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のじゃロリ九尾ツヅリ様の紀行  作者: 終乃スェーシャ(N号)
一旅目:タスマニア〜タスマニアンデビル無しで
5/5

タスマニアへ向かう4 リッチモンド~

あとがきにおまけがあります。

 青々とした芝生を踏みしめ快青に晒されるのは心地良い気分だ。


 分厚い雲はあるが、風の流れが速いおかげか晴れの暑さと、曇り空の涼しさが両立していた。のどかな街並みに長閑な天気。


 むふんと、口を『ω』にしながら深呼吸をして、清涼な空気を前にツヅリ様は満足げにこちらを見つめた。


「ふぅむ。タスマニアも一応はオーストラリアなんだな」


「どうしたんです? 突然当たり前のこと言って」


「いや、ユーカリが生えてたからの」


 低い木製フェンスが伸びている道中、日本で言うならば柳の木程度の感覚でユーカリが生えていた。



「……食べちゃだめですからね。毒あるので」


「たわけたことを言うと貴様を食うぞ……」


 ジトリとした視線に睨まれながら小高い道を歩き進むと、小さな林檎の木と蔦に覆われた赤煉瓦の邸宅の向かいに特徴的なとんがり屋根が見えた。


 天辺に伸びた十字架。薄い黄土色の古い煉瓦。日本では見かけない樹木が伸びた丘の上、町で唯一の教会がそこにあった。


挿絵(By みてみん)


 黄の花を咲かせる低木に囲まれており、低い階段を登りきると、枯れ芝に古ぼけた石の墓がいくつかある。ツヅリ様はじっと見下ろして数秒ほど目を閉じると、うむ、とだけ言って教会の中へと入っていく。


 入り口に置かれている十字架。英語のパンフレット。消毒アルコール。教会建設の歴史が英語で綴られていたりもしたが、読めないので読まなかった。


 せいぜいわかったことはセントジョン教会という名前ぐらいだ。


「こーんなところにまで消毒アルコールとはな。消毒などせずともわっちに祈れば良いであろう。呪いぐらいなら消し飛ばせるし、雑菌ごときなら呪殺してくれようぞ?」


「けどそれを当たり前のこととして頼まれたら断るでしょう。ツヅリ様でも」


「当然であろう? 信仰も畏敬もない者にわっちは奇跡などくれてやらん」


 神威による病の根絶までの道のりが見えてくることはないだろう。


「むぅ、今は留守か? 誰もおらん」


 ツヅリ様は毅然とした態度を崩した。もふんと、九尾を揺らし、ジトリと目を細める。留守かどうかは人間の話ではないだろう。


「…………」


「なぁに緊張しておる。神社や寺ではそうかしこまらんだろう」



挿絵(By みてみん)


 白亜の壁。描けられた無数の絵画。


 整然と並んだ木のベンチは直角で、試しに座ってみると否応なくピシリと背筋が伸びる。赤い絨毯の奥に小さな祭壇があったが。近づく気にはなれなかった。


「雰囲気が違うんですよ。それにツヅリ様を連れてるところを視られたらなんと言われるか想像もできませんし」


「別になんともならん。なんとかなってもわっちがおるからなぁ?」


 蠱惑的な笑み。華奢な指が頬を撫でた。水蛸の触手のごとく力強く絡まる尾は、この地にはない白檀の香りがした。……祖母の家の和室の匂いだ。


「……失礼なことを考えていないかぇ?」


「気の所為です。そろそろ一度引き返して町の残りも回りきりましょう」


 大きな石橋にまで戻った。町全体を見ていくなら橋をもう一度渡る必要があるのだが。ツヅリ様は橋下を覗き込むように立ち止まって向こう側をちらちらと見つめていく。


「…………くぐって向こう行ってみます?」


「ふふん、主は子供だのぉ。こういう場所があると見たくなってしまうんだろう?」



挿絵(By みてみん)


 橋の下は舗装されていなかった。土色の道を踏みしめて、興味津々に橋を構成している煉瓦を撫でる。煉瓦と煉瓦のつなぎに指を沿わせる。


 人間からすれば考えられないほどの歳を生きているはずなのだが。感性が老いることはないらしい。とてとてと細い道を一人歩き進んで、しだれたユーカリの枝の奥へと入り、牙を見せて笑いながら戻ってくる。


「そんな気はしたが行き止まりだったわ。知らん花もあったがどれも蕾だ。時期が悪かったか……」


「誰も通ってないですからね」


 そんなことで、人通りのある道まで引き返した。鴨通りも多いが鳩と烏は見当たらない。岩に座る人、しゃがみ川の水面を覗く人を節目に、りんごの木が並んだ道を進むとだんだんと勾配が険しくなってくる。


 元々が刑務所だったらしい煉瓦の壁を回り込むように丘を登り切ると、澄んだ空気と川から上がる風が汗ばんだ肌を撫でた。赤と白に咲くゼラニウムの花が揺れる。


「見ろ見ろ! ワインウォールと描いてあるぞ? 売っておるんだろうか?」



挿絵(By みてみん)


 壁の内側、パン屋と並ぶワイナリー。花壇に置かれた樽に刻まれているのはワインのメーカーだろうか。これでもかとばかりに葡萄の葉が絡み茂っていた。


「昼間から飲まないでください。ツヅリ様、酔っ払うと私の指を噛んだり、血を吸ったりするじゃないですか」


「ぐぬ……それは主を愛おしいと思うがゆえのマーキングだとは思わぬかえ?」


「公共の場でそんなことしちゃだめです。まぁ、買って、ホテルで飲みましょう。今はダメです」


「この扱いは神様への敬意が足りないように思えるのだがぁ?」


 黙らせるために通りがかりの店でチョコを買い餌付けしてから、近くのカフェまで引きずった。



挿絵(By みてみん)

 教会近くに生えていたセイヨウリンゴ。


挿絵(By みてみん)

 おそらくレモンボトルブラッシュ。オーストラリア原産の植物であり、満開だと赤色のモップみたいになる。




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

きつい傾斜道を進んだ先に生えていたゼラニウムの花。すぐ横は川の周辺を見下ろすことができた。




挿絵(By みてみん)

 売られている菓子類は大半がチョコレート系だった。生憎、私はチョコを食べることはできない。



挿絵(By みてみん)

 立ち寄ったカフェ。珈琲と紅茶をそれぞれ頼んだ。軽食も売られているが買わなかった。アメリカではどんな店でもホットドッグがあるが、オーストラリアだとサンドウィッチだ。国立公園にもサンドウィッチなら売られているだろう。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 リッチモンドの舗装路周辺の町並み







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