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それでも、生きていたい。

作者: バーモント高橋

 歳も三十を過ぎた。気安く遊びに誘える友達はいなくなったし、恋人もいない。惨めな勇気を振り絞って独り焼肉を決行したあの日から、ずっと先の未来まで、自分の歩んでいく道が定まってしまったように感じる。

 ミッションインポッシブルが好きで、新作が公開されてから、映画館で見たいと思い続けてどれくらい経っただろうか。インディージョーンズを見に行かず悔やんだことが脳裏をかすめ、近場で上映しているシアターが最後の一つになってようやく決心を固めた。

 田舎から田舎へ、車で四十分の移動だった。山の麓にある大型ショッピングモールは上にも横にも広大で、三階まであるフロアの全てを埋め尽くすように、家族連れやカップルが闊歩して賑わっていた。

 行き交う人々の幸福がひと塊の強風となり、竜巻となり、私を四方八方から嬲る。こんなにも賑やかなのに、過酷なまでの孤独感が私を苛んだ。自宅に引きこもっていた方がマシだったかと思えた。

 たまらず急ぎ足で楽器屋に逃げ込む。映画を見る前に立ち寄ろうと決めていた。ここなら嫌なことなんて忘れて趣味に没頭できる。そう思っていた。

 アコースティックギター、セミアコ、フルアコ、エレキギター、エレキベース――壁際を見て回る。音の好みは人それぞれだから、値段が安いからといって一概にダメだとは言えないと分かっていても、安いものは見下し、そのくせ高い物は身分不相応に感じて試奏する気さえ起きない。現状で所持しているギターにもベースにも不満を感じているというのに、新しいものに手を出すことはない。挑戦を避け、停滞する。

 アンプ、エフェクター、楽譜、専門誌、小物。なにひとつ買わずに踵を返した。

 店先に立ったとき、小学校低学年くらいの男児が人ごみを掻き分け現れた。なにやら「ギャァアアアア!」とか「ウィイイイイイイ!」とか「スキヤッ、スキヤッ!」とか未知の言語で喚きながら、ドタドタと駆け足で私の隣、試奏用キーボードの前に躍り出ると、力強く打鍵しながら、流行りの歌を装って、私に無邪気な罵声を浴びせかけるのだ。

「そっと出たしゅんかん、終わったわ!」

強風オールバック

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