1 架空戦記という分野の今昔
架空戦記(ここでは架空歴史小説も含む)という小説分野の源流を探ると、昭和戦前期に多く発表された日米未来戦記のあたりにまで遡ることが出来るだろうが、本稿ではあくまでも「大日本帝国が悲惨な敗戦を経験しない歴史」を題材にした架空戦記に絞ることにする。
こうした大東亜戦争(太平洋戦争)系IFものは1980年代から徐々に発展し始めて、1990年代になると、いわゆる「架空戦記ブーム」が到来した。
しかし、当初の架空戦記はブームの火付け役となったと言われる荒巻義雄先生の『紺碧の艦隊』シリーズなどに代表されるように、タイムスリップものが主流であった。
その後、佐藤大輔先生、横山信義先生など、タイムスリップによる未来知識に頼らない「同時代人のみで歴史のIFを選ばせていく」形式の架空戦記も多数、世に送り出されている。
なお、私が最初に読んだ架空戦記小説は、子竜螢先生の『不沈戦艦紀伊』シリーズであった。
その所為か、私の書いた架空戦記小説は常に大艦巨砲主義的な色を濃くしている。その意味では、今も私の作風に影響を与え続けている作品である。
これを書いている2023年1月段階では、1990年代に始まる架空戦記ブームを牽引した作家先生たちの中で今もなお旺盛な執筆活動を続けておられる方は、横山信義先生くらいなものであろう。
もちろん、林譲治先生、谷甲州先生、羅門裕人先生など他にも何名かの先生方が架空戦記小説を出版しておられるが、街の書店の一角を占拠するほどに架空戦記小説が並べられている光景は見られなくなってしまった。
実際、筆者の地元にある大手書店の地方支店にも横山信義先生らの架空戦記小説が置かれているが、通常の書棚ではなく、書棚を設置出来ない小さな空きスペースにカラーボックらしきものを設置し、そこに架空戦記小説を並べている。
かつては大手書店にも、新古書店にも、架空戦記小説を並べるのに大きなスペースを割いていたことを考えると、随分と寂しくなったものである。
しかし、このように厳しい出版情勢であるにもかかわらず、対照的にWeb小説では新たな架空戦記小説が次々と発表されている。
私が「小説家になろう」様にて最初に注目した作品は、佐藤庵先生の「転生内親王は上医を目指す」(NコードはN5465FC)であった。
佐藤庵先生は様々な史資料を猟歩しつつ、史実における一日一日の出来事にまで細かく注意を払いながら、この作品を描いておられる。その史実に対する誠実な姿勢、作品に対する緻密なこだわりに、敬意を払わずにはいられない。
そして2022年11月には、雨堤俊次(以前の筆名はコモンレール)先生がWeb上で発表されていた「鷹は瑞穂の空を飛ぶ」(NコードはN1453GS)が『令和の化学者・鷹司耀子の帝都転生 プラスチック素材で日本を救う』と改題の上、宝島社文庫として出版された。
この作品は第九回ネット小説大賞受賞作品で、何と14,271もの応募作品の中から選ばれたものである。
昨今、Web小説から書籍化される作品は基本的にライトノベル系(その中に極めて詳細な軍事的知識を詰め込んだ異世界戦記小説があるもの事実であるが)が多い中で架空戦記小説が受賞し書籍化されたことは、非常に喜ばしいことだと私は感じている。
私も架空戦記小説という分野を愛好する一人として、雨堤俊次先生には是非ともこの分野を再び盛り上げていって頂きたいものである。
このような拙い随筆をお読み下さり、誠にありがとうございます。
あくまでも私が備忘録的に書き散らしたものをまとめただけとなりますので、随筆としてはお見苦しい点もあるかと思います。
それでも、お付き合い頂ければ幸いです。
また、ご意見等ございましたらばお気軽にお寄せ下さい。
さて、今でこそ小説の執筆にまで手を伸してしまっている筆者ですが、中学1年の夏までは大の本嫌いでした。
歴史自体はそれ以前から好きだったのですが、プラモデルや図録といったもので興味を満たしていた程度でした。
それが変化したのが中学1年の夏で、とある新古書店にて子竜螢先生の『不沈戦艦紀伊』という本に出会ったのが切っ掛けでした。
それまで本嫌いだった私は架空戦記小説などという分野があることすら知らなかったのですが、『不沈戦艦紀伊』第1巻の表紙のキャッチコピーにどういうわけか引き込まれたのです。
「炸裂する51センチ砲!! 昭和19年10月…… 全長328メートル、12万トンの超巨大戦艦が出撃した……!!」
このキャッチコピーに不思議な興奮を覚えた私は、店内で第1巻を読み終えてしまうほどに内容に夢中になりました。
この体験がなければ間違いなくその後の様々な本との出会いはなかったでしょうし、今の私もなかったでしょう。
それほどまでに、『不沈戦艦紀伊』というシリーズは私の人生を変えた本でした。