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第5章 盾の呪いと鎧のいたずら

ウロボロスリフレクタの犬が、保管庫に入ってきたクラウィス達にワンと吠える。

「お待たせ~。」

アクアンがしゃがみ込んで、犬を抱え込む。そして、頭を撫でまわす。

その様子を見たクラウィスは、先ほどのウサギと同じ様相のアクアンを思い出す。

「アクアンは、本当にかわいいもの好きね。」

シィルがにこやかにアクアンに話しかける。

「えぇ、私はこういう子たちには目が無いのよ。実体化できない間は、どれだけ触りたかった事か。」

アクアンが昔の事を思い出して、悔しそうな表情を一瞬だけ見せるが、目の前の犬がすぐに笑顔に戻す。

「でも、これがウロボロスリフレクタって言うのが意外よね。」

「そうだな。あの凶悪な性能とはかけ離れた姿だな。」

シィルとクラウィスの会話を聞いていたアクアンが、思い出したかのように声を上げる。

「そうよ、この子の性能の話が途中だったわね。一体、この子の性能ってどうなの?」

アクアンが今一番気になる事を思い出して、声を上げる。

「説明がまだだったのか?」

「ちょうど取材が来た時に、2人がこの子たちを連れてきたのよ。急いでたから、説明は後回しってね。」

「そういう事なのよ。だから、この子の性能を教えて。」

アクアンが犬を抱きかかえて、シィルに突き付ける。

「この子はね、全ての攻撃を自身に集める能力を持つのよ。」

「自身に集める?」

「この子の形状、覚えてるでしょ?」

シィルの問いかけに、アクアンとギルは首を縦に振る。

「巨大なリングの形、一度見たら忘れられないわよ。」

「あのリングの中に、全ての攻撃を集めるの。すると、どうなるか分かるわよね。」

ウロボロスリフレクタは、その両端に持ち手が付いている。それを持ったまま、攻撃を集めるという事は、無防備な胴体に全てを受けるという事になる。

「複数の攻撃が来たら、間違いなく死ぬな。」

ギルが素直な感想を述べる。その感想が正しいようで、シィルは頷いた。

「私達の代では、まだこの子は貰われてないのだけれど、この子は、何度もここに戻ってくるのよ。理由は・・・言わなくてもわかるわよね。」

アクアンの頭には、所有者の死という理由がすぐに思い浮かぶ。

「そんなに危険なのに、何度も貰われるって・・・どうしてなんですか?」

アクアンが手の中に居る犬の頭をなでながら、疑問をシィルに問いかける。

「英雄が持っていたから・・・かしら。この盾は、元々は魔法が付与されたもので、最初の所有者はとある騎士だったわ。」

「持ち主は予想がついていたけど、魔法付与?」

「えぇ、全ての攻撃を吸収するっていう魔法よ。でも、魔法付与は、さっきあなた達がレプリカに施したように、使用制限があるわ。」

アクアンの抱える犬をシィルが受け取り、抱きしめながら犬の頭をなでる。

「最初の内は吸収のおかげで無事だったけど、いつしか攻撃を集めるだけになった。それでも、その騎士はこの盾を使い続け、名声を上げていき、最後には絶対防壁と呼ばれる程になったの。」

「その人は、相当頑丈だったんでしょうね。」

この盾の効果を聞いてしまったアクアンが、しみじみとつぶやく。

「彼は、国を亡ぼす神の一撃すらも1人で受け切ったとされてる、いわば伝説の騎士ね。その騎士が、晩年病に伏せったため、この盾を他の使い手に託すことにしたの。」

「・・・でも、こんな盾、その人以外に使いこなせるのかしら?攻撃を全部受けるんでしょ?」

そんな伝説の騎士が、何人もいるわけがない。アクアンの疑問は当然の事だった。そして、シィルの答えも予想通りだった。

「あなたの疑問は、的中するわ。結局、彼以外にこの盾を使いこなすことはできなかったの。そして、彼自身も病でこの世を去り、この盾だけが残されたの。伝説の盾としてね。」

「それが、どうしてここへ?」

「この盾は、持ち主を転々としたわ。そして、とある持ち主がこの盾を修理に持ってきたのよ。初代の時にね。」

「そんな昔から居るのね、この子。」

アクアンの言葉が判るのか、犬はワンと一声鳴いた。

「ところで、この子の名前、そろそろ決めない?」

シィルの抱いている犬をアクアンが撫でる。その提案を気に入ったのか、犬は再びワンと鳴いた。

「この子も付けてほしいみたいね。それじゃあ・・・。」

アクアンが腕を組んで犬を眺める。それを見ながら、ギルはため息をつく。

「本当に、小動物という姿は得だな。なぁ、ルミナ。」

そう言いながら、ギルは革鎧をポンポンと叩く。すると、鎧の右肩がゆっくりと光り始める。

「ウロボロスリフレクタの精霊だから・・・ウロ、はちょっと安直かしら。」

真剣に悩んでいるアクアン。その姿を見たギルは更に大きなため息をつく。

「そんなの、犬っころでもワン公でも何でもいいじゃないか。」

「ダメよ、そんなの。いい?名前はその子を現す大切なものなんだから、ちゃんとつけてあげないといけないわ。」

それを聞いたギルは、自分に付けられた適当な名前はどうなんだ?という言葉をぐっと飲みこんだ。

「で、名前は決まったのか?」

ギルがアクアンに問いかけるが、その言葉は届いていないようだ。

「ちっちゃいからミニ・・・いや、それは違うわ。ポチ・・・普通過ぎるし・・・。」

アクアンが犬を見つめながら名前を思案する。そして、次第に眉間のしわが深くなっていく。

「クラウィスにシィル、このままだとアクアンの顔が戻らなくなるぞ。」

「そうだな。」

ギルの言葉に応えるように、クラウィスがアクアンに近づき、しゃがみ込んで犬の頭をなでる。

「一生懸命考えているところで悪いんだが、実はこんな資料が残っててな。」

そう言って、クラウィスが服の胸ポケットから一枚の紙を取り出してアクアンに見せる。

「これは・・・?」

「彼の最初の持ち主が残した自伝の一部だ。本は大都市の図書館に行けばあるだろう。」

アクアンがその紙に目を通す。

「え・・・?!」

アクアンの驚きっぷりが気になったギルは、アクアンの持つ紙を覗き込む。

「なになに・・・騎士は自身の持つ盾にメルという愛称をつけていた?」

「オン!」

声を出して読み上げたギルに、犬が高らかに声を上げる。それを聞いた一同は、そのまま視線をアクアンに向ける。

「この子、もう名前があったのね・・・。」

抱きかかえたメルを見つめて、アクアンがしみじみとつぶやく。

「メル、でいいのね。いい名前ね。」

自分で名付けられなかった寂しさを声色に出しながら、アクアンがメルの頭をなでる。

「さて、クラウィス。問題も片付いたようだし、これのレプリカは作れるのか?」

クラウィスがじっくりとメルを眺める。そして、ゆっくりと口を開く。

「形状は真似できるが、効力を完全に真似できないな。」

意外なクラウィスの言葉に、ギルとアクアンが驚く。

「何か、難しい問題があるのね?」

「あぁ、全ての攻撃を集めるこの性能を付与は出来ない事もないと思う。ただ、それは死の盾を生産するという事になる。」

「え?この盾がある以上、この盾がある場所に攻撃が集中するんでしょ?なら、攻撃避けにもってこいじゃない。」

クラウィスが首を横に振る。どうやら、事はそう単純ではないらしい。そうでなければここまで悩まないだろう。

「この盾の効果が発動するには、この盾を正しく持つ必要があるんだ。両端に持ち手があるだろ。」

クラウィスがウロボロスリフレクタを指さす。そして、説明を続ける。

「この両端の取っ手を、1人で持つことでその効果が発揮されるんだ。」

そう聞いたアクアンは、クラウィスの悩みを理解する。

「シィルの説明を聞いて、おかしいなと思ってたのだけれど、なるほど・・・この盾の持ち主は、体が丈夫ってだけじゃなかったかもしれないわけね。」

「そうね。もし、あの騎士が本当に絶対防壁と呼ばれる存在なら、その装備全てが伝説になるはずなのよ。でも、実際はこの盾しか引き継がれていないわ。」

そう聞くと、この盾の奇妙な部分が浮き彫りになってくる。

「なぁ、そもそもの話をさせてもらうんだが、騎士の伝説という事自体が嘘なんじゃないのか?」

ギルの考えに、アクアンとシィルが驚いた表情を見せる。だが、クラウィスが笑顔を見せて頷いている。

「やはり、ギルもそう考えるか。」

「クラウィス?」

その反応に、シィルが不思議に考える。

「言い伝え、信じてなかったの?」

「信じてないわけじゃないが、この盾の性能を考えると、それ以外の装備に何か秘密があるとしか思えないからな。それとも・・・。」

少し首を傾げつつ、クラウィスが自分の意見を述べる。

「その騎士は、人間じゃなかったかもしれないな。」

クラウィスの考えに、一同納得する。確かに、騎士の伝説は残っているが、それが人であるという証拠は一切なかった。

「確かに、そう考えるのが一番自然ね。」

シィルとアクアンがその考えに納得する。

「で、話を戻すんだが、こいつのレプリカは作りたくはないという事か?」

「まあ、そういう事になる。安全性を確立させないと、流石に作る気になれないな。」

「ねぇ、それなら、盾の穴を埋める事は出来ないの?」

アクアンの提案を受けて、少し考えるクラウィス。

「出来ない事は無いが、盾の耐久性に問題が起こるな。」

「どういう事?」

思っても見なかった単語が出てきて、アクアンは思わず聞き返す。

「ウロボロスリフレクタは、構造上盾自体はダメージを受けない。だから全ての攻撃を集めることが出来るんだが、その攻撃を受け止めるとなると、盾自体の耐久力だけじゃなく重量も問題になるな。」

「もし、全てを防ぐことが出来る盾だとしたら、どれくらいの大きさと重さになるの?」

なんとなく事の重大さに気づいてきたアクアンが、次の質問をクラウィスにぶつける。そして、少し考えた後、その答えを告げる。

「そうだな・・・絶対に壊れず、使用者も安全という前提を付けるなら、この工房全てに鉄を流し込んで、一枚の盾にするぐらいは必要だろうな。」

「それは・・・無理ね。あの盾には、それなりの理由があるという事なのね。」

ウロボロスリフレクタについて納得できたアクアンが、抱きかかえたメルに視線を落とす。

「あなた、相当複雑な装備の精霊なのね。」

「オン!」

元気よく答えるメルに、アクアンは何とも言えない表情を見せた。

「なぁ、そろそろこいつの事も考えてやった方がいいんじゃないのか?」

ギルがアルマ・ルミナをポンポンと叩く。

「わ、忘れてたわけじゃないわよ。でも、この子も、レプリカを作るのは難しいんじゃない?」

メルを片手に、アルマ・ルミナをなでるアクアン。すると、手の触れた場所が穏やかに光る。

「そうだな、それでもウロボロスリフレクタよりは作りやすい。一番の問題は、意思疎通が難しい事だ。」

「言葉は判るようだが、回答が二択だからな・・・。」

ギルがしみじみと答えるが、クラウィスはそこまで深刻そうに考えてはいないようだ。

「まぁ、こいつの特徴は比較的わかっている。何度もここに戻ってきてるからな。その資料は残っている。」

シィルがクラウィスの言葉を補うように、資料をアクアンに手渡す。

「えっと・・・。」

ギルの側に寄って、アクアンが資料を開く。

「なぁ、クラウィス、ここに書いてる返却理由は本当なのか?」

半ば呆れた感じで、ギルがクラウィスに問いかける。同じ疑問を持ったアクアンはアルマ・ルミナの方を見つめる。

「・・・あぁ、この装備は、睡眠不足を誘発する。」

クラウィスがギルの質問に頷いて答える。」

「お前、一体何をやらかしたんだ?」

ギルがそう言いながら、アルマ・ルミナをポンポンと叩く。すると、その鎧全体が点滅する。

「ギル、この子のいたずらの詳細も書いてるみたいよ。」

アクアンが該当のページを開いて見せる。

「えっと・・・この鎧を装備した者の所持する道具全てが光る?!」

書いてあることの意味がまるで解らないアクアンとギル。そして、2人してクラウィスに視線を向ける。

「あぁ、これが一番の問題だ。光はどんどん強くなって、最終的に周囲が常に昼と同じ明るさになる。」

「それは、眠れなくなるわね。でも、使い方次第で、かなり使えるんじゃない?」

少し考えたアクアンが、笑顔でクラウィスに尋ねるが、クラウィスは首を横に振る。

「アクアンがそう考えるのもわかるが、所有者が近くに居なくなったら、アルマ・ルミナ本体以外は光を失うんだ。」

「あぁ、それだと役に立たないかも・・・。」

アクアンが残念そうに呟く。

「これも、色々と問題を抱えてるな。」

ギルがアルマ・ルミナを眺めながら呟いた。

「それで、この子のレプリカ、作れるの?」

「レプリカは問題ないだろうが、どうやってレプリカに力を移すかという事になるな。」

「ウロボロスリフレクタみたいな、魔法武具じゃないのか?」

「残念ながら、アルマ・ルミナは純粋な精霊武具なんだ。どうしてこの鎧にこんな力が宿ったかというのは謎なんだがな。」

クラウィスがアルマ・ルミナに近づいて持ち上げる。

「お前は、一体誰に大切にされたんだ?」

クラウィスがそう問いかけるが、アルマ・ルミナはただゆっくりと明滅を繰り返すだけだった。

「そう言えば、ギル、さっきからお前はこいつと意思疎通ができてたようだが、何かわかるのか?」

「会話のルールを決めただけで、具体的な意思疎通は出来ないな。」

「ルール?」

ギルとアクアンがアルマ・ルミナとの間に交わしたルールを説明する。

「なるほどな。それなら、幾分意思疎通も出来るな。」

クラウィスが少しの沈黙の後、アルマ・ルミナに1つ問いかける。

「アルマ・ルミナ、お前はここがどんなところかわかるか?」

その問いかけに、アルマ・ルミナは右肩を点滅させる。

「これは、はいという意味だったな。言葉は通じてるのだな。」

その言葉に対しても、アルマ・ルミナは右肩を光らせる。

「今までの言葉は、すべて理解していたのか。」

「そうだぜ。さっきまでずっと犬にかまけてる間も、ずっと聞いてたんだぜ。」

「あー、それは悪いことをしたな。」

クラウィスの言葉に、アルマ・ルミナの左肩が点滅する。

「そうか、ありがとう。」

アルマ・ルミナは全体をゆっくりと点滅させる。

「さて、私からも1つ聞いて良いかしら?」

アルマ・ルミナに話しかけるアクアン。その答えに、アルマ・ルミナは右肩を点灯させる。

「あなたの力、レプリカに宿すことは可能かしら?」

アクアンの問いかけに、右肩を光らせる。しかし、それと同時に左肩も薄らと光らせていた。

その様子を見たアクアン達は、少し困惑する。

「はいが強くて、いいえが少し?」

「全部の力は宿せないという事でいいのか?」

ギルの問いかけに、今度は右肩を強く光らせるアルマ・ルミナ。

「クラウィス、レプリカ作れそうだな。」

クラウィスがギルの言葉に頷く。

「あぁ、どこまでの力を付与できるかによるが、良いものが出来そうだな。」

「でも、光るだけなんだよな?」

「基本的に、元の性能を上回る事は無いからな。」

そう言いながら、クラウィスが1つの鎧を持ち出す。その鎧は、周囲のお店で売っている汎用性の高い布鎧だ。

「一応、これを依り代として考えてるんだが、本人の意向も聞いておこうと思ってな。」

クラウィスの提案に、アルマ・ルミナは右肩を光らせる。

「気に入ってくれたみたいでよかったよ。これをもう少し軽くして、誰でも着れるようにしようと思う。」

その答えを聞いて、アルマ・ルミナは全体を光らせる。

「よかったな、アルマ・ルミナ。」

ギルがアルマ・ルミナをポンポンと叩く。

「それにしても、この子も名前長いわよね。」

腕を組んだアクアンが首をかしげる。周囲の人間はまたかという表情を見せる。

「うん、アルマでいいかな?」

安直な名前だが、さっきのメルの名前決定で延々と悩むよりはましだろう。

そのアクアンの付けた名前が気に入ったのか、右肩を光らせていた。

「アルマ、よろしくね。」

アルマ・ルミナを抱きかかえるアクアン。メルを抱きかかえる時よりも表情はしっかりしていた。


それから、数日後、ホスピタルに1つのコーナーが設けられた。

そのコーナーには、見慣れた装備品が並んでいる。そして、壁には看板が掛けられており、そこにはレンタル用品と書かれていた。

「さぁ、ギル、あなたもしばらくは呼ばれたら素直に来なさいよ。」

「めんどくせぇな・・・。」

そう言いながらも、ギルは一番目立つ位置に自分のレプリカを置く。

その様子を見たアクアンが、ギルに笑顔を見せる。それに気づいたギルが、今度はアクアンをにらみつける。

「何が楽しいんだよ?」

「べっつに~。」

アクアンが笑いながらギルに答える。

「ったく。」

そう言いながらも、ギルはアクアンズロッドも目立つ場所に移動させる。

「早くどっかに行ってもらいたいしな。」

「あら、これを貸出ししたとしても、私がどこかに行くわけじゃないわよ。」

「わかってるよ。」

2人がレイアウトをいじっている間に、シィルがラックに届いたばかりの本を並べる。

「中々、良い感じに出来上がったのね。」

ぺらぺらとページをめくり、今回の特集ページに目を通す。

特集はこの街全体で、そのうち特徴のあるお店を紹介する形となっている。

このホスピタル以外だと、超高級の武具店と、リーズナブルなお店、そしてグルメと観光情報といったところだ。

いわゆるタウン情報誌だが、なかなか馬鹿にできない集客力がある。それが、このクランマガジンの信頼度だ。

「シィル、それに私達の事が載ってるの?」

「えぇ、載ってるわよ。読んでみる?」

シィルがアクアンにクランマガジンを手渡す。そして、目的のページを見つけて声に出す。

「あ、私とギルよ。いつの間にこんなの撮ったのかしら?」

ホスピタルの紹介ページに、クラウィスとシィルの写真と、アクアンとギルの写真が載っている。

「なぁ、これ、おかしくないか?俺たちよりも、本体の方が重要だと思うんだが。」

アクアンの隣で覗き込んでいたギルが、その記事の写真を指さして声を上げる。

「そうかしら?ここの売りは私達のように精霊が実体化する事だから、これでいいんじゃない?」

よく撮れている写真を見ながら、アクアンがギルに答える。

「それに、私はこんなに綺麗に撮ってくれたのだから、文句はないわ。」

両手を頬に当て、にこやかな笑顔を見せるアクアン。

「私のファンが来たらどうしようかしら。いや、私にはあの人が居るから応えられないわ。」

妄想の中に入ってしまったアクアンを引いた眼で見つめるギルとシィル。

「なぁ、あいつは最初からあんなのだったか?」

ギルがシィルに尋ねるが、1年程この様子を見ていたシィルからすれば、いつもの事だった。

「初めての時よりは、大分砕けたかしら。」

「あれが、素か・・・。」

「そうね。あなたも、少し楽になったら?」

シィルがギルにそう問いかける。

「俺が、苦しそうに見えるのか?」

「そうね、まだ私達に心を開いてない感じかしら。」

そう言われたギルが、少し窓の外に目を向ける。

「あなたも、今回のレンタルで、見つかるといいわね。」

「・・・そうだな。」

ギルがシィルの言葉を肯定する。それは、今までの言葉がすべて真実だと告げる事と同じだった。

そして、2人の作ったレイアウトも完成したところを見て、シィルが表の玄関にOPENの看板を置き、ホスピタルの営業が始まった。

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