12 インド洋の旭日旗(7)
日本側が太平洋方面での攻勢を史実と違って米豪遮断に絞り、ポートモレスビー攻略も行わずその分史実よりも早くガ島飛行場建設を行っているとして、アメリカ側はどのような対応を取るだろうか?
ここで注目すべきは、対日反攻作戦で主導権を握っていたアメリカ海軍作戦部長アーネスト・キング提督の戦略である。
彼は3月5日、ルーズベルトに対して初期対日作戦構想を提出している。
この時、キングが重視していたのは米豪間の連絡線の確保であった。その観点からも、ソロモン諸島で日本軍の飛行場が整備されつつある状況を見過ごすことは出来ない。
史実ではそれが8月7日のガ島上陸作戦「ウォッチタワー作戦」に繋がったわけであるが、この場合でもやはりガ島上陸は決行することになるだろう。
時期としては、空母サラトガの復帰、海兵第一師団の集結などの要因もあって、どうしても史実と同じ1942年8月頃とならざるを得ない。
そして、史実より日本側のガ島の飛行場設営が早まっていれば、7月初旬には戦闘機用の飛行場程度は整備されているだろう。
ガ島対岸のツラギには水上機基地があり、5月のツラギ空襲で一度は破壊されたものの、7月初旬にはすでに復旧していた。
日本海軍が太平洋方面での作戦として米豪分断を狙い、さらに再び現れるであろう米空母の来襲を警戒しているとなれば、史実ではミッドウェー海戦に参加した潜水艦部隊も含めて相応の潜水艦兵力を南太平洋に貼り付けることになる。
そうなれば、史実と違ってアメリカ側のガ島上陸作戦を、上陸されるまで気付かないということにはならないだろう。
必然的に、史実ミッドウェーと逆にガ島上陸を目指すアメリカ海軍とそれを阻止しようとする日本海軍、という構図が発生することになろう。
日本側の強みは、米軍が上陸作戦を発動した段階でガ島飛行場が戦闘機用とはいえ完成していることである。
この時、ラバウルを中心とするソロモン方面に展開する基地航空隊、第二十五航空戦隊(山田定義少将)の兵力は、台南空(零戦60機、九八式陸上偵察機8機)、第四航空隊(一式陸攻48機)、横浜航空隊(二式水戦12機、九七式飛行艇16機)である(機数はあくまで定数)。
この基地航空隊の兵力も、迎撃側である日本側に加わるのだ。
そして8月のどこかで、史実よりも数ヶ月早い「南太平洋海戦」が発生するものと考えられる。
この時点ですでに一航艦は戦時編制の改正によって第三艦隊となっている。ミッドウェーでの敗北もなく、艦の整備・搭乗員の再訓練なども終えた南雲艦隊は、まさしく万全の状態で米艦隊を迎え撃つことが出来るだろう。
そして、米空母部隊の迎撃と米上陸船団の撃滅のためにトラックを出撃する兵力は次のようになると考えられる。
第三艦隊 司令長官:南雲忠一中将
第一航空戦隊【空母】〈赤城〉〈加賀〉
第二航空戦隊【空母】〈蒼龍〉〈飛龍〉
第五航空戦隊【空母】〈翔鶴〉〈瑞鶴〉
第三戦隊【戦艦】〈金剛〉〈榛名〉
第十一戦隊【戦艦】〈比叡〉〈霧島〉
第七戦隊【重巡】〈最上〉〈三隅〉〈熊野〉〈鈴谷〉
第八戦隊【重巡】〈利根〉〈筑摩〉
第十戦隊【軽巡】〈長良〉
第四駆逐隊【駆逐艦】〈萩風〉〈舞風〉〈野分〉〈嵐〉
第十駆逐隊【駆逐艦】〈夕雲〉〈秋雲〉〈巻雲〉〈風雲〉
第十六駆逐隊【駆逐艦】〈雪風〉〈天津風〉〈時津風〉〈初風〉
第十七駆逐隊【駆逐艦】〈谷風〉〈浦風〉〈磯風〉〈浜風〉
第二艦隊 司令長官:近藤信竹中将
第二戦隊第一小隊【戦艦】〈伊勢〉〈日向〉
第四戦隊【重巡】〈高雄〉〈愛宕〉〈摩耶〉
第五戦隊【重巡】〈妙高〉〈羽黒〉
第四水雷戦隊【軽巡】〈由良〉
第二駆逐隊【駆逐艦】〈五月雨〉〈春雨〉〈村雨〉〈夕立〉
第九駆逐隊【駆逐艦】〈朝雲〉〈峯雲〉〈夏雲〉
第二十四駆逐隊【駆逐艦】〈海風〉〈江風〉〈山風〉〈涼風〉
第二十七駆逐隊【駆逐艦】〈有明〉〈夕暮〉〈白露〉〈時雨〉
付属【戦艦】〈陸奥〉【空母】〈祥鳳〉【駆逐艦】〈三日月〉
第八艦隊 司令長官:三川軍一中将
司令部直率【重巡】〈鳥海〉
第十八戦隊【軽巡】〈天龍〉〈龍田〉
第三十駆逐隊【駆逐艦】〈睦月〉〈弥生〉〈望月〉〈卯月〉
空母部隊の護衛に金剛型を取られてしまっているため、第二艦隊には電探搭載の伊勢、日向、史実第二次ソロモン海戦でも編入されていた陸奥が加わる。
また、時期的に一部の空母にも電探が搭載されているはずである。
第三艦隊が米空母を相手取り、第二艦隊が米輸送船団を叩く、という作戦方針になるだろう。第八艦隊は、両艦隊の支援という形でラバウルを出撃するだろうが、そこまで戦闘に関わることはないと思われる。
一方のアメリカ側は空母レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットの5空母に加え、新鋭戦艦のノースカロライナ、ワシントンを艦隊に加えていると想定される。
キングが米豪間の海上交通路の保持を重視していたから、ワシントンも早い段階で大西洋方面から引き抜かれるだろう。
ここに、日米初の空母決戦が行われることになるのである。
その内容については、拙作「暁のミッドウェー」と被る部分も出てくるので割愛させていただく。
ただ、基地航空隊の支援も受けられる以上、拙作「暁のミッドウェー」よりも日本側が優位に海戦を進められるものと思われる。
最終的に輸送船団を襲撃しようとする第二艦隊と、それを阻止しようとするリー提督のワシントン以下水上砲戦部隊との夜戦などが行われれば、太平洋上の米艦隊に壊滅的打撃を与えた上、海兵第一師団を輸送船ごと海に沈めるという大戦果を挙げることが可能だろう。
その後の太平洋戦線、欧州戦線の推移の考察については、拙作「暁のミッドウェー」補論にて論じたものとほぼ同様の結論となるので、そちらに譲りたい。
もちろん、対米講和をどうやって実現するかという問題が重く横たわっているとはいえ、日本がイギリス打倒を第一に掲げる戦争指導方針を堅持した場合の考察については、この辺りで一区切り付けたいと思う。




