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第6章 本日開店!レンタルショップ!!

初日だけあって、やってくる人は物珍しそうにレンタルコーナーを覗いている。

そのうちの一人のエルフの女性が、シィルに尋ねる。

「シィルさん、これって何なんです?」

「これね、持ち主の居なくなってしまった精霊武具の引き取り先を探すために、レプリカのレンタルをして相性チェックするのよ。」

「レンタルって、この子を持って帰れるの?」

女性が、ギルを指さしてシィルを見る。ギルはそれを聞いて少しむっとした表情を見せる。

「えぇ、でも、既に精霊武具を持ってる人にはお断りしてるわ。だって、精霊武具を複数持つのは、色々と問題があるからね。」

「まぁ、複数本の精霊を養うのは、ちょっと骨が折れるわよね。」

女性が手持ちの指輪を見る。その指輪から、小さな手が見える。

「あなたのコロボックルリングも、中々の逸品ですからね。」

その手を見て、アクアンが女性に近づく。そして、その指輪を興味深そうに見つめる。

「今日も、コロは元気そうですね。」

「アクアンさん、こんにちは。アクアンさんも、レンタル出来るの?」

「レプリカですけどね。でも、私があなたのところに行ったら、コロが拗ねちゃいますね。」

そう言って、アクアンが女性の指輪をつんつんとつつく。すると、そこから1cmほどの小さな人型の精霊が飛び出してくる。

「ほら。」

明らかに機嫌が悪そうな精霊を見て、アクアンが笑顔を見せる。

「そう言う訳なの、もし、精霊武具を使ってみたいって人が居たら、声をかけてあげてくれると助かるわ。」

「雑誌にも載せたのだけれど、やっぱり、敷居が高いとか思われてそうだしね。」

「そうね、これもだいぶ苦労して手に入れたものだしね。」

女性が指輪から飛び出した精霊を手に乗せて、頭をなでる。精霊が嬉しそうに飛び跳ねた後、再び指輪に戻っていった。

「精霊の宿る道具は、本来身近なものって、知ってほしいからね。はい、コロちゃん用のメンテナンスリキッドね。」

シィルが女性に透明な小瓶を手渡す。その小瓶には、コーティング剤というラベルが張ってある。

「ありがと。少しの傷でも、この子にとっては大ダメージだから、これには助かってるわ。」

「今度は、ちゃんとメンテナンスに預けてね。」

「えぇ、そうさせてもらうわ。」

女性が、シィルに代金を支払い、笑顔を返してお店を後にする。

それを見送った精霊たちは、再び自分の持ち場に着いた。

「初日は、やっぱり質問の方が多いわね。」

「まだまだ、そういうお客は来るわよ。」

シィルがカウンターを片付けながら、アクアンに伝える。

「でも、常連さんには、私達を使ってもらえないんですよね。」

「そういう事になるわね。」

「だとすると、今日は俺達のお客さんはまず来そうにないって事だな。」

ギルがクランマガジンを手に、近くの椅子に腰かける。

「人の行動原理ってのは判らないんだが、少なくとも朝一番に来る店じゃないよな。ここは。」

「まぁ、そうね。大体、夕方に修理持ち込みが多いし。」

アクアンが過去の記憶を思い出しながら、ギルに答える。

「なら、焦ったところで仕方ないな。」

そう言いながら、ギルは適当なページを開き、顔に被せて寝る体制に入る。

「こーら!」

クランマガジンを取り上げて、頬を膨らませて見せるアクアン。

「お客さんがいなくても、やらなきゃならない仕事はたくさんあるのよ。」

「客もいないのに、何するんだよ。」

「店先の掃除に、倉庫の整理、色々とお仕事はあるのよ。」

「おいおい、俺はレプリカレンタルに協力するとは言ったが、店員の真似事までするとは言ってないぞ。」

その言葉聞いたアクアンが、笑顔でギルの顔を両手で掴む。

「この店がなくなると、困るわよねぇ。」

その迫力に、たじろぐギル。

「わ、わかったよ。」

「よろしい。」

ギルを開放するアクアン、その光景を見て、シィルが口に手を当てている。

「倉庫整理してくる。」

そう言って、ギルが倉庫に向かう。

「何かあったら呼ぶから、戻ってきなさいよ。」

「わかってるよ。」

そそくさと倉庫に入ったギルを見て、アクアンがため息をつく。

「ギルには、店番は無理ね。」

「向き不向きがあるからね。ギルはきっと他の事に特性があるわよ。用心棒なんかピッタリかもね。」

シィルがギルのフォローをするが、あの小柄のギルの用心棒姿を想像した2人は、思わず吹き出していた。

そして、窓から差し込む光が夕刻を示し、人の流れが朝とは逆になった頃、常連客がやってきた。

「シィル!今日もよろしくね!」

元気よく扉が開き、見覚えのある顔が大声でシィルを呼ぶ。

「セルミーナ、いらっしゃい。」

セルミーナがホスピタルに足を踏み入れた途端に、巨大な鬼が頭を抱えながら現れる。

「オーガブレードさん、今日も色々と大変だったみたいですね。」

「あぁ、今日はアイアンゴーレムの巣に殴り込みに行ってな。おかげでボロボロだ。」

「アイアンゴーレムって、鉄の塊でしょ?よく折れなかったわね。」

アクアンが鬼に近づき、まじまじと見つめる。

「アクアンだったか。まぁ、普通にやれば折れるが、こいつの技と俺の耐久性で何とかなったという事だな。」

「セルミーナ、少しは手加減しないと、いつか大けがしちゃうわよ。」

鬼をポンポンと叩きながら、シィルがセルミーナに告げる。

「心配してくれてるの?ありがとう、シィル。」

「あなたじゃないわ、この子の方よ。」

笑いながら答えるシィル。

「そうだぞ、俺の耐久性も限界があるからな。」

「大丈夫、限界が来てもここなら直せるでしょ?」

「さーて、またお説教タイムかしら。」

シィルは笑っているが、彼女からは明らかに怒りの雰囲気が伝わってくる。

「じょ、冗談ですよ~嘘ですよ~、おーちゃんは大切にしてますよ~。」

鬼に抱き着き、焦った表情を見せながら、セルミーナがシィルに伝える。

「よろしい。」

シィルが頷いて、雰囲気を変える。

「では、すみませんがこちらを修理していただけませんでしょうか?」

セルミーナが、オーガブレードを両手に持ち、跪きながらシィルに手渡す。

「判りました。」

厳かにオーガブレードを受け取ろうとするが、その重さに思わずふらつく。そのシィルを、鬼が抱えた。

「2人とも、冗談はほどほどにしておけよ。」

そう言われた2人は、声を上げて笑い出した。

「2人とも、仲がいいわね。」

その光景を見ながら、アクアンがしみじみと声を上げる。

「シィルとは、幼馴染だからね。」

「そうね、小さいころからの付き合いよね。」

セルミーナのハイタッチにシィルが合わせる。

「でも、まさかあなたがここに嫁ぐなんてねぇ。」

「あなたも、まさかこんな精霊武器を手に入れるなんてねぇ。」

2人が、今の境遇をしみじみと話し合う。それを聞いたアクアンに少し疑問が浮かぶ。

「それでは、2人は同級生なのですか?」

その疑問に、2人は首を横に振る。

「年齢で言えば、私の方が上になるかしら。」

シィルがセルミーナを見ながら、アクアンに答える。その答えに、セルミーナも頷く。

「そうですね。5つほど違いますかね。」

指を折りながら、アクアンに答えるセルミーナ。

「ほんとに、懐かしいわね。小さい頃は、おむつも替えたっけ。」

シィルがそう言った瞬間に、セルミーナの表情が真っ赤になる。

「し、シィルさん?その話は2人の時に・・・いや、やっぱりその話はやめてもらえると・・・。」

顔を真っ赤にしたセルミーナが、シィルにお願いをするが、当のシィルはにこやかに次の思い出を選ぼうとしている。

「そうそう、この子、小さい頃は本当に泣き虫でね。」

さらにセルミーナの過去を暴露しようとしたシィルに、思わず飛び掛かって口をふさぐ。

「シィルお姉ちゃん!お願いだから、少なくともおーちゃんの前ではやめて。」

口を塞がれているが、笑顔のシィル。その光景が、アクアンには新鮮に映った。

「本当に、仲が良いんですね。」

「俺が、初めてここに来た時も、かなり面白かったぞ。」

「そうなの?」

鬼が思い出し笑いをしながらアクアンに話しかける。その理由が気になるアクアンが、鬼の話に耳を傾ける。

「俺が宿っていたことを知らないまま、この店に俺を修理に持ってきてな。俺が現れた瞬間、セルミーナが腰を抜かしてな。」

そう言った途端、鬼の表情が変わる。

「おーちゃん、あなたまで何言ってるのかなぁ?」

セルミーナが、鬼の腕をつかんでいる。そして、ゆっくりと力を込めてひねり上げる。

「いたたたた、わ、わかった。もうこれ以上は言わないから。」

「シィルお姉ちゃん、おーちゃんを『しっかり』修理よろしくね。」

しっかりという部分を強調するセルミーナ。

「なるほどね。」

力関係がはっきり見えたアクアンがそう呟いた。

「そうそう、話は変わるんだけど、見慣れないコーナーが出来上がってるわね。」

「今日から始めたのよ。武具のレンタル。」

「武具って・・・魔法の付与付きじゃない。思い切ったことするわね。」

「この子たちの、居場所探しをするためだから、多少はね。」

セルミーナが、レンタルコーナーの品を眺めながら鬼の方へ顔を向ける。

「おーちゃん、気になるものある?」

「そうだな、これが俺は恐ろしく感じるな。」

鬼がウロボロスリフレクタを指さす。

「恐ろしい?」

ウロボロスリフレクタの精霊を知っている2人が、顔を見合わせる。

「何というか・・・こいつには手を出しちゃいけないという気配がビンビンしてるな。」

シィルが思わず顔をそむける。

「シィルお姉ちゃん、どうしたんですか?」

すっかりシィルを昔からの呼び名で呼んでいるセルミーナ。

「いや、なんでもないわ。そうね、手を出しちゃいけないわよね。うん。そうね。」

シィルが笑いをこらえながら答える。

「きっと、やばい精霊が宿ってるんだろうな。例えば・・・。」

鬼が言葉を紡ごうとするが、首を振って取りやめる。

「いや、口にすることも憚られるな。やめておく。」

その怯えっぷりに、アクアンも思わず顔をそむける。

「そ、そうね。この子は一応レンタル品だけど、レンタルしてほしくないわね。」

「そんなに特殊な性能なのね。私には使いこなせそうになさそう。」

そう言って、セルミーナがウロボロスリフレクタを手に取る。

「これ、盾なのよね?」

「えぇ、そうよ。」

やはり、その特殊な形状がセルミーナの目を引いていた。

「不思議な形状よね。どう考えても、所有者を守る気はないわね。」

「えぇ、だから、何度もこれは帰ってきてるのよね。死の盾って呼ばれてるし。」

「それは、物騒ね。おーちゃんも、それを感じ取ったのかしらね。」

鬼の表情を見て、その考えが正しいと確信を得るセルミーナ。

「さて、それじゃあシィルお姉ちゃん、おーちゃんをよろしくね。」

「ええ、出来上がったら連絡入れるわ。」

シィルに一礼して、セルミーナはホスピタルを後にする。

「それにしても、レンタルか。」

改めて、鬼がレンタルに並んでいる武具を眺める。

「気になる装備、他にあるかしら?」

「さっきの、ウロボロスリフレクタ以上の気を引くものはないな。しかし、これがここにあるという事は、この精霊も実体化しているという事だろう?」

「そうなるわね。」

鬼が、シィルの言葉を聞いて、窓の外を見つめる。

「しばらく、眠りについていた方がよさそうだな。」

鬼が自分の宿っているオーガブレードに近づく。

「それじゃあ、姉ちゃん、兄ちゃんによろしくな。」

そう言い残し、鬼はオーガブレードに戻った。

「戻らなくてもいいのにね、メル。」

「わん!」

ずっと店内にいたメルが元気よく吠える。

「セルミーナさんたちが、結構本気で怯えてたのは、流石に笑いをこらえるのに苦労したわ。」

アクアンがしゃがんでメルを撫でる。

「さて、クラウィスのところへ持って行って、直してあげないとね。」

シィルがオーガブレードを重そうに両手で持ち上げる。

「セルミーナさん、これを片手で持ってたわよね。」

アクアンが、オーガブレードをカウンターに置いた光景を思い出しながらつぶやく。

「あの子、本当に力と技がすごいからね。メタルゴーレム狩りも、このコンビなら余裕だったでしょうね。」

「確かに、オーガブレードはとても頑丈ですからね。その代償が、この重量でしょうけど・・・。」

シィルが持ち上げているオーガブレードを運ぶ手伝いをするアクアン。

「ほんと、これを片手で振り回すなんて、信じられないわ。クラウィスも、これを片手で持つのは一苦労でしょ?」

「そうね、修理の時は苦労してるって聞いたわ。あの人も、力は強いからね。」

「じゃあ、セルミーナと戦ったら、互角って事?」

「うーん、流石に場数が違うから、一方的にクラウィスが負けるわね。」

笑顔で答えるシィルに、アクアンが苦笑いを見せる。

「ほんと、冒険者ってすごいわよね。いろんな能力持ってる。」

シィルが首を横に振って、アクアンに伝える。

「普通の人もいるわ、セルミーナが特別なだけよ。」

「あぁ、そうなのね。安心したわ。セルミーナの様な冒険者ばかりだと思ってたわ。」

「まあ、ここは特殊な能力を持った人も集まるから、そう思うのも無理はないわね。」

フフフと笑うシィル。そして、2人で倉庫にオーガブレードを運ぶ。

そして、オーガブレードを棚に置き、シィルはクラウィスに今日の出来事を伝えるために工房へ向かう。、

「さて、そろそろ今日は店じまいかしら。初日はこんな物かしらね。」

アクアンが店舗に戻り、窓から外を眺める。すっかり、日が暮れたようで、周囲の窓からは暖かな光が漏れていた。

結局、初日はレンタルのお客は来なかった。

「ギルに、少しお話を聞こうかしら。」

アクアンがふと呟く。

「何を聞くの?」

店舗に戻ってきたシィルが、窓の外を眺めるアクアンに話しかける。

「うん、今日の流れを言い当てたじゃない。洞察力はすごいと思うわ。」

腕を組んで、アクアンが何度も頷く。

「だから、どういう事に目をつけて、どう予想したのかを聞いてみたいと思ってね。」

「なるほどね。それは、少し気になるわね。」

「話が聞けたら、シィルにも教えてあげるわ。」

「楽しみにしてるわね。」

そう言って、シィルは店のドアを開け、表の看板を取り込み、OPENと書かれた看板を裏返す。

「さて、今日はお疲れ様。また明日もよろしくね。」

「明日は、もっと来るかしら?」

「どうかしら、クランマガジンはもうそろそろ出回ってくるだろうし。目当てのお客が来るといいわね。」

シィルの笑顔に、アクアンは笑顔で答える。

「えぇ、楽しみにしてる。やっぱり、私はこういうのが好きなのね。」

そう言って、足元に居るメルを抱きかかえるアクアン。

「それじゃあ、私は保管庫に戻るわ。」

アクアンが保管庫の扉を開ける。そこには、椅子に座ってミロンと話をしているギルの姿があった。

「ん?ギル、何してるの?」

「あぁ、こいつが色々聞きたいって言うから教えてたんだよ。」

「ギル兄ちゃん、すごいんだよ!敵をたくさんやっつけてきたんだって!!」

「そっか、かっこいいお話沢山聞けたのね。」

メルを床におろして、ミロンの頭を撫でるアクアン。

「シィルが呼んでたわよ。もう晩御飯の時間だしね。」

「うん!わかった!!」

ミロンが元気よく保管庫を飛び出す。そして、精霊だけが残された。

「ミロンの相手をしてくれたのね。ありがとう。」

「気にするな、わからない人間を相手にするよりは楽だからな。とはいっても、今日は客が来なかっただろ。」

椅子から飛び降りてメルに近づき、その頭を撫でる。なんだかんだ言って、ギルもメルの感触は気に入っているようだ。

「えぇ、でも、どうしてわかったのかしら?」

「そんなに難しい事じゃないさ、俺たち精霊でも、噂話が伝わってくるのはかなりの時差があるだろう。」

噂好きの風の精霊が、精霊たちの主な情報源になるのだが、伝わった時には数年前だったなんてザラだ。

「まぁ、確かにそうだけど。なんでそこまで読めたの?」

「人間の行動なんか、大体同じだからな。」

ギルがそう言って、メルから離れ、再び椅子に座る。

「そう言えば、一体何のお話してたの?」

「あぁ、俺が色々な敵を倒した話だ。」

「敵?」

「そう言っておいた方が、ミロンのためだろ。」

少し表情を曇らせて、天井を見つめる。

「無実の罪の人間を手にかけたのは事実だが、同時に本当の極悪人も同じく処刑していたんだ。結構大掛かりな作戦も遂行したこともあるしな。」

「手をかけたところも、お話したのかしら?」

「そこはぼかしたさ。子供には聞かせられない。」

アクアンは、その言葉を聞いて少しホッとする。

「まぁ、お前よりは長い間ここに居るからな。その辺りのバランスはとれるさ。」

「なら、一緒にお店に出てもいいんじゃない?」

「それとこれとは話が別だ。俺は、あまり人とは話したくないんだ。」

少し嫌な顔をしながら、アクアンに答えるギル。

「そこは、直すつもりはないのね。」

「あぁ、ない。」

きっぱりと言い切るギル。

「そこまで言われると、清々しいわね。でも、あなたを借りたいって人が来たら、ちゃんと対応しなさいよ。」

「あぁ、判ってるよ。」

ギルはそう言って、ギルティスライサーの中に戻っていった。

そして、次の日の朝、お店のレンタルコーナーにアクアンとギルがやってきた。

「今日は、お客さん来るかしら?」

「どうだろうな。昨日来た客が他の人に広めれてれば来るだろうし、そうでなければ、1週間は客が少ないだろうな。」

窓の外を見ながら、ギルがアクアンに告げる。

「私としては、あなたの考えは外れて欲しいわね。」

「そうなるといいな。」

ぶっきらぼうに言い放ち、ギルは保管庫に戻っていく。それを見て、やれやれと言ったしぐさをし、アクアンは開店準備に入る。

それから、数時間後、シィルとアクアンは最初のお客を驚きの表情で迎え入れることになった。

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