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大日本帝国のIFと架空戦記創作論  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞


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37 明治憲法体制(4)

 二個師団増設問題を巡る西園寺内閣と陸軍との対立は、最終的に上原勇作陸相の単独辞任と後任大臣の推薦を拒否した陸軍によって西園寺内閣の崩壊という結果に繋がる。

 この時、流石にこれ以上の政軍間の対立は拙いと感じた山縣有朋は、陸軍と内閣の調停に乗り出したが、上原陸相の単独辞任と後任大臣の推薦を拒否する陸軍を止めることは出来なかった。

 こうした上原陸相の動きの背後には桂太郎がいたとも、桂太郎は山縣と一緒に調停側に立っていたが陸軍内部で岡市之助陸軍次官、田中義一軍務局長が策動していたとも、いくつかの説がある。


 ただ、少なくともこの二個師団増設問題に端を発する西園寺内閣の崩壊は世論の反発を呼び、後継内閣である第三次桂太郎内閣がわずか二ヶ月で崩壊に追い込まれるなど大正政変、第一次護憲運動の引き金となった。

 その意味では、「統帥権の独立」という現象を民衆が許さなかったとも言える。

 1930年のロンドン海軍軍縮会議時の統帥権干犯問題と比較すると、なかなかに興味深い事例である。

 民衆の力というものは、どのような時代、どのような国家体制でも無視は出来ないということだろう。

 その意味で言えば、衆議院勢力であるはずの政友会が積極的に統帥権干犯問題で浜口雄幸内閣を攻撃し、大日本帝国の分権制を議会が追認するような形となってしまったという点で、犬養毅や鳩山一郎は罪深いと言える(もちろん、民政党も野党時代にパリ不戦条約でやらかしているのでどっちもどっちと言えるが)。


 ただ、大正政変当時の民衆が西園寺内閣の崩壊を、「統帥権の暴走」というよりは陸軍と長州閥の横暴と見ていたことを考えると、大正初期の時点で民衆の行動によって明治憲法体制を変革することは難しいといえる。

 結局のところ、現象としては「統帥権の独立」を端に発するものといえるが、民衆の意識としては藩閥に対する反発であって統帥権という制度に対する反発とまではいかなかったといえるのが、大正政変ではなかろうか。

 そしてさらに厳密にいえば、上原勇作の行動は「統帥権の独立」という制度に基づいたものというよりは、「軍部大臣現役武官制」という制度の方を利用したものといえた。


 軍部大臣現役武官制は1900年に制定された制度であり、その意味では憲法制定と同時に成文化された統帥権独立制度と直接的に関連した制度であるとまでは言えない。

 ただ、政府に軍部の意向を呑ませることの出来る制度という意味では同質のものであるともいえるし、内閣の死命を制することが出来る制度という点で統帥権独立問題よりも厄介な制度であるかもしれない。


 軍部大臣現役武官制は、当初は政党出身者が軍部大臣に就くのを阻止することを目的に制定された。

 後に、二・二六事件後に復活した軍部大臣現役武官制は、追放された皇道派やそれに近い軍人を大臣に就かせないためのものであった。

 とはいえ、どちらも内閣の死命を制せるという点では同じであり、特に昭和期の軍部大臣現役武官制はその弊害が著しかったと言えよう。


 大正政変後、1913年に軍部大臣現役武官制は廃止される(前述のように、二・二六事件後に復活)。

 それを行ったのは山本権兵衛内閣(第一次)であった。特に廃止に熱心であったのは、内相として入閣していた原敬である。

 ただし、現役ではなくても武官でなければ陸海軍大臣には就けないなど、依然として制約は残った。

 そして自らの組織利益を害されたと感じた陸軍は、参謀本部の権限強化に走った。参謀本部ならば、帷幄上奏権などに守られて内閣から独立することが出来たからである。

 結果、それまで陸軍省の管轄であった統帥命令、編制、動員、人事に関する権限が参謀本部へ移譲された。最終決定権者を、参謀総長と定めたのだ。


 基本的に、こうした軍部の政党への反発は陸軍、海軍共通の反応として見ることが出来る。

 特に大正期の軍縮を通して肩身の狭い思いをしてきた陸海軍の者たちは、昭和期になるとその反動もあって反政党、国家改造への傾斜を深めていくことになる。

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