろうとシスターには言われた。
優しいシスターたちは毎日ご飯を食べさせてくれるし、寝床もくれた。私はしあわせなほうだ。道端で死ぬことも、盗賊に殺されることも、戦争で魔物に食い殺されることもなかった。
親がいないなんてささいなこと…。
この孤児院に生きてたどり着けただけで、一生分の幸運を使い果たしたようなものだ。
……たとえ、極寒の中たった1人で外の掃き掃除を命じられていたとしても。
「……はぁ」
白く細いため息は誰にも見られることもなく空気中に散っていく。
「掃除は終わったの!?」
声の方に振り返るとシスターが厳しい顔でこちらに向かってくる。綿の柔らかそうな修道服に、暖かそうなガウンを羽織ったシスターを少し羨ましく思いながら応えた。
「まだ…です」
終わるわけがない雪は今も降っているのだ。無理難題を強いてはできないことを叱責する。目の前にいるシスターカレンの得意技だ。
いつも通り意地の悪そうな笑みを浮かべながらシスターカレンが口を開く。
「まったく!役立たずなんだから!あなたみたいな穀潰しにまで予算を割かなきゃいけないからうちはこんなに苦しいのよ!朝の食事を取れると思わないことね!」
「……はい」
「なんなの、その『はい』は!何か不満でもあるわけ!?」
「……いえ」
無表情な少女にシスターカレンは苛立ちを隠さず怒鳴る。
「気味の悪い子ね!これだから『魔物の子』は!」
『魔物の子』
赤い瞳の少女をシスターたちや他の子供たちがそう呼んでいるのだ。戦争で戦った魔物も皆、真っ赤な瞳だったからだ。
今日はよほど虫の居所が悪いらしいシスターカレンの怒鳴り声が教会中に響き渡る。
「シスターカレン」
優しそうな声がシスターカレンにかけられる。
大きい声ではないのに怒鳴っているシスターカレンにも少女にもよく聞こえる声だ。
「どうしたの?そんなに怒って」
「あ、これは……その」
少女は後から来た初老のシスターに目を向ける。この教会孤児院の院長、シスターアリアだ。
寒い時に手に息はきかけるのよく見るけど、あれ気化熱でもっと冷たくなりません?
私だけでしょうか?