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第2話 運命の対面

 天文19年(1550年)尾張国・末森城。

 この頃、織田家第17代当主・織田信秀は病に侵され、臥せるようになっていた。


 ある日の早朝、家老の平手政秀は信秀から呼び出され、寝室へと向かった。


「平手政秀でございます」


「入れ」

 

奥から低く響く声が聞こえ、政秀は信秀の前に正座した。


「今から、問いたいことがある」

 

 政秀は背筋を伸ばし、頷いた。


「息子の三郎(織田信長)は、当主となり織田家を束ねることができる器か?」


「……」


「正直に答えてみよ!」

 

 病床にあっても威厳を失わない信秀の圧力に、政秀は覚悟を決めた。


「信長様は聡明であらせられますが、病弱ゆえ、織田家を束ねることは難しく存じます。 美濃の斎藤道三もそのことを承知しており、縁談を渋っているとのこと」


「うむ……」


 信秀は少し考え込んだ後、


「弟の勘十郎(織田信勝)はどうじゃ?」

 

 政秀は、しばらく考え


「信勝様は、まだ若い分、知略や統率力に欠けております」


「そうか……」

 

 信秀はそれ以上何も言わず、口を閉ざしてしまったので、政秀は退室した。


 ──あれから数日、平手政秀は屋敷の自室で考え込む日々を送っていた。

 見かねた息子達が酒の席に誘って、政秀はやっと重い腰を上げ、大広間に向かう廊下に出たとき、前方からひとりの家臣が慌ただしく近づいてきた。


「何事だ!」

 

 あまりにも勢いよく家臣達が迫ってくるので、政秀は大声で叫んだ。


「申し上げます! 怪しい者達を裏門に捕らえています。どうやら、美濃か駿河の忍びではないかと……」


 家臣が耳元で囁くと、政秀は足早に裏門へ向かっていった。


 そして話は数時間前に遡る──。


 ◆◇◆◇◆


 意識を失っていたノブが目を覚ますとぼんやりと霞んだ視界に、人影が映った。ノブは誰かが自分を覗き込んでいることに気づいた。


「……ん……誰だ……?」


 声を出した途端に、人影はゆらゆらと消えてしまった。 ノブはよろめきながら起き上がり、辺りを見渡すと、そこはビルも車も行きかう人々もいない。広大な土地と遠くに山が連なる、まるで田舎のような風景だった。


「ううう……」

 

 その時、背後で声がして振り返ると色黒の大柄な男が立っていた。


「ヤシュケス! 無事だったか」

 

 ノブは驚いて叫んだ。


「リーダーか! ヘルメットをしていて助かった。それより、ここは何処だ?」


「それがわかんねぇんだよ。俺達がいたところじゃないみたいだが……」


 ノブはそう言って近づこうとしたとき、ヤシュケスの背後にバイクと白衣姿の者が倒れているのが視界に入ってきた。


 急いで駆け寄り、抱きかかえて声を掛けた。


「おい! しっかりしろ……ん?……あれっ?……あっ!」

 

 息はしているが、返事がない。さらに白衣はうっすらと赤く染まり、首筋に傷が見えた。


「ヤシュケス! そっちはどうだ」


「……バイクは……何とか動きそうだ」


 その時、遠くから馬の蹄が地面を叩く音に気付いた。振り返ると、黒い甲冑に身を包んだ者達が迫ってきていた。


「やばい!」

 

 ノブは慌ててヤシュケスに声をかけたが、あっという間に取り囲まれてしまった。


「おい! 何するんだ! 離せ!」


「……」

 

 だが、黒い甲冑の者達は無言で、2人を取り押さえていた。そして、初めて見る屋敷に連れて行かれたのだった。


 ──平手政秀は屋敷の裏門でノブの鋭い目が合った瞬間、驚いて声が出なかった。

(まさか……どういうことだ……? 信じられん!)


「この辺りで見ない顔だが、お前たちは、何者だ!」

 

 その時、家臣のひとりが問いただしたが、ノブは無視して叫んだ。


「爺さん!そこのネエチャ……いや、ひとりがケガをしているので、早く医者を呼んでくれ!」


「爺さんだとぉ──っ!」


 政秀は興奮して大声を張り上げた。しかし、すぐ家臣に目配せしケガ人を屋敷に運ばせた。

 

 しばらくして、ノブとヤシュケスは末森城へ連れて行かれることになった──。


 ──末森城の大広間。

 ノブとヤシュケスは織田信秀と対面していた。


 信秀は、先程から2人をじっと睨んだままだった。しばらくして、政秀がしびれを切らし、口を開こうとした瞬間、


「何じゃ、その奇妙な格好は。忍びの者にしては派手だが……、おぬしらは一体、何者じゃ?」

 

 信秀は、凄みのある声で言って、ノブを上から下まで眺め回した。


「……」


 ノブは黙って鋭い目を光らせている。


「恐れながら、美濃か駿河の忍びではないかと」

 

 すかさず、政秀が口を開いた。


「そこにいる色黒の大男は異国の者のような気がするが……」

 

 そう言って、信秀はヤシュケスの方に顔を向け、またノブを見た。そしてニヤリと笑い


「政秀、誰かに似てはいないか?」


「さすが! 大殿、気づいていましたか」

 

 政秀も同じくニヤリと笑って、ノブを見ていた。


「うむ、三郎をここに呼べ!」

 

 信秀の太く通る声が大広間に響き渡った……。


 ──しばらくして、信長が大広間に呼ばれ信秀の隣に座った。

 

 父の信秀とは対照的に、色白で気弱そうな姿をしていた。歳はノブと同じくらいで、その風貌は双子のように似ていた。


「名は何という」

 

 信秀が穏やかな口調でノブに語りかけてきた。


「俺は『アキバ・ノブ』、こっちは仲間の『ヤシュケス』だ」

 

 ノブは急に態度が変わった信秀を警戒しつつ、答えた。


「ふむ……」

 

 信秀は短く唸ると立ち上がって近づいてきた。そしてノブの前でしゃがみ込むと顔をじっと見つめた。そして意外な言葉が返ってきた。


「おぬしを見込んで頼みがある。病弱な息子に代わり、当主となって織田家を束ねてくれぬか」


「……え?」

(このオッサンは何を言ってるんだ)


「おぬしは息子の三郎に容姿が似ている。それに鋭い目つきは獲物を狙うようで、わしの若い頃の面構えと同じで気に入った。どうか家督を継いでくれ!」

 

 そう言って信秀は頭を下げてゆっくりと目を閉じた。


「え?……え?」

 

 ノブは困惑し、ヤシュケスの方を向くと政秀も頭を下げているのが見えた。


「わたしは病弱なので家督を継ぐのは難しいと常々考えていました。父が見込んだのなら間違いありません。影ながら力になるので、どうか織田家を守ってください」

 

 いつの間にか信長も頭を下げ、懇願していた。


 そして訳のわからないまま、しばらくの間は、守り役となった平手政秀の屋敷に身を寄せ剣術や馬術、当主としての教育を受けることに決まってしまった。


 こうしてノブは『ノブナガ』として新たな運命が転がり始めるのだった──。


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