前書き
ツヅリ様は可愛いと言われると喜びます。
思い立ったが吉日。以降は凶日。元より小説を書いていた私に、旅行記を書くのじゃ。勿体無いじゃろうとと。
漠然とプロットを煮詰める私に向けられた鶴の一言。否、妖狐の一声。
ぼふんと九つもの白い尾を私に絡めモフりながら、甘えるように彼女は顎を手に乗せてくる。
「なぜ唐突に……? 最後に一緒に行ったの数ヶ月前で、記憶も曖昧なんですが」
「だからじゃあ! せーっかく主はわっちのような高位の神格と色々楽しんどるのにすぐ忘れる! だから書け!」
牙を露わにしながら彼女は、家にいつの間にか住み憑いていた九尾、もといのじゃのじゃと鳴き声をあげながら親のいない私の世話をしてくれた大切な……人? 妖怪?
名前は綴つづり。彼女は放浪癖があって、最近はよく付き合っていた。しかしグルメで酒にうるさい。エコノミー席だと腰が痛いと駄々を捏ねるし、他にも色々あるが余白が足りない。
「聞いておるかぁ? 書け。わっちとのアバンチュールを! 素晴らしい景色を! そしてそしてだな。わっちの可愛いを伝え、つづり様カワイイスキーと信仰を集めよ」
ぼふんぼふんと尾が激しく顔面を叩き、私のノートpcに白銀の毛が絡まっていく。外付けファンの奇音も、キーボードの詰まりも、彼女のおねだりを聞かなければ解決しないだろう。
「わかった。わかったから。この試合終わったら書く」
前提として知って欲しいが、私には彼女の我儘に従う以外の選択肢はなかった。ここまでが前置きとなる。
「どこの記録を書くかは決めておるのかえ?」
満足そうに笑みを覗かせながらツヅリは私に纏いつく。モフモフ以外にも柔らかな腕や体が密着して暑苦しい以上のものがある。むにゅりと、絹布越しに背を撫でる胸。
「変な気になるからやめてください……。まずは最近の事から書きます。どうせなら写真も使いたいですし、あんまり前だと画像を探すとこからなんです」
「見つからなかったら最悪、ぐーぐるあーすを使えばよかろう? それに本当に嫌ならぁ……もっと抵抗すべきかな?」
――――この旅行記は私とツヅリが国内外でイチャイチャするだけの話です。