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第7章 もの好きなお客様

「い、いらっしゃい・・・ませ・・・。」

2人組の女性冒険者のようだが、どうも雰囲気がおかしい。

1人は革鎧を着た戦士で、体格に対して少し不釣り合いな剣を備えている。だが、そんな事は大した問題じゃない。問題なのは、もう1人の方だ。

「きょ、今日は、どういったご用件で?」

シィルが少し怯えながらやってきた客に声をかける。

「あ、これを見て来たんだけど。このコーナーにある物がそうなの?」

青いラインワンピースに、白衣を羽織った女性が、見覚えのある本をシィルたちに見せる。

「え、えぇ。そうですよ。こちらが、お試しのレンタルコーナーになってます。」

「少し、見ても良いかしら?」

「どうぞ、ごゆっくりご覧ください。」

そう言って、シィルがカウンターに戻ってくる。その時、保管庫からギルが顔を出した。

そして、物珍しそうに2人の冒険者を眺めた後、カウンターのシィルに問いかける。

「なんだ。妙な気配を感じたと思ったら。ここはモンスターにも装備を提供してるのか?」

その声が意外と大きかったのか、シィルは慌ててギルの口を塞ぐ。

その騒動に気付いたのか、戦士の女性がカウンターを不思議そうに眺める。

「な、なんでもないですよ。お気になさらず。」

シィルが取り繕うが、白衣の女性がカウンターに目を向けていた。

「あぁ、やっぱり気になっちゃう?」

白衣の女性が笑顔を見せてカウンターに近寄ってくる。

「お前たち、モンスターだろ?」

ギルが不思議そうな表情で冒険者に尋ねる。

「ギル!お客様よ!」

アクアンが思わず声を荒げるが、白衣の女性は微笑みを返す。

「いいのよ、その通りだから気にしてないわ。」

「すみません。」

アクアンがギルの頭を押さえつける。

「それに、あなた達も時と場合によればモンスターって呼ばれる側でしょ。」

そう言われて、アクアンとギルはハッとする。

「言われてみれば・・・。」

「まぁ、そう言われてみればそうだな。」

精霊2人が納得したところで、冒険者2人がカウンターに近づく。

「と言う訳で、私達でもここのレンタル品は使わせてくれるのかしら?」

「もちろんですよ。でも、一応確認させてもらいますね。」

シィルがそう言いながらカウンターから書類を取り出す。

「えっと、何かしら?」

「あなた達の素性と、保証ですね。」

「あぁ、そうよね。保証ってこれじゃダメかしら?」

冒険者2人が、右手に着けている指輪を見せる。

「ギルドの指輪ですね。ちょっと見せてもらえますか?」

シィルがそう申し出ると、白衣の冒険者が右手の指輪を外し、カウンターに置く。

それを受け取ったシィルが、掌大の箱を取り出す。その箱には、上部に円形のへこみがあり、長細いスリットが側面に1つ開いている。

シィルは、その箱に冒険者の指輪をセットした。

すると、その箱から唸るような音が発せられる。その音が数秒続いた後、スリットから紙が排出された。

「冒険者ギルド・プルロア支部・・・初めて聞く名前だけど、これが出てくるって事は、実在するのよね。」

「へぇ、こんな装置があるのね。私達もそれは初めて見るわ。」

興味深そうに冒険者2人がその箱を見つめる。その場にいる全員が見つめる中、シィルが続きを読み上げる。

「えっと、登録名ザムア、職業は魔法使い、種族は・・・ゾンビ?」

シィルの言葉に、ギルとアクアンが冒険者達を見つめる。

「ゾンビって言ったら、もっとこう、肉が剥がれ落ちてたりとか、目がぎょろっとしてたりとか、腐敗臭がするとかいろいろあるんじゃないのか?」

ギルの疑問ももっともで、目の前に居るゾンビの冒険者は青い顔をしているが、その表情はとても豊かで、死者であるという悲哀を感じさせない。

「まぁ、私はうまい具合に綺麗なゾンビになれたのよ。匂いは・・・禁則事項ね。」

そう言って、右の人差し指をたてて、自分の口元に当てる。

「これで、私達を信用してくれるかしら?」

シィルが箱に乗せた指輪をザムアに返す。

「えっと、隣の方は?」

アクアンがそう口にすると、鎧姿の女性が、自身の右手から指輪を外し、シィルに手渡した。

「調べてもいいんですね。」

鎧姿の女性が、笑顔で頷く。それを見て、シィルが箱に指輪を置く。すると、先ほどと同じプロセスを経て、スリットから紙が排出された。

「冒険者ギルド・プルロア支部、ここは一緒ですね。」

そして、シィルが続きを読み上げる。

「登録名ハール。職業は戦士。見た目通りですね。」

そして、次の項目に目を移したシィルが、思わずハールとその紙を何度も見返す。

「え・・・?!種族、スケルトン?!?!」

驚くシィルの言葉を聞いて、他の2人もハールの姿を見つめる。

「どう見ても、人間にしか見えませんね。」

「すまん、失礼を承知で聞くんだが・・・証拠を見せてくれないか?」

ギルの質問に、ハールは腕を組んで首をひねる。そして、何かいい案が浮かんだようで、ギルの目の前に自分の手を差し出した。

「握るのか・・・?」

ハールがこくりと頷く。それを見て、ギルがその手を握りしめる。

「こ、この感覚は・・・。」

ギルが驚いた表情を見せる。

「どうしたの?ギル?何かわかったの?」

「手を握らせてもらえば、わかる・・・。」

頭に疑問符を浮かべたアクアンが、ハールの顔を見る。ハールは、ギルに向けた笑顔と同じものをアクアンに見せた。

そして、アクアンがハールの手を握ると、アクアンの表情はギルと同じく驚いたものになる。

「うん・・・この感触は・・・。」

アクアンとギルの表情を見たシィルが、興味深そうにハールを見つめる。その視線に、ハールはこくりと頷き、シィルに右手を差し出す。

その手の感覚を味わったシィルも、先の精霊たちと同じ表情を浮かべる。

「肉体だと思ってたんですが・・・違うんですね。」

その手の感触は、ごつごつとして、冷たいものだった。

実際に見えている手は、幻覚か何かなのだろう。人と同じ姿に見えるスケルトンは、初めて見る3人だった。

「納得してくれたかしら?」

ザムアがいたずらっぽく微笑む。

「はい。納得しました。」

アクアンとシィルが同時に言葉に出す。

「それで、気に入った物はあったのか?」

「装備の特性って言うのは、ここにある目録に載ってある通りかしら?」

「そうですね。ただ、魔法効果の付与になるので、本体よりは弱くなります。」

「うん、それでもこれなら十分ね。」

そう言って、ザムアが革鎧を持ち上げる。

「この、アルマ・ルミナを貸してもらえる?今回のクエストで役に立ちそう。」

「あの、差し支えなければ、どんなクエストを?」

アンデッドの冒険者が受けるクエストに興味を持ったアクアンが、ザムアに尋ねる。

「うん、今回のクエストは、深淵の草原に行って、素材狩りね。」

「え?!」

シィルが思わず声を上げる。その声に、アクアンとギルがビクッとして振り向く。

「深淵の草原?そんなに危ないの?」

首をかしげながら、アクアンがシィルに尋ねる。

「危ないも何も・・・冥府エリアの1つよ。」

「冥府って・・・死者の国ですよね?」

自分の知っている単語が出てきたアクアンが、シィルに確認する。

その答えは、ザムアの口から発せられる。

「ええ、そうね。かなり危険な場所よ。普通の生物が立ち入ると、出てこれないから。」

「出てこれないって、死んじゃうって事ですか?」

「まぁ、最終的にはそうなるわね。」

「最終的?」

「実は、入口さえ知っていれば、冥府に入るのは結構簡単なのよ。出るのが難しいだけで。」

「出るのが難しいって・・・そんなに特殊なんですか?」

「かなり特殊ね。まぁ、脱出方法は教えられないけど。」

ザムアが、右人差し指を自分の口元に持っていく。

「脱出方法が聞けないのは残念ですが、これもごはんの種ですものね。」

「そういう事。でも、私達はご飯食べなくても平気だけどね。」

そう言って、ザムアとハールがほほ笑んだ。その意味を一瞬考えた後、他の人もほほ笑んだ。

「で、これは貸してもらえるのかしら?」

「はい。それでは、こちらで書類の記入をお願いしますね。」

シィルが中央のテーブルにアンデッドの2人をテーブルに招く。

そして、書類も出来上がる頃合いを見計らって、アクアンがアルマ・ルミナのレプリカををテーブルに持ってきた。

「はい、大切にしてくださいね。」

そう言いながら、ザムアにそれを手渡す。

「ありがと。有効利用させてもらうわ。」

それを受け取ったザムアが、隣のハールに手渡す。

「また今度、返しに来るわ。ありがとう。」

ザムアが右手を挙げて、シィル達に挨拶する。

「お待ちしてますね。」

2人の冒険者を見送った店員たちは、初めてのレンタルに少し胸をなでおろしていた。

「レンタル、うまくいったわね。」

アクアンが笑顔でシィルとギルを見つめるが、2人の表情は微妙なものになっている。

「2人とも、どうしたの?」

「あの2人の役には立つとは思うけど、本体を引き受けには来ないと思うわ。」

シィルの考えに、ギルが頷いて同意を示す。

「アルマ・ルミナは、一時的な装備としては使えるかもしれんが、普段使いが出来るかと言われると・・・首を横に振るしかないな。」

「じゃあ、なんであの2人はこの装備を借りたのかしら?」

「言ってたろ、深淵の草原に行くって。そこで役に立つんじゃないか?」

ギルがそう言って、自分のレプリカを眺める。

「一時的にでも、出番があるだけましな装備だと思うがな。」

「あなたも、きっと必要とされるわ。大丈夫よ。」

「どうだかな。」

そう言って、ギルは保管庫に戻っていった。

それから、その日はレンタル目当ての客は現れなかった。

そして、次のレンタル希望者が来たのは、それから1週間後だった。


その日、1人の小柄な少年がホスピタルを訪れた。

少年は、この街にある学校の制服を着ていて、少しおどおどとしていた。

この店に、彼の様なお客が来るのは珍しく、アクアンとシィルは笑顔で彼を迎え入れる。

「いらっしゃいませ、どうされましたか?」

アクアンが少年に話しかける。少年がビクッとしてアクアンを見つめる。

「あ、あの・・・これ、見て来たんですが。」

少年の手には、見慣れた本が握られている。間違いなくお客様だ。

「レンタルの希望ですか?」

「は、はい・・・。」

「では、こちらのコーナーになりますね。」

アクアンが少年をレンタルコーナーに案内する。

しかし、そのコーナーを目の前にして、少年は呆然と立ち尽くしている。

「何か、気になった物はありますか?」

「え、えっと・・・あの・・・。」

しどろもどろになっている少年に微笑みかける。

「質問を変えましょう。どんな装備をお求めですか?」

「あ、あの・・・防具を・・・。」

「防具ですか。では、こちらになりますね。」

そう言って、アクアンはアルマ・ルミナのレプリカを指し示す。

「これ・・・鎧、ですよね。」

「そうですね。特殊な能力を持った鎧ですよ。常に周囲を明るく照らしてくれます。」

首を何度も横に振って、少年は要望を伝える。

「あの・・・みんなを守る防具が欲しいんです。」

「みんなを守る防具・・・ですか?」

意外な答えに、少しアクアンが戸惑う。

「良ければ、その装備が必要な理由、教えてもらっていいですか?」

「僕、騎士になりたいんです・・・みんなを守る騎士に。」

その時、シィルが手をポンと叩いて答える。

「あなた、フィルシード学園の生徒さんね。」

「フィルシード?」

シィルの方を見て、首をかしげるアクアン。

「この街にある、冒険者育成を専門とする学校ね。」

「冒険者育成ですか。結構幅広い事を教えないとダメなのでは?」

「それだと、一人前になるまで時間がかかるから、最近は専門職を育てる方向にシフトしていってるようね。」

この街の教育事情を聞いたアクアンが、納得した表情を見せる。

「それで、あなたは騎士の装備を欲しがっていると。そう言う訳ですね。でも、皆を守りたいという希望ですか・・・。」

「ありませんか?」

その時、アクアンの側にいたメルがトコトコと少年の前に歩いてきた。

そして、メルは少年の前にどっしりと座り、じっと少年を見つめる。

「あ、あの、この子は?」

「この子はメル。かわいいでしょ。」

アクアンがメルを後ろから抱きかかえる。

「アン!!」

少し大きな声で鳴き、そして珍しくアクアンの腕の中で暴れ、メルは腕の拘束から逃れる。

「ちょ、ちょっと。どうしたの?」「

初めての行動に、アクアンが驚いている。自由になったメルは再び少年の前に座り、何かを訴えるような瞳を見せる。

「あ、あの、この子も精霊なんですか?」

「え、ま、まぁ。」

歯切れの悪い答えを返すアクアン。

すると、メルが少年のズボンのすそを噛んで、引っ張る。

「え?ど、どうしたの?」

困惑する少年が、メルの案内に従う。

「これ?」

「オン!」

少年が、ウロボロスリフレクタに手を伸ばす。

その光景を見たアクアンが、額に手を当てる。確かに、皆を守るという彼の要望に沿った装備なのだが、問題がありすぎる。

「あの、これって何ですか?」

「それは、ウロボロスリフレクタという名前の盾ですね。」

「盾?!」

予想通りの反応を返す少年を見て、少し安堵の気持ちを取り戻しつつ、どうするかを考える。

正式な性能を伝えるかどうかを悩むアクアンに、シィルが耳打ちをする。

「適当に作り話をしていて。クラウィス呼んでくるから。」

アクアンが頷いてシィルに答える。

「珍しい形をしているでしょ。」

少年が首を縦に振る。

「この使いにくい形状のせいで、持ち主も居なくてね。ほら、精霊はこんなにかわいいのにね。」

そう言いながら、アクアンがメルを抱きかかえる。

「グルルル・・・。」

妙に不機嫌なメルの瞳を、アクアンがじっと見つめる。

『メル、おとなしくしてて。』

瞳で訴えるアクアンだが、メルはそれに不服のようで、アクアンに対して唸りを上げ続ける。

流石に、噛みつきはしないが、間違いなく嫌われそうと思ったアクアンは、少し落ち込んでいた。

「今回、これも入れたんだけどね、流石に使いこなせないだろうから、片付けようと思ってたところなのよ。」

「これ、どうやって使ってたんですか?」

予想通りの質問が少年から出てくる。アクアンは、その答えを即興で考えなければならない。

「え、えっとね。この輪っかの両端に持ち手があるでしょ。そこを持って構えるのよ。」

アクアンが、メルを下ろしてウロボロスリフレクタを手に取り、実演して見せる。

「攻撃してきた人に、こうやって対応するの。」

そう言って、アクアンがウロボロスリフレクタを片手に持って振り回す。その光景を見て、少年は驚きの声を上げる。

しかし、その使い方を見ていたメルはアクアンのローブのすそを噛み、思いっきり引っ張った。

「きゃ!」

バランスを崩したアクアンがアクアンがアクア尻餅ををつく。その状況を作り出したメルは、鼻息を強く一度吐いて、凛々しい顔を見せる。

「と、まあ難しい使い方の盾なのよ。」

その時、工房からクラウィスがやってきた。

「少年、よく来たね。」

いきなり男性に声をかけられて少年は、ビクッと体をこわばらせ、声の方向を向いた。

「あ、は・・・はい。」

「俺は、この工房の主クラウィスだ。よろしく。」

クラウィスの姿を見たアクアンが、ホッと胸をなでおろす。

「シィルから聞いたよ。騎士の卵くん。みんなを守りたいのかい?」

「はい。そのために装備を探しに来たんですが・・・。」

「みんなを守る装備だったね。でも、その用途だけだと、いまいち何をお勧めすればいいかわからないな。」

クラウィスが笑いながら少年に近づく。

「でも、ここにある防具は、この鎧と今君が見つめている盾ぐらいだね。」

「あの・・・、この盾は一体?それに、この精霊は?」

「それは、さっきアクアンから聞いていなかったかな?」

「すみません、あれが本当の使い方とは思えなくて・・・。」

アクアンが実演した使い方を聞いたクラウィスが頷いて見せる。

「だろうね。僕も、君の立場だったら同じことを思ってたよ。」

クラウィスが笑いながら少年に語り掛ける。その後ろで、アクアンはショックとやっぱりという感情が混じった表情を見せていた。

「でも、そうなると、僕の話も信じられるかな?」

アクアンの言葉が信じられないとなると、同じ店員であるクラウィスも信じるのは難しいだろう。

「まあ、これから話すことが真実かどうかは、そこの精霊を見ていれば判るさ。それを聞いて、なおもこれが気になるなら、君の真実も教えてもらえるかな?」

「僕の、真実?」

「あぁ、騎士の卵だと言っても、まだ学生の君に、皆を守らなければならないというその強迫観念に似た行動はあまりにも似つかわしくないのでね。何か隠してるだろう?」

「それ程の、盾なんですか?」

人と話すのが苦手なだけで、頭は回る方なのだろう。少年は鋭い質問をクラウィスに返す。

そして、クラウィスはウロボロスリフレクタの本当の性能と使い方を少年に説明する。

初めは驚いていた少年だが、次第に表情が変わっていき、希望の眼差しをこの盾に向けていた。

「この話を聞いても、どうやら気持ちは変わらないようだね。約束だ。そちらの真の目的を教えてくれないか?」

クラウィスがそう促すと、少年はゆっくりと口を開く。

「僕は、今の学校を守らないとダメなんです。」

「学校を守る?」

意外な答えに、アクアンとクラウィスが首をかしげる。

「学校に、対外試合の申し入れがあったんです。」

「試合?」

「海運都市のヘルーザの学校と、冒険者育成学校の力量を図るための闘技試合をすることになったんです。」

「ほぉ、わざわざ遠い場所から、ここをご指名か。」

ヘルーザは、この街の側に流れる川を下り、海に面した場所にある。川を利用した水上運送も頻繁に行っている為、この街とは友好関係にある。

「闘技試合は、受けて立つところなんですが・・・。」

「何か問題でもあるのか?」

「パーティーメンバーに偏りがありすぎて、このままだと試合にならないんです。」

それを聞いて、クラウィスは少年の真意を汲み取る。

「盾役が居ない、と言う訳だな。で、騎士の訓練を受けている君に白羽の矢が立ったと。」

少年が首を縦に振る。

「僕も、騎士の端くれ。何としてでも勝利に貢献したいのですが・・・。」

少年が一枚の紙を見せる。そこには両チームの職業が書かれてあった。

「ほぉ、相手はバランスよく集まってるな。」

クラウィスがそう言いながら、紙を見つめる。それをアクアンが覗き込む。

「ねぇ、クラウィス。対戦相手、少しおかしくない?」

見せられた紙の中で、アクアンは奇妙な部分を見つけていた。

「何がおかしいんだ?」

「こっちのチームは、職業が決まってないんだけど、相手チームはしっかり決まってるわよね。」

「そう言えば、そうだな・・・。」

相手チームの名前の隣に、職業がしっかりと書かれている。それを見て、クラウィスがバランスよく感じたのだ。

「こういう職業は、一体どうやって決まるの?」

「冒険者の場合は、ギルドに認定してもらうのが一般的だが、彼の様な専門学校でも認定しているところがあるな。」

「じゃあ、彼も騎士って書けるんじゃないの?」

「認定試験をパスしてればな。」

少年の表情を見ると、随分暗い表情をしている。

「少なくとも、相手チームは相当の実力者という事だ。」

「でも、この闘技大会って、交流戦でしょ?そこまで深く考える事なのかしら?」

アクアンの疑問に、クラウィスが首を横に振る。

「これを見る限り、相手は本気でこっちの面子を潰しに来てる感じだな。一体相手に何をしたんだ?」

街同士は仲が良いが、その中の人たちは違う。そういう事を理解したアクアンだが、クラウィスの言う通り、こんなことをされる程の恨みとは何だろうか?

「誤解から始まってるんです・・・。この街は優秀な装備が揃う街だから、冒険者の技術は未熟でもいい成績が取れるのだと・・・。」

「武器だけで何とかなるなら、俺たちは一流どころじゃない冒険者だな。」

「それで、今度は相手が強力な武具を手に入れて来たんです。」

クラウィスが、少し腕を組んで考える。

「相手方に、厄介なOBが居たのかもしれないな。」

「でも、こういう時の武具って、安全なものを使うんでしょ?」

アクアンがそう言うと、少年は首を大きく縦に振る。

「そうなんです。でも、今回は相手の希望で、武具は自由となってしまったんです・・・。」

「それだと、かなり危険よね。学校側は納得・・・したからこうなってるのよね。」

心配そうな表情を見せるアクアン。

「怪我とかするんじゃないの?」

「今回は、かなり特殊な魔法で保護をするそうです。なんでも、致命傷を負ったり、負けを認めた瞬間に、その人に対して攻撃が出来なくなって、傷も一瞬で治るという話です。」

「そんな便利な魔法があるの?」

アクアンが驚いた表情を少年に見せる。

「初めて聞いたんですが、どうやら、相手がかなりの金額を積んでその魔法が使える魔導士を雇ったそうなんです。」

「よっぽどだな。その執念。」

半ば呆れているクラウィス。それは、アクアンも後ろで聞いていたシィルも同じだった。

「でも、それならこの装備じゃなくてもいいし、そもそも勝っても負けてもいいんじゃないかしら?」

「まぁ、それはそうなんだが・・・そこまで挑発されたら、返り討ちにしてやりたいだろうしな。でも、そのためにウロボロスリフレクタを使うのは問題があるな。」

そこまでの話を聞いたアクアンが、あることに気付く。

「ねぇ、この戦いだと、死ぬ事は無いのよね?なら、お試しとしては最適じゃない?」

「あぁ、そう言えばそうだな。」

アクアンの考えに、クラウィスが頷く。

「あの、それで、貸してくれるのですか?」

少年がクラウィスを見つめる。しかし、クラウィスの表情は苦いままだ。

「君に、まだ話していないことが1つある。」

クラウィスの言葉に、少年が不安そうな表情を見せる。

「これは、精霊がレプリカを作成するのを拒んでな。そこにある物は、本物なんだ。」

「え?!」

事情を知っていたアクアンは、小さく頷く。そして、少年の側にいるメルを抱きかかえる。

「あなたに、この子を使いこなす自信はある?」

メルがじっと少年を見つめている。その眼は、真剣そのものだった。

その眼に応えるように、少年は力強く頷く。

「使いこなして見せます。」

「クラウィス、どうするの?」

「・・・条件がある。」

そう言って、クラウィスが工房に戻り、すぐに何かを持って戻ってきた。

「この盾は、見る人が見れば、一発でウロボロスリフレクタだとわかる。それに、特性からして君が持つにはまだ荷が重い。だから、これをつけさせてもらう。」

クラウィスが、ウロボロスリフレクタにカバーを取り付ける。

そのカバーを付けたウロボロスリフレクタは、大きめの盾のようになっていた。

「これで、普通の盾のように扱える。もちろん、君に覚悟が出来たら、彼は応えてくれるさ。」

「オン!」

アクアンが抱いていたメルが、一声鳴いて、少年へ向かって飛び込んだ。

少年は、驚きながらも、メルを抱きかかえ、頭を撫でる。

「ありがとうございます。大事に扱います。」

「そうだな。シィル、手続きは頼んだ。」

「では、こちらへどうぞ。」

笑顔で少年をカウンターに案内するシィル。

そして、必要項目の記入が終わり、それを見たアクアンはウロボロスリフレクタを準備する。

「くれぐれも、気を付けてね。」

「はい。ありがとうございます。」

アクアンからウロボロスリフレクタを受け取り、少年は深々と頭を下げて店を後にした。

「あの少年、大丈夫かしら・・・。」

その姿を見送ったアクアンが、不安そうな表情を見せる。

「そうね、気になるところだし、試合は見に行った方がよさそうね。」

「その時は、私も連れて行ってくれると嬉しいわ。」

「わかったわ。」

シィルの答えに、アクアンは笑顔を見せた。

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