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第8話 深紅の部隊、そして覚醒

 天文23年(1554年)、尾張国・那古野城の大広間。

 

 ノブは新たな家臣としてキートン(木下藤吉郎)とアレク(前田慶次)を信長やラン(蘭丸)、帰蝶に紹介した。キートンは愛くるしいルックスと巧みな話術で、すぐに3人と打ち解けていた。


 一方で、アレクは珍しい銀髪とノブと異母兄弟なことが興味を誘い、ランと帰蝶から質問攻めにされた。だが、人前が苦手なアレクは無愛想に接し、ノブは面倒臭そうに、ふたりの会話をスルーして本題である尾張統一の話題に切り替えた。

 

 ノブは尾張統一に向けて、直属の精鋭部隊を組織する考えを提案しメンバー5人を選んだ。

 

 ◦武器製造と諜報活動を得意とするキートン(木下藤吉郎)

 ◦ナイフを扱い接近戦が得意なアレク(前田慶次)

 ◦槍と体術が得意なヤシュケス(弥助)

 ◦銃の扱いに長けている帰蝶

 ◦弓が得意な? ラン(蘭丸)自称、中学では弓道部

 

 自分の名前を呼ばれて、ランは猛抗議したが、戦に連れて行かない条件と小姓だからという、いつもの口説き文句で説得させられ、渋々了解した。


「それにしても、皆さんはいろんな武器を扱えるんですね?」


「えっ⁉ ああ、治安の悪い地区で武器のひとつも扱えないと、生きてけないしね。それに、雑貨屋は武器の販売もしてるから、詳しくないと商売できないよ」


「ああ。確かにそうですよね」


 気を取り直して質問するランに、キートンが答えていた。それを見ていたノブは、西暦2015年では雑貨屋で働いていたという設定を、事前に話しておいて正解だったと胸をなでおろした。また2150年の世界では、武器を使った犯罪は全て重罪だった。しかし、武器の所持と販売は規制されていなかった。だから、ノブたちのようなゲリラ組織が減らないのだが……。

 

 ここで信長が、自分の意見を述べてきた。バランスの取れた構成だがノブの身内ばかり選んでいるのは、他の家臣から不満が出ること。その対策として、尾張国内から育成を理由に若手の人材を募ることを提案した。ノブもその提案に賛成して、その後の評議で正式に認められることになった。


 ──ノブは直属の精鋭部隊を『クリムゾン隊』と名付けた。彼らは濃厚な紅色の甲冑を身にまとい、胸には漢字の『無』を崩した黒い家紋が刻まれ、独立した戦力として組織されたのだった(のちの黒母衣衆(くろほろしゅう)赤母衣衆(あかほろしゅう)の原形)。

 

その後、何度かの募集を経て、5人の若者が選ばれた。その中には、将来を有望視されている前田利家や佐々成政(さっさなりまさ)も含まれていたのである。一方で、訓練を重ねるうちにランは弓の腕前が未熟であることが明らかになった。本人曰く、この時代の弓は自分には合わないらしい。

 

 そこで、弓の得意な者を改めて探すことになり、追加募集をかけたが、なかなか良い人材が集まらない。そこで町の噂を聞いて、弓の名手と評判が高い太田信定という若者の存在を知った。実際に会い、彼に弓を引かせたところ、その腕前は評判通りで、一目で有望な存在と感じたノブは、彼を隊へ加えることに決めた。ランには補佐役に回ってもらうことにした。


 ここまで、かなりの時間が経過したものの、これで10人のメンバーが揃ったのだった。


 ◆◇◆◇◆


 ある日、ノブは信長に呼ばれ、天王坊・住職である沢彦宗恩(たくげんそうおん)からの手紙を渡された。

 

 それには『平手政秀からの遺書』を預かっているので、ふたりで来てほしい旨が書かれていた。そして信長は外出の支度をするため一旦自室に戻り、その間ノブは大広間で待っていることにした──。


 ──自分が眠っていると自覚して見る夢は大抵が悪夢だと思う……ノブは、自分が来るべきではない場所にいることを、直感的に感じ取っていた。


 そこは見覚えのある屋敷。かつて住んでいた屋敷。ノブはそれを知っている。


 屋敷の中で、平手政秀が立っていた。そしてノブを横切って歩いてゆく。ノブは振り返り、後を追う。


 爺さん──爺さん──爺さん──ノブは、なかなか追いつけない。あれは本当に平手の爺さんなのか? 


 それとも──あれは──あれは──声?……誰かが呼ぶ声?


 その声は──信長が起こす声だった。どうやら大広間で、うたた寝していたらしい。

 

 目を覚ましたノブは夢の中で見た政秀の姿が、まだ残像として残っていた。あの夢は、どういう意味があるのだろうか、何かを伝えたかったのだろうか。そして、信長の支度が整ったということで、ふたりは天王坊へと向かった。


 ◆◇◆◇◆


 天王坊──那古野城下にある天王社の別当寺。織田信長が守役・平手政秀の菩堤を弔うために建てた政秀寺の開山である、沢彦宗恩が住職を務めている。


「ふたりとも、よくお越し下さいました」


 ふたりが着くと、沢彦和尚がにこやかに出迎えてくれ、天王坊の離れにある別宅へと案内された。


 ふたりが対座すると、沢彦和尚は襟を正して、政秀を懐かしむように、ゆっくりと話し始めた。


「これは、政秀殿が自害する2日前に預かり、時期が来たらノブナガ様へ、お渡しするよう託されていました」


 ノブは書状のような一通の白い紙を手渡された。その表には見覚えのある字で『オダ ノブナガ サマ』と書かれて、確かにこれは、政秀の屋敷の何処を捜しても見つからなかった、遺書であった。


 漢字が苦手なノブに、政秀がわざわざカタカナで書いてくれた心遣いが伝わってきて、ノブは再び、あの時の──心の声が、どこからか木霊してきた。


(あの爺さんが……切腹?) 


(何かがおかしい……何かが……)


 その遺書には、反ノブナガ派から家督を信長の弟・信勝に譲渡するよう迫られたことが書かれていた。


 政秀はその要求を拒否したが、反ノブナガ派は執拗に迫り、ついには自分の切腹と引き換えにノブの家督継承を認め、支えてゆくという条件を持ちかけられたのである。


 政秀は悩んだ末、その条件に応じることによって反ノブナガ派を抑え込み、ノブに織田家の未来を託すことができると考えた。


 しかし、それは自分の命を捨てることを意味する。それでも政秀は、その決断を下した。自ら命を絶つという、最後の決断を──。


(そういうことだったのか……爺さんは、オレのために命を捨てたのか……)


 ノブは遺書を読み終わると、黙って一点を見つめて静止しているかのようだった。その瞳からは怒りが溢れ出そうになって、そして心の中で誓った──爺さんの仇は必ず討つと。

 

 横で同じく遺書を読んだ信長は、ノブの危うさを感じ取り、すぐに言葉を掛けた。


「いいですか。くれぐれも無茶な真似だけはしないでくださいね」


 しかし、それ以上は何も言えなかった。それ程、ノブは政秀の無念さに取り憑かれているような険しい表情を浮かべていたのだった。


 やがて、日が暮れようとしていたので、ふたりは天王坊を後にし、那古野城へ戻った。

 

 道中、ふたりは終始無言で少し汗ばむ空の下を歩いていた。この時、信長は自分も巻き込まれてしまう何か嫌な予感がしていた。

 

 それから数か月後のある日、清州織田家の庇護を受けていた、尾張守護・斯波義統(しばよしむね)が織田信友の家来に襲撃され、殺害されてしまう。義統の子である斯波義銀(しばよしかね)は何とか清州城を逃げ出して、那古野城へ助けを求めてきた。


 この事件に端を発し、ノブのとった行動により、後にこの予感は的中することになるのだった。

 

 一方、ノブは政秀の遺書を読んで以降、その目つきは刃物のように鋭さを増し、瞳には熱い光が宿っていた。まるで眠れる獅子が、暗く深い闇から目覚めたような──いや、それは未来で激動の日々を生き抜いてきた、ノブ本来の姿に戻ったのかもしれない……。


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