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大日本帝国のIFと架空戦記創作論  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞


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15 大東亜共栄圏というアウタルキー論(1)

「ドイツにかぎらず、交戦国のうち大国の戦争遂行能力はすべて超国籍的な広がりをもっていたといってよい。太平洋と極東における日本の〈大東亜共栄圏〉は、その中で最も弱体で、最も統合度の低い例であった。日本の制圧下に入った地域は、住民は圧倒的多数が農民であり、その技能・資本・生産能力は比較的小さく、それを急にかさ上げしようとしても容易ではなかった。」

W・マクニール著(高橋均訳)『戦争の世界史 ―技術と軍隊と社会―』(刀水書房、2002年)480頁より


 上記は、海外の歴史学者による大東亜共栄圏の戦争遂行能力に対する評価である。

 前項まで筆者は海上護衛作戦の問題を論じてきたが、たとえ海上護衛作戦が上手くいったとしても、そもそも日本の唱えていた「大東亜共栄圏」に日本の戦争遂行能力を支えるだけの資源があったのか、という根本的な問題に辿り着いてしまう。


 もっとも、さらに突き詰めて考えれば資源を得たとしてもそれを優秀な兵器として開発・生産出来るだけの技術力・工業力が日本にあったのか、という問題にまで辿り着いてしまう。しかし、そうした国力の問題にまで言及すると話が広がりすぎるため、昭和戦前期日本の国力の問題については、また別の機会に論じることとしたい。


 なお、大前提として、筆者は「大東亜共栄圏」をアジア解放のために日本が掲げた理想だとは考えていない。

 それは、1943年5月29日大本営政府連絡会議決定の「大東亜政略指導大綱」を見ても明らかである。

 この大綱では「『マライ』『スマトラ』『ジャワ』『ボルネオ』『セレベス』ハ帝国領土ト決定シ重要資源ノ供給源トシテ極力之ガ開発竝民心ノ把握ニ努ム」と定められていた。

 つまり、大東亜共栄圏とは日本の自給自足(アウタルキー)圏のことであった。

 そのことは、すでに多くの研究において指摘されている。


 さて、大東亜共栄圏について見ていく前に、いわゆる「日満経済ブロック」、「日満支経済ブロック」の実態について簡単に確認しておきたい。

 日本、満洲、中国を中心とする自給自足圏構想は、基本的には陸軍の構想であった。

 当初は日本と満洲からなる「日満経済ブロック」構想であったが、満洲の資源では到底、戦略資源を確保するには足らなかった。


 永田鉄山を代表とする国家総動員体制構想を持つ陸軍では、満洲事変以前の戦間期から満洲・中国の資源に注目していた。

 1927年、永田は満洲・中国から獲得出来る戦略資源17品目を挙げて、中国の資源について期待感を示している。

 その17品目の内訳は、鉄鉱石、鉄、鋼、鉛、錫、亜鉛、アンチモン、水銀、アルミニウム、マグネシウム、石炭、石油、塩、羊毛、牛皮、綿花、馬匹であった。

 正直、筆者の目から見ると生ゴムやマンガン、ニッケルなど他の戦略資源が欠けており、しかも石油などはあくまで期待であって実際にどれだけの産出量が見込めるのかが永田自身も見通しが付けられていなかったため、本気で日満支を中心とする自給自足圏が成り立つと彼が考えていたのか、大いに疑問である。


 ちなみに、中国で大規模な油田(大慶油田、遼河油田、勝利油田など)が発見されるのは戦後になってからであるが、当時、日本の権益であった撫順炭田には厚さ120メートルもの油母頁岩の層が存在していた。

 1920年代、山本条太郎総裁時代の満鉄は、このオイルシェールから人造石油を生産する事業を推進しており、海軍もまた強い関心を示していた。

 満鉄関係の史料などを読んでみると、当時の連合艦隊司令長官であった加藤寛治大将なども撫順炭田の視察に来ていたことが判る。

 また、海軍は満鉄理事として呉海軍工廠長などを務めた伍堂卓雄造兵中将を送り込んでいる(任期:1930年7月2日~1934年7月1日)。


 だが結局、満鉄のオイルシェール事業は成功せず、満洲国を建国したものの満洲の資源の質の悪さ、水力が乏しく工業のための発電が困難であることなどが明らかとなり、日本は北支自治運動(華北分離工作)を進めて、華北の資源を手に入れようとする。

 当初の構想であった「日満経済ブロック」は、こうして「日満支経済ブロック」へと拡大していくこととなったのである。


 先に満鉄理事となった海軍軍人の伍堂卓雄について言及したが、同時期の満鉄理事には、戦後に国鉄総裁として新幹線計画を推進した十河(そごう)信二がいた。

 理事退任後の十河は陸軍と協力して、日本による華北への経済進出を担うべく1935年12月20日に設立された興中公司の社長に就任している。

 興中公司は形の上では満鉄の子会社であったが、実態は関東軍を中心とする陸軍の主導する国策会社であった。


 このようにして日本は華北分離工作や国策会社の設立によって華北の資源獲得を目指し、日中戦争後は実際に華北・華中を日本の勢力下に置いて「日満支経済ブロック」の形成を実現するに至る。


  主要参考文献・論文

安達宏昭『戦前期日本と東南アジア ―資源獲得の観点から―』(吉川弘文館、2002年)

安達宏昭『大東亜共栄圏』(中央公論新社、2022年)

荒川健一『戦時経済体制の構想と展開』(岩波書店、2011年)

岩瀬晃『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』(文藝春秋、2016年)

岩間敏『アジア・太平洋戦争と石油』(吉川弘文館、2018年)

加藤聖文『満鉄全史』(講談社、2006年)

川田稔『昭和陸軍の軌跡』(中央公論新社、2011年)

中嶋猪久生『石油と日本』(新潮社、2015年)

燃料懇話会『日本海軍燃料史』上巻(原書房、1972年)

藤井非三四『「レアメタル」の太平洋戦争』(学研パブリッシング、2013年)

堀和生「近代満洲経済と日本帝国」(『経済論叢』第180巻第1号、2007年)

源川真希『日本近代の歴史6 総力戦のなかの日本政治』(吉川弘文館、2017年)

三輪宗弘『太平洋戦争と石油』(日本経済評論社、2004年)

森本忠夫『貧国強兵』(光人社、2002年)

W・マクニール(高橋均訳)『戦争の世界史 ―技術と軍隊と社会―』(刀水書房、2002年)

 筆者は「小説家になろう」様への作品の掲載を開始してそろそろ4年目に突入しようとしていますがが(初投稿は2019年3月9日)、その間に色々と「もっとこうした方がよかったのでは?」と後悔した点がいくつもあります。

 作品のプロット自体に失敗して続きが書けなくなってしまった小説もそうした失敗の一つではありますが、Web小説投稿サイトであるが故の「作品の見せ方」にも改善点が多いように感じます。


 サイトの更新欄に掲載されるのは表題だけなので、Web小説の表題があらすじと見紛うばかりに長文化していく傾向にあるというのは以前から様々な場所で指摘されていることですが、私はそうした表題の付け方を非常に苦手としております。

 現在連載中の異世界和風ファンタジー戦記である拙作「秋津皇国興亡記」も、正直、もっと良い表題があったのではないかと思えてなりません。表題と内容が合っていないような気が、いつもしているのです。

 筆者が最初に投稿した架空戦記小説である「鉄底海峡の砲撃戦」はそこそこ内容を表題で表わしているとは思えますが、逆にそのまま過ぎて表題に詩的な響きがまったくありません。

 「カクヨム」様などに掲載している改訂版の「蒼海の碧血録」の方が、まあまあ自分として納得のいく表題です。


 また、1話あたりの字数についても私の作品群は字数が多すぎると感じてします。

 閲覧数を確認してみますとおよそ3分の1はスマートフォンからの閲覧で、私も試しに自分の作品を表示してみると非常に読みづらく、その上、1話を読了するのに時間がかかります。

 通勤通学・学校や職場の昼休みに更新を確認して読むにしても、字数が多いために暇つぶしに読むには適していると思えません。

 特に「鉄底海峡の砲撃戦」、「南溟の晩鐘」は1話あたりの字数が2万字に達しており、書く側としてもなかなか1話が書き上がったという達成感が得られず、気力を維持するのに苦労しました。

 「蒼海決戦」シリーズは第三章から1話1万字を心掛けていますが、それでもまだ多いと感じています。その反省から「暁のミッドウェー」は1話5000字を心掛けましたが、どうしても6000字、7000字となってしまう回もあり、思うように物語をまとめることが出来ませんでした。

 「秋津皇国興亡記」も本来は1話5000字、1章20話10万字を目途にしているのですが、基本的には字数超過を繰り返しています。

 「小説家になろう」様でご活躍されている諸先生方の作品を見てみますと、1話3000字あたりが閲覧者側が読むのにも作者側が1話を書き上げたという達成感を得て気力を維持するためにも、適切ではないかと、最近では考えるようになっています。

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