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第3章 セメタリーの仲間たち

アクアンズロッドが目を覚ましたのは、それから1か月後だった。

「ん・・・あぁ。」

目を覚ましたアクアンは、周囲を見渡す。すぐに目に飛び込んできたのは、驚いた表情のミロンと、緑の帽子の後姿だ。

「ギル!後ろ!!」

「ん?」

緑の帽子が後ろを振り向く。ギルと呼ばれたのは、ギルティスライサーのようだ。

「目が覚めたか。」

「ギルティスライサー・・・?」

少し照れくさそうにアクアンを見るギルティスライサー。しかし、アクアンは少し不思議そうな顔を見せる。

「ギル?」

「あぁ、こいつが付けた俺の名前だ。気にしないでくれ。」

「気にするなって・・・。いい名前じゃない。」

「精霊に名前なんてないだろ。名前で呼ばれるのは照れるんだよ。」

少し顔を赤らめたギルティスライサーはアクアンに悪態をつく。

「私も今まで呼びにくかったから、そう呼ばせていただくわね。」

「勝手にしろ。」

そう言って、ギルが後ろを向く。その方向には、笑顔のミロンが立っている。

「アクアンお姉ちゃん、ママを呼んでくるね。」

ミロンがシィルを呼びに店に走っていった。その後ろ姿を見て、ギルは大きく息を吐く。

「あいつは、たまにセメタリーに来てたな。」

「知ってたのね。」

「あぁ、流石にあいつが居る時には姿を隠してたがな。」

そう言って、ギルはアクアンに向きなおす。

「聞いたよ・・・。悪かったな。」

ギルが小声でアクアンに謝る。

「精霊武器で、精霊は殺せない。そもそも、精霊は死なない。傷ついたら、眠りにつくだけだとな。」

「クラウィスに聞いたのね。」

今までの行為がすべて無駄だった。そう悟ったギルは、アクアンの話を聞く気になったようだった。

「なぁ、お前は、何がしたいんだ?」

「私は、このお店を救いたいのよ。」

「店を救う?こんな立派な店をか?」

ギルとアクアンの意見が食い違っている。

「立派?」

「あぁ、俺がここに来たときは、殆ど石積みの小屋でな。こんな立派な保管庫はなかった。セメタリーの一部分が、昔から変わってないな。」

ホスピタルの歴史を感じたアクアン。それと同時に、ギルが精霊武器の大先輩だと再認識する。

「そう言う事ね・・・。ギル、あなたが目覚めたのって、最近?」

「そうだな、お前がセメタリーに運ばれる少し前ぐらいに目覚めていたが、実体化はしていなかったな。」

「じゃあ、セメタリーの外には出てなかったって事ね。それなら、周囲が変わってる事に気づかないのも当然ね。」

「俺は、死ぬ事しか考えてなかったからな。」

アクアンは、苦笑いするギルを見て、今はもうその心配はないと感じた。

「アクアン、おはよう。」

その2人の会話を遮るように、保管庫の扉が開き、店舗からシィルとミロンが入ってくる。

「アクアン、あのお話はしたのかしら?」

「今してるところですけど、その前に認識違いがあったから、そのすり合わせをね。」

「認識違い?」

問題の認識をシィルに伝えるアクアン。その問題はシィルを笑顔にする効果があったようだ。

「そうね、私もこの街の昔の事は詳しく知らないけれど、昔に比べれば、今の方が立派よね。」

「と言う訳で、このお店を救うために、協力してほしいのよ。」

「まぁ、世話になってるから協力はするが・・・。」

訝しげにアクアンを見るギル。

「お前が目覚める前に、シィルに少し聞いていたが、俺たちを売るんだろ?当てはあるのか?」

「当てはないけど・・・考えはあるわ。」

「私にも、その考えを教えてもらえる?」

シィルが興味深そうにアクアンに視線を向ける。

「そうね、一度意見を聞いておきたいわ。」

そう言って、アクアンが3人に向かって笑顔を見せる。

「私達の貸出制度よ。」

「貸出?!」

シィルが驚きの声を上げる。それと同時に、不思議そうな顔を見せるギル。

「俺たちを貸し出す?それは、どう考えても持ち逃げされるだろ。」

「そう、まずはそこが問題かと思ってたけど。クラウィスに相談したいことがあってね。」

「相談?」

「えぇ、クラウィスの力量なら、簡単にできると思うんだけど。」

「何をお願いするの?」

心配そうな表情を見せるアクアンに、その理由を問いかける。

「私達のレプリカを作ってもらうの。そうすれば、持ち逃げされても大した事は無いわ。」

「レプリカに、俺たちの力を籠めるのか?試したことが無いが、出来るのか?」

「同じような武器なら、加護を付与って形にすれば、似た効果は出せるんじゃないかしら?」

「似た効果を付与か・・・俺の場合は無理だな。」

「どうして?」

ギルが即座にその提案を否定する。アクアンはその理由を問いかける。

「俺の場合は武器そのものが動く仕組みだが、実のところ、本体には動く仕掛けは無い。」

「じゃあ、どうやって動いているの?」

「それは、秘密だよ。」

ギルがそう言ってにやりと笑うが、当の本人もその原理は判っていなかった。

「まあ、とにかくクラウィスに相談させてもらえますか?」

「ええ、わかったわ。呼んでくる。」

そう言って席を立とうとするシィルに、ミロンが話しかける。

「僕が呼んでくる!」

「ダメよ、パパの工房は危ないでしょ。」

「大丈夫だよ!」

そう言って走り出すミロンを、ギルが腕を掴んですかさず止めた。

「母ちゃんの言う事は聞くもんだぞ。」

腕を掴まれたミロンが、少しうなだれる。

「うん。」

「ギル、意外とお兄ちゃんしてるのね。」

「うるせぇよ!」

アクアンにそう言われたギルがまた照れている。

「じゃあ、クラウィスを呼んでくるわ。」

シィルが工房に向かい、クラウィスを連れて来た。

「どうしたんだ?俺に頼みたいことって。」

アクアンが、自分の考えをクラウィスに伝える。

その考えを聞いたクラウィスが、うーんとうなりながら首をかしげる。

「難しいの?」

「出来ない事は無いが、レプリカを作るにしても、それなりの準備と素材、それと、お前たちの協力も必要になるな。」

「協力ならいくらでもするわ。ね、ギル。」

そう言って、アクアンがギルの肩を掴む。仕方ないといった表情をクラウィスに見せる。

「そうか。なら、やってみよう。」

クラウィスが右肩を回して、やる気見せる。

「材料はどうするの?」

シィルが疑問を口にする。その答えは至って単純なものだった。

「表通りの武器屋で売ってる物を使おう。それを改造すればいいだろう。」

「なるほどな。でも、武器を改造って出来るのか?」

「あぁ、この街じゃあ普通の事だな。ベース専門店なんかもある。うちも、仕事が無い時は改造を請け負ってるしな。」

クラウィスが保管庫の隅に置いてある槍を指さす。見た目は変わらないが、その改造武器のようだ。

「それじゃあ。クラウィス、お願いできるかしら?」

「あぁ、やってみよう。」

アクアンの提案をクラウィスが聞き入れる。

「なら、早速素材を仕入れてくるか。」

出かけようとするクラウィスが、扉に手をかけたところで動きが止まる。

「そう言えば、他に起きているのは居るのか?」

クラウィスの問いかけに、ギルが少し腕を組んで考え込んだ。

「ほかに起きてる奴か・・・何度か見かけたが、正直話が通じそうにないな。」

「どういう事?」

ギルの答えに、アクアンが詳細を問いかける。

「あぁ、お前にあった時に、言わなかったか?お前に頼みがあるって。」

「殺してほしいって事?」

「そうだ。あれは、言葉が通じそうだから頼んだんだ。」

しみじみと話すギル。よっぽどおかしなモノが居たのだろう。

「覚えている限りでいいんだが、一体何が目覚めているんだ?」

クラウィスの問いかけに、少し頷いてギルが答える。

「俺が見たのは、犬と光球だな。」

「光球はウィスプだろうけど、犬?」

「あぁ、犬はたまに尻尾振ったりあくびしたりしてたが、基本的には出てきているときはほとんど動かなかった。光球はそこら辺の装備に憑りつこうとしてたな。」

ギルは奇妙な証言をする。しかし、その言葉をその場にいた全員が受け入れる。

「クラウィス、これらの装備に覚えはあるかしら?」

「流石に、精霊の種類だけでは絞り込めないな。その精霊が宿る装備の種類もわかれば絞り込めるが・・・。」

「ギル、案内してくれない?」

アクアンがギルにお願いする。

「判ってるよ。」

そう言って、ギルの案内でアクアンとクラウィスはセメタリーに向かった。


「クラウィス、そう言えばレプリカ武器の準備はいいのか?」

ギルの問いかけに、クラウィスは問題ないという表情を見せる。

「そっちは、シィルに頼んでる。」

「そうか。」

ギルとクラウィスの確認も終わり、ギルがセメタリーの扉に手をかける。

「さて、出会えるといいんだがな。」

改めて扉を開くギル。そして、ぼんやりと明るいセメタリーの片隅を指さす。

「犬の精霊は、あのそばに常にいるな。」

ギルが指さした先にあったのは、奇妙な形状の大きな縦長のリングだった。

「これは・・・?」

アクアンが、自分と同じ大きさのそれを手にする。

「こいつが目覚めていたのか?」

クラウィスの問いかけに、ギルが頷いて答える。

「これは、ウロボロスリフレクタという盾だ。」

クラウィスの答えに、アクアンとギルの表情が変わる。

「え?!盾?!これが?!」

アクアンが手にしたウロボロスリフレクタを二度見しながら驚きの声を上げる。ギルも同じような反応だった。

「あ、わかった。これ、構えると魔法効果でこの穴がふさがるんでしょ。うん。そうじゃないと盾じゃないもんね。」

手を叩いて、アクアンが自分の考えを話すが、クラウィスが首を横に振った。

「いや、これは何をしても穴だよ。何なら、通り抜けることも可能だ。」

「なんだよ、こんな不良品だから、こいつはここにいるんだろ?」

ギルがアクアンの持つ盾を手にして、それを振ったり叩いたりして色々と試すが、何も変化はない。

「そうでもないんだ。こいつは、これで完成品だ。修理は俺がやったしな。」

「修理をしたのに、精霊は見てないの?」

「あぁ、そんな物はここにたくさんある。だから、あの帳簿が意味を持つんだ。何しろ、初代が修理して以降、一度も目覚めたことのないものもある。」

クラウィスがそう言いながら、古びた一本の木の棒を手に取る。

「これなんか、この店が出来た時からあるそうだからな。」

「・・・これ、単なる置物じゃなかったのか?」

どう見ても木の棒、形状的には使い込まれたこん棒だが、クラウィスはそのこん棒をアクアンに渡す。

「どう見ても、普通の木の棒ですけど・・・何なのですか?」

「資料によると、ジェノヒールカステートと言うらしい。」

「なんですか、それ・・・。」

思った以上に奇妙な名前を持つ武器で、アクアンが思わずクラウィスに聞き返す。

「どうも、殴ると回復するらしい。ただし、その効果が発動するのは、致命傷を受けた時だそうだ。」

「拷問用装備ね・・・。」

アクアンがふと思ったことを口にする。その瞬間、ギルの顔が頭をよぎり、しまったという顔をしてギルを見る。

「あ、ご、ごめんね。」

「あぁ、気にするなよ。事実だからな。」

ギルは表情を変えずにアクアンに告げる。

「それにしても、色々と用途があるんだな。」

ギルがアクアンに手を伸ばして、アクアンの持っているジェノヒールカステートを受け取る。

「結構、握り心地はいいな。」

ブンブンとジェノヒールカステートを振るギル。どうも、いい感触らしく、何度も振りながら色々とアクションを繰り出している。

「ギル、気に入ったのか?」

「ん?気に入ったというよりは、なんだか握っていると振りたくなってくるな。」

そう答えている間にも、ブンブンとジェノヒールカステートを振っている。

「・・・ねぇ、クラウィス・・・。もしかしてだけど、ここまで振りたくなるのって、武器の効果じゃないの?」

腕を組んで、首をかしげるクラウィス。そして、アクアンの疑問に答える。

「アクアンは、あれを持った時に振りたくなったか?」

「あぁ・・・。」

アクアンは、自分が持った時の気持ちを思い出す。

「ギルの性格ね。」

小さなため息をついて、アクアンとクラウィスはジェノヒールカステートを振り回すギルを眺めていた。

「ギル、そろそろ気が済んだか?」

クラウィスの言葉に、ギルが我に返って、ジェノヒールカステートを置く。

「なんか、悪かったな。」

照れくさそうに2人に詫びる。

「いいのよ、気にしてないわ。」

意趣返しをするアクアンを見て、にやりと笑うギル。

「そう、互いにな。」

ギルもそう言い返し、その場は収まった。

「さて、犬は判った。後は、光球だな。」

「そうだった。光球はこいつだ。」

ギルがセメタリーの棚に置いてある軽鎧を指さす。

「あれか。」

「クラウィス、わかる?」

アクアンがクラウィスに尋ねる。そして、小さく頷いて装備の事を説明する。

「あれは、アルマ・ルミナという軽鎧だな。」

「いい装備なのかしら?」

アルマ・ルミナに近寄って、それを眺めながらアクアンが疑問を口にする。

「もしいい装備なら、セメタリーに居ないだろ。」

「それはそうだけど。」

ギルの答えに、不服そうな表情を見せながら納得するアクアン。

「まぁ、ここにある装備はどれもこれも一癖あるから、使い方によってはいい装備かもしれないな。」

クラウィスが自分の意見を述べる。

「まぁ、私はともかく、ギルなんかすごい特殊だものね。」

「そうだな。否定はしない。でも、お前もそうだな。」

ギルがアクアンを指さし、笑いながらギラリとした牙を見せる。上手く返されたアクアンも、ギルに苦笑いを見せる。

「それで、一体この鎧は一体どういうものなの?」

「これはな、光るそうだ。」

「光る?」

「あぁ、それはもう眩しいぐらいに光るそうだ。でも、俺は見た事は無いな。」

そう言って、クラウィスがギルの方を向く。ギルは小さく頷く。

「そいつな、嫌になるぐらい光るぞ。でも、光るだけなんだよ。」

「どれだけ暗い場所でも、ただ光るという装備だからな。ダンジョンにもってこいだな。」

アクアンは2人の話を聞いて、不思議そうな顔をする。

「クラウィス、精霊武器って、なんでこうも特徴的すぎるのかしら?」

「自分を棚に上げてよく言うな・・・と言いたいところだが、お前の能力は普通ならセメタリーに居ること自体がおかしな性能だからな。」

アクアンズロッドの能力、それは、水属性の魔法威力を倍増させることだ。手軽に魔法の効果を倍増できる精霊武器は中々ない。

ただし、かなり壊れやすく、修理費が莫大になるという無視できない弱点を抱えていた。

「そう言われてもね、自分の性能はともかく、弱点もわかってるし。」

「それを含めても、お前の性能は飛びぬけてるよ。」

ギルが少し卑屈になっているアクアンに声をかける。

「ギルだって、高い攻撃力持ってるじゃない。いい性能だと思うわよ。」

「そう思うだろ、でもな、攻撃力って言うのは一番わかりやすい特徴で、ライバルが多いんだ。その中では、俺なんて目立たない方だ。」

ギルの言葉が、にわかに信じられないアクアン。

「それでも、この性能は十分強いでしょ。」

「そう思っていればいいさ。いつかわかる時が来る。」

少し落ち込んだ様子で、ギルがアクアンに答え、そのままアルマ・ルミナに手を伸ばす。

「光るだけか・・・。」

「そうは言うが、光というのは重要なんだ。夜の闇に紛れて襲い掛かってくる奴らはいくらでもいるからな。」

「でも、そんなに便利なら、ここにあるのはおかしくない?」

「記述によると、一代に一度ぐらいの頻度で、他の所有者にわたっているみたいだな。数日から数か月でここに戻ってくるそうだが。」

「それもおかしな話ね・・・。それじゃあ、クラウィスもこれが帰ってきたのを修理したの?」

「いや、これはまだない。今回の件が、その機会になりそうだな。」

そう言いながら、楽しそうな表情でアルマ・ルミナを見つめるクラウィス。

「販売する前には、しっかりと整備しないとダメだからな。その時に、精霊が目覚めていてくれればいいんだが。」

「ギル、光球を見たのはどれくらい前なの?」

「そうだな、最後に見たのは、2か月ぐらい前だな。」

「私が眠ってる時ね・・・。犬の方は?」

「それは、つい最近も見たな。先月ぐらいか。」

どちらも、意外とみられるようだ。それを、聞いたアクアンは、ふーんと小さくつぶやく。

「なら、私達がしばらくここで見張っていれば、お話は出来そうね。」

「まぁ、待つなら俺たちの仕事になるか。面倒だけどな。」

アクアンとギルがクラウィスに向かってそう伝える。

「任せてもいいのか?」

真剣な表情でクラウィスを見つめるアクアン。

「クラウィス、何かあったら、すぐに伝えるさ。俺たちはもうホスピタルの中なら自由に出歩ける。」

「わかった。こちらは、アクアンとギル、それとウロボロスリフレクタとアルマ・ルミナのレプリカを作っておくよ。」

クラウィスが、そう言ってセメタリーを後にしようとする。それを呼び止めるアクアン。

「クラウィス、もう一つお願いがあるんだけど。」

「お願い?」

「セメタリーにある武具のリストを見せてもらいたいの。」

「リスト?何に使うんだ?」

「ここにある精霊武具の事を知っておきたいの。そうすれば、お話しできる精霊も増えるはずだし。」

アクアンの願いに、クラウィスが首を縦に振る。

「判った。これから持ってこよう。」

そう言って、クラウィスがセメタリーを出る。残されたアクアンとギル。

「なぁ、なんでお前はここにそこまで尽くすんだ?」

「私、今はここの店員よ。このお店のために働くのは当然の事よ。」

まっすぐにギルを見つめるアクアン。

「お前は、本当に珍しい精霊だな。」

「皆に言われるわ。でも、私はこれが取り柄だと思ってる。それに・・・。」

アクアンがセメタリーの椅子に腰かけて、ギルの方を向く。

「私は、捨てられて、新しい主に拾われて、そしてまた失って・・・もう、失うのは嫌なのよ。」

「次に失うのは、この場所かもしれないって事か。」

アクアンがこくりと頷く。

「だから、私は何でもする。ここがずっとあり続けるのなら、私はひとりぼっちにはならない。あなたもよ。」

「・・・そうか。」

そう言って、ギルが口をつぐむ。

「ちょっとしんみりしちゃったわね。さぁ、精霊と話しましょ。」

それから、すぐにクラウィスがリストを持ってくる。それを確認しながら、アクアンがセメタリーの武具を同定する。

「うん、武具の名前と特徴だけだけど、何とかなるわね。」

「覚えたのか?」

「ええ、私はこういうのが得意だから。」

「さすが、魔法系の武器だな。俺にはさっぱりだ。」

そう言って、セメタリーの武器を掴んでは少し振って感触を確かめるギル。

「ところで、さっきから色々振ってるけど、何かわかるの?」

「ん?大して良く分からないな。俺は俺を殺せる武器を探してるだけだ。」

「まだそんな事言ってるのね。私より先輩なんだから、もうちょっと大人になったら?」

「うるせーよ。」

ギルが顔を赤らめて持っていた武器を片付ける。

「さぁ、寝ている精霊を起こすんだろ。とっととやろうぜ。」

アクアンを急かすが、今のところ目覚めた精霊もいない。

「そう急かしても、この子たちは目覚めないわ。待ちましょう。」

アクアンがそう言うが、周囲にはすでに異変が起きている。その異変に最初に気づいたのは、ギルだった。

「おい、アクアン。あれを見ろよ。」

ギルがアクアンの腰をつついて知らせる。それに気づいたアクアンが、ギルを見つめる。

そして、ギルの指示する方を見る。

「鎧が、光ってるわね・・・。」

「あれが、アルマ・ルミナって訳だな。どうだ?話は出来そうか?」

「意思疎通の魔法が要るかしら・・・。」

そう言って、アクアンがゆっくりとアルマ・ルミナに近づく。

「私の事、わかるかしら?」

アクアンがアルマ・ルミナに手を伸ばす。すると、光が強くなり、アクアンの方に寄ってくる。

「私はアクアン、あなたは?」

そう問いかけるアクアンだが、言葉では返ってこない。

「どうしようかしら・・・。」

悩んでいるアクアンを見て、ギルが1つ思い立つ。

「おい、お前、言葉が判るなら光を少し消してみろ。」

その言葉に応えるように、光がフッと消える。

「アクアン、どうやら、わかるようだな。」

その姿を見たアクアンは、アルマ・ルミナをゆっくりと抱きかかえる。

「おはよう、アルマ・ルミナ。目覚めはどうかしら?」

アルマ・ルミナがゆっくりと点滅する。

「これは・・・どう捉えればいいのかしら?」

「おはようでいいんじゃないのか?合ってたら一度消えてみてくれないか?」

ギルの言葉通り、アルマ・ルミナは輝きを失う。

「意思疎通のやり方、もう少し考えましょう。」

腕を組んで、少し頭をひねるアクアン。そして、1つの考えをアルマ・ルミナに伝える。

「ねえ、この鎧のこの部分だけ光らせることは出来るかしら?」

そう言って、アクアンは鎧の右肩を指さす。すると、アクアンの指示通り、右肩が眩しく光る。

「よし、それじゃあ、右ははい、左はいいえでどうかしら?」

アクアンの提案に、アルマ・ルミナの右肩は点滅を繰り返す。

「で、アクアン、意思疎通はやりやすくなったが、何か聞きたいことがあるのか?」

「色々とあるけど、2択で答えるとなると、少し質問を考えないとね。」

「くぅん。」

「そうだな、少し考えてみるか・・・?!」

思わず答えてしまったギルだが、その違和感に思わず2人はその声の方を振り向いた。

「ワン!」

その声の主は、全身茶色の体毛に、頭の一部に十字型の白い部分がある、体高60cm程の犬だった。

「この子、どこから?」

少し驚いたアクアンだが、改めて突然現れた犬の前にかがむ。

「こいつだよ。あの盾の精霊は。」

「え?!そうなの?!」

アクアンは犬に手を差し出している。犬はそのにおいを嗅ぎながら、手をぺろぺろと舐める、

それがくすぐったいのか、アクアンはくすくすと笑顔を見せる。

「かわいい子ね。これが、あの盾の精霊なんでしょ?」

犬の頭を撫でまわすアクアン。ひんやりとした手を持つアクアンを気に入ったのか、目を細めて気持ちよさそうにしている。

「そうなんだが、改めてみると・・・これがあの盾の精霊か。」

愛らしい姿をしている精霊を見ながら、ギルが首をかしげる。

「あの役に立ちそうにない盾に、精霊が付くというのはどういう事なんだろうか。」

考え込んでいるギルを見つけた犬が、いきなりギルに飛びついた。

「わ!なんだ?!」

飛びつかれたギルは何が起こったのかわからないまましりもちをつく。

そして、犬はそのままギルの顔をぺろぺろと舐めまわす。

「ちょ、やめろって!!」

そう言って、倒れたギルは犬の顔を持って自分の顔から離そうとする。

しかし、犬はそれを遊んでいると思ったらしく、より一層ギルの顔に自分の顔を近づけている。

「あ、アクアン!!助けてくれ!」

思わずギルがアクアンに助けを求める。しかし、当のアクアンは、その光景を見て手を口に当て、目を伏せて笑っている。

「笑い事じゃない!!助けろって!!」

「はいはい。わかりましたわ。」

アクアンは犬の胴体を持ち上げて、その体を机の上に置く。しかし、犬はまだギルをあきらめていないようで、つぶらな瞳をギルに向けていた。

そして、とりあえず犬の呪縛から解放されたギルはゆっくりと体を起こす。

「こいつは・・・いきなり何をしやがるんだ・・・。」

「そう?かわいいじゃない。」

犬の頭を撫でまわすアクアンを見て、ギルは嫌そうな顔をする。

「犬、嫌いなの?」

「嫌いと言う訳じゃないが、大きさが俺と同じぐらいだろ。襲われたらひとたまりもないから嫌だな。」

小さい体のノームからすれば、確かにこの犬の大きさは脅威になるだろう。

「でも、ギルも精霊でしょ。いざとなったら、姿を消して逃げれるわけじゃない。」

「お前は、とっさに消えることが出来るのか?こんな犬に突然飛びつかれるんだぞ?」

「私は怖くないもーん。」

アクアンはそう答えて、犬に頬ずりをする。

「あぁ、もう好きにしろ。」

そう言って、ギルはすっかり忘れ去られていたアルマ・ルミナを手に取る。

「見ろよ、あのアクアンの表情。もうすっかりあの犬の虜だぜ。まいっちまうよな。」

ギルの問いかけに応えるかのように、右肩がゆっくりと点滅する。どうやら、アルマ・ルミナも若干呆れていたようだ。

「さて、アルマ・ルミナ。お前に聞いておきたいんだが、もう完全に目覚めた感じか?」

アルマ・ルミナは右肩を光らせる。それを見てギルは頷く。

「そうか。なら、クラウィスに見せても問題なさそうだな。」

アルマ・ルミナを持ち上げ、クラウィスに見せる準備を始める。

「おい、アクアン。お前もとっとと準備しろよ。どうせ、その犬を連れて行くんだろ。」

ギルの言葉に、アクアンはハッとして、照れくさそうな表情をギルとアルマ・ルミナに向ける。

「わんちゃんも大丈夫だよね?」

「あん!」

いい返事を返すウロボロスリフレクタの精霊。アクアンは頷きながら盾を持ちだす。

「わんちゃんはこんなにかわいいのに、この盾は一体何なのかしら・・・?」

何度見てもおかしな形状の盾を両手に抱えるアクアン。思わず疑問を口にする。

「その辺りも、クラウィスに詳しく聞いてみるか。どうせ、この2つのレプリカも作成することになるんだ。」

「そうね。それじゃあ、お外に行きましょうか。」

「ワン!!」

元気よく答える犬を、アクアンはこれ以上ない笑顔で眺めていた。

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