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第16話 桶狭間へ・・・

 永禄3年(1560年)5月、尾張国。

 

 ノブナガは精鋭部隊のクリムゾン隊を連れ、尾張国内の東に連なる丘陵地を進んでいた。


 今川軍に潜入させている前田慶次(アレク)からの一報で、今川義元が2万余の大軍を率いて駿府城を出陣、浜松、岡崎を経由して尾張国東端にあたる沓掛城(くつかけじょう)に向かい、尾張へ侵攻してくると知ったからだ。そして今川軍がこの地に陣を構えると考え、事前に現地を下見していたのである。


 東を見ると、さほど高くない山々がうねるように連なり、最も高い山でも65m程の高さしかなかった。しばらく山の中を歩き回り、周囲が一望できる適度な高所を見つけると、


「信定! あの山の頂上まで矢を飛ばせるか?」


「はい! やってみます」 


 太田信定は抱えていた弓を手に持ち、シュッと鋭い音とともに矢が放たれると、頂上近くの木々の中へ少し右にずれて消えていった。弓の名手と呼ばれている信定ほどの者でも、一度で頂上に達するのは難しいようだ。


(陣を張るなら、この辺りだな……)


 矢の行方を見て、ノブナガは考えていた──今川義元は正攻法でくると。

 

 このことは軍師でもある沢彦宗恩(たくげんそうおん)も同意見だった。ならば……2万以上の大軍を分散させて自らは、この小高い場所に本陣を置き、ノブナガ軍が本陣めがけて侵入してきたところを包囲殲滅する作戦でくると予想していた。


「誰か……ここの地名を知ってるか?」


 ノブナガの問いに、前田利家が答えた『桶狭間』と──。


 ◆◇◆◇◆


 清州城に戻ったノブナガは、沢彦宗恩とクリムゾン隊の限られた者だけを集め、こう告げた。


「オレは、今川義元の首だけを狙うことにした」


 ノブナガの考えた作戦は──今川本陣へ一緒に転移したバイクで突入し、所持しているピストルで義元を撃ち、一瞬でその場を離れるというものだった。これは、敵に一撃を与えてから迅速に撤退する一撃離脱戦法で、西暦2150年に政府側との戦いでノブナガ達が得意としていた戦術のひとつだった。


「バイクとは、どういうものなのでしょうか?」


 真っ先に沢彦宗恩が、問い掛けてきた。この時代の人々はバイクを知らないのは当然であった。

ノブナガはバイクの概要を簡潔に説明し、加えて数的に不利な状況を打開するためには、総大将ひとりを狙う作戦が最善であることを説き、全員が同意した。


 だが……、実行するには2つの問題があった。1つは長く放置してあるバイクが動くかということ。もう1つは弥助(ヤシュケス)が運転するバイクの後部座席に乗って、義元を撃つ者を誰にするのかということだった。


 まずは、バイクを放置してある故平手政秀の屋敷に弥助と藤吉郎(キートン)を向かわせたところ、錆びている部分はあるものの、動くことが確認できた。あとは義元を撃つ者であるが、本来なら藤吉郎が適任だが、彼には今川軍に潜入し、情報収集と奇襲の合図を任せたいので、適任者が見つからないでいた。


 しかし、この問題は意外なところから解決することになる──クリムゾン隊の中で欠員がふたり出たときに、新たに補充したひとりである『毛利新介』という若者が志願してきたのだ。早速、彼をバイクに乗せてみると……バランス感覚に優れ、数時間で乗り慣れないバイクに適応していた。


 こうして問題がクリアしたことで、ノブナガは柴田勝家を加え限られた側近だけを再び招集し、評定の間で作戦の打ち合わせをした。


「勝家は桶狭間入口で待機、合図があったら今川軍へ一気に突撃しろ……ただし、深追いはするなよ」


「御意!」


 勝家は勢いよく立ち上がり、自身の兵を率いるため一旦、末森城へ戻っていった。


サル(キートン)は、直ちに今川軍に潜入して、義元の動きを探ってくれ。利家は百姓に化けて、サルの連絡を待て──それと、これを持っていけ」


 ノブナガは今川軍を撹乱するための手榴弾を藤吉郎に手渡した。


「了解、奇襲のタイミングはライトで合図するから見逃さないでね。それじゃあ」


 そう言って、藤吉郎は無邪気に微笑みながら去っていった。


「タク(沢彦宗恩)とラン……それに帰蝶は、もしも今川軍が清州へ攻めてくることに備え、城の守りを固めてくれ。残りの者はオレと一緒に桶狭間へ向かうぞ!」


 ノブナガの声に応えて、その場にいる者達は一斉に頷いた。そして誰も口にこそ出さなかったが、今川軍という強大な敵を相手にして勝てるのかという不安を胸に、それぞれが評定の間を後にした──。


 ◆◇◆◇◆


 永禄3年(1560年)5月19日の朝──今にも雨が降り出しそうな黒雲が空を覆う下で、今川義元の軍勢は沓掛城を出発して、桶狭間へ向かって進軍していた。その中に足軽として紛れ込んだ藤吉郎と慶次が、周囲から気づかれないように小声で話していた。


「なあ……、この方向だと桶狭間だよな?」


「たぶん、そうだと思うけど……。ちょっと聞いてくるよ」


 そう言うと、藤吉郎は大胆にも近くに見える武将らしき者へ、小走りで近づいていった。


「あのう……なぜ、清洲城でなく桶狭間を目指しているのですか?」


「それはだな……尾張の軍は戦で、何やら妙な大砲や鉄砲を使うという──それらを封じ込めるために、起伏がある桶狭間の地形を活かして迎え撃つと聞いておる」


「なるほど! さすがは義元様。ハハハ……」


 武将らしき者は軽々しく得意げに答え、それを聞いた藤吉郎は笑みを浮かべながら再び列に戻り、その表情を見た慶次は桶狭間に向かっていると確信した──。


 しばらく進んでいると、前方の道端で近隣の僧侶や百姓が、今川軍に酒肴(しゅこう)の差し入れをしているのが見えてきた。その中に、百姓に変装した前田利家の姿をふたりは見つけると……、藤吉郎が一枚の紙切れを落として通過していき、それを拾った利家は誰にも気づかれず、その場から静かに姿を消したのだった。


 一方、義元は輿の中で目を閉じ、これからのことを思案していた。そんな義元のもとに、前方から副将のひとりである蒲原氏徳(かんばらうじのり)が馬で駆け寄り、輿の横についた。


「殿! ちょうど良い高みがございました」


「うむ……大儀」


 義元は、周囲を常に一望できる適度な高所に陣を構えたく、桶狭間へ氏徳を偵察に出していたのだった。


「そろそろ雨が来そうじゃ、雨は冷えるからのう……。陣ができたら、将兵の体を酒で温めてやれ。急げ!」


 義元は側に詰めていた家臣・三浦義就(みうらよしなり)に、そう命じて輿を急ぎ進ませた。


 しばらくすると、折からの黒雲は遂に雨をもたらし桶狭間に到着した昼頃には、大雨となっていた。義就は配下の兵に指示を出し、300騎の旗本・親衛隊で義元の周りを固めながら、瞬く間に小高い山の上へ本陣を敷いたのであった。その様子を別の小高い山上から、ノブナガは双眼鏡で静かに見ていた……。


 その後も雨は激しく降り注ぎ、桶狭間一帯は完全に周辺から切り離された様相へと変わっていき──やがて、雨音以外の音が今川軍の耳に響いてくるのは……それから間もなくのことであった。


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