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第8章 運命の出会い

その日の夜、ホスピタルに一組のエルフの男女が訪れた。

「おじいちゃん!ここよ!!」

そう言いながら、興奮した様子でホスピタルに入ってくる。

「あら、ミクじゃない。どうしたの?コロボックルリングの調子でも悪くなった?」

「シィルさん、こんばんは。そうじゃないのよ。」

彼女は、このレンタルコーナーに初日に訪れたエルフのようだ。そして、その奥に居るのはミクの親族だろう。

「ここに珍しいものがあると孫に言われましてな。」

長く伸びた白いあごひげを触りながら、ほっほっほと笑顔を見せる。

「あの、この方は?」

シィルが老人の姿を見て、ミクに問いかける。

「私のお爺ちゃんよ。前見せてもらった剣の話をしたら、ぜひ見たいって言うから。」

「ボルクじゃ、よろしくの。」

そう言って、シィルとボルクは握手を交わし、笑顔を見せる。

「アクアン、あの子をよろしくね。」

アクアンが頷いて、保管庫に向かう。それを見届けてから、シィルは剣を手に取る。

「気になっている商品は、こちらですね。」

その剣を見たボルクは、目を細めて感慨深そうに頷く。

「おぉ・・・これは懐かしいのぉ・・・。」

「知ってるんですか?」

シィルがボルクに尋ねると、ボルクは首を縦に振って答えた。

「これは、儂が若いころに使ってた物じゃな。」

「使ってた?!」

思わず聞き返すシィル。

「今ではあまり使われなくなったが、儂の若いころにはこれで森の整備をしてたもんじゃ。」

剣を受け取り、まじまじと眺めるボルク。

「森の整備?」

「そうじゃて。エルフの住む森は、木々の生命力が強くての。それらがケンカするんじゃ。」

「ケンカですか。」

「その木々が、生命力を取り合って、最後には大きな一本の木が出来る。」

ボルクの説明を聞いて、よくあるエルフの森の様子を思い浮かべるシィル。

「その一本が育ちすぎると、周囲の調和が乱れて、良くないからの。この剣で伐採や、切削を行っとったんじゃ。」

ミクとシィルが、剣を構えるボルクを見て、思わず声を上げる。

「やっぱり、使ってただけあって、よく似合ってますね。」

「しかし、これは儂らが作った物とはちょっと違うの。しかし、よくできておる。」

「本物に似せたレプリカですし、ちゃんと精霊が魔法付与してますから。」

「レプリカかの・・・という事は、本物もあるという事じゃな?」

「ええ、もちろんありますよ。」

笑顔で答えるシィル。その時、保管庫の扉が開き、アクアンがギルを連れて戻ってきた。

「シィル、連れて来たわよ。」

「ボルクさん、紹介します。この子が、その剣、ギルティスライサーに宿る精霊のギルです。」

「ほほぉ。」

目を細めながらギルを見つめるボルク。その視線を居訝しげに受けるギル。

「その爺さんがなんだって?」

「こら!ギル!!」

「いいんじゃよ、事実じゃからの。しかし、驚いたのぉ。」

ギルに近づくボルク、そして、それに少し後退りする。

「な、なんだよ?」

「いやはや、お前さんは、わしと同じか、それ以上この世界におるようじゃの。」

「爺さん、精霊の年齢が判るのか?まぁ、わかったところで何の意味もないが。」

「まぁ、確かにそうじゃの。じゃが、それだけにおぬしの本体も気になるところじゃて。」

ボルクが目を光らせながらギルを見つめる。

「ねぇ、私からもお願いできるかしら?」

ミクも、シィルに懇願する。シィルは、それを快く承諾して、アクアンの方を向く。

「そう言うと思ってたわ。」

アクアンが、倉庫の側に持ってきていた、ギルティスライサーをさっと取り出す。

「こちらが、ギルの宿るギルティスライサーになります。」

「・・・これは。」

それを見たボルクの目が一瞬冷たく光る。

「シィルさん、と言ったかの。」

「は、はい。」

「これは、何人の血を吸ったんじゃ?」

それを聞いたシィルとアクアンは凍り付く。その空気を破ったのは、ギルだった。

「爺さん、それを聞いてどうするんだ?」

「ギル・・・。」

冷たく問いかけるギル。思い出したくない傷を抉られている感じがして、アクアンは見ていられなかった。

「そうか。話したくないなら仕方ないの。シィルさん、レプリカじゃなく、この剣を譲ってはくれないか?」

「え?!」

意外な申し出に、シィルとアクアンは思わず声を上げる。しかし、ギルは冷静にボルクを見つめている。

「・・・お断りだ。俺は爺さんの事を知らない。そんな奴に身を預けるつもりはない。」

ギルが即答する。しかし、あきらめきれない様子のボルクが、次の提案をする。

「ならば、このレプリカにその身を宿すことは出来るのか?」

「それも無理だな。力は付与してやるが、俺自身はその剣には宿れない。」

その答えを聞いて、ボルクは更にギルに提案を重ねる。

「それでは、このサンプルを借りようかの。魔力付与がなくなったら、その都度補充してくれるんじゃろ?」

「まぁ、それはこっちの仕事だからな。させてもらう。」

ギルが頷いて、剣を指さす。

「しかし、何故そんなにこれを使いたがるんだ?」

「この年になるとな、若かりし頃の思い出に浸りたくなるんじゃよ。」

ほっほっほと笑い、ひげを触りながらボルクが答えた。

「さて、シィルさん、これを借りてもいいんじゃろ?」

「は、はい。それではこちらにどうぞ。」

シィルが書類を手に、ボルクをテーブルに案内する。

「書類何ぞ、久しぶりじゃの。」

ボルクがペンを手にさらさらと書類を記入する。

「これでいいかの?」

ボルクがそう言って、その書類を見せるが、どうやらエルフ特有の文字のようで、シィルには読めなかった。

困り顔のシィルを見たミクが、それは名前だと耳打ちしてくれた。

「すみません、エルフの文字は初めて見るので。はい、これで大丈夫です。」

シィルがボルクに頭を下げる。

「気にせんでよい。ミクは共通語を書くのか?」

「そうよ、お爺ちゃん。エルフ文字なんて読める人少ないんだから。」

「そうじゃのぅ。」

そう言って、ボルクが大きく笑う。そんなボルクに、アクアンがギルティスライサーのレプリカを手渡す。

「さて、明日から久しぶりに剪定に出るかの。」

「無茶しないでよね、お爺ちゃん。」

「なに、最近楽をしている若者に、こいつの使い方を教えてやるわい。」

そう笑いながら、ミクとボルクはホスピタルを後にした。

「ねえ、ギル。」

2人を見送ったアクアンが、カウンター側にいたギルに近づく。

「なんだよ。」

そんなアクアンを、ぶっきらぼうに突き放すギル。その答えに、アクアンはやわらかな笑顔を見せる。

「見つかったかもね。」

「何がだよ。」

若干不機嫌そうに答えるギル。しかし、本人も少し思うところはあった。

「まぁ、少しの間面倒ごとが増えるかもしれない。そんな気はするな。」

そう言って、ギルは保管庫へと戻っていった。

「私も、そろそろ・・・。」

そう言って、少し伸びをするアクアンに、シィルが少し申し訳なさそうに声をかける。

「アクアン、少し良いかしら?」

「なんです?」

不意に話しかけられたアクアンは、少し驚いた表情を見せながら聞き返す。

「今晩、少しだけお店を開けるから、手伝ってもらえないかしら?」

「今晩?」

この店は、夜には営業をしていない。その事を知っているアクアンは、思わず首をかしげる。

「何か、あるのですか?」

「アルマ・ルミナを貸し出した冒険者、覚えてる?」

シィルの言葉に、アクアンは大きく頷く。流石に、あのお客は忘れる事は出来ない。

「アンデッドの2人組ですよね。」

「そう。その2人がね、クエストを終えて戻ってきたらしいのよ。」

「なんでそんな事が判るんですか?」

「レンタルのした時にね、クエストの終了報告をこちらにもしてもらうようにお願いしてたの。多分、すぐ返却したいだろうし・・・。」

「あぁ・・・そう言えば・・・。」

アクアンは、アルマ・ルミナの特性を思い出す。それを考えると、確かにすぐにでも返却したいだろう。

「私も、ミロンを寝かしつけたらお店に出るから、それまで店番をお願いできるかしら?」

シィルのお願いに、アクアンは首を縦に振る。

「光るお客様が来るのよね。楽しみだわ。」

アクアンは、既にこれからやってくる2人の到着が待ちきれないという様子だ。

「じゃあ、私はしばらく店番しているわ。用事を済ませたら、戻ってきてね。」

「ありがと、お願いね。」

そう言って、シィルは居住エリアに帰っていった。

夜も深くなり、空の星は自身を強く光らせ、その存在を月に示していた。

そんな空を見ていたアクアンは、地上にその光があることに気付く。

そして、その光がどんどんこちらに近づいてきている。アクアンは、すぐにその光がアルマ・ルミナであると見抜いた。

「すごい、夜中でもはっきり見えるわね。流石光の精霊。」

そう思いながら、アクアンは急いで保管庫のアルマ・ルミナ本体を持ってカウンターに立った。

それからすぐに、ホスピタルのドアをノックする音が響いた。

「はーい。」

アクアンが扉を開けて、ノックの主を迎え入れる。

「お仕事お疲れ様です。上手くいったようですね。」

「ありがとう、この鎧のおかげよ。」

ザムアの差し出す右手を、アクアンは笑顔で握り返す。その手は、とても冷たく感じた。

「そう言ってもらえると、こちらとしても喜ばしい限りです。」

「でもね、ちょっとこの子の元気が無くなっちゃって。返却に来たのよ。」

「元気がない?」

その言葉の意味が解らないアクアンは、ザムアに聞き返す。すると、ザムアの隣に居たハールが、鎧を脱いで、アクアンに手渡す。

「この鎧、確か持ち主の道具にその光を乗り移らせるのよね?」

「そうですね、確かその効果があるはずです。そうよね?」

そう言いながら、本物のアルマ・ルミナに問いかける。すると、本体の右肩が点滅を始めた。

それを見た3人が、頷きながらハールの脱いだ鎧を見つめる。

「元気が無いって、どういうことですか?」

「最初のうちはね、ちゃんとハールの持ち物に移ってたんだけど、深淵の草原の奥に行ってみた時から、ちょっとずつ光が薄くなっていってね。」

「深淵の草原の奥?」

「クエスト以外にも、もう少し素材を集めようと思ってね。その奥のエリアに行ってみたのよ。」

「冥府の奥・・・って事ですよね?」

「そうね、少し買い足したいものがあったし、稼げるときに稼いでおこうって言うのが私達の信条だからね。」

そう言って、ザムアが大きく膨らんだ道具袋から、色のついた石や、軽そうだが太い木材、そして何かわからない様々な草が出てくる。

「これなんか、都市部に行き来する商人に売れば金貨200枚は下らないしね。」

その中の草を指さして、ザムアが笑顔を見せる。どう見ても、そこらに生えてる草にしか見えないが、相当の価値があるのだろう。

「それで、帰ってくる頃には、ハールの道具袋の光はすべて消えてたのよ。」

「精霊を宿らせるというより、魔法効果の付与ですからね効果が切れたのではないでしょうか?」

アクアンがアルマ・ルミナを横目に見る。すると、アルマ・ルミナの左肩が光る。

「え?違うの?!」

精霊本人から、否定を受けた3人が、驚きの表情を見せる。

突如として、3人の前にアルマ・ルミナの魔法効果が消えたという謎が現れた。

「・・・ねえ、少し気になってたんだけど。アルマ・ルミナって、属性あるの?」

ザムアがアルマ・ルミナを指さして、アクアンに尋ねる。すると、アルマ・ルミナの右肩が点灯する。

「やっぱり・・・。反属性は苦手かしら?」

その問いかけにも、アルマ・ルミナは右肩を光らせる。

「なんとなく判ったわ、冥府に行ったから、元気が無くなったのかしらね。」

「でも、所有者の持ち物を光らせるって事は、その持ち物自体が反属性って事なんじゃないの?そもそも、アルマ・ルミナの属性って何かわからないけど。」

「一番可能性が高いのは、聖属性でしょうね。そうかしら?」

アルマ・ルミナが右肩を点滅させて、それが正しいという事を示す。

しかし、それを聞いたアクアンは、それ以上のさらなる疑問が浮かんだ。

「あれ?聖属性・・・?確か、ハールさんって、アンデッドですよね?」

「そうね。」

「聖属性・・・大丈夫なんですか?」

「ふふっ、私達は特殊な訓練を積んでるから、大丈夫なのよ。」

そう言って、ザムアとハールが見つめあって笑いあう。

「聖属性が大丈夫なアンデッド・・・弱点無いじゃないですか?!」

驚くアクアンを見て、2人が不敵な笑顔を見せる。

「どうかしらねぇ。まぁ、自分から弱点を言う人はいないわよ。」

ザムアが笑いながらアクアンに答える。

「それもそうですね。」

「さて、私達の事はとりあえずおいておいて、アルマ・ルミナがなんで元気が無くなったのかを調べないとダメじゃない?」

そう言われて、アクアンはハッとする。自己主張できないアルマ・ルミナは今回もアクアンに少し忘れられかけていた。

アクアンは、そんなアルマ・ルミナをゆっくり抱きかかえる。

「ごめん、忘れてたわけじゃないの。ちょっと気になることが多かっただけ。大丈夫、あなたの事は忘れてないわ。」

アクアンがアルマ・ルミナを抱きしめながら訴えるが、アルマ・ルミナはどうやら少しいじけているようで、小さく光るだけだった。

「お待たせ、アクアン・・・って、どうしたの?」

少し落ち込んでいるアクアンと、力なく光るアルマ・ルミナ。それを笑顔で見ているアンデッド2人。

「えっと・・・アクアンとアルマ・ルミナの元気がない事は判ったけど、一体何があったんですか?」

シィルがその光景を不思議そうに見つめながら、彼女たちに問いかけた。

「簡単に言うと、アルマ・ルミナが元気が無くなったから返却に来たって話よ。」

アクアンが答えるが、話を端折りすぎたため、シィルにはうまく伝わってない。

「と、とりあえず。返却に来たって事よね?」

シィルがそう言って、カウンターから書類を取り出す。

「まぁ、そうなんだけど。」

腑に落ちない感じで、アクアンがシィルに答える。

「どうしたの?アクアン。」

「アルマ・ルミナの元気が無くなった理由が、属性の不一致だけじゃない気がするのよね。」

抱きかかえているアルマ・ルミナを撫でながら、首をかしげる。

その時、ふとシィルが中央のテーブルに目を向ける。

「あの素材はどうしたの?」

「あ、あれはザムアさんたちが深淵の草原とかから持って帰ったそうですよ。」

「少し良いかしら?」

そう言いながら、シィルがその素材の山に近づく。

そして、素材を手に取ったシィルの表情が変わる。

「ねぇ、この素材、どこで採取したの?」

シィルが握りこぶしと同じ大きさの石を手に取り、ザムアに尋ねる。

「それ?虚無の洞窟にある鉱石よ。」

その答えに驚いた表情を見せつつ、その隣にあった木材を手に取り、同じように尋ねる。

「それじゃあ、この木材は?」

「深淵の草原の中央部にある森林地帯から採ってきたわ。」

シィルが大きなため息をついて、その木材を置く。

「わかったわ。アルマ・ルミナが元気をなくした理由。」

ゆっくりとカウンターに向かい、そこから紋様の書かれた木の板を手にする。

そして、3人の前に戻ってきたシィルが、木の板をテーブルに置き、そこにザムア達が採ってきた素材を乗せる。

「これが、アルマ・ルミナが力をなくした理由よ。」

その素材から、ぶわっと黒い靄が噴き出す。

「な・・・?!」

驚きの声を上げるザムアと、驚きの表情を見せるハール。

「これ、精霊が宿ってたの?!」

アクアンの問いかけに、シィルが首を縦に振った。

「これは、イービルスピリット。闇の力を強く持つ精霊・・・というより、悪霊よ。」

悪霊という言葉を聞いて、アクアンが驚いた表情を見せ、冒険者2人はあぁ・・・と納得している。

「あ、悪霊って・・・まずいんじゃないの?!」

慌てるアクアンに、微笑みながらシィルが答える。

「目の前に、アンデッドが2人もいるのに、今更驚くことでもないでしょ?」

そう言われたアクアンが、ふと我に返る。

「そ、そうね・・・。」

「それよりも気になるのが、ザムアさん達が持って帰った素材全てに、この子たちが宿っている事よ。」

流石に、シィルの言葉にはザムア達も驚いていた。

「これ全部に?」

ザムアの疑問に、シィルが首を縦に振る。

「そうね、アルマ・ルミナの性質上、装備者の持つ物を光らせるのだけれど、それに闇属性の強い精霊が宿っていた。」

シィルの説明をそこまで聞いて、アクアンがパンと手を叩く。

「だから、精霊同士ケンカしちゃって、アルマ・ルミナが負けちゃって、元気が無くなったって訳ね。」

シィルが頷いてアクアンに答える。それを聞いたザムア達も、ゆっくりと頷く。

「そういう事になるわね。やっぱり、レプリカの魔力では、この子たちには勝てなかったって事。」

そう言ったシィルだが、まだ疑問があるようで、腕を組んで首をかしげている。

「でも、それ以上に疑問なのが、さっき言った『持ち帰った全ての素材に同じ精霊が宿っている』事なのよ。」

「それって、何が疑問なの?」

ザムアがシィルに問いかける。それに、シィルが指を2つたてて答える。

「私が思う疑問は2つです。まず、精霊は愛着のある物に宿るという事、なのにこれは普通の素材に宿っている。次に、全て同じ精霊が宿っているという事ね。精霊にも種類や個性があるんだけど、これは全部同じ個体ね・・・。」

「この子たち、同じ精霊なの?」

靄に包まれた黒い精霊を見ながら、アクアンがシィルに尋ねる。

「ええ、同じね。私も、こんなのは初めて見るけどね。」

不思議そうに素材を眺めるシィルに、ザムアが声をかける。

「この素材ね、高い闇属性を秘めていて、かなり高く売れるのよ。武具や薬品に使用できるって。」

「そうなのね。」

そう言いつつ、精霊が実体化していない素材を手に取って、ザムアがポツリと呟く。

「確かに、あのエリア全体は神様がとても大事にしてるからね・・・。」

「神様?」

シィルの問いかけに、ザムアが振り向いて首を縦に振る。

「死神様の世界だからね。」

「世界自体が死神の物なの?」

ザムア達が立ち寄っていた世界が、死神の物と聞いて、驚きの声を上げるシィル。

「そうね、あの世界は全て死神の物になるけど、持ち帰る分には何も言われないのよね。帰れればの話になるし。」

「そんなに過酷な世界なのですか?」

シィルの疑問に、頷くザムア。

「まぁ、死者の世界だからね。私達も失敗したら帰ってこれないし。」

「もう、私達の様な一般人にはわからない世界ね・・・。」

大きくため息をつくシィルを見て、アクアンが声をかける。

「世の中、広いわね。」

ザムアの話をある程度聞いたシィルは、ホスピタルの店員として気になることを2人に尋ねる。

「さて、それでは、アルマ・ルミナの使い勝手はどうだったかしら?」

「うーん、こういう時は、素直な感想でいいのよね?」

少し困った表情を見せるザムア。その表情からして、芳しい報告ではないのだろう。

それでも、報告は聞いておかないと、今後のためにならない。そう考えているシィルはザムアに笑顔を見せる。

「判ったわ。」

「ありがとう、率直な感想をよろしく。」

笑顔を見せて、シィルがメモを手にザムアの話を聞く体勢に入る。

「そうね、まず素直な感想として、普段使いは出来ないわ。」

「やっぱりそうね。光るからかしら?」

「それもあるけど、敵に見つかりやすいのに耐久性が足りないのよね。」

「耐久性?!」

「レプリカだから、防御力も低いのかしら?」

ザムアの憶測に、シィルが首を横に振る。

「レプリカの防具は、基本的にオリジナルより硬く設計されてます。それでも、耐久が足りないのなら、オリジナルの使用には問題がありそうですね。」

「あら、こっちの方が耐久性が高かったのね。」

レプリカの鎧を触りながら、不思議そうな表情を見せるザムア。

「逆に、武器の方は攻撃性を抑えてますよ。」

「へぇ・・・それは何か理由がありそうね。ちょっと教えてもらっていいかしら?」

興味を持ったザムアが、きらきらとした目でシィルを見つめる。

「いいですよ。まずは防具を頑丈にしている理由ですが、精霊の加護が切れた後でも、所有者を守る必要があるからです。」

「あぁ、そういう事・・・。でも、耐久性も似せないと、実用に耐えれるかどうかの判断が難しくない?」

ザムアの考えは正しいのだが、シィルが苦笑いを見せる。

「精霊武具を手に入れた人は、大体無茶するの。自分が一気に強くなったって勘違いしてね。」

肩を少しすくめて、シィルがため息をつく。

「なら、武器を弱くするって事は、実際に使った時に弱いって思わせて無茶をさせないって事かしら?」

「その通りですね。」

そう言いながら、シィルがアクアンのレプリカを手に取る。

「魔導士のザムアさんなら、よくわかると思いますよ。」

手渡されたアクアンのレプリカを見て、ザムアが頷く。

「なるほどね。これ、オリジナルとは全く違う安物の石よね?」

ザムアが宝石をトントンと叩く。それを珍しそうにのぞき込むハール。

「そうなのよ。それに魔力を込めるのは苦労したわ。」

アクアンが苦労話を口にする。その言葉に、ザムアがうんうんと頷く。

「でしょうねぇ・・・よくこの石にここまでの魔力を詰め込んだわね。一体、この杖にはどんな効果があるの?」

ザムアがロッドをシィルに手渡す。そこで、ザムアが気になっていたことを尋ねる。その疑問には、アクアンが答えることになった。

「水の魔法の威力を倍にするわ。倍にするだけだから、そこまで強い魔力が無くてもいいのよ。」

「それでも、この魔法力なら、3回も使ったら魔力切れになっちゃうんじゃないかしら?」

「さすが魔導士ね、その見立て通りよ。ごくごく普通の魔法なら、3回、強い魔法なら1回でおしまいね。」

シィルの持っているアクアンのレプリカを、アクアンが手に取る。そして、愛おしそうにロッドを握りしめる。

「でも、それ以外は少しこっちの方が強いのよ。」

アクアンが意外なことを述べる。

「そうなの?武器は弱くしてるって聞いたから、ちょっと意外ね。」

「武器としては弱いわよ。やっぱりロックシェルなんかを殴ったら壊れるし。」

いまだに根に持っているアクアンの言葉に、ザムアは当たり前よと答える。

「まぁ、それは置いておいて、握りやすさと重量は改善されてるわ。振りやすいって意味でだけど。」

苦笑いを見せるアクアン、それを見たザムアとハールは、膨れ上がる好奇心のままに伝える。

「ねえ、一度あなたの本体を見せてもらっていいかしら?」

「私?別にいいけど。感想を聞かせてもらってからね。」

本来の目的を思い出したザムア達は、そうねと言ってほほ笑む。

「さて、気を取り直して・・・今まではデメリットだけど、メリットというか、こうすればいいかなと思った点だけど。」

レプリカを触りながら、ザムアがシィルに顔を向ける。

「これはね、このままレンタルとして置いておくのがベストだと思うわ。」

ザムアの提案に、興味を惹かれるシィル。

「それは、どうしてかしら?」

「性能のせいで、普段使いはまず出来ないのが理由の一つね。でも、逆にピンポイントで使いどころ満載なのよ。」

「へぇ、例えばどんなところで使うの?」

「今回の件で言えば、冥府には持って来いね。冥府は、光を絶やすと、簡単に死ねるからね。」

「死んじゃうの?!」

さらりととんでもないことを言ってのけるザムアに、思わず尋ねなおす。

「あの空間、光が消えると生命エネルギーを吸い取りに来るのよ。一応、あの世界にも町はあるけど、そこでは光を絶やさないように町律で決まってるわね。」

「じゃあ、そんなところにこれがあれば、大活躍と言う訳ですね。」

「そうね、でも、さっき分かったように、周囲が闇属性の道具ばかりの世界だから、あの子の元気が無くなるわね。」

「なるほどね。なら、あの子がいたずらできるような環境を整備してやれば、使えるって事かしら?」

「そういう事になるわね、でも、この子の気に入る環境を整備したとしても、出来る事は光る事だけ。それにいくらの対価を払えるかってところね。」

その会話を聞いていたアルマ・ルミナは、力なく光を胴体部分にともす。結局のところ、アルマ・ルミナの取り柄は光る事のみ、そのことは本人が一番よく知っている。

「大丈夫、きっとあなたの良さを分かってくれる人が現れるわ。現に、あなたの事を理解してくれているザムア達もいるでしょ。」

「そうね、もし、あなたがまたレンタルされるなら、私は必ず借りるわよ。冥府はいいお金になるからね。」

「その時には、ちゃんとこの子のいたずらが出来るような道具を準備してくださいね。」

「ええ、準備するわ。この子の扱い方は理解したしね。」

ザムアがアルマ・ルミナをやさしく撫でる。

「早速、お得意様が一組出来たわね。」

アクアンも、アルマ・ルミナをやさしく撫でる。それで落ち着いたのか、アルマ・ルミナの胴体部が穏やかに明るく輝いた。

「さて、それじゃあ、レンタル料金のお話ですが・・・。」

シィルが書類をザムア達に差し出す。

「基本料と付与料金、そして修理代金含めて、金貨5枚です。」

その金額を聞いて、アクアンは目を丸くする。レンタル料金は格安だとあらかじめ聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。

「あの、シィル・・・もし、私のレプリカがレンタルされたら、いくらになるのかしら?」

「そうね、使い込み具合によるけど、金貨7枚かしら。」

軽くショックを受けるアクアンをよそに、ザムアは笑顔でカウンターに大きく膨らんだ革袋から取り出した金貨を乗せる。

「ほんと、レンタルだと破格ね。今後ともよろしくね。」

「ありがとうございました。こちらこそまたよろしくお願いしますね。」

支払いも終わり、ザムア達がホスピタルを後にする。

「これで、今日は終わりかしら?」

「ええ、お疲れ様。」

シィルとアクアンが互いをねぎらう。そして、返ってきたアルマ・ルミナのレプリカをアクアンが抱きかかえる。

「これ、また力を付与するの?」

「それは、アルマ・ルミナの意思次第ね。」

アルマ・ルミナを見つめるシィル。アルマ・ルミナは、その視線に右肩を光らせて答える。

「まだ、やってくれるの?」

アクアンがレプリカをアルマ・ルミナの隣に置いて、その反応を見る。

すると、アルマ・ルミナの光の一部が、レプリカに移った。

「今後も、レンタルとして活躍してくれるって訳ね。」

アクアンがレプリカを手に、アルマ・ルミナを見つめる。

「また、近いうちにあの人たちがまた来そうだしね。私の本体も見せてないし。」

そう言って、アクアンとシィルが笑いあう。

「アクアン、今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね。」

「ええ。シィルもお疲れ様。」

アクアンがアルマ・ルミナを抱えて保管庫に戻り、シィルは店内を片付け、明かりを消してクラウィスとミロンの待つ部屋へ戻っていった。


保管庫に戻ったアクアンとアルマ・ルミナを、ギルとメルが出迎えた。

「よう、お疲れ。」

「ワン!」

「ふふっ、ありがと。」

アクアンが抱えているアルマ・ルミナを棚に置き、そのままメルの前にしゃがみ込こんでメルを抱きかかえる。

「そうそう、明日は俺も朝から店に出る。」

「あら、珍しいわね。」

「あの爺さんが来そうなんだ。もうあのレプリカの魔力が切れたみたいだからな。」

ギルが自分の武器を手にして、少し目を閉じる。

「あのレプリカに込められた魔力って、そんなにすぐ切れるものなの?今日借りていったはずよね?」

「そこなんだよな。さすがに、短時間で魔力を使い切るなんて、一体どこで何をしたらそうなるのかが判らない。」

ギルの疑問ももっともで、レプリカがレンタルされたのは夜、しかもこの短時間で魔力切れというのは異常と言わざるを得ない。

「まぁ、どうせ明日やってくるだろうし、その真相を聞いてみるか。」

そう言って、ギルの姿が本体に吸い込まれるように消えていった。

「私も、少し休もうかしら。みんな、また朝にね。」

「オン!」

アクアンも自分の家に戻り、メルもウロボロスリフレクタの前で丸くなり、そのまま寝息をたて始めた。

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